各サブタスクの平成6年度の成果概要


5. サブタスク5 水素輸送・貯蔵技術の開発

5.1 大型水素液化設備の開発

 前年度は技術文献の調査検討を主体とし、大型水素液化設備の現状調査を行った。今年度は、300t/日規模の水素液化プロセスに関し、具体的なプロセス計算を実施した。

5.1.1 液化能力とプロセス効率

 プロセス計算を行うためには、水素液化能力を決定しておく必要があり、今回は水素燃焼タービンの発電容量を500MW、熱効率を60%、液化設備稼働率を90%として必要液体水素量を600t/日とし、これを2基のプラントで賄うものとして300t/日を液化設備1基あたりの液化能力とした。
 液体水素の電力原単位に直接係わってくるプロセス効率については、1974年のStrobridge 1)の調査を利用した。この調査には空気分離装置を除く極低温プロセスについて、プロセス効率をパーセントカルノーで表し、プロセスの規模を4.2Kにおける冷凍能力に換算して、プロセス規模とプロセス効率を相関させた図が含まれている。最近建設された大型のヘリウム冷凍液化機や計画中の大型ヘリウム冷凍液化機について本相関図と比較を行い、現在の極低温プロセスにも適用できることを確認した。4.2Kにおける冷凍能力を水素液化能カヘ換算し、液化能力とプロセス効率の関係としたものを図5-1-1に示す。
 本図によれば300t/日の水素液化設備のプロセス効率は約35%となるので、今回の検討では目標プロセス効率を40%とした。
 図5-1-2はプロセス効率と液体水素の原単位の関係を示したものであり、プロセス効率40%の場合、液体水素製造の原単位は0.92kWh/Nm3となる。

5.1.2 液化プロセスの検討

 検討対象の液化プロセスは、ヘリウムブレイトンサイクルと水素クロードサイクルとし、水素クロードサイクルについては、通常の常温圧縮機方式以外に、大型機で使用されている遠心式圧縮機も採用できるよう、低温圧縮方式のプロセスも検討した。
 プロセス計算では、膨張タービンの断熱効率を85%、常温、低温を問わず圧縮機の断熱効率を80%とし、液化される原料水素ガスは1.05atm、常温で供給されるものとした。液化プロセスで原料水素ガスを昇圧する必要がある場合には、このための動力消費量もプロセス効率の計算に含めた。補助寒冷として使用される液体窒素については、0.5kWh/Nm3で電力消費量に換算してプロセス効率の計算に含めることにした。
 検討の結果・ヘリウムブレイトンサイクルは水素クロードサイクルよりも低効率となることが明らかになったため、クロードサイクルでプロセス圧力を変化させて検討を行った。
 今回概略検討を実施した常温圧縮の水素クロードサイクルのプロセスを図5-1-3と図5-1-4に示す。両液化プロセスともオルソ水素をパラ水素に変換するため連続変換を採用している。
 プロセス効率の向上のため、図5-1-3のプロセスでは原料水素ラインにも膨張タービンを設置し、原料水素の有する高い圧力を利用している。図5-1-4に示すプロセスでは、リサイクル系統に2段膨張を採用して、膨張によるエクセルギー損失の増加を防止しているほか、原料水素系統の冷却にアンモニア冷凍機などを使用し、できるだけ高い温度レベルで冷却を行おうとしている。
 プロセス圧力を変化させてプロセス効率を求めたところ、どちらのプロセスにおいても圧力が高いほど、プロセス効率が高くなるという結果が得られた。
 今回のプロセス検討範囲で、最も高いプロセス効率が得られた場合の検討結果を表5-1-1に示す。

 表5-1-1に示したように、常温圧縮水素クロードサイクルでは、目標効率である40%以上の効率が得られた。
 次に、分子量の小さな水素ガスを低温とし、密度を増加させて遠心式圧縮機を採用した低温圧縮プロセスを図5-1-5に示す。本図のように、低温圧縮は液体窒素温度で行い、圧縮熱は液体窒素の潜熱により除去する。プロセスに入る原料水素圧力は30atmとし、この昇圧には常温圧縮機を使用する。プロセス計算を実施したところ、圧縮機の消費動力は約35MWと小さくなったが、液体窒素消費量が大きくその製造動力は約100MWに達し、プロセス効率は34%にしかならず、目標効率を下回る結果となった。

5.1.3 要素機器の検討

 重要要素機器では、膨張タービンと圧縮機の概略検討を実施し、プロセスの検討で仮定した断熱効率が得られるかなどの検討を行っている。
 膨張タービンと圧縮機に与える設計条件は、図5-1-5に示した低温圧縮プロセスに基づいている。本年度、低温圧縮プロセスを対象として要素機器の開発を始めたのは、常温圧縮プロセスに比べて開発要素が多いと考えられるからである。膨張タービンは、効率の優れている反動タービンとし、検討結果を表5-1-2に示す。

 断熱効率については、現状解決されていない開発要素はあるものの、今後着実な研究開発を行うことで、プロセス計算で仮定した85%は達成できると考えられる。
 圧縮機についての検討では、常温圧縮、低温圧縮とも遠心式とし、各段の周速度は常温圧縮機の初段を除き、比較的低い350m/sとして検討を行った。結果を表5-1-3に示す。

 常温圧縮機を1台とした場合は、初段インペラ径は1,060mmとなるため、強度を考慮して2台並列の場合を示している。断熱効率はプロセス計算で仮定した80%以上が見込まれるという結果が得られているが、膨張タービンと同様、今後の研究開発が必要である。

5.1.4 まとめと今後の課題

 以上のように、今回概略とはいえ300t/日の水素液化プロセスを実際に計算し、重要構成機器である膨張タービンと圧縮機について、その概略寸法を把握できた。プロセス効率についても種々の仮定条件を含むとはいえ、常温圧縮プロセスの場合、目標とした40%以上を得ることが可能であることが示された。
 しかし、プロセス効率を高くするためには、プロセス圧力を高くすることが必要であり、膨張タービン、圧縮機に対しては厳しい設計条件を与えることになる。処理しなくてはならない流量が大きくなることを想定し、遠心式圧縮機の採用を検討した低温圧縮プロセスでは圧縮熱の除去に消費されるエネルギーが大きく、プロセス効率の劣化となっている。したがって、大型圧縮機に向く遠心式を水素プロセスに適用するためには、単に低温にして密度を増加させるだけでは不十分であり、今後の検討が必要である。
 今回実施したプロセス検討では、膨張タービンや圧縮機の断熱効率以外にも仮定している条件があるため、プロセス効率の精度を向上させるためには、これら仮定条件の妥当性を検討することが必要である。膨張タービンと圧縮機についても、断熱効率に関係する空力学的な特性だけでなく、軸受け負荷や形式などの重要な要素技術とその研究開発の進め方についての検討が必要である。

<参考文献>
1) T.R.Strobridge,“Cryogenic Refrigerators on Updated Survey”NBS TECHNICAL NOTE 655 (1974)



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