第75号/1995.12

■エンジニアリングシンポジウム’95報告

■CAES海外(米国)調査

■スパイラルトンネル見学会報告

■欧州地下調査


■エンジニアリングシンポジウム’95報告■

財団法人エンジニアリング振興協会の恒例の行事として、エンジニアリングシンポジウム’95が、11月9日、10日の両日に東京商工会議所ビルにおいて盛大に開催されました。今回のシンポジウムは時代の要請を受けて統一テーマを「エンジニアリング新展開−環境、防災、情報化」と題し、各方面の有識者による新展開に向けての今後の課題および方向策定への示唆に富んだ講演やパネルディスカッションがおこなわれました。


地下開発利用の分野では、「今後の都市防災を考える〜阪神大震災からの教訓」というテーマで伊藤 滋氏(慶応義塾大学教授)、戸嶋凡兵氏(ジョイントセクタービジネスネットワーク代表)、有光友治氏(叶_戸製鋼所環境エネルギー部長)、光森史孝氏(神戸新聞社情報科学研究所情報センター長)、室ア益輝氏(神戸大学教授)、大津康祐氏(東京消防庁震災対策担当副参事)、角本繁氏(京都大学防災研究所客員助教授・鞄立製作所中央研究所主任研究員)、尾島俊雄氏(早稲田大学教授)による講演とパネルディスカッションがおこなわれました。そこで都市防災において今後必要とされるマインドと情報システムおよび地下の安全優位性が語られました。



■CAES海外(米国)調査■

(財)エンジニアリング振興協会は(財)新エネルギー財団(NEF)より「圧縮空気地下貯蔵施設周辺の環境影響評価技術調査」を受託しているが、今回NEF主催の標記調査が10月14日〜26日に実施された。(林正夫 東海大教授を団長として計12名)

〔主要視察先〕

1.ACRES社(ニューヨーク州、バッファロー)
発電プラント等について広くコンサルティングを行っている会社であり、CAES−G/T(圧縮空気地下貯蔵ガスタービン発電)についても発電会社に対して提案を行っている。またACRES社ではこれまでの岩塩空洞でのCAES以外に硬岩でのCAESについても提案しており、日本の砂川での事例をからめて活発な質疑応答が行われた。

2.サミット地下揚水発電計画サイト(アハイオ州、ノートン)
下部貯水池として石灰岩採掘跡坑道をほとんどそのまま利用する地下揚水発電の計画サイトを視察した。このサイトは1974年に廃坑後、跡地の利用として地下揚水発電計画を推進することになったもので、建設のための許認可は全て済んでおり、1996年秋には着工したいとのことであった。この石灰岩採掘跡の地層はほぼ水平であり、石灰岩の採掘はほぼ水平な坑道で南北約1.5q、東西2.0qに及んでおり、こんな所にも米国的な広大さが感じられた。

3.TVA(Tennessee Valley Authority)(テネシー州、チャタヌガ)
TVAはテネシー州に電力を供給している電力会社であるが、ここで数年前にCAESの論文が発表されていたので、その後の進捗状況について調査した。 またTVA事務所のあるチャタヌガ近郊の揚水発電所を見学した。この発電所は石灰岩層に素掘りされた地下空間に発電所が設置されている。見学は一般の者でも可能で、見学者は地下約300mまでエレベータでおりて発電所内を見学することができる。説明にはここで働いていたOBの技術者がボランティアとして携わっており、各フロアーに掲示されたパネルや模型を使って説明してくれる。見学コースから眺めることのできる、発電施設は各機器類ごとに赤・黄・緑というように鮮やかにカラー塗装されていたのが印象的であった。

4.ローダデール発電所(フロリダ州、マイアミ)
米国で最新鋭の大型ガスタービン501Fが運転されているローダデール発電所を視察した。この発電所は4機のガスタービンと2機の蒸気タービンにより、91.4万KWの電力を発生させている。この他にピーク時の電力として航空機用のジェットエンジンを用いた発電設備で82.1万kWの電力を発生させている。米国では航空機用エンジンを用いた発電設備は一般的とのことであったが、航空機の本場である米国ならではと感心した。

5.ウエスティングハウス社オーランド事務所(フロリダ州、オーランド)
ここはガスタービン等の原動機部門を統括している事務所で、ここでウエスティングハウス社の概要および同社で検討しているCAESの概要について説明をうけた。ウエスティングハウス社の理念から始まりCAESの具体的検討内容まで米国流のプレゼンテーションのうまさに感心した。

6.ウエスティングハウス社ペンサコーラ工場(フロリダ州、ペンサコーラ)
ここではガスタービンおよび原子炉の蒸気発生器を製作しており、部品をカナダなどから集めてここで最終組み立てを行うとのことであった。工場内は非常に整頓されており、ガスタービンの組み立て状況を詳しく見学することができた。

7.マッキントッシュCAES発電所(アラバマ州、モービル)
世界で2か所あるCAES発電所のうちの1つで、1991年6月に運転を開始した。以前から一度は尋ねて見たいと思った場所であるが、発電所の敷地の真下450mに長さ335m、直径最大61mの巨大な岩塩空洞があるといわれても、地上にはただ通気管があるだけでピンとこない。唯一事務所で見せていただいた岩塩のコアでその存在を感じただけであった。今回の視察中発電所は修理のため運転を休止していたが、米国での1号機ということもあって担当者の方の説明の中にも様々な苦労が感じられた。

(技術開発第二部 大沼 寛 記)



■スパイラルトンネル見学会報告■

平成6年度からスタートしたミニドームの構築も、昨年度の立坑構築に引き続き、本年度のドーム構築へのワンステップであるスパイラルトンネルがこの度完成しましたので、以下の様に見学会を実施致しました。 平成7年10月24日、通商産業省の環境立地局産業施設課、工業技術院産業科学技術研究開発室、機械情報産業局産業機械課の方々や本プロジェクトの開発委員会、技術専門委員会、各研究会メンバーの方々など関係者約80名のご参加を得て3回に分けて行いました。

先ず、地上から地下を見下ろすとはるか下に小さく立坑の底が見えます。地上から地下50mにある既存の横孔まではエレベータか螺旋階段を使って降ります。大部分の参加者の方は元気一杯階段で降りたようです。そこからいよいよミニドームの立坑に取りかかります。ここはスーパーラダーを使って降ります。深さ20mを降りるとそこが先程地上から小さく見えた立坑の底の部分です。スパイラルトンネルはここに発進基地を設けて掘削されました。トンネルは連続曲線なので立坑の底からは少しの距離しか見えません。トンネルは平均8%の傾斜で下っており、全長に渡って地山を観測出来ます。薄く砂を挟んだ層や縦割れ目等がはっきりと見ることができました。その道の専門家にとっては魅力ある現場だったようです。

今回完成したスパイラルトンネルは、径2.2m、延長178mのトンネルが文字通り螺旋状に掘られています。地盤は平均70s/p2の一軸圧縮強度を持つ軟岩であるため、殆ど支保工だけで自立している状態で、安全で良好な施工を行えました。しかし、昨年度の立坑構築時の湧水量と地質調査ボーリングの結果から、スパイラルトンネル掘削時には毎分300lの湧水が突発的に出ることが想定され、このままトンネル掘削を始めるのは非常に危険であると考えられました。そこで総合施工研究会を中心に湧水対策を検討した結果、「プレシャフトウエル工法」を採用することにしました。この工法により縦亀裂のある軟岩地盤の地下水流出は見事に止められ、スパイラルトンネル掘削時湧水に悩まされることは一度もありませんでした。もう一つの問題は、このトンネルが連続曲線であるため、如何に計画線通りに確実に早く施工できるかということでしたが、「自動追尾式連続曲線測量システム」を採用することによりこの問題もクリアすることができました。

今後の計画は、11月上旬にスパイラルトンネルをコンクリートで充填し、所定の強度がでた下旬あたりからミニドーム本体の掘削を開始します。掘削は本年度中に完了させますが、付帯設備を設置した後の来年5月中頃にミニドームを皆様に公開できると思いますのでご期待下さい。
尚、最後に、退避研究会のために50mの螺旋階段を登って下さった方々に御礼申し上げます。ちなみに、最高は40代男性の2分5秒で、女性は20代の方で3分でした。皆さんも次回挑戦してみて下さい。

(技術開発第二部 小宮山 哲朗 記)



■欧州地下調査■

地下センターはこの度(財)都市みらい推進機構内の都市地下空間活用研究会が主催する「欧州地下調査団」に参加し、主に北欧の地下利用の先進事例・計画等の現地調査を9月25日〜10月7日に実施した。
(団長 伊藤滋 慶応義塾大学教授、計14名)

[主要視察先]

1.ヨービック地下アイスホッケー場(ノルウェー)
ご存知のとおり、1994年冬季オリンピックのアイスホッケー会場となったところである。幅61m長さ91m高さ25m(容積14万m3)という大規模地下空間はアイスホッケー、バレーボール等のスポーツ全般およびコンサート等のカルチャーセンターとして多目的に利用されており、昨年の入場者数は8万人であった。施設の維持管理については、周辺地熱が高くなり、今年の暖房費は昨年比30%減少していること、また座席がドミノ式に上げ下げができるなど設備的にも省エネ化が計られており興味深かかった。また、地下式にした理由は、気象条件等を考えると地上式は維持管理費が把握出来ないとの回答であり、お国柄の違いを感じた。尚、もう一つの機能であるシェルターとしては、水・食料・自家発電を備えているとのことだったが、軍管轄なのでこれ以上の具体的な質問、見学は出来なかった。

2.フォルスマーク核廃棄物処理施設(スウェーデン)
チェルノブイリ原発事故を世界に先駆けて発見したことでも知られている本施設は、ストックホルムの北160kmバルチック海沿岸に位置し、併設の原子力発電所の沖合い海底下60mの岩盤中に低、中レベルの核廃棄物を貯蔵する施設である。地下施設は輸送車の搬入出用通路・低レベル用貯蔵所(奥行165m×3基)・中レベル用貯蔵所(奥行165m×1基、RC製の径30m×高70mサイロ×一基)・貯蔵容器(RC、一辺2m角、壁厚40p)の搬送投棄用クレーン等となっている。
また貯蔵能力は、中・低レベル合計で約6万m3あり国策である原子力発電廃止期限年の2010年まで貯蔵可能とのことだった。私達は赤いヘルメットを被っただけで中レベル投棄場に案内され少し驚かされたが、貯蔵所の安全性を広く国内外に理解してもらおうという意図が伺えた。
尚、海底下60m以深に貯蔵している理由は50m以深だと安全という国の規準に依っているとのことであった。

3.イタケスクス スイミングプール(フィンランド)
ヘルシンキ市内にある本施設は、1993年オープンし、2000〜3000人/日の入場者で賑わう市営の中でも人気の高いスポーツ施設である。なるほど私たちが訪れた日も、平日にもかかわらず大勢の人が利用していた。施設規模は50m×6レーンプール・14m高の飛込み台・子供用プール・冷水プールの他、夜空の星をイメージした丸天井を有するプールがあり、ジム・リハビリ室・サウナも併設している。また、身障者用のシャワー/トイレ・車椅子ごとプールに入ることができるリフター等、施設の充実ぶりには感心した。館内は、岩肌に吹付けられたコンクリートの白のマストを模擬した造作で全体的に海に浮かぶ帆船のイメージが感じとれた。尚、防衛シェルターとしては、3800人が10日間生活できる機能を有しているとのことだった。

最後に、今回は視察に先立ち、パリで「EUS’95都市地下利用国際会議」に参加したが、日本からも6グループが発表し盛況であった。また、会議の最終日には、ルーブル美術館地下施設の専門視察にも参加する事が出来、非常に有意義であった。
尚、今回の調査報告書は来年、都市地下空間活用研究会から発刊の予定である。

(技術開発一部 斉藤 悟志 記)