高温ガスタービン用動翼材料の動向

石川島播磨重工業株式会社  正木 彰樹


1.はじめに

WE-NETの最終目標であるTIT (タービン入口温度)2,000゜C 級水素燃焼タービンの場合、動翼の実温度は平均1,800゜C強と予想される。動翼の応力条件を現状程度と仮定すれば、翼中央で比応力20 MPa/gr/cm3、翼根部で40 MPa/gr/cm3程度が目安となる。図11)に示すように、これまではNi合金を中心とした耐熱温度の向上がすすんできたが、耐環境性を備え、かつこのレベルの強度がある材料は見当たらない。セラミックスに代表される革新的材料は耐熱材料として期待されて久しいが,脆性の懸念が有り実用に至っていない。複合材料(CMC)化により脆性改善を図ることが出来、1400℃程度までの実用の期待が高まっているが上記の耐用温度レベルに届くべきも無い。2000℃級材料といわれるC/Cも、長時間の耐久性を持つ耐酸化コーティングや自己修復機能開発が必須だがその可能性は低いと言える。
ガスタービンの進歩に果たした材料の役割は大きいが、雰囲気温度はNi基超合金の融点をはるかに超えている。航空機用ガスタービンのタービン動・静翼は、冷却設計の進歩により超合金耐用の1,000゜C 以下としてTIT 1,600゜C を実現しつつある。航空エンジンの金属材料製タービン動静翼は主に熱ひずみによる疲労とクリープにより損傷する。破壊の場となる結晶の粒界を無くす鋳造技術が開発され、タービン翼全体に結晶粒界がない超合金単結晶翼が出現し、耐熱性に優れた超合金の開発が進められ先端的航空エンジンには実用さて久しい。発電用ガスタービンでも導入の方向に有るが、ジェットエンジンに比べより長時間クリープ寿命が要求される。WE-NETの水素燃焼タービンは、これまでの化石燃料ガスタービンとはことなり、燃焼雰囲気がきれいということが出来、高温腐食を重視せず、クリープ特性に力点を置いたNi合金の開発、選択を行うことが合理的であろう。
さて、タービン翼の冷却効率ηは燃焼ガス温度Tg,材料温度Tm,冷却媒体温度Tcを用いて次のように定義される。

 η = ( Tg-Tm )/( Tg-Tc )

 ηは現状の0.6程度でありTcを600℃とすれば、材料温度が1200℃級耐用となれば、2100℃のTgが実現されることとなる。  冷却を効率的にするために、TBC(遮熱コーティング)が開発され,古くから燃焼器に、更にはタービン静翼に、そして剥離安定性の高い電子ビーム蒸着型TBCが開発され、近年、一部民間航空エンジンの動翼に適用が始まった。TBCの断熱性はその厚みに依存するが、通常使用される0.2mm程度のZrO2系TBC で150℃程度の断熱性を持つ。これ以上の厚さのTBCは、動翼母材への遠心応力を増加させ現実的ではなくなる。
 図2に示した冷却型ハイブリッド翼は、薄く冷却孔持った軽量耐熱材CMCを、断熱層と効率の良い冷却方式であるトランスピレーション冷却材とするもので、WE-NETの冷却型タービン動翼材料として提案した新しい概念である。1000℃級単結晶に1200℃級CMCをハイブリッド化しη0.65程度を達成することでTgは2300℃に達する計算となる。

2.単結晶

2.1単結晶(SC)合金とその高強度化

Ni基超合金はγ'相,すなわちNi3(Al,Ti)の析出を利用した析出強化型で,現用の超耐熱合金中で最も特性バランスのとれた高強度合金である。歴史的には普通鋳造(CC),一方向凝固(DS),SC合金の開発経緯の中で,第1のエポックとしては1950年代半ばの真空溶解法の導入が挙げられる。この真空溶解法によりγ'形成元素であるAl,TiやTaなどの活性元素の多量添加が可能になった。鋳造合金ではγ'体積率を増加させることができ60〜65%にも達する合金が開発された。ロストワックス法を主とする精密鋳造技術の進展と共に鋳造合金が実用されてきたが,更に強度向上を図ろうとするとそれに相反して延性の低下,高温での組織の不安定性や鋳造性の低下などの観点から不具合を生じ強度的にも頭打ちの状態となった。
 この限界を打破するために高温での破壊の起点となる結晶粒界を応力軸に平行に配向させることを意図したDSが1960年代半ばに米国で開発された。1975年には熱処理に関する研究でクリ−プ強度が微細γ'によって支配され,固溶処理温度を高め共晶γ'量の固溶が有効であることが分かり,その初期溶融温度を低下する粒界強化型元素(C,B,ZrおよびHfなど)が不要なSC合金が登場した。Mar−M200+HfおよびMar−M247をベ−スにAlloy444やNASAIR100が,また既存合金とは独立してAlloy454やAlloy203Eなど多くのSC専用合金が開発され,1980年代に入って実用化された。厳密な定義はないが,開発当初の合金群を第1世代と称し,ほぼ50゜F耐熱性が改善されたものを第2世代合金と呼んでいる。
 図3に各種超合金のクリープラプチャー強度を比較し示した。SC合金の特性は特定のすべり系の活動に支配されるため強度異方性を示すことが広く知られており、これらは高強度〈100〉の方位のものである。

2.2SC合金設計技術と強度向上

使用実績のある合金は限定されているもののSC専用合金の種類としては実験合金を含めると約100種にも上っている。ほとんどはCr−Mo−W−Al−Ti−Ta−Coの約7元素を主体としている。表1に代表的合金の化学成分を示す。Y,Re,Ruなどの新規元素が添加され,より高温強度化や耐酸化・耐食性を向上させた合金が開発されてきている。
 このようなSC合金の海外における合金設計技術開発の動向は十分に明らかではなく報告例もほとんど見当らなく,むしろ国内で代表的なものとして金属材料技術研究所2)の開発した合金設計プログラムがある。基本的には実験を主体として重回帰分析手法を用いる方式であり、新添加元素の導入に伴い予測の精度については継続的な改良が必要である。

2.3水素燃焼中での腐食挙動

水素燃焼タ−ビンの雰囲気はニッケル基SC合金にとって硫化腐食や酸化などの観点で厳しい腐食環境ではないものと考えられる。ただし,H2環境については,わが国でもLE−7エンジンでのニッケル基合金やDS合金の評価や米国におけるNASAでの各種評価が実施されており,室温における水素脆化がSC合金の結晶方位によって変化するなどの報告例もある。水素雰囲気下の静的引張特性は,室温ではヘリウム雰囲気に比べ強度および延性とも大きく減少し脆化している。ただし,高温になるにつれて脆化量は減少し,高温(600℃など)になると脆化は認められずクリティカルではないと考えられる。
 CrはNi合金のクリープ特性を損なうが,S等による加速酸化,高温腐蝕に対する添加元素であり,高品位燃料を使用する航空エンジン用タービン翼SC材では5%程度に低減されてきている。水素燃焼雰囲気では高温腐蝕の問題はなく,Crを含まずクリープ強度を追求した合金設計が許される。
WE-NETでは金属材料技術研究所の合金設計プログラムを用いCrフリーSC合金の開発を行っており,図4にそのクリープ強度を例示する。

2.4単結晶中空翼の製造技術

単結晶合金は結晶を制御・選択し、1部品が1つの結晶で製造される。この方法は、図5に示すセレクタ方式や種結晶方式の精密鋳造により製造される3)。スタ−タ−ブロックで発生した多数の柱状晶の中から1つの柱状晶をセレクタで選択し、選択した柱状晶を優先成長させてタ−ビン翼を1つの結晶で製造する方法がセレクタ方式である。セレクタには、Helix、Zigzag、Right-angleと呼ばれる代表的な3種類がある。これに対しスタ−タ−ブロックの柱状晶発生位置に予め結晶方位を制御した種結晶を固定させ、選択した方位に結晶を成長させる方法が種結晶方法である。通常、タ−ビン翼の翼長方向は、〈001〉方位にあることが望ましい。セレクタ方式では、デンドライトの優先成長方位(1次結晶方位)が〈001〉であるため、セレクタで同方位に近い柱状晶を選択することが可能である。ほとんどの単結晶はセレクタ方式で製作されている。一方、種結晶方式は、コストデメリットがあるが、1次及び2次結晶方位を制御する必要がある素材や鋳型の拘束により再結晶が発生しやすい複雑構造翼の製作に適用している。
 単結晶タ−ビン翼は高度の冷却中空構造を有するようになってきた。この中空構造は、製造工程でセラミックス製の中子をタ−ビン翼形状のワックスに埋め込み、鋳造後除去することにより形成される。さらに、翼表面にレ−ザ−等で微細な冷却孔を多数あけ、表面に空気の膜を作り冷却している。冷却性能をさらに高めるために、近年アメリカでLamilloy cooling technologyと呼ばれるハニカム状の中空構造が考案されている4) 。これは複層鋳造材で非常に複雑であるため,高度な中子、ワックス成形及び鋳造技術が必要である。またRe、Y等の活性な元素が添加されているため鋳型との反応が生じる。このため、それぞれの合金での鋳型反応に関する技術開発も必要である。
 発電用大型ガスタ−ビンのタ−ビン部も発電効率向上のためにタ−ビン翼に普通鋳造合金に替えて、一方向凝固合金や単結晶合金を採用する動きがある。ガスタ−ビンのタ−ビン翼は航空エンジンのタ−ビン翼に比べてかなり大きい。国内でも全長200mm以上の一方向凝固合金や単結晶合金タ−ビン翼の試作が行われているが,単結晶鋳造品が大きくなるとに鋳型強度が必要で、鋳造後の凝固冷却時に鋳型の拘束による高い鋳造ひずみが発生し再結晶が発生し易くなくなる。

3.多孔質CMCの製造技術

3.1CMC用繊維

製造方法により、以下の2種類に大別される。
a)CVD法:B,SiC等
直径が100μm程度と太い点がbとの大きな違いである。bに比べて耐熱性が高くσuts やE(引張強度、ヤング率)も優れているものの、径が太いため織物にしずらい。また同じVfでは界面が少ないことから高靭化の点で劣るため、主流は下記である。
 b)前駆体法:SiO2,Al2O3,Si3N4,SiC等
直径は10μm 程度である。上に挙げた順にイオン結合性→共有結合性となり、共有結合性の高い方が耐熱強度特性が高くなり,そのためSiC繊維の研究が最も活発である。この種のセラミックス繊維は微細な結晶構造が高強度に寄与しているため、高温で長時間保持すると結晶が粗大化し特性が劣化するのが共通の問題点である。以下にそれぞれの特徴と問題点を記す。  SiO2経済性に優れるが、低σuts,Eであり高温で軟化する。
Al2O3熱的に安定であり、酸化物のため耐酸化性に優れるが、イオン結合性が高く高温で軟化してしまう。断熱材として使用される実績を持つ。
Si3N4共有結合が50〜60%でSiCに比べ高温での特性劣化が顕著である。靭性は高いため、繊維よりマトリクスとして期待される。
SiC共有結合が90%でセラミックス繊維として最高の高温特性を有し、耐酸化性も優れる。問題点としては、従来の製造法では繊維中に多くの酸素を含み、これが繊維の分解や結晶粗大化を促し、高温での安定性を損なうこと(1200℃以上)、比較的大きなクリープ速度を持つことが挙げられる。近年の酸素含有量を減らし耐熱強度を1200→1600℃へ改善する研究開発が注目される。

3.2繊維織物技術

複合材料に使用する織物は,繊維の特性を有効に利用できるよう繊維配向の最適化と多様化がはかられ,図65)のような多種類の織物が作られている。幾何学的形状を次元数で示し,繊維の方位数を軸数で表現する。
 2次元2軸織物には平織,綾織,朱子織があり広く製造。利用されている。
3次元織物としては,一方向に並列して配置してある繊維の配列順序を相互に変えて,立体的組織体を作る方法である。日本の従来技術である組紐技法がこれで,平板状の平打組物,円筒状の丸打組物(Braid)に分類される。短形断面,I型断面,円筒断面の3次元織物を作る方法,糸ボビンを平面に配置してボビンの相互位置を変えることで立体的組織を作る方法等がある。厚さのある織物を縦糸,横糸,垂直糸で立体的に製織する直交3次元3軸織物等が製作されている。
タービン用表面にCMCを形成する中空織物にはBraid織物が適している。

3.3CMCの製造技術

連続繊維強化型のセラミック複合材料に関しては、加圧焼結法、反応焼結法、有機ケイ素ポリマーの含浸焼成法、CVI法による各種の製造方法が検討されている。そのいくつかの例について、以下に述べる。
 加圧焼結法では繊維にセラミック粉末を添加し、これをホットプレスやHIPなどを用いて緻密化するものである。この方法は比較的高密度の材料が得られる反面、加圧力を用いても高い焼結温度が必要となる。繊維の耐熱温度が焼結温度に比べて低い場合には高い強度が発現しない。
 反応焼結法は繊維成形体の中に金属を含浸等によって導入した後、反応焼結によりセラミック化するものである。この種の製造方法には炭素繊維成形体に金属シリコンを含浸させるGE社のSILCOMP法をはじめ、セラミック繊維にアルミニウムを含浸させ、その後酸素や窒素ガスとの反応によりAl2O3やAlNマトリックスを形成するLANXIDE社DIMOXプロセスなどが知られている。反応焼結を用いた方法では、反応温度を低く抑えることが可能で、かつ複雑形状への適用も可能である。溶融金属と繊維の反応を防止しつつ、高温特性に好ましくない未反応金属を残さない反応条件の選定が重要である。
有機ケイ素ポリマーの含浸焼成(PIP)法はポリカルボシランやポリシラザン等のセラミック前駆体ポリマーを繊維成形体に含浸した後、熱分解によりセラミック化しマトリックスを形成するものである。前駆体ポリマーの場合は、プロセスによる繊維の劣化が少ない。また前駆体ポリマーの分解温度はセラミックスの焼結温度に比べて低いため高温処理に伴う繊維劣化防止の観点からも好ましく、複雑形状への適用も容易である。反面、ポリマーの焼成に伴う収縮のため含浸処理を繰り返す必要がある。ポリマーにセラミック粉をフィラーとして添加する方法等、収率向上のための検討がなされている。
 CVI法は原料ガス下で繊維成形体を加熱し、成形体空隙内部での原料ガスの加熱分解によってセラミック・マトリックスを形成するものである。CVI法は比較的低温でのプロセスのため繊維劣化の可能性が低い。複雑形状への適用が容易である。気相反応を用いるため微細な空隙の緻密化が可能である。また酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物など多岐にわたる材料が生成しうるといった特徴を持つ。しかし反応に比較的長時間を要する、また繊維成形体表面でのマトリックスの生成が優先的に起こり易く、これにともなって内部への含浸が抑制され、密度分布を持った低密度の材料となり易いという難点がある。  図7にはBraid織物をPIP法にて成形した,多孔中空体の外観を示す。

3.4代表的CMCの特性

CMCの特性の最も特徴的なものは応力−歪の非線形性であり、図8に示すように弾性限を越えた領域においても荷重を保持しうることである。このことは同時に、微視的な破壊が即座に巨視的な破壊にはいたらない、いわゆる欠陥許容性を意味し、材料としての信頼性に大きく寄与する。CMCの応力−歪の関係は概念的には弾性領域、マトリックス中の亀裂発生・成長領域、そして繊維破断に至る領域に特徴づけられる。CMCの変形・破壊挙動はこのような繊維・マトリックスの組合せにより変化するとともに、繊維/マトリックス界面の性状、さらには材料の履歴によっても変化することが知られている。従ってこれらの因子と材料の変形・破壊挙動の関連を把握するとともに、その挙動に応じた設計・利用を行うことが重要となる。
 またCMCの特性のもう一つの特徴は異方性である。これは繊維配置の異方性に起因するもので、その炭化ケイ素自体熱伝導性の高い材料であるにも関わらず、熱伝導度が繊維の配向方向には高く、繊維積層方向には低いという異方性を示している。提案のハイブリッド翼構造の場合、CMCに対する熱衝撃や熱応力の観点からは熱伝導性が高いことが望まれるが、内部の金属を保護するために翼内部方向には熱伝導が低いことが好ましい。従ってCMCにおいて構成する材質の熱伝導性および繊維の適正配置を考慮することにより、熱伝導の異方性を効果的に活用することが可能と考えられる。

3.5CMCの耐水蒸気腐食

現在のところ水素燃焼タービンに相当する環境下でのセラミックス、特にCMCの安定性についてはほとんど研究がなされていない。SiCのような非酸化物系のセラミックスは高温強度の面からは高い特性が期待されるが、高温水蒸気環境下では揮発性のSiOが生成するアクティブ酸化酸化が加速されることが知られている。水蒸気濃度を増加させると逆に酸化によってアクティブ酸化の度合が弱まっていく過程があり、特に高濃度水蒸気側ではパッシブ酸化となり安定する。
 実環境の温度、ガス組成のもとでパッシブ、アクティブのいずれの酸化機構が起こるかが非常に重要な因子である。耐環境性の点からは酸化物セラミックスが適している。しかしこれらの材料は固有のイオン結合性に起因して高温強度、特に耐クリ−プ特性に大きな課題を持つ。近年、酸化物系単結晶繊維,あるいはCMCの開発もなされつつあり、どのように活用するかも一つの課題である。

4.ハイブリッド動翼のコンセプトと歴史

材料を実機の部品として適用する場合、単一材料がそのままでは使えない場合が多々ある。特に寿命を確保するためにメッキ、塗装、溶射などのコーティングを施すことはよく知られているところである。また、異種材料を組み合わせることにより今まで得られなかった特性が得られたりもする。複合材料のように、繊維と樹脂、繊維と金属、繊維とセラミックスなど、異種材料を組み合わせるで全く新しい材料系が生み出されることもある。ハイブリッド材料の定義は必ずしも明確ではないが、金属材料と有機材料や複合材料、金属材料とセラミックスを組み合わせた物を指す6)
 報告・発表されているハイブリッドタービン動翼は、2種類ある。一つは超合金/超合金系ハイブリッドである。冷却タービン翼の翼表面(SHELL)に熱疲労特性の優れた急速凝固超合金を、そして強度の必要な翼中心部(SPAR)を単結晶合金で構成しようとするものである7)。急速凝固超合金の製造法として、溶射により鋳造系超合金を付着させるRSPD(RAPID SOLIDIFICATION BY PLASAMA DEPOSITION)などが検討されている。
 もう一つはセラミックス/金属系ハイブリッドである。SHELL としてのセラミックスに要求される特性は、設計された冷却孔を配置し得ること、耐熱性・強度があること、耐衝撃・耐熱衝撃があることなどである。モノリシックなセラミックスではこれらを満足する事は困難と考えられるが、CMCは繊維を織り多孔化がかのうで、耐衝撃・耐熱衝撃はモノリシックなセラミックスを凌ぐ。
 SiC、Si、Al、ZrO 系などの繊維が開発あるいは量産されているが第4章で述べたように、SiCを中心とする超1,400゜C級の高強度繊維が期待されるが,水蒸気/水素雰囲気中では主要強化繊維であり、また現在主要なマトリックス材料でもあるSiCが揮発性SiO を形成し耐酸化性が低下する場合があることが知られており、この耐環境性の確認は課題である。
 この他、このハイブリッド構造は新しい概念であり、三次元曲面を持った翼表面に合ったFRCの成形技術、SPARとの冷却流体のシール機構の開発等々幾多の実用上の課題がある。

結  言

ガスタービンのTIT 上昇にはNi基の超合金の開発・実用化・改良が大きく寄与している。高温部品は主に熱ひずみによる疲労とクリープにより損傷するが、破壊の場となる結晶の粒界を無くした超合金単結晶翼がジェットエンジンなどで実用され、また、より優れた単結晶用超合金の開発が進められている。発電用ガスタービンはジェットエンジンに比べより長時間クリープ寿命が要求され、水素燃焼雰囲気に適した合金探索は1,700゜C 級タービン実現の重要な課題である。
 WE-NETの最終目標である2,000゜C 級水素燃焼タービンの場合、無冷却翼を実現するにはC/Cへの信頼性ある長寿命コーティングの開発が唯一の方法と考えられるがかなりの困難が予想される。しかし現在の冷却技術とその改良技術を適用できる新しい構造概念を発想すれば、何種類かの信頼性のある材料で最終の目標達成の可能性はある。今回提案したCMC/超合金単結晶ハイブリッドは有力な候補と考える。

参考文献

1)正木 彰樹、月間JADI,601(1997-6).p.1,日本防衛装備工業会
2)H.Harada,T.Yamagata et al : Proc. Conf. High Temperature Materials for Power Engineering 1990,Liege Belgium,1990
3)太田芳雄、中川幸也、大友暁、雑賀喜規 : 日本金属学会報, (1985),p.24
4)S.F.Brown:Popular Science, (1990), p.83
5)福田健二:強化プラスチック, Vol.32.No.4,(1986),p.16-21
6) 植村益次 監修,"ハイブリッド繊維強化複合材料",CMC(1986)
7) R.A.Sprangue,ASME 82-GT-278,(1982),P138
41) R.Warren eds.,"Ceramic Matrix Composites",(1992),P138
42) 特開:平5−71303