SEC 石油開発環境安全センター Home ENAA Top
新着情報 SEC概要 事業報告 SEC News 会員企業・関連リンク お問い合わせ アクセス 協会誌 サイトマップ

事業報告平成26年度 大水深海底鉱山保安対策調査(大水深海底鉱山開発危害・鉱害防止調査)

戻る

(委託元:経済産業省)

1.調査目的および概要

 1960年に石油輸出国機構(OPEC)が発足、1970年代に入ると中東戦争・オイルショック等の資源ナショナリズムの高まりの中、中東や北アフリカの産油国において石油資源の国有化が進み、国際石油メジャーが締め出されたことから、政治リスクの少ない海洋油田開発に移行することになる。その後、水深が深い海域での開発に展開していくが、油価が低いレベルに留まったため、1990年代まで300m以深の海域を一般的に定義付けられている大水深海域での開発は停滞することとなる。しかしながら、2003年のイラク戦争勃発以降は主に油価の高騰を背景に、採算が取れるようになったため大水深海域での開発が本格化している(図1参照)。
 海底油田からの油の生産量は世界全体の約4割を占めており、現在世界で脚光を浴びている代表的な大水深油田は、メキシコ湾、西アフリカ沖、ブラジル沖等に分布している(図2参照)。
 本受託調査事業は、米国メキシコ湾内暴噴事故等大規模災害に対応した米国、ノルウェー、英国、オーストラリア、ブラジルおよびその他の国における大水深海洋石油・可燃性天然ガス開発に対するリスク評価の見直し状況等保安対策の最新動向および法規制動向について調査を行い、今後の日本が取り組むべき大水深特有の環境に適応した危害防止および鉱害防止対策のあり方について検討することを目的としている。

図1 掘削と生産の水深記録推移

2.調査内容

 先ず、危害防止の観点から、大水深海底下の石油・可燃性天然ガス開発が進められている欧米諸国(米国、英国)等において、調査対象機関に訪問するなどして、大水深海洋石油・天然ガス開発に係る各国の法規制の現状、メキシコ湾における事故後の動き等について調査した。また、海洋石油・天然ガス開発の先行国で共通して取り組まれている海底暴噴防止装置(Subsea BOP:図4参照)、遠隔操作無人探査機(ROV:図3参照)、油漏洩に対処する技術であるキャッピングシステム(図4参照)、セメンチング等の技術、および我が国ではいまだ実施例のない海底仕上げを大水深石油・天然ガス開発の課題として捉え、各技術・機器の定義・概要・動向についての詳細な最新情報を収集・整理すると共に、浅海(およそ水深300m以浅)における開発との比較を行った。
 次に、鉱害防止の観点から、欧米諸国等の大水深海底下における開発時の鉱害防止技術等に関する最新情報を収集・整理し、浅海における開発との相違点を明示した上で日本周辺海域の大水深海底下での石油・可燃性天然ガス開発で必要とされる鉱害防止対策について検討した。

図2 海底油田の世界的現状

3.調査結果

 その結果、本調査において対象とした海洋石油・天然ガス開発で先行している各国の法令・技術の調査結果によれば、地域の特性(気象・海象)に応じた保安対策を講じている国が見られた。先行国の法規制の調査結果を通して、大水深石油・天然ガス事業に関する法規制では、メキシコ湾における事故後、特に大水深石油・天然ガス事業において油濁事故を防止する重要な保安技術であるSubsea BOP、およびセメンチングによる坑井健全性の確認について、規制が強化されていることが分かった。

図3 サブシーフローラインの接続作業

 また、メキシコ湾における事故後には、本調査において対象とした海洋石油・天然ガス開発で先行している各国では、大水深における石油・天然ガス開発においてSubsea BOPによっても暴噴が抑止できず油漏洩事故が発生した場合には、キャッピングスタックを主要構成要素として利用し対処するキャッピングシステムが対処技術のトレンドとなりつつある。世界的にキャッピングスタックの常設化が進んでおり、海外の複数の拠点においてキャッピングスタックを整備保管し、世界中での緊急対応サービスの提供を図るサービス会社も現れている。日本周辺海域での大水深石油・天然ガス開発についても、油漏洩事故への対処技術としてキャッピングスタック利用について検討すべきと考えられる。
 さらに、米国でのリスクマネジメントシステムの導入義務付けにより、リスクマネジメントシステムに関しては、海洋石油・天然ガス開発で先行する米国、ノルウェー、英国、オーストラリア、ブラジルと調査した5カ国すべてに導入されたことになり、リスクマネジメントシステムがトレンドとなっていることが確認された。日本の鉱山保安法では、鉱業権者にリスクマネジメントの導入が義務付けられており、事業者自らリスク管理を行うことで要求される内容を満足させることを義務付けることを基本的な考え方としており、今回調査対象とした先行国と基本的な考え方は一致している。したがって、大水深石油・天然ガス開発で先行している各国の法令、技術基準、指針等のメキシコ湾における事故後の見直し、メキシコ湾における事故後に追加された重点項目等の中の講ずるべき保安措置の更なる比較・検討を行い、大水深石油・天然ガス開発において、日本で講ずべき保安対策等に付加することが必要な内容を比較検証することが必要であると考えられる。

図4 緊急時油回収システム(MWCS)

4.今後の課題

 最後に、大水深石油・天然ガス開発で先行している各国の保安対策技術の動向を調査検討した結果、米国では、メキシコ湾における事故後に、大幅な保安対策の強化が図られ、オーストラリアでもメキシコ湾における事故と同年に起きた暴噴事故後に、同様に保安対策の強化が図られた。大水深石油・天然ガス開発はいまだ発展途上であるものの、これまでの在来型の石油・天然ガス開発のための技術・手法を基礎とし、大水深特有のSubsea BOPの構造の検討や坑井健全性の確保のためのセメンチング手法管理の強化といった大水深で使用される保安対策技術に応じた必要とされる開発手法が適用されていることから、我が国の排他的経済水域において開発が見込まれる海域を想定し、開発プロセスに沿って考えられる危険要因を抽出し、想定される被害、対策等を大水深石油・天然ガス開発で先行している各国の保安対策技術等を参照しとりまとめることが有益であると考える。これらの大水深石油・天然ガス開発で先行している各国における保安対策との比較から抽出された事項を整理するとともに、Subsea BOPのような重要な保安技術やキャッピングスタックのような重要な油漏洩への備え、および大水深開発において典型と考えられる生産設備等について、日本の保安対策に追加すべき内容について検討することが必要と考えられる。


PAGE TOP
Copyright(C) 2009 Engineering Advancement Association of Japan. All Rights Reserved.