第88号/1997.1
■年頭所感
■ミニドーム環境防災総合実験
■会員の皆様へのお知らせ
■平成8年度国内見学会報告
■第187回サロン・ド・エナ開催お知らせ
■年頭所感■
通商産業省環境立地局産業施設課長 乾 敏一氏
平成9年の新春を迎えるに当たり、謹んでご挨拶を申し上げますとともに、一言所感を述べさせていただきます。皆様御高承のとおり、最近の我が国経済は、緩やかな回復傾向が続いてはいるものの、雇用を中心になお厳しい状況が続いています。特に、内外経済環境の激変による産業空洞化に対する懸念等が引き続き高まっており、現状のペースで産業空洞化が進行すれば、製造業全体の雇用は、今後5年間で124万人程度減少するという通商産業省の試算結果も出ています。
このような状況の中で、国民生活の豊かさを実感できる社会を実現するための新たな産業活動として、また新規産業分野の創出を行うためにも地下利用の促進が大きな政策課題となっています。このため、昨年12月17日に閣議決定された「経済構造の変革と創造のためのプログラム」においても、今後成長が期待される15分野のうち「都市環境整備関連分野」にて今後、大深度地下空間開発技術の開発の必要性が示されています。
そうした中、地下空間利用に中心的な役割を果たしてこられました地下開発利用研究センターにおかれましては、新たな技術開発として大深度地下空間開発技術(高精度地下構造評価、地下空間構築、地下環境・防災等の技術確立)の開発を行ってきており、右事業は誠に意義深いものであります。
今後、大深度地下の利用としては、鉄道、地下物流システム、エネルギー貯蔵、地下清掃工場、ガス管等などが考えられますが、その利用に当たっては大深度地下における土地所有権、補償等の必要性の有無について解決しなければならない重要な問題が多く残されています。政府といたしましても臨時大深度地下利用調査会を設置し、平成7年11月に初会合が開催されて以来、技術・安全・環境部会、法制部会を新たに設置し、大深度地下の適正、計画的な利用の確保と公共的利用の調査・審議が行われています。平成8年度末には中間報告がまとめられ、平成10年の春頃を目途に最終答申が出される予定になっております。通商産業省としてもこの検討課題に積極的に関与していくとともに、地下開発利用研究センターがこれまでに蓄積してきた研究成果が豊かさと活力のある経済社会の構築に大いに役立つものと期待しているところであり、今後とも地下開発利用研究センターの事業にできる限りの支援を行っていく所存であります。
地下空間の利用促進は、空間スペースが限られた我が国、とりわけ大都市において新たな経済・社会活動の場を拡げるうえで、また新規産業を創出するうえで大変有望な分野であり、21世紀に向けてのフロンティアと位置づけられるものと言えます。地下開発利用研究センターの活動が今後の地下利用のより一層の発展に寄与されることを祈念いたしまして、年頭の挨拶とさせていただきます。
■ミニドーム環境防災総合実験■
地下開発利用研究センターが実施している「大深度地下空間開発技術」の研究開発における、ジオドームのスパイラル天盤構造効果を実証するために平成8年3月に完成したミニドームは5月末に完成式を行い、その後各種の環境防災実験をミニドーム内で行ってきた。これらの締めくくりとして、今回多数の参加者のもとミニドーム内で環境防災総合実験が行われ、あわせて地下空間利用についての講演およびパネルディスカッションが行われた。
環境防災総合実験は音響と通気・環境について行われ、音響実験では、ドーム内特有の残響音が長い音と、ドーム壁面に吸音措置を施して残響音を通常と同じくらい短くした音の2種類の音を流し、音の感じ方をアンケート調査した。また、特殊な音を発生させてドーム内に多数の人間がいる場合の音響伝搬特性もあわせて計測した。
通気・環境実験では通気による換気効果を把握するため、参加者がドーム内にいる間、通気を一時停止し、炭酸ガス濃度や温度、湿度、気流速を計測した。また、最後に通気中に煙を発生させドーム内の気流の流れを可視化する実験を行った。
またこれらの実験と同時に行われた地下空間に関する講演およびパネルディスカッションでは、はじめに評論家の五代利矢子氏より「地下について思うこと」と題して特別講演を行っていただいた。五代氏は臨時大深度地下利用調査会のメンバーであり、これまで訪れた地下施設などの体験を通して、技術者とは違った目で今後の地下利用のあり方を語っていただいた。
次に「ジオドームの実用化に向けて」と題して4人の方にパネルディスカッションを行っていただいた。小島圭二教授(東京大学)をコーディネーターとして3人のパネリスト、乾 敏一氏(通商産業省 産業施設課 課長)、石崎 秀武氏(清水建設梶@技術開発部 部長)、花村 哲也氏(大成建設梶@土木設計第二部 部長)が法制度、利用、技術の立場から発言し、中身の濃い議論となった。
■会員の皆様へのお知らせ■
○日帰り見学会のご案内
地下センターでは、今年度も日帰り見学会を企画いたしております。今回は神奈川県方面の下記の地下施設3か所の見学を2月18日(火)に予定しています。
@ミニドーム(相模原市)… |
国内唯一の大深度地下空間実証ドーム |
A渋川雨水貯留管建設工事(川崎市)… |
都市災害対策として国内最大級の大口径、
長距離の大深度雨水貯留施設 |
Bみなとみらい21(横浜市)… |
新しい地下都市の誕生、
民有地の地下にはじめて鉄道駅も実現 |
詳しくは近々、各窓口担当者にご案内を送付いたしますので、是非この機会にご参加されるようご案内申し上げます。(人数に限りがあります)
■平成8年度国内見学会報告■
地下開発利用研究センターが例年実施している国内見学会が、今年も11月13日(水)〜15日(金)に山口専務理事を団長として、総勢43名の参加により行われた。今回のコースは近畿方面で、4か所の地下関連施設などを視察し知見を深めるとともに、参加者相互の親睦を深めることができ、有意義な3日間とすることができた。
第1日目 大阪市中央体育館
用地の制約と環境保護の目的から地下に建築した体育館で、面積約8,000uの1万人収容できるメインアリーナをはじめサブアリーナ、柔剣道場、トレーニング室などの施設が設けられている。地上は芝生や樹木などの植栽で覆われて小高い丘の公園としており、この平均厚約1mの地上部公園の盛土や植栽等を支持するため、メインアリーナおよびサブアリーナの屋根は世界でも最大級のプレストレストコンクリート球形シェル構造としている。
見学は館内の最新設備の会議室でOHPやビデオを使って概要の説明が行われ、このあと館内を見学した。見学当日は体育館の機器点検日ということで、ほとんどの施設が使用されておらず、利用者に気兼ねせずにくまなく施設内を見学することができた。
第2日目 生野鉱山、奥多々良木発電所増設工事
〔生野鉱山〕
生野鉱山は大同2年(807年)に開坑され、室町年間の天文11年(1542年)に山名祐豊が銀鉱脈を発見し、本格的は採掘が始まった。以後明治から昭和にいたるまで国内有数の大鉱山として稼行してきたが、昭和48年に閉山し1200年の長い歴史に幕を閉じた。
現在は「鉱山公園生野銀山」の名で坑道の一部を一般に開放し、また敷地内に資料館、鉱物館を設置し、生野銀山に関する資料や国内から広く収集した鉱物標本を展示している。坑道は思いの外長く、現代の採掘技術や江戸時代の採掘方法を人形などで再現しているのを眺めつつ、約30分ほどかけて坑道内を一周するようになっていた。
〔奥多々良木発電所増設工事〕
兵庫県のほぼ中央部から日本海側に広がる朝来群山の谷間に位置する揚水発電所で、上部と下部のダム容量が大きいことから、既設発電所(72万kW:36万kW×2台)から120m離れた場所に地下空洞を構築し、増設発電所(121.2万kW:30.3万kW×4台)を建設している。
はじめに案内された上池(黒川ダム)では増設発電所用の取水口の取り付けが行われており、この工事の状況を見学することができた。
次に案内された地下発電所内部では空洞の掘削が終了し、発電機据え付けのための基礎工事が行われていた。空洞内は整然としていて換気も良好で、安全性に最大の配慮をしながら工事が行われているのがうかがえた。
第3日目 京都市御池地下街
この地下街は京都市役所前の御池通りにあり、その周辺は歴史的建造物である市庁舎をはじめ古くからの町家が軒を連ねるなど、伝統的な情緒が残っている。このため地下3階は地下鉄駅、地下2階は駐車場、そして地下1階に商店街を設けることで、町の近代化を図るとともに、地上の歴史的な環境を守ろうとしている。
案内されたうちで商店街、駐車場はこれから設備関係の工事に入ろうとしているところだったが、地下鉄駅は平成9年秋には完成予定ということで、真っ赤なホームドア(プラットホーム側に取り付けられた車両乗降用のドア)が付設されたモダンな駅がほぼ完成に近づいていた。
最後に今回の見学会において、ご協力いただきました関係者の方々に改めてお礼を申し上げます。
(技術開発第二部 大沼 寛 記)
■第187回サロン・ド・エナ開催のお知らせ■
下記要領で、第187回サロン・ド・エナを開催致します。今回は地下センターの担当分として、株式会社日建設計常務取締役 平井 尭 氏をお迎えし、地下都市のコンセプトをみなとみらい21を事例とした地下の立体都市機能実現においての構造面、防災面、法制度面、環境面等での多くの課題とその解決方策についてお話し頂きますので、多数のご参加をお願い致します。
1.日 時: |
平成9年1月16日(木) 17:30〜20:00 |
2.場 所: |
当協会6階CDE会議室
〒105東京都港区西新橋1−4−6(CYDビル) |
3.テーマ: |
「地下に立体都市機能が実現する」
〜新しい都市構築による土地所有側・利用側・事業側のメリットの一致
(みなとみらい21の事例)〜 |
4.講 師: |
株式会社日建設計 常務取締役 平井 尭 氏 |
5.講演要旨: |
立体都市機能が実現するためには、地下空間利用の果たす役割が大きい。1997年に完成予定のクイーンズスクエアー横浜のプロジェクトを紹介し、立体的な都市機能が実現した背景について説明する。
(1)MM21地区
(2)クイーンズスクエアー横浜(24街区)
(3)みなとみらい21線(地下鉄道)
(4)クイーンズスクエアー横浜とみなとみらい中央駅の関係
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注)サロン・ド・エナは通常第三水曜日に開催しますが、1月の第三水曜日(15日)は祭日にあたるため、16日(木)の開催となります。
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