各サブタスクの平成8年度の成果概要


3.サブタスク3 全体システム概念設計

3.1 全体システム概念設計

3.1.1 研究開発目標

 全体システム概念設計は、水素の製造から利用までのシステムについて実用規模の概念設計を行い、システムの設備構成を描きだすとともに、水素コストなどの試算、分析を行い、経済性の観点から技術開発目標を提示することを目的としている。
 平成5年度は、本研究の初年度として、水素の製造から利用までの個別技術の現状および海外類似プロジェクトの現状を調査し、これに基づきWE−NETシステムに適用可能な技術を選定し、平成6年度以降実施する概念設計のベースとなるシステムを設定した。この結果に基づき、平成6年度は、WE−NETで研究開発が進められている技術をシステム全体として評価するために、固体高分子水電解による水素製造、液体水素による水素大量輸送・貯蔵および水素燃焼タービン発電から構成されるシステムについて概念設計、コスト試算および分析を行った。平成7年度は、既存技術から構成されるシステムとしてメタノールによる輸送・貯蔵システムを選定し、概念設計、コスト試算、分析を行い、液体水素によるシステムと比較し、技術開発課題を提示した。本年度は、昨年度と同様に既存技術から構成されるシステムとしてアンモニアによる輸送・貯蔵システムを選定し、概念設計、コスト試算、分析を行い、液体水素およびメタノ−ルによるシステムと比較し、技術開発課題を提示した。また概念設計、コスト試算、分析を効率的に行うために計算機ソフトを開発した。
 また、液体水素の大量輸送手段として航空機による輸送について、その経済性を検討するため航空機および地上インフラの概算見積りを行った。
 本報告書は、これらの成果を取りまとめたものであり、以下にその概要を述べる。

3.1.2 平成8年度の研究開発成果

3.1.2.1 概念設計

(1) 基本条件
 平成6、7年度に実施した液体水素及びメタノ−ルによるシステムと比較するため、同様な設計条件とした。つまり水力発電規模および電力単価、輸送距離をパラメータとして取り扱い、その値はそれぞれ1,000〜4,000MW、2〜5円/kWh、5,000〜20,000kmに設定した。
 図3−1−1にシステム構成を示す。
 水素の製造と利用については、液体水素およびメタノ−ルシステムと同様にそれぞれ固体高分子水電解設備、水素燃焼タービン発電設備で構成する。水素の輸送・貯蔵媒体はアンモニアとし、水電解設備から得られた水素と窒素製造装置から得られた窒素を合成しアンモニアを製造する。このアンモニアを専用タンカーで利用側に輸送し、これを分解・精製し水素を利用するシステムである。

(2) 概念設計
 概念設計の実施にあたっては、構成される設備の技術の現状を調査し、方式を選定した。
 水素の大量利用を前提に概念設計の基本となる設備容量、仕様等を決定し、これをベースとして各ケースごとに設備容量、物質収支等を算定した。
 供給地、需要地の設備はそれぞれ同一場所に設置されるものとし、需要地での使用動力は、水素燃焼タービン発電所から供給するものとした。
 全体システムのフロー図例(水素燃焼タービン発電出力:1,000MW、輸送距離:5,000km)を図3−1−3に示す。
 タンカー燃料はC重油、アンモニア分解燃料は分解設備のオフガスと精製後の水素を利用することとした。
 検討ケースとしては、供給電力規模と輸送距離の組合せによる基本ケースと、水素燃焼タービン発電出力を基準にこれを1,000MW(500MW×2)とした変化ケースについても実施した。
 この結果、基本ケースにおけるシステム効率は、表3−1−1に示すようにアンモニア到着時点で約68%、ここから水素分離工程での損失で炉前では約52%、水素燃焼タービン発電送電端で約22%となった。エネルギー損失の内訳は、アンモニア分解・精製プロセスによる損失が最も大きく約15%であり、これにアンモニア合成プロセスを加えると約30%の損失である。水素製造と窒素製造で約15%、水素燃焼タービン発電で約30%の損失となっている。ケースごとにはほとんど効率の差がないが、輸送燃料による輸送中損失の差がシステム効率の差として現れている。

(3) コスト試算
 概念設計を行った水素製造から水素燃焼タービン発電による利用に至る各設備について、水力発電規模、水力発電単価、輸送距離を設定し、各ケースごとに、設備費、アンモニアコスト、水素コスト、発電コスト等を算定した。コストの算定は設備ごとに基本となる容量、設備費およびスケールファクターを設定し、設備容量から設備費を算定した。なお、土地代、バース建設費は変動が大きく算定が困難であることから含めないこととした。各設備ごとに年経費を算定し水素コスト、発電コスト等を算定した。このコストは耐用年間均等とした。
 基本ケースにおけるコスト算定結果を表3−1−2に示す。

 表3−1−2のとおり、アンモニアコストは到着ベースで約7円/Mcal 、これにアンモニア分解・水素精製コストが加わり水素コストは約16円/Mcal である。水素燃焼タービン発電による発電コストは33円/kWh程度である。
 水力発電規模によるコスト差がほとんどないが、これは各構成機器の設備容量が増加しても系列数が増加するのみでスケールメリットが生じないためである。また輸送距離が長くなることによるコスト増については、タンカーの設備費の増となりコスト高として現れている。
 このコスト算定結果を既存の電源であるLNGと比較すると、燃料のCIF価格で8倍程度、発電コストで3.3倍程度である。

(4) 液体水素システム・メタノールシステムとの比較
 比較にあたっては、メタノールシステムではその炭素源に石炭を使用するため、同じ水力発電規模でもその物量が液体水素システム及びアンモニアシステムと比較し大きくなることから、水素燃焼タービン発電出力をベースとして1,000MW、輸送距離5,000kmとしたケースについて比較した。
 エネルギー収支の比較を表3−1−3に示す。

 システム効率は、液体水素システムで約38%、メタノールシステムで約25%、アンモニアシステムで約23%である。  到着ベースの効率は、それぞれ70%、62%、69%程度であり、水素液化損失、メタノール合成損失、アンモニア合成損失が大きくそれぞれ20%、23%、17%程度を占める。アンモニアシステムではさらに水素分離工程で16%程度が失われ、炉前での効率が53%程度となる。
 コストの比較を表3−1−4および図3−1−2に示す。
 水素製造設備から水素燃焼タービン発電までの設備費合計は、液体水素システムが約7,400億円、メタノールシステムで約4,900億円、アンモニアシステムで約5,400億円である。メタノールは常温で、アンモニアは約−30℃で輸送貯蔵が可能であるのに対して、液体水素では極低温であり設備に断熱構造が必要であることから割高となっている。液体水素システムがエネルギー効率が高いにもかかわらず水素コストおよび発電コストが高コストとなっているのは、この設備費の影響である。
 発電コスト低減のためには、効率向上と設備費の低減が必要であるが、液体水素システムはWE−NETにおいて2030年頃の実用化を目指した技術でり、本試算は現時点で想定される設備費によりコストを試算したものであることから、今後最適化、低コスト化等の技術開発を行うことによりコスト低減が可能と思われる。一方メタ ノールシステム及びアンモニアシステムは、現状で確立している技術をもとにWE−NETで想定される規模の概念設計、コスト試算を行ったものであり、新しい合成プロセス、水素分離プロセスの開発といったコスト低減要素があるものの、大幅なコスト低減は困難と考えられる。

(5) 技術開発課題
 アンモニアシステムの概念設計は、現状の技術を前提とし物質収支、コスト等の試算を行った。この結果、システム全体のエネルギー効率は23%程度と液体水素システムに比べ約15%低い結果となった。これはアンモニア合成・分解という工程が必要でありこの損失の占める割合が大きいためであり、これを改善するには高効率で大量処理に適したアンモニア合成設備や大型分解器の開発、触媒の高性能化等の課題が考えられる。
 また、経済性の面からも水素の大量利用を考えると、大容量化を図りコストメリットが生じるような設備規模としコスト低減を図ることが必要であると考えられる。

3.1.2.2 システム設計ソフト

 全体システムの概念設計およびコスト試算・分析を効率的に実施するために、水力発電規模、輸送距離および水力発電単価をパラメータとして、エネルギーフロー、設備構成、コスト等を計算するソフトを開発した。
 今年度は、6、7年度実施した液体水素及びメタノ−ルによる輸送貯蔵システムに、アンモニアによる輸送・貯蔵システムの計算プログラムを作成、追加し概念設計およびコスト計算に活用した。
 プログラムの機能および特徴等は液体水素及びメタノ−ルシステムと同様である。

3.1.2.3 液体水素航空輸送の調査

 CDSリサーチ社に依頼し、液体水素大量輸送手段として、航空機とした場合の経済性について調査・検討を行った。以下にその概要を述べる。 外部コンテナ装備従来型航空機では、約400tの水素輸送が可能であり、表面効果型航空機(SEA)では、約1,000tの水素輸送が可能であるが、航空機の開発コストが高いため、従来型・SEA共汎用多目的輸送機を液体水素輸送用に改造する。
 また、同じ期間での輸送量比較では、1,000tのSEAは20万m3の輸送船と同様の輸送能力を有している。

3.1.3 今後の課題

 平成6年度は、WE−NETで研究開発が進められている液体水素貯蔵・輸送システム技術をシステム全体として評価するために、研究開発を実施している企業等から提出された開発目標データを基本としてシステムの概念設計を実施した。平成7年度及び8年度は、既存技術から構成されるシステムとしてメタノール及びアンモニアによる輸送・貯蔵システムについて実施し、液体水素によるシステムと比較評価を行った。今後、液体水素システムについてはWE−NETで研究開発の技術開発の進展に伴って見直しを行い、総合的に評価を加え技術開発課題を明らかにし、技術開発目標を提示する予定である。



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