地球温暖化対策等に貢献するエンジニアリング調査研究補助事業
CO2地中中和処理の研究

1. 研究期間

平成25年4月〜平成26年3月

2. 委員長

長田 昌彦氏 国立大学法人 埼玉大学 地圏科学研究センター 准教授

3. 参加機関

埼玉大学、日本大学、東海大学、応用地質株式会社、株式会社大林組、株式会社ニュージェック

4. 補助事業の概要

(1)事業の目的
 環境汚染に関する関心は、1990年代に気候変動枠組条約、京都議定書の採択などを経てクローズアップされ、化石燃料への依存が高まる日本においては、CO2を削減する新たな技術開発が喫緊の課題となっている。この課題を解決するためのひとつの手法としてCO2の回収貯留CCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)技術があるが、現状では石油増進回収法(Enhanced Oil Recovery: EOR)による石油生産技術をベースに検討され、大規模な排出源が近くにあることを前提とする広大な地上設備を必要としている。
 本調査研究は、地下水利用の及ばない深部の石灰岩層内において、ボーリング孔からマイクロバブル化したCO2を溶解させた溶解水を直接圧入し、石灰岩盤層を中和させることにより、これらのシステムの成立性を検討することを目的とした。
 平成25年度は、我が国における対象岩盤の分布とそのCO2中和処理能力量の検討をはじめ、中和処理速度の閉鎖系室内実験を実施してCO2溶解速度を予測したほか、CO2溶解水の地盤中への移動現象についても既存解析コードによるシミュレーションなどで分析を進め本調査研究の成立性を確認した。

CO2地中中和処理システムのコンセプト

CO2地中中和処理システムのコンセプト

(2)実施内容

1)我が国の炭酸塩岩類の分布と中和処理能力の検討

 地中中和処理の実証試験候補地としては、規模の大きい石灰岩・石灰質砂岩が分布するだけではなく、近傍に比較的大きなCO2排出源がある地点が望ましいことから、11地域を選択し、22地点の堆積盆について、分布する地層の化学組成を文献により調査した。選定した砂岩等の岩体については、分布規模、全体の埋蔵量からCa濃度による炭酸塩鉱物の含有量を推定する手法により、中和処理能力を検討した。

2)CO2中和処理のための流量制御の検討

 対象岩盤の中和化能力は閉鎖系室内実験としてバッチ試験により調べ、岩盤中の溶解速度の予測は開放系の通液試験によって調べた。さらに、小規模模型実験を通して地盤中への移動を観察し、課題について考察した。流量制御にはマイクロバブルの挙動把握が重要であるため、流体中の気泡挙動を解析できるコードを開発し、石灰岩と灰長石が等量含まれる地層への二酸化炭素注入のシミュレーションを実施した。

3)原位置小規模実験計画の策定

 原位置小規模実験サイトについて、文献により炭酸塩鉱物の構成率を調査した。原位置小規模実験は、炭酸塩岩を対象に10m程度の深さにCO2をマイクロバブルで地下水と共に注入し、帯水層を通過する間に中和処理が行われるかを揚水井兼観測井から揚水した地下水の水質調査により調べることとした。実験におけるモニタリング項目は、揚水の水質分析と、土壌および陸上のCO2ガス濃度とする。

CO2マイクロバブル注入における溶解速度の計算例

CO2マイクロバブル注入における溶解速度の計算例

CO2に対する開放系(左)と閉鎖系(右)のカルサイト溶解のフィールドスケッチ

CO2に対する開放系(左)と閉鎖系(右)のカルサイト溶解のフィールドスケッチ

CO2溶解水の撮影状況1
CO2溶解水の撮影状況2

CO2溶解水の撮影状況

5. 予想される事業実施効果

 本調査研究の目指すところは、マイクロバブルによって直接CO2を溶解させた溶解水を炭酸塩によって中和するシステムの構築であり、中和処理できれば垂れ流しでもよく、浅くても深くてもよい。通常、酸性水の処理には、大規模な地上設備が必要であるが、このシステムではそれらを必要とせず、地中で酸性水を中和処理することが可能である。特に、CO2の中小規模排出源近傍で実施することが可能になれば、大規模な地上設備を必要としないことに加え、圧入コスト、輸送コストの削減効果が期待できる。


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