純水素利用燃料電池発電システムの検討

豊橋技術科学大学 電気・電子工学系 恩田 和夫
(株)東 芝 燃料電池事業推進本部 中山 宜長
(株)富士電機総合研究所 クリーンエネルギー研究所 小関 和雄
(財)エンジニアリング振興協会 WE-NET推進室 丸山 晋一


1.はじめに

WE-NET(水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術)は、地球上に偏在する再生可能エネルギーを水素に変換して長距離輸送し、消費地でそのエネルギーを有効に利用するプロジェクトで、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が各種研究機関等に委託して推進している。サブタスク7「水素利用技術に関する調査・検討」は、水素燃焼タービン以外の水素利用の調査研究であり、平成6年度より燃料電池を取り上げ、低温作動のアルカリ型から高温作動の固体電解質型までの各種燃料電池を調査し、純水素を使用する場合に最も適した燃料電池として、固体高分子型燃料電池(PEFC)を選んだ。これはPEFCがコンパクトで高効率が期待できるためと、起動停止に強く、起動停止の所要時間が短いことによる。 調査研究を行ったシステムは、純水素利用PEFCの特徴を発揮する中小規模の 200kWと5MWの発電システムである。

2.検討内容

2.1 特性相関式の作成

PEFCの特性の調査を行い、運転条件(運転温度T[K]、運転圧力P[ata]、電解質膜厚みt[μm]を変化させた時の電流密度i[A/cm2])と電圧の相関式(式(1)、式(2))を作成し、その後各発電システムの検討を行った。

特性相関式

V:電池電圧[V] i:電流密度[A/cm2]
P:電池内ガス圧 [ata]
T:電池運転温度 [K]
水素−酸素の場合
V= (0.8357−0.2968i)
 +(0.06157−0.0091i)lnP
 +(0.00025+0.0023i)×(T−353)
 +(0.00042−0.0026i)×(t−175)
        ・・・・・・・・・・式(1)
水素−空気の場合
V= (0.8105−0.4374i)
 +(0.05607−0.0638i)lnP
 +(0.00025+0.0023i)×(T−353)
 +(0.00042−0.0026i)×(t−175)
        ・・・・・・・・・・式(2)

2.2 200kW燃料電池発電システム

集合住宅やビル等のオンサイト用を目的としたりん酸型燃料電池(PAFC)の都市ガス利用200kW発電システム(PC-25C)を参考に純水素利用のPEFC 200kW発電システムを検討した。
  • 酸化剤:液体水素の冷熱を利用した空気分離の純酸素を酸化剤として当初検討したが、水素消費量が少ないため熱収支上酸素製造システムとして成立せず、空気を酸化剤とした。
  • 運転圧力:H7年度には高い電池特性の期待できる2ataで試算したが、H8年度は補機動力の少ない大気圧運転を前提に再検討した。
  • ガス再循環:水素の系統には、燃料利用率向上と特性安定のためリサイクルブロアーを導入した。
  • 運転温度:排熱回収熱交換器小型化のため、従来の353Kから363Kに変更した。
  • 加湿方式:固体高分子型燃料電池で重要な反応ガスの加湿方式については、昨年度の電気ヒータ利用から、補機電力の不要な膜加湿方式と直接加湿方式の内部加湿方式について検討した。
  • 廃熱回収冷凍機:燃料電池からの排熱を夏季の冷房に利用するため、温水加熱型吸収式冷凍機を用いることとした。
  • 検討した流体系統図を図−1に示す。

検討結果

結果をまとめて、表-1に示す。

  • 送電端発電効率は、PAFCのPC-25Cが約36% に対し、本システムは44%と8ポイント高かった。
  • 据え付け面積は、PAFCの3×5.5mに対し、1.6×3.6mと約1/3の大きさとなり、高さがそれぞれ3m、2.1mのため、体積出力密度は、PAFCの約1/4となった。
  • これは天然ガスの改質器がないことと、水素利用による効率の高さとシステムの簡素化による。

2.3 5MW燃料電池発電システム

分散用電源及び電力調整用電源を目的として、天然ガス利用の5MWりん酸型燃料電池発電システムを参考に検討を行った。
  • 反応ガス:酸化剤には、液体水素の冷熱を利用した空気分離酸素を用いた。
  • 運転ガス圧力:システムの受入れガス圧力を10ataとし、制御後の供給ガス循環ポンプ前圧力を8ataとした。
  • ガス再循環:水素系、酸素系共に再循環することとした。ポンプは電動と供給ガス圧力を利用したエジェクタの両方を検討した。
  • 電流密度:0.4A/cm2と高効率の0.3A/cm2も検討対象とした。
  • 運転温度: 353K。
  • 加湿方式:内部加湿方式
  • 電極面積:H7年度の 5,000cm2から、組立工数低減のため、PAFCと同じ面積の8,000cm2とした。
  • 反応ガス利用率:使用するガス純度が高いため、水素99%、酸素98%とした。
  • 検討した流体系統図を図−2に示す。

検討結果

結果をまとめて表−2に示す。

  • 電動ポンプ循環は、エゼクタポンプ循環より電池内ガス圧が高く、電池特性が高い。このゲインが補機動力損失を上回り、発電効率は、エゼクタ循環を越えた。
  • 発電効率は、PAFCの42%に対し、56%と14ポイント高い値となった。これは高圧運転と純水素及び純酸素を使用することにより、電池特性が高くなったことと、システム簡素化による補機動力削減である。
  • 供給酸素の製造は液体水素の冷熱利用のほか、この規模では、0.32kWh/Nm3の動力も必要とする。動力の大半は、生成酸素ガスの加圧である。この動力を考慮すると効率は、約51%となる。
  • 据え付け面積は、PAFCの43×18mに対し、18×17mと約40%の大きさとなった。設備の大きさが小さくなったのは、システムの簡素化と電池特性の向上(出力密度向上)による。

3.おわりに

調査結果から純水素利用PEFCの高い効率とコンパクト性を確認した。今後の課題としては、純水素を燃料としたPEFCの可能性を追求するため、PEFC本体の改良や、補機類特に燃料輸送方法の改良を考慮に入れ、性能や経済性を検討し、詳細設計をさらに進める必要がある。
本調査研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構より(財)エンジニアリング振興協会が委託を受け、PEFCに関連するメーカー、ユーザーの協力を得て行ったものである。