次世代ガスタービンと発電システム
Next Generation Gas Turbine and Power System


○正 福田 雅文(東芝)    正 岡村 隆成(東芝)
Masafumi FUKUDA, Toshiba, Takanari OKAMURA, Toshiba
4-36-5 Tsurumichuo, Tsurumi, Yokohama

This paper describes a view of thermal power plant technology development and cooling technology for future high temperature gas turbine. By the year 2000, 1500℃ class gas turbine will boost combined cycle thermal effciency up to 54%(HHV). Employing high temperature gas turbine, integrated gasification combined cycle(IGCC) will be able to achieve 43-48% thermal efficiency, which means 10-20% reduction of CO2 emision from coal power plant. The key technology for future gas turbine is steam cooling. Closed loop steam cooling is under development for 1500℃ class gas turbine. For higher temperature hydrogen combustion turbine, hybrid cooling which is combination of closed and open loop cooling is proposed.

Key Word: Power Plant, Gas Turbine, Combined Cycle, IGCC, Steam Cooling Hydrogen Combustion Turbine

1.はじめに

21世紀を迎えようとしている現在、様々な社会的、構造的変化が生じている。発電事業ではCO2を代表とする環境問題、燃料の多様化、電力料金低減要求等が近年の大きな課題となっている。  上記の問題に対応すべく、火力発電分野では、クリーンなLNGを燃料とするコンバインドサイクル発電が主流になってきた。一方、長期的観点から石炭の利用の必要性が認識されており、超超臨界圧力蒸気タービン(USC)を採用した石炭火力発電プラントも増加している。
 今後も環境、コスト、燃料に関する要求は強まる一方であると予測され、火力発電分野の技術開発はこれらに対応すべく展開されている。
 本報では今後の火力発電技術開発の展望と、これを実現するための次世代ガスタービンシステムおよび冷却技術について述べる。

2.火力発電技術の展望

図2−1は各種発電方式の性能向上推移を示している。LNGを燃料として用いるコンバインドサイクルは現在主流の1300℃級が1990年頃開発され、今世紀中には1500℃級の台頭が予想され、各社開発に注力している。GE社の場合、1500℃級ガスタービンには空冷方式のG型、蒸気冷却方式のH型(図2−2)の2種類があり、H型ではLHVベースで60%(HHVベースで54.5%程度)の熱効率が期待されている(1)。
 LNGコンバインドサイクルの性能向上は石炭利用IGCCの熱効率向上に直接寄与する。図2−3に東芝と石川島播磨重工業(IHI)が共同で提案しているIGCCの構成を示す。コンバインドサイクルは1300℃級ガスタービンを核として、HRSG、蒸気タービンから構成される。ガス化炉は世界的に実績が多く、すでに実用機として使用されているテキサコ炉を採用している。酸化剤としては酸素を用い、石炭はスラリーとしてガス化炉に供給される。精製装置は湿式精製または乾式精製を採用している。空気分離装置は高圧の深冷分離式であり、分離された酸素はガス化炉へ供給され酸化剤として、窒素はガスタービンへ供給されNOx低減に利用されている。このような構成により、送電端HHVベースで43から44%の熱効率を実現しようとしている(表2−1)。将来的には1500℃級のGまたはH型ガスタービンを用いることにより48%程度の効率を達成できると考えられる。火力発電分野では今後石炭の利用が急速に増加するが、石油、LNGと比較して燃焼によるCO2発生量が多いことが最大の問題点である。IGCCはこれまでの微粉炭焚き蒸気タービンプラントと比較し約2割の効率向上が達成され、その結果CO2も約2割削減する事ができる。それ故、IGCCは燃料多様化とCO2の2つの問題に対する一つの回答であると言えよう。
 コンバインドサイクルをベースとしたこれらの発電システムは熱効率の高さだけではなく、NOx、SOx等環境汚染物質の排出も低く、いわゆる環境性能も非常に高い。また、高い熱効率はCO2排出量の削減にも寄与する。  このようにコンバインドサイクルは上記の3つの課題克服に対し非常に有効な手段であり、これからの火力発電システムの中核に位置づけられる。
 さらに将来を見ると、太陽光等の再生可能エネルギーを利用したシステムが考えられる。現在国のWE−NETプロジェクトでは太陽電池または水力発電等で起こした電気で水を分解し、水素を得て、これをガスタービンの燃料として使う発電システムを開発している。タービン入口温度を1700℃とし、熱効率はHHVベースで60%を狙うと共に、水素と酸素の燃焼により蒸気を生成し、CO2、NOx、SOx等の排ガスをゼロにすることを目指している。
 以上述べたように、ガスタービンを利用した火力発電の大幅な性能向上にはガスタービンの高温化、サイクルの工夫が必須である。次章では次世代ガスタービンシステムとそこに適用される冷却技術について述べる。

3.次世代ガスタービンシステムと冷却技術

1)1500℃級冷却システム
・システム構成
 従来、ガスタービン冷却翼は、冷却媒体として圧縮機吐出空気を使う、いわゆる空冷方式が取られているが、高温化が更に進むにつれて必要冷却流量の確保が困難になってきた。1500℃級になると燃焼器やタービン翼等の高温部の冷却に蒸気冷却方式の提案や開発が行われている(2)。コンバインドサイクルプラントでは排熱回収ボイラを備えているために蒸気を容易に利用することができ、そして蒸気冷却は空冷に比べて、次の2点で優れた方式である。

 −高いプラント熱効率
 −低NOx化に有利

このような蒸気冷却においては、ガスタービンで冷却に使用された蒸気は回収されて蒸気タービン系に戻される回収型が採用されている。このため、空冷の場合と違って冷却用蒸気は高温ガス中に混入しないため、ガス温度低下を最小限に止め、また、回収された蒸気は蒸気タービン系で仕事をすることでプラントの高効率化が図られている。タービン動静翼全体に蒸気冷却を適用すると、プラント熱効率は空冷に比べて約2%の向上を図ることができる。そして、初段静翼にこの冷却方式を適用すると、初段動翼入口温度基準で考えた場合、初段静翼入口温度、すなわち燃焼器出口温度を大幅に下げることができ、低NOx化に極めて有効である。
 当社で計画した蒸気冷却コンバインドサイクルのシステム構成を図3−1に示す(3)。ガスタービンと蒸気タービンは一軸構成で、排熱回収ボイラは3ドラムタイプである。タービンへの冷却用蒸気は高圧過熱器の途中から抽気されてガスタービンで冷却を終えた後、高圧蒸気タービン入口に戻される。

・基本仕様,性能
 プラントの基本仕様を表3−1に示す。一軸のプラント出力は、ガスタービン246MW,蒸気タービン140MWの計386MWである。大型ガスタービンの冷却翼等のキーとなる技術の検証のために、スケール比が約1/2の出力60MWのスケールモデル機が選定された。図3−2にガスタービンの断面図を示す。初段静翼入口温度は1450℃で、圧力比は18であり、圧縮機の段落数は17段,タービンは3段である。本ガスタービンにおける蒸気冷却はタービンの初段静翼に適用しており、初段動翼以降の段落の冷却翼には空冷を採用している。燃焼器は缶タイプで10缶で構成されており、NOx低減のための燃焼機構は1300℃級低NOx燃焼器を踏襲している。燃焼器の高温化対応として、ライナーやトランジションピース等の高温部品は、内面のフィルム冷却用空気の不足を補うために、外面に伝熱促進リブの設置やインピンジメント冷却による冷却強化が施されている。

・冷却翼技術
1500℃級の主要な高温化技術としては、冷却技術、耐熱材料の改善そして遮熱コーティング(TBC)の適用が挙げられる。まず、蒸気冷却を適用している初段静翼について述べる。蒸気冷却翼の開発に当たっては、次のような設計上の配慮がなされている。

 −回収型最適冷却構造
 −翼の均一な温度分布
 −熱応力の低減

静翼の全体構造を図3−3に、冷却構造を図3−4に示す。静翼は翼部と内外輪一体の精密鋳造翼であり、翼部は中空で、冷却通路が翼コード全体に渡って半径方向に沿って設けられている。冷却蒸気は外輪側から供給されて、まず翼背側を流れてこの部位を冷却して内輪側に向かう。内輪にも冷却通路が形成されてこの部位を冷却した蒸気は、翼腹側を外輪に向かった流れてこの部位を冷却し、外輪も内輪と同様の冷却通路が設けられて冷却される。冷却蒸気は翼を冷却した後、蒸気タービン系に戻される。高温ガス側の翼外面熱伝達率は腹側に比べて背側の方が大きいため、冷却で温度上昇していない冷却蒸気を背側から供給するように考慮されている。この蒸気冷却翼は空冷翼に比べて比較的単純な冷却構造を採用している理由として、蒸気は空気に比べて、物性値の違いから約1.5倍の優れた伝熱特性を持っているため、このような円管流れを主体としてた構造で従来翼と同レベルのメタル温度を維持している。
 冷却通路の大型アクリル模型を使った水流試験による流れの可視化や圧力測定、あるいは実翼の空気による流量配分試験を実施して、冷却通路内の流れの状態の把握と各冷却通路の流量配分について確認を行った。また、翼の健全性確保の面から、熱応力低減のための空気によるフィルム冷却の試験や解析あるいはTBCの適用等について検討を行い、ここでは翼前縁近傍からの背側のフィルム冷却を採用している。蒸気冷却翼の冷却性能と翼の健全性を検証するために、実機運転と同等の条件下で、高温風洞試験を実施した。試験設備の全体系統を図3−5に示す。冷却媒体の蒸気は、高圧空気供給用圧縮機の駆動用ガスタービンの排気に設置さた排熱回収ボイラから供給されている。設計点における翼中央スパンでの翼メタル温度の試験結果を図3−6に示す。測定値は計算値とよい一致を得ており、計画通りの冷却性能を確認した。
 次に、初段空冷動翼について述べる。1300℃級空冷翼の冷却構造を基本として冷却性能の改善を図っている。図3−7に翼全体と内部の冷却構造を示す(4)。3パスのサーペンタイン冷却通路から成り、冷却構造の最適化と翼面の多列フィルム冷却を採用している。高温風洞試験を実施し、図3−8に示すように設計点における翼中央スパンでの冷却効率の試験結果は計算値とよい一致を得ている。材料は半径方向に結晶成長させた高温強度に優れた結晶制御合金である一方向凝固(DS)や単結晶(SC)材を使用している。結晶制御合金のタービン翼への適用に当たって、複雑な冷却構造の鋳造性とクリープ破断強度(図3−9(6))や疲労強度を検証しており、そして異方性材料の強度,振動設計法を確立して来た。これら動翼を所内試験発電所のガスタービンロータに組み込んで運転試験を行っており、分解検査によって翼の健全性を確認している(6)。TBCのタービン翼への適用に当たっては、コーティングを施工したタービン翼を高温タービン試験装置に組み込んで遮熱特性の試験を実施し、TBCのない翼に比べてガス温度を約100℃高温化できることを確認した。また、コーティングの耐久性向上のための施工プロセスの最適化や耐酸化性改善などの各種基礎試験を経て、TBCを施工したタービン初段動静翼を上記ガスタービンに組み込んで耐久性検証運転を継続して実施している。

2)将来型1700℃級ハイブリッド型蒸気冷却システム ・システム構成
 ハイブリッド型蒸気冷却システムとは、前述の回収型蒸気冷却システムよりも高い燃焼ガス温度、例えば1700℃に対応すべく考案された高効率なシステムである。
 この基本システムの適用例をWE−NETプロジェクトの中で当社が提案している新ランキンサイクルを用いて紹介する。  図3−10は水素燃焼タービンを用いた新ランキンサイクルの一例であり、熱効率60%を越えるものである(7)。基本構成は2段再熱ランキンサイクルであるが、本サイクルがこれまでのランキンサイクルと大きく違う点は、再熱器として水素・酸素燃焼器を採用した点にある。これまでの再熱器はボイラーの一部であり、伝熱管材料の限界から蒸気温度を600℃程度に制限する必要があった。これに対し、水素・酸素燃焼器は伝熱管を有さないことから大幅に温度を上げることが可能になり、このケースでは1700℃まで2段再熱している。また、他の相違点として、高圧タービンに供給される蒸気は低中圧タービン出口に配置された蒸気発生器により生成される。これにより、復水器に落ちる熱量を大幅に低減し、逆に高圧蒸気の発生に有効利用することが可能となった。

・冷却翼技術
 水素・酸素燃焼タービンシステムにおける1700℃級高温タービンの翼冷却方式の選定に当たっては、次の3点を主要課題として検討を進めた。

 −高いプラント熱効率
 −高い翼冷却性能
 −高い運転信頼性

冷却方式は、大別すると従来から行われているフィルム冷却等の冷媒を主流ガス中に吹き出す"開放式",そして前述の蒸気冷却のように供給された冷媒を主流中に吹き出さずに全て戻す"回収式"がある。また、冷媒が蒸気ではなく、水を使用する"水冷式"も考えられる。
 これら冷却方式の比較評価を実施した。以下に検討内容の概要を記す。プラント熱効率の面からは、冷媒の蒸気を主流中に吹き出す開放式は不利であり、回収式が有利となる。水冷式は加熱水の有効利用が難しく、プラント性能上有利とは言えない。翼の冷却性能の面から見ると、水冷は蒸気よりも優れていることは当然ながら、この方式は過去の開発事例からも分かるように、金属の腐食やクラック発生による冷却水の主流への漏洩による重大事故への懸念が考えられ、運転信頼性の面で困難な開発課題を抱えることになる。開放式は冷却性能を充分に満足する一方、回収式では翼の前縁や後縁のように翼外面の熱伝達率が高く、かつ、内部の冷却構造が充分に取り難い、いわゆる熱的に厳しい部位で、満足な冷却性能を得ることが難しくなる。このように、それぞれの方式は一長一短があることが分かる。本システムにおいては、開放式と回収式の長所を組み合わせた"ハイブリッド型蒸気冷却システム"を選定した。図3−11,−12に初段静翼と初段動翼の冷却構造を示す。動静翼共、翼中央部には回収式を、翼前縁,後縁部は吹き出しの開放式の冷却方式を採用している。このようにハイブリッド方式を選定することによって、翼全体に良好な冷却性能を維持しつつ、高効率プラントの達成と運転信頼性の確保を実現することができる。  これら動静翼には単結晶材を採用しており、TBCも翼全面に適用する。TBCの適用に当たっては、ガス温度が高いことと主流ガス/冷媒が蒸気で熱流束が大きいことから、TBCは耐久性と併せて耐熱性の向上が課題である。2段落以降の冷却翼には、主流温度条件から見て全て回収式の冷却方式を採用している。

4.まとめ

■LNGコンバインドサイクルは高効率な回収式蒸気冷却を採用した次世代ガスタービンの適用により、現状よりも熱効率を4ポイント以上向上できる。
■IGCCは高い環境性能を維持しつつ、現状の1300℃級ガスタービンを用いて送電端熱効率(HHV)43%以上を達成できる。次世代ガスタービンを用いると48%程度まで向上できると予想される。
■1500℃級回収式蒸気冷却は当社による要素試験で優れた冷却性能が確認された。
■上記実績を踏まえ、当社はさらに高温の1700℃級の火力発電プラント実現に向け、高効率な冷却技術であるハイブリッド冷却法の開発を進めている。
■ハイブリッド冷却法を適用した水素燃焼タービンシステムでは熱効率(HHV)は60%を達成できると予想される。また、NOx、SOx、CO2の発生をほぼ0にでき、卓越した環境性能をも有した将来型発電システムといえる。

 以上述べたように、環境問題、燃料の多様化等の社会的要請に答えるべく、高効率な冷却技術を採用した次世代ガスタービンと、その技術をさらに発展させた将来型発電システムの早期の実用化が望まれる。
 なお、本発表の内「1500℃級冷却システム」の開発は東北電力殿との共同研究として実施した。また「将来型1700℃級ハイブリッド型蒸気冷却システム」については水素利用国際エネルギーシステム技術(WE-NET)「水素燃焼タービンの開発」の一環で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)殿、(財)発電設備技術検査協会殿および電力中央研究所殿からの委託を受けて実施したものである。記して関係各位に謝意を表する。

参考文献

(1) J. Corman, "H Gas Turbine Combined Cycle," Proceedings of the Advanced Turbine Systems Annual Review Meeting, Vol. 1, Oct. 1995, pp14-21.
(2) 岡村,日本ガスタービンセミナー第21回資料集(1993), 71.
(3) 伊藤,古閑,福山,大友,渋谷,佐藤,小林,松崎,第10回ガスタービン秋期講演会講演論文集(1995),1.
(4) 大友,福山,中田,伊藤,渋谷,佐藤,小林,松崎,第10回ガ スタービン秋期講演会講演論文集(1995),7.
(5) H.Yamamoto,M.Yamamoto,K.Imai,M.Miyazaki,M.Satoh, Y.Kobayashi and H.Matsuzaki,ASME Paper,95-GT-449 (1995)
(6) 岡村,山本,石井,東芝レビュー,49-4(1994),272.
(7) 新エネルギー・産業技術総合開発機構, 電力中央研究所, 水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET)サブタスク8水素燃焼タービンの研究開発(1)最適システムの評価, Mar. 1996, pp3-120.