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1.調査概要

 従来、我が国の海洋石油開発は主に沿岸に近い浅海域で実施されてきました。しかし、今後は、遠隔海域、あるいは大水深海域への開発エリアの拡大が予想されるため、従来にない特異な立地条件下での開発、操業が行われることが考えられ、これに対応した鉱山保安の在り方を整理する必要があります。本調査は、遠隔海域(離岸距離100km以遠)および大水深海域(水深300m以深)における開発実績のある諸外国の関連法令や指針、環境保全・安全対策事例、さらにこれらの安全・環境対策の管理方法について情報収集を行い、今後、我が国がこれらの海域での開発、操業を実施する場合の環境保全・安全に関する指針等の検討に資する事項をとりまとめるものです。

2.調査内容

2.1 環境保全・安全に関する国際ガイドライン
 海洋石油ガス開発の環境保全、安全対策は、一般的に開発当該国の環境および安全に関連する法規、基準などに準拠して実施されていますが、遠隔海域における環境基準、また環境安全管理手順、緊急時の対応計画などには、一部には国際機関あるいは国際的な石油開発業界団体などのガイドラインなどが広く適用、あるいは参照され実施されています。
 本調査では、海洋石油ガス開発関連の環境保全、安全対策として国際金融公社(IFC:International Finance Corporation)、油流出事故対応計画(OSRP:Oil Spill Response Plan)として国際石油産業環境保全連盟(IPIECA:International Petroleum Industry Environmental Conservation Association)、健康・安全・環境(HSE:Health, Safety and Environment)管理システムとして国際石油ガス生産者協会(OGP:International Association of Oil and Gas Producers)および米国石油学会(API:American Petroleum Institute)、また環境影響評価(EIA:Environmental Impact Assessment)として世界銀行グループなどの国際的なガイドラインを取り上げその内容を調査しました。そして、これらのガイドラインは遠隔海域における石油ガス開発の環境、安全対策に関する指針として十分に適用可能であることを確認できました。

2.2 環境保全・安全に関する対策事例
 平成18年度の同調査では遠隔海域における多くの開発事例のある北西ヨーロッパ大陸棚海域(英国、ノルウエー)、米国メキシコ湾を対象としましたが、本年度は近年開発が活発化している豪州北西海域を対象に開発会社などへのインタビューをとおして、開発、操業にかかわる事故事例、また、自然災害(サイクロン)対策、油流出事故対応計画を含む環境・安全対策に関する調査を実施し、主に以下の結果が得られました。

(1) 沿岸からの距離と安全にかかわる操業、設備設計、管理計画上の課題には大きな関連はなく、開発海域の立地条件に伴うリスク評価の結果によるところが大きい。そして、操業にかかわる安全対策はセーフティケースにおけるリスク評価の結果に基づき検討される。
(2) 石油ガス開発に伴う環境影響は沿岸からの距離との関連はなく、環境敏感性の高い(高生物多様性)海域との距離に関連し、生産水、掘削屑などの環境汚染物質の処理方法は環境影響評価(EIA)および企業の環境方針に基づき決定される。
(3) サイクロンの接近に際し、正確な気象情報の取得とサイクロンの接近距離による危険レベルに対応した段階的な人員、リグ、FPSO/FSO(Floating Production, Storage and Offloading System / Floating Storage and Offloading system)の退避計画および施設の緊急停止手順が策定される。
(4) 油流出事故の対応計画は周辺海域の環境敏感性と環境リスクにより異なる。大規模油流出事故には関連政府機関の指揮の下、国内石油開発会社により設立された防災会社(AMOSC:Australian Marine Oil Spill Centre)に備蓄された防除資機材を動員して対応に当たる。また、石油開発会社間の相互支援合意(Mutual Aid Contacts:MAC)による相互支援体制が確立されている。
(5) 火災、爆発事故発生時はヘリコプター、救命艇、救命筏による人員退避を基本とし、十分な収容能力のある救命艇、救命筏を常備する。また、待機船の配備は有効であるが、その配備は企業方針による。
(6) 医療体制は沿岸からの距離に係らず各施設に有資格者あるいは看護士を配置し、陸上の医療機関との連絡体制を確立する。また、緊急時における負傷者、疾病者の陸地の病院への搬送時間(8時間以内)が課題となり、事前の搬送ルートの検討が必要である。

 なお、AMOSCは国際的な油流出事故対応組織の一員に組み込まれ、チモール、パプアニューギニア、ニュージーランド、ソロモン諸島などがその支援範囲に含まれ、越境油流出事故に際しても、政府機関の管理下で対応資源の支援を行う体制が整備されている。

2.3 海洋石油ガス開発における環境安全関連の法体系(豪州)
 豪州の安全に関する基本的な規制手法は英国に倣い、以下の通りでした。

  • 目的設定型の規制手法をとり、具体的な達成方法はオペレーター等の各企業に委ねられている。
  • 安全管理法体系は全体をカバーする枠組み規則の下に個別分野(全体のマネジメント、設計、建設、操業など)の詳細を規定する補足規則をおく階層構造がとられている。
  • 安全管理はリスク評価に基づくリスク管理システムを中心に行われている。

 環境規制については、沿岸から3海里(約5.5km)までの海域は隣接する州または準州の法規が適用され、そして海岸から3海里以遠では連邦法規が適用され、遠隔海域(EEZ以内)では一律に連邦政府の管轄海域となっています。
 遠隔海域の開発計画では連邦の環境関連法 Petroleum (Submerged Lands) Act 1967(PSLA 1967)で要求されるEnvironment Planおよび、Environmental Protection and Biodiversity Conservation Act (EPBC)で規定されるEIA等の環境承認を得る必要があります。さらに、プロジェクト実施海域がクジラ類の棲息海域や連邦海洋保護地域を含む場合は、別途環境承認が必要となります。またEPBC法に基づき、海洋石油開発にかかわる戦略的アセスメントの実施も進められています。
 なお、豪州政府は現在PSLA 1967における環境関連とEPBCの相互関係について現在、検討中であり、検討の結果を受けて、今後石油開発活動における環境関連規則の手続きの見直しが行われ、環境承認手続きの簡素化と費用の軽減が図られるものと予想されます。

2.4 環境保全・安全管理システムモデルの構築(ケーススタディ)
 本ケーススタディでは、遠隔海域における固定式生産施設(鋼製プラットフォーム:ケース1)および浮遊式生産施設(FPSO:ケース2)を想定し、石油ガス生産活動にかかわる環境および安全管理システムを策定しました。その結果は以下のとおりです。


ケース1:固定式(鋼製プラットフォーム)


ケース2:浮遊式(FPSO)

(1) システムモデル概要
共通の環境安全方針の下において、各ケースの環境および安全管理システムの基本管理要素、管理文書体系は、生産施設の種類(固定プラットフォーム、FPSO)に係らず共通である。そして、システムに含まれる基本管理要素および実施サイクルはOGP のHSE管理システムの7要素を基本とし、サブ要素にて海洋石油・ガス開発活動、設定された前提条件を反映した各ケース共通の管理方法、手順が適用される。
(2) 環境管理システム(EMS:Environmental Management System)
海洋石油・ガス開発による環境影響は、当該海域の環境敏感性と開発、操業活動により異なり、同規模の生産、処理施設による操業において、離岸距離の増加、また水深、生産施設の種類(固定プラットフォーム、FPSO)の違いによる特別な環境影響側面に大きな相違はなく、ほぼ共通のEMS、管理文書の適用が可能である。
(3) 安全管理システム(SMS:Safety Management System)
SMSの基本マニュアル、管理要素、および付属文書の構成などは、開発海域の離岸距離の増加に係らず、大きな相違はない。しかし、本ケーススタディにて遠隔海域特有のハザードとして以下の項目があげられ、これらの各ハザードに対する対応は関連の付属管理文書に反映され、詳細は下位の手順書、計画書に記載される。
・火災/爆発発生時 ヘリコプターの手配、負傷者の搬送、その他の対応に時間がかかる
・ヘリコプター事故 飛行の長時間化によるリスクの増加(機体の欠陥、燃料の増加、操縦士の疲労など)
・サイクロンの接近 十分な退避時間の検討、早期の退避、生産停止等の決定
・油流出事故 外部組織からの対応支援に時間がかかり、環境敏感地域への影響、流出油の隣国への越境の可能性がある(Tier 1、2)
・有害廃棄物 貯蔵量の増加、長期化による健康リスクの増加(放射性廃棄物を含む)
・薬品類の使用 貯蔵量の増加による健康リスク、流出・漏洩時の影響の増加
・衛生、健康 上記2項に伴う要員の健康、疾病リスクの増加
・外部からの危害 海賊行為、妨害、テロの標的になりやすい

3.まとめ
 平成18年度および平成19年度の調査をとおして得られた情報の中には、我が国の海洋石油ガス開発において未経験の問題、あるいは共通の課題など、今後我が国の遠隔海域における石油ガス開発の推進に当たり、いくつかの検討すべき項目、参照すべき情報が含まれています。これらの結果を踏まえ、我が国の遠隔海域における石油ガス開発の環境保全・安全対策を検討、また指針を策定する上で留意すべき課題として以下のものが考えられます。

(1) 緊急時における対応時間
火災・爆発事故、労働災害による負傷者の搬送、陸上からの支援に長時間を要する。このため、ヘリコプター出動態勢および搬送先の手配などの対応について、環境安全管理計画で主要な項目として取り上げ、所要時間を十分に考慮する必要がある。
(2) 台風接近に伴う退避
台風の接近に伴い、移動速度、海洋生産施設までの距離、到達時間などを勘案しつつ、気象海象情報の取得と共に、操業の停止、人員退避などの的確な意思決定、および迅速な連絡体制の構築が必要となる。
(3) 薬品類・有害廃棄物の貯蔵管理
補給船の運航頻度の減少に伴い、有害廃棄物、薬品類の貯蔵量の増加、貯蔵の長期化が必要となる。これによる従業員の健康、また流出事故発生時の海洋汚染などのリスクの増加が予想され、これらの貯蔵管理および流出防止に対する高度な配慮が必要である。
(4) 安全にかかわるリスク評価
海洋石油ガス開発における環境安全ハザードおよびリスクは、開発海域の立地条件、気象・海象条件、操業形態、生産施設の種類(固定式、浮遊式)、施設の構成と配置などの相違により異なり、施設ごとのハザードの特定とリスク評価に基づく対策が求められる。
英国、ノルウェーおよび豪州では、事業者による自主的な開発、操業活動におけるハザードの特定と分析が求められる。これらの国で実施されているセーフティケースあるいは安全管理計画などのリスク管理手法は我が国にとっても参考となり、関連情報の継続的な把握が必要と考えられる。
(5) 環境影響評価(EIA)
海洋石油ガス開発に伴う環境影響は、離岸距離、水深に係らず、開発海域および周辺海域の環境敏感性により異なり、その対策の検討には当該海域の自然環境状況の把握、開発、操業活動の環境影響側面の特定、影響評価などを含む適切な環境影響評価(EIA)が必要とされている。
海洋石油ガス開発特有の環境影響として掘削屑、生産水などの排出による環境汚染が想定されるが、環境影響評価の結果、経済性、運転性などを考慮した適切な処理方法の検討が必要である。また、技術動向として、OGP、IFCなど国際的なガイドライン、関連情報の継続的な収集が重要である。

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