ガスタービンと超高温材料−1500℃以上を目指して
Gas Turbine and Ultrahigh Temperature Materials - Aiming at over 1500℃


正 新田 明人(電中研)
Akito NITTA, CRIEPI, 2-11-1, Iwado-kita, Komae-shi, Tokyo


From a viewpoint of preservation of a global environment, fossil power plants, which propduce about 30% of CO2 discharged in Japan, are requested to improve their thermal efficiency. Under such conditions, a gas-steam combined cycle plant has been intoroducing. In the plant, an increase in the inlet temperature of a gas turbine plays an important role for improving the thermal efficiency. And it is strongly depended on an advance in materials used for high temperature components such as blades and vanes. This paper reviews the materials technology required for advanced gas turbines, including a hydrogen combustion turbine, of which the inlet temperature will be more than 1500℃.

Key Words: Advanced Materials, Gas Turbine, Hydrogen Combustion Turbine

1.はじめに

地球環境問題への適切な対処が世界的な潮流となっている現在、我が国でも、気候温暖化防止のための行動計画を策定し、2000年以降の国民一人当たりのCO2排出量をおおむね1990年レベルで安定化させることを目標としている。1990年の我が国のCO2排出量は約3.2t(炭素換算)であり、世界レベルの約5%に相当している。このうちの約1/3は電力部門からの排出であり、当該部門におけるCO2対策が我が国のCO2排出量低減にとり極めて重要であると言える。特に、化石燃料を用いる火力発電からのCO2排出量がとりわけ大きいが、火力発電は、来世紀においても、当面発電電力量の約5割を供給するものと予想されるため、地球環境保護の観点から、火力発電の高効率化が不可欠となっている。  本稿では、今後の火力発電の主流と目される複合発電、特にその高効率化を左右するガスタービンに注目し、その高性能化と超高温材料の関わり合いについて述べる。

2.ガスタービン技術の動向

産業用ガスタービンは航空機用に開発された技術の転用により進歩してきたが、現在航空機用では1400〜1500℃級が最先端であり、1600℃級の実用化が間近に来ている。一方、産業(発電)用ガスタービンは、航空機用に比し、使用条件の違いから約100℃の温度差がある。現在、その最先端は1300℃級であり、また2000年を目途に1500℃級の実用化も進められている。  ところで、ガスタービンと蒸気タービンを組合せた複合発電プラントでは、ガスタービンによる発電に加え、ガスタービンの排ガスから排熱回収ボイラを介して発生させた蒸気で蒸気タービンを回して発電することにより、高効率化が可能になる。我が国では、液化天然ガス(LNG)を燃料とする入口温度1100℃級のガスタービンを用いたプラントが1984年以降運開され、熱効率(HHVベースの送電端効率)約44%という高効率化が達成された。現在、化石燃料をボイラで燃焼させ、蒸気タービンで発電するという従来の方式では、最新技術を駆使しても、その熱効率は約40%と限界に近い状況にあることを考え合わせると、複合発電方式による高効率化は魅力的である。したがって、それ以来、本格的に1100℃級ガスタービンによる複合発電プラントの導入が進められた。また、1994年以降1300℃級ガスタービンによる複合発電プラントが相次いで運開され、熱効率も約47%にまで向上した。さらに、2000年には熱効率50%以上の1500℃級ガスタービンによるLNG焚き複合発電プラントの導入が計画されている。  また、埋蔵量が豊富で安定供給が可能な石炭が来世紀の主要な資源の一つと目されており、環境保全性と高効率化の観点から、石炭ガス化複合発電が火力発電の主力になるものと期待されている。我が国では、1983年〜1996年にわたり石炭処理量200t/日の石炭ガス化パイロットプラントの開発が国のプロジェクトとして進められている。石炭ガス化複合発電の場合、来世紀初頭の実現を目指す1300℃級では熱効率43.5%、さらに高温化を図った1500℃級では約46%となる。また、蒸気条件の高温・高圧化により高効率化を実現させる超々臨界圧火力では、石炭焚きで650℃の蒸気条件がその頃実用化されていると予想されるが、その熱効率は石炭火力の限界に近い41%程度である。したがって、石炭ガス化複合発電にすると、石炭火力に比べ大幅な熱効率の向上が可能になる。

3.ガスタービン材料の変遷

 ガスタービンの高温化は翼の冷却技術と耐熱材料の進歩とともに進展してきた。過去約20年間に発電用ガスタービンの高温化は約25℃/年で進んでおり、そのうち冷却技術の寄与度は15℃/年、材料の寄与度は10℃/年である。しかし、冷却技術は成熟化の傾向が見られ、今後は材料技術への依存度が大きくなるものと考えられる。  Fig.1(1)は航空機エンジン用耐熱材料の開発動向を示している。これは10年程前の予測であり、他の予測結果(2)もほぼ同様であるが、現時点以降に予測されている、金属間化合物からセラミックス等の非金属系先進材料への発展については、克服すべき技術的課題も多く、この通りの進捗はかなり困難であろう。なお、同図にあるように、既に航空機エンジンには単結晶超合金翼が実用化され実績を挙げている。たとえば、最近運用に入ったGE社のGE90エンジンでは、単結晶超合金製の動翼が採用され、一方向凝固超合金の静翼にはセラミックによる遮熱コーティング(TBC)が施されている(3)。一方、発電用ガスタービンでは、航空機用に比し、大型であること、より長い寿命が必要であること等による技術的困難さのため、Fig.1に示した材料の展開より10〜20年位遅れていると考えられる。上述したように現在我が国で導入が進む、GE系の1300℃級ガスタービンでは一方向凝固(DS)超合金翼が実用化されている(4)。日米で開発の進む次世代の1500℃級ガスタービンになると、TBCを施したDS翼(5)あるいはTBCを施した単結晶(SC)翼(6)が採用される。また、欧州で開発されるガスタービンでは、再燃燃焼サイクル等の採用により入口温度を抑えて高効率化することが考えられているが、既にSC動翼が開発されており(7)(8)、1996年に米国で運開する複合発電プラントのガスタービンに採用されている(8)。なお、Fig.1に示すような材料表面温度は、通常、動翼設計応力140MPaにおける100hクリープ破断強度から求められる耐用温度で表すことが多い。しかし、発電用ガスタービンは要求される寿命が長いため、その耐用温度は同図の値よりも低くなる。たとえば、SC超合金を発電用ガスタービン翼に採用した場合、105hクリープ破断強度をベースにとれば、その耐用メタル温度は900〜950℃となる。  ところで、通常の精密鋳造により多結晶状態で使用されるニッケルやコバルトをベースとする超合金は、当初、組成改善で高強度化が進められた。しかし、組成改善のみの高強度化に限界が見え始めると、それに代わり鋳造プロセスの開発・改良によって高強度化が進められることとなった。その結果生まれた結晶制御技術により、数個の結晶を一方向に配列させた一方向凝固(DS)超合金や高温破壊の起点となる結晶粒界を排した単結晶(SC)超合金が登場した。現在、SC超合金はRe添加等の組成改善による一層の高強度化が指向されている。また、SC超合金では、全般に高温強度を低下させるCrの添加量を10%以下に抑えているが、これは耐食性の低下を招く恐れがある。そのため、高温強度と耐食性のバランスのとれたSC超合金が望まれる(9)。さらに、SC超合金の場合、C、B、Zr等の粒界強化元素を添加しないため、ごく僅かでも異結晶が生じれば、その粒界で容易に破壊することになる。特に、複雑な冷却構造を持つ動翼等では、その形状が急激に変化する部位で異結晶が生じやすいため、材料側から翼形状の要求や提案をすることも重要である。これは材料が設計に接近・融合すべき好例の一つになると言える。さらにSC超合金よりも高温強度に優れた合金として、酸化物分散強化型(ODS)合金がある。これは合金の主要元素や強化粒子のY2O3等の粉末からメカニカルアロイングによって製造されるが、その実用化にはもう少し時間を要するであろう。この他、W等の高融点金属の繊維で強化する繊維強化型超合金(FRS)なども研究されている(1)。  金属系耐熱材料の次に実用化が期待される材料は非金属系材料である。先ず第一に挙げられる材料はセラミックスであるが、その利用で最も早く実用化されるものは、上述したように、TBCである。セラミックスのガスタービン部品へのモノリシックな適用については、SiCやSi3N4を中心に研究が進められている。たとえば、国のニューサンシャイン計画におけるコジェネ用小型ガスタービンへの適用例の他、石炭ガス化用の1300℃級20MWガスタービンの燃焼器や動・静翼への適用が検討されている(10)−(12)。しかし、発電用ガスタービンへの本格的な適用のためには、各部品毎の大型化、耐用温度(現在、約1300℃)の向上など、技術的に困難な課題も多く残されており、その実用化は来世紀以降まで待たねばならないであろう。そのため、最近、モノリシックな利用ではなく、セラミック繊維を複合化させたセラミック基複合材料(CMC)への期待が高まっている。さらにその先に期待される材料としては、低密度で耐用温度が2000℃にも及ぶ炭素系(C/C)複合材料があるが、炭素繊維の耐熱性の向上や耐酸化性コーティング技術の開発など、長時間を要する技術的課題が多い。 いずれにしても、このような非金属系の先進材料は実用化されれば、その効果はきわめて大きい。しかし、これらの材料には脆い等の特有の性質があるため、これまで実績のある金属材料と同じように設計することは不可能である。また、これらは概して製造性、加工性等がよくないことから、現在空力性能の改善を目的に金属翼で採られている、3次元形状のような複雑な構造には対応できないであろう。したがって、このような先進材料を実用化するには、各材料に最適な構造や設計法を確立すること不可欠であり、まさに材料設計と構造設計の融合が要求されることになる。

4.水素燃焼タービンと材料技術

 航空機用では1800℃級タービンの要素研究も進められているが、発電用ガスタービンでは1500℃級が間もなく実現する段階にある。その後は Fig.2(13)に示すような展開が予想されている。同図では、1500℃級以降1700℃を経て2000℃級へ発展していく展望が示されているが、1700℃級ではWE-NET(World Energy NET-work)計画における水素・酸素燃焼タービンが重要な位置づけとなっている。  WE-NET(水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術)計画(14)は、国のニューサンシャイン計画の一環として、1993〜2020年度の28年間にわたり推進されている。その目的は、世界に偏在する水力、太陽光・熱等の再生可能な自然エネルギーを利用して水の電気分解で水素を製造し、それを輸送・貯蔵してエネルギー消費地域で高度利用を図る、世界的規模の水素エネルギーシステムを構築することである。本プロジェクトは9サブタスクで構成されており、サブタスク8が「水素燃焼タービンの開発」である。このサブタスクでは、高効率で環境負荷のない水素燃焼タービンの最終目標として、出力500MW級、燃焼器出口温度1500〜1700℃、発電端効率(HHVベース)60%以上を設定している。さらに、第1期(1993〜1996年度)では、第2期に予定しているパイロットプラントの建設に必要な基礎技術の確立を目指し、・最適システムの評価、・燃焼制御技術の開発、・タービン翼、ロータ等主要構成機器の開発、・主要補機類の開発、および・超高温材料の開発の5課題に関わる要素研究を進めている。  このうち、超高温材料の開発では、プロジェクトの最終目標を2000℃の条件下において耐久性を有する材料の開発に置き、第1期の目標を耐熱超合金、金属間化合物、CMCおよびC/Cの4種類の中から候補材を選定、またはその開発の見通しを得ることとしている。現在、それぞれの材料を対象に、 Table1(15)に示すような課題について研究開発に取り組んでいる。いずれにしても、このような超高温材料の開発においては、上述した材料設計と構造設計の融合がさらに重要になると考えられる。

5.おわりに

 以上、地球環境問題への適切な対処のため高効率化が余儀なくされている火力発電のなかで、将来の主力となる複合発電、とりわけその高効率化を左右するガスタービンに注目し、その技術動向と材料技術の関わりについて述べた。これまでの技術的進展を概観すると、機器構造設計側が材料を要求し、材料製造側はその要求に応える材料を提供してきたと言える。しかし、これは取り扱いが比較的容易な金属材料であったがゆえのことである。SC超合金、ODS合金、FRS等を含め、今後の実用化が期待されるような先進材料においては、材料とプロセス技術の融合はもとより、各材料の有する耐熱性等の特長を最大限に活かすためには、その材料に適した設計を材料側から要求する必要がある。今後、材料設計と構造設計の融合により、ガスタービン技術がより一層進展していくことを期待したい。

文献

(1)Petrasek,D.W.ほか3名、Metal Progress, 130-2(1986),27.
(2)たとえば、Decker, R.F.、J.Met.、3-5(1981), 24.
(3)青野、日本機械学会P-SC214分科会報告、No.492(1995), 11.
(4)近藤、火力原子力発電、46-10(1995), 1172.
(5)岩崎、火力原子力発電、46-10(1995),1156.
(6)Corman,J.C.,1995 Yokohama Int.Gas Turbine Congress, Paper No.95-YOKOHAMA-IGCT-143(1995).
(7)吉川・山本、火力原子力発電、46-10(1995), 1181.
(8)後藤田・伊藤、火力原子力発電、46-10(1995), 1188.
(9)新田・ほか5名、火力原子力発電、43-7(1992), 856.
(10)土屋、日本ガスタービン学会誌、18-69(1990), 6.
(11)久松・ほか5名、機論、57-535,B(1991), 819.
(12)宮田、日本機械学会P-SC214分科会報告、No.492(1995), 28.
(13)福江、日本伝熱シンポジウム講演論文集、Vol. I(1995), 358.
(14)Murase,M.,Proc.Int.Hydorgen and Clean Energy Symp. '95(1995),55. 
(15)新田、日本伝熱シンポジウム講演論文集、Vol. I (1995), 375.