固体高分子水電解技術の開発

Development on Solid Polymer Electrolyte Water Electrolysis Technology

正 久留長生(三菱重工)○ 谷 俊宏 (三菱重工)
坂西彰博(三菱重工)正 小阪健一郎(三菱重工)

Since 1987, Mitsubishi Heavy Industries, Ltd. (MHI) has been conducting the fundamental research on water electrolysis using solid polymer electrolyte membrane. MHI is participating in World Energy NETwork (WE-NET) Project. We are making effort to improve energy efficiency (electrochemical conversion efficiency from electricity to hydrogen) and scale-upping cell area, based on the nonelectrolytic plating method. Developing new membrane/electrode assembly manufacturing process, energy efficiency reached more than 90% at 1A/cm2 and 80% at 3A/cm2.

Key Words : Solid Polymer Electrolyte, Ion-exchange Membrane, Water Electrolysis, hydrogen


1. 緒 言

水素は燃焼時に炭酸ガスを放出しないなど環境に優しいエネルギー媒体として知られている。水から水素を作り、利用することによって再び水に戻すというエネルギーサイクルに於いて、水素製造技術として水電解法は最も実用化が近いものと考えられている。三菱重工業では水電解法の中でも高い効率が期待できる固体高分子膜を用いた水電解装置の基礎的研究を1987年から行っている。1993年からは新エネルギー・産業技術総合開発機構および(財)エンジニアリング振興協会による「水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE−NET)プロジェクト(1)」に参画し、水電解セルの高性能化や大面積化を続けている。また、自然をエネルギー源とした変動電力に対して固体高分子水電解法を適用する研究(2)を関西電力(株)総合技術研究所と共同で行っている。本報ではWE−NETプロジェクトによる研究開発の状況を報告する。


2. 膜電極接合体製造方法の検討

2-1従来の製造方法
固体高分子電解質膜を中心として両面に触媒・電極層を持つ膜状構造体を膜電極接合体と呼ぶ。当社では膜電極接合体の製造方法として大阪工業技術研究所の開発した無電解メッキに準じた製法(3)を従来より用いている。その製法を図1に示す。
表面粗化工程とは反応面積の増加や触媒の接合力増強のために固体高分子電解質膜表面を粗化するもので、マイルドサンドブラストを用いている。次の洗浄工程によりブラストによる表面の汚れを落とす。吸着工程で白金アンミン錯体を固体高分子電解質膜に吸着させ、還元工程で白金アンミン錯体を還元し白金微粒子として固体高分子電解質膜の表面に担持している。成長工程では無電解メッキ法を用いて高い電解反応活性を期待できるイリジウムを十分に担持し、反応性と導電性を得ている。これらの工程の最後に塩酸による加熱洗浄と純水による煮沸洗浄を行い、各工程で膜内に残留した不純物イオンを除去している。得られた膜電極接合体は純水中に保管して試験等に用いている。

2-2膜電極接合体の構造検討項目
性能向上を目指し、次の項目を検討した。

    (1)電解質膜種類および膜厚み
    EW値(Equivalent Weight:イオン交換当量)が異なる2種類の電解質膜について厚みを変化させ、それぞれ性能を評価し比較した。
    (2)触媒担持量
    反応過電圧を低減し、電解性能を向上させるために、陽極触媒量および陰極触媒量をパラメータとして膜電極接合体を製作し比較評価した。
    (3)触媒種類
    水電解陽極反応における白金族金属の活性序列は
    Ir-Ru > Ir > Rh > Pt
    であることが報告(4)されている。そこでロジウム触媒を担持し、従来から用いているイリジウム触媒と比較評価した。

2-3性能評価法と評価指標
試験条件となる電解温度は80℃、電解圧力は大気圧とした。セルに供給する純水量は200ml/min一定とした。
評価指標として電圧効率・電流効率および電圧効率と電流効率の積で表させるエネルギー効率を用いた。
各々の効率は下式で表現される。

    電圧効率=理論電解電圧/電解電圧×100(%)
    電流効率=電解に寄与した電流/通電電流×100(%)

    =発生ガス量 / 理論発生ガス量×100(%)
    エネルギー効率=電圧効率×電流効率/100(%)

2-4膜電極接合体の構造検討結果
(1)電解質膜種類および膜厚み
当初は表1に示す電解質膜で試作を行う予定であったが、表中に記載するように膜厚の薄いものについてはサンドブラストによって膜が損傷を受け電流効率の著しい低下がみられた。

Table 1 Variation of Solid Polymer Electrolyte Membranes

EW値

900

1200

膜厚μm

80

120

50

130

180

試作

×

×

試作状況×:電流効率の著しく低いもの

○:電流効率が1A/cm2にて92%以上のもの
膜電極接合体の電解電圧低減および許容電流増加のためには電解質膜の抵抗を低くする必要があり、そのためには膜厚を薄くすることが有効である。そこでサンドブラストに代わる新しい表面粗化法として電解質スラリを用いる表面多孔質化法を開発した。
表面多孔質化は電解質溶液と鉄などの金属を混合して表面層を形成し、その後、金属を酸によって溶解除去するものである。その表面粗化法を図2に示す。
新しい表面粗化法を用いることによって100μm以下の電解質膜でも膜電極接合体が製作可能となった。また表面状態が改良されたため同じ膜厚でも従来の粗化法に比べ性能の向上がみられた。図3に性能評価結果を示す。

(2)触媒担持量
触媒担持量によるエネルギー効率の変化を図4に示す。触媒担持量が少ない領域では触媒の増加とともに性能の向上し、多くなるにしたがいガス抜け性の低下による性能の低下がみられ、触媒担持量には最適値があることが判明した。

(3)触媒種類  イリジウムとルテニウムを1:1の比率で担持したIr-Ru触媒での電解結果を図5に示す。ルテニウムを用いることによって初期電解電圧の低い膜電極接合体が得られたが、時間の経過と共に電解電圧の上昇がみられた。文献にもあるようにルテニウムは反応性も高いが溶解量も多い。現状ではイリジウムでも目標とするエネルギー効率を達成しているが更なる性能向上のためにはルテニウムの実用化などの検討を要する。


3. 結 言 これまでの研究・開発により、WE−NETプロジェクトの目標とするエネルギー効率1A/cm2にて90%以上、3A/cm2にて80%以上をクリアした。 今後、実用化に向け更なる研究・開発を行い、セル面積2500cm2へのスケールアップを図る予定である。

本研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構、(財)エンジニアリング振興協会の委託を受けて実施されたものである。

参考文献
1)大倉 繁,クリーンエネルギー,vol.5,No.3(1996)p74
2)鷲田伸也etal,第15回エネルギー資源学会(1996)p207
3)竹中啓恭etal,電気化学,vol.53,No.4(1985)p261
4)竹中啓恭etal,Int.J.Hydrogen Energy,7,(1982)p397

No.97-25 日本機械学会熱工学講演会講演論文集 [1997-11.5~7, つくば]