ハイブリッド水素自動車の走行燃費シミュレーション
Fuel Economy Simulation of Hydrogen Hybrid Vehicles

○正 森田 賢治(自動車研) 鈴木 啓(自動車研) 正 岩井 信夫(自動車研)
Kenji MORITA, Hiromu SUZUKI, Nobuo IWAI
Japan Automobile Research Insutitute, Karima Tsukuba Ibaraki 305


ABSTRACT

Recent years, many types of hybrid vehicles have been developed to resolve the problems of the energy-saving and emissions reduction including CO2. Simulation method is useful to find out the optimum hybrid system. This Paper describes the fuel economy simulation of the hydrogen hybrid vehicles. Two types of hydrogen storage method namely liquid hydrogen and metalhydride tank were calculated. The results indicated the former had about 6-8% greater fuel economy because of its lighter weight. A system which had maximum fuel economy was the combination of parallel (at acceleration period) and series (at steady state period) hybrid electric vehicles.

Key Words : Hybrid Hydrogen Vehicle, Simulation, Fuel Economy, Carbon Dioxide Emission


1. まえがき

 近年,省エネルギー,CO2の排出量抑制による地球温暖化の防止および都市の排出ガス問題の解決を目的として,ハイブリッド自動車の研究開発が活発になっている.ハイブリッド自動車のコンセプトは,内燃機関自動車と電気自動車のそれぞれの短所を補い長所のみを活用しようとするもので,多くのシステムが提案されている.これらの提案のひとつとして,排出ガスがクリーンな水素エンジンと電動機を組み合わせて,超低公害性を狙ったハイブリッド水素自動車がある.また,国内では,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が水素に着目し,水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET)開発を実施している.これは,大量に存在する再生可能エネルギーを利用して水素を製造し,世界的な規模で輸送・貯蔵し,広範な分野で利用しようとする計画である.  このように,水素は将来のクリーンエネルギーの有望な候補である.そこで,本研究では,WE-NET開発事業の一部として,(財)エンジニアリング振興協会の委託により,ハイブリッド水素自動車の燃費性能を数値シミュレーションにより予測し,燃費が最良となるハイブリッド方式を検討した.

2. 計算方法

 まず,原動機システムの形態および最大加速性能を設定し,このときの要求出力から電動機,キャパシタ(あるいはバッテリ),エンジンおよび発電機の要求出力を求める.これらの出力と設定した出力密度から各部の質量を求め,車両重量を変更して結果が一定値に収束するまでこの計算を繰り返す.  次に,走行モードを走行させ,微少時間における走行距離,電力および燃料消費量を求め,これらの値を積算してゆく.電動機駆動の場合の電力消費量は,車両に要求される駆動力からモータのトルク,車速から回転速度を求め,これらの値から仕事量を求めて算出する.減速時の回生エネルギー量は,車両に生じる負の駆動力から上記と同様の計算過程によって,負の電力消費量として算出する.なお,実際には,走行モードの開始と終了で,キャパシタ(あるいはバッテリ)の充電状態に変化が無いようにエンジンで発電することとする.エンジンの燃料消費量は,エンジンを車両の駆動に用いる場合には,エンジンに要求されるトルクおよび回転速度のマップより燃料消費率を求め,要求出力と掛け合わすことにより,発電に用いる場合には,マップの最小燃料消費率と発電時間を掛け合わすことによりそれぞれ算出する.  走行モードが終了したら,エンジンの燃料消費量の積算値を求め,それを全走行距離で除してから単位走行距離当たりの燃料消費量を算出する.

3. 計算条件

 比較用ガソリン車3種と,ハイブリッド水素自動車21種について,10・15モードにおける燃費を計算した.

3.1 比較用ガソリン車

 比較用のガソリン車両として,まず,107kWのガソリン エンジンと手動式変速機を搭載する車両総重量1826kgの6人乗り乗用車をベース車に用いた.車両総重量からエンジンを除いた重量は1664kgである.さらに,手動式変速機のままエンジンを73kWに小型化した車両,変速機をCVTにしてエンジンを73kWに小型化した車両の3種について計算した.エンジンは最大熱効率ηthが33.5%とした.アイドリング時の燃料消費量は,107kWエンジンの場合には18cc/min,73kWエンジンの場合には15cc/minとした.

3.2 ハイブリッド水素自動車

 ハイブリッド水素自動車は,ハイブリッド方式,エンジンの最大熱効率,エネルギー貯蔵媒体および燃料貯蔵方式の異なる21種について計算した.

(1) ハイブリッド方式

 ハイブリッド方式として,加速時はエンジンと電動機,定常はエンジンで走行するパラレル方式のPHEV,シリーズ方式のSHEV,加速時はエンジンと電動機,定常はSHEV走行のPHEV+SHEVの3種を比較した.パワープラントの出力は,ハイブリッド方式が変化して車両総重量が変化しても,加速性能が73kWガソリンエンジン搭載車と同一になるようにした.変速機は全てCVTとした.

(2) エンジン

 エンジンは,最大熱効率ηthが33.5%,40.0%の場合の2種を比較した.両者の燃費マップは相似形とし,後者は前者よりも全体に40/33.5の割合で効率が高い条件とした.アイドリング時の燃料消費量は,ガソリン換算で全て15cc/minとした.

(3) エネルギー貯蔵方式

 ブレーキエネルギー回生用のエネルギー貯蔵方式として,キャパシタ,ニッケルメタルハイドライドバッテリ(NiMH)の2種の条件を比較した. (4) 燃料貯蔵方式  燃料貯蔵方式として,ガソリン,液体水素(LH容器),メタルハイドライド(MH容器)の3種の条件を比較した.燃料を含む燃料タンクの総重量は,それぞれ25kg(ベース車の場合のみ59kg),50kg,276kgとした.

3.3 出力密度と効率

 比較用ガソリン車とハイブリッド水素自動車の各コンポーネントの出力密度と効率は,表1に示す値に設定した.

Table 1 Power density and Efficiency of Each Component

Power

Density

Engine

1.51kg/kW

Motor

0.6kg/kW

Capacitor

1.0kg/kW

NiMH

3.33kg/kW

Mecanical Transmission

Efficiency

Manual Transmission

90%

CVT

85%

Electric Drive System

Efficiency

Generator・Capacitor

75%

Generator・Battery

55%

Recovery Efficiency

Shift position is put in neutral to recover the energy except the drag at the braking period.

4. 計算結果と考察

 10・15モード燃費のシミュレーション結果の代表例を図1に示す.ハイブリッド車は,燃料貯蔵方式毎に分けてデータをまとめた.

(1) ガソリン車の燃費

 まず,1.ベース車の燃費は9.7km/Lであった.この値は,ベース車のカタログ値と良く一致した.次に,2.エンジンを小型化した場合,同一のエンジン燃費マップでもより熱効率の高い条件で運転することやアイドリング時の燃料消費量が減少するため,ベース車両よりも燃費が向上し,11.0km/Lであった.さらに,3.エンジンの小型化に加えて変速機をCVT化した場合,同一負荷条件において熱効率が最大となる回転数で運転するため,伝達効率が手動式の90%から85%に低下したにもかかわらず燃費が向上し,11.5km/Lとなった.ガソリン車の最良燃費を示したこの条件をガソリン車の基準として指数100とし,他の車両の燃費をこれに対する指数で表した.ハイブリッド水素自動車の燃費は,水素0.276kg=ガソリン1Lとしてガソリンの燃費km/Lに換算した後に指数で表した.

(2)ハイブリッド水素自動車の燃費

a. ハイブリッド方式による燃費の差

 ハイブリッド方式の違いによる燃費の差を見るため,エネルギー貯蔵方式がキャパシタ,エンジンの最大熱効率 ηthが33.5%,燃料貯蔵方式がMH容器の条件で比較すると,燃費の指数は,4.PHEVが122,5.SHEVが130,6.PHEV+SHEVが143となり,PHEV+SHEVが最高の燃費を示した.PHEVの燃費が向上したのは減速時のエネルギーを回生し,加速時に利用したことによる.SHEVでは,発電機とキャパシタあるいはバッテリ間の効率が高いことが特に重要となる.エンジンの最大熱効率ηthが33.5%の場合の燃費の指数を3.ガソリン車の基準と比較すると,6.発電充放電効率を75%に設定したキャパシタの場合には,LH容器が130,MH容器が120となり改善できたが,7.発電充放電効率を55%に設定したバッテリの場合には,LH容器が97,MH容器が89と悪化し,キャパシタとバッテリとの燃費の指数は30以上の差が生じた.PHEV+SHEVの燃費がもっとも改善された理由は,比較的高負荷である加速時には,回生エネルギーと高負荷において効率の高いエンジンを併用し,比較的低負荷である定常時には,エンジンを効率の高い条件で一定で運転し,発電したエネルギーでSHEVとして走行するためである1). 

b. 燃料貯蔵方式の影響

 4.PHEV,キャパシタ,ηthが33.5%の条件で燃料貯蔵方式の違いによる燃費の差を見ると,LH容器の場合は燃料と容器の総重量がガソリンの場合よりも25kgしか重くならないため,燃費の悪化もわずかであった.しかし,MH容器の場合には,燃料と容器の総重量が250kg重くなるため,LH容器の場合に較べ燃費の指数は概ね10小さくなった. c. エンジンの最大熱効率の影響  エンジンの最大熱効率ηthが33.5%から40.0%に向上した場合,燃費の指数は概ね10〜14大きくなった.

Fig. 1 Comparison of Each Vehicle's Fuel Economy

5. まとめ

 シミュレーションにより,各種のハイブリッド水素自動車の10・15モード燃費を予測し,以下の結果を得た.
(1) シリーズ型ハイブリッド自動車では,発電機とエネルギー貯蔵装置間の発電充放電効率の高いことが特に重要である.
(2) 低負荷シリーズ型,高負荷パラレル型ハイブリッド自動車は,シリーズ型あるいはパラレル型単独のハイブリッド自動車よりも,燃費が良くなる.
(3) 水素の貯蔵にメタルハイドライド容器を用いた場合,容器の重量増のため,液体水素容器の場合よりも燃費の指数は(基準車の指数を100として)10程度悪化する.
 

6. 参考文献

1)岩井,「高効率クリーンエネルギ自動車」の開発と将来展望,自動車研究 19-6,(1997.6).