各サブタスクの平成8年度の成果概要


3.2 グローバルネットワーク研究

3.2.1 研究開発目標

 グローバルネットワーク研究の研究項目としては、資源量調査とグローバルモデルによるシミュレーション解析がある。
 WE−NETは水力や太陽、風力などの再生可能エネルギーからの水素を世界的に利用しようという計画であり、資源量データ調査は、資源面からこの計画の実現可能性を確認するためのものである。これまで、水力、太陽および風力エネルギーについての資源量を調査するとともに、水力については発電コストの調査を実施しており、平成8年度はこれまでの調査のとりまとめをおこなった。
 グローバルモデルによるシミュレーション解析は、世界の長期的なエネルギー需給の中で水素エネルギーがどのように導入利用されていくかをグローバルエネルギーモデルを 使って解析し、水素エネルギーの役割を明らかにするものである。平成5年度にモデル調査をおこない、OECDで開発したGREENモデルを改造して本研究の解析に利用していくこととした。平成6年度から平成7年度にかけてGREENモデル改造のための設計とプログラミングの作業を実施した。平成8年度は、GREENモデル改造のための最終作業をおこなうとともに、改造モデルを使って、水素エネルギーの導入についての解析評価作業をおこなった。その解析結果により、水素エネルギーは長期的に重要な役割を果していくこと、特に世界の二酸化炭素排出量の削減には大きな可能性を有していることを明らかにした。

3.2.2 平成8年度の研究開発成果

3.2.2.1 資源量調査

(1) 水力
 水力、太陽および風力エネルギーの世界規模での資源量を調査した。
 技術的に開発可能な未開発の水力資源は世界で約12兆kWh/年あり、これは世界の総発電電力量と同程度の膨大な量であることから、水力資源がWE−NETプロジェクトの実用化初期(2030年頃)の再生可能エネルギーの供給源として十分なことを示唆するものである。
 水力発電による水素(以下「水力水素」と言う。)の供給源としては、未開発の水力資源を多く有する発展途上国、そして先進国においては開発余力の大きいカナダが有望であると考えられる。また、世界の計画中および既設の水力発電所を対象に調査をおこない、設備出力が1,000MW規模以上の水力発電原価の多くは、 0.02〜0.05$/kWhの範囲内にあることが判明した。
 太陽については、世界の全砂漠地帯を対象に変換効率15%の太陽光発電を想定した場合、現在の世界の全エネルギー需要の70倍程度に相当するエネルギーが得られる。このため、仮にその1割を水素に変えて利用出来れば、2100年の世界の総エネルギー需要をほぼまかない得ることから、太陽エネルギーは水素製造源として量的に十分であることが判明した。なお、太陽光発電のコストが現状ではかなり高いことから、太陽光発電による水素(以下「太陽水素」と言う。)は、水力水素に比べ高価格となる。このため、WE−NET実用化初期は水力水素が導入され、太陽水素は、太陽光発電コスト低下等による水素価格の低下と相まって、水素需要が水力水素の供給可能量を上回る時期から導入が進んでいくと考えられる。
 風力エネルギーは、包蔵資源量としては水力よりはかなり大きいが、エネルギー密度的に水力発電のように一ヶ所で集中的に大容量の電力を得ることは難しい。このため、水素源としての風力は、大規模大量輸送用としては適していない。ただ、地域の発電利用と組み合わせた小規模のローカル利用を考えたシステムであれば、風力からの水素製造の可能性があると考えられる。

3.2.2.2 GREENモデルによる水素導入解析

 将来の世界のエネルギーの需給構造の中での、水素エネルギーの導入量およびCO2排出量削減等の導入効果をGREENモデルにより解析した。
GREENモデルは、経済協力開発機構(OECD)によって開発された、世界全体の経済活動を取り込んでいる一般均衡型の経済モデルであり、モデルの開発にあたっては日本と米国が特別の資金負担をしている。経済モデルであるGREENモデルを選定した大きな理由の一つは、別途実施している「一国規模解析」では最適型技術モデルであるMARKALモデルを利用することから、グローバルの解析では違うタイプのモデルを用いることとしたことである。水素利用技術の詳細検討はMARKALモデルでおこなうこととし、GREENモデルでは計量経済学的手法によって、水素価格やCO2排出抑制策の有無等をパラメーターとしての、世界の水素エネルギー利用の基本的傾向を解析することとした。

(1) モデル改造
 GREENモデルを使って、世界規模でのWE−NET水素の解析をおこなうため、以下のモデル改造を実施した。

  1. モデルの中のエネルギー要素として新たに水素を追加するとともに、水素源として 水力水素と太陽水素を区分し、これらの供給は価格で競合するものとした。水素利用については、燃料利用と発電利用を区分して解析できるようにした。水素が流体燃料であることから、石炭よりも石油や天然ガスに代替して利用されやすいと考えた。改造GREENモデルのエネルギー構造図を図3−2−1に示す。

  2. 石油や天然ガスの資源枯渇等も考慮したより長期の解析がおこなえるように、解析 期間を当初の2050年から2100年までに延長し、計算年を追加(2020、2040、2075、2100年)した。
(2) 解析で想定したエネルギーシステム
 水力水素システムは、WE−NETプロジェクトの基本構想として現在概念設計研究で検討しているもので、需要を上回る水力発電資源のある国で、電気分解により水素を製造し、輸送し易いように液体水素、メタノールあるいはアンモニアに媒体変換し、タンカーによりエネルギー需要地に輸送し利用するシステムである。なお、今回の解析では輸送媒体として液体水素を想定しており、水力水素価格は概念設計研究からの結果をベースとした。輸送した水素は、石油や天然ガスなどの燃料代替と、発電用燃料としての利用を想定している。燃料としては自動車・航空機などの輸送用燃料、都市ガスなどの民生用燃料および産業用燃料の代替が考えられ、発電についてはWE−NETプロジェクトで開発している水素燃焼タービンを想定した。
 太陽水素システムは、砂漠地帯での太陽光発電により得た電力と海水を淡水化で得られた水から電気分解により水素を製造する。このシステムの特徴は、夜間電力の問題と需要地での利用の利便性を考慮し、水素吸蔵合金により水素を貯蔵しコンテナ輸送して利用するシステムを想定していることにある。現状では水素吸蔵合金価格が高いという問題があるが、まだ開発中の技術であり今後の技術開発により性能向上の期待が大きいことから、太陽水素の利用開始が2050年頃と考えれは、将来的には技術革新や大量生産による大幅な価格低下が十分期待できる。なお、2020年の太陽光発電の価格を10円/kWhとし、水素吸蔵合金価格は将来技術を想定(水素含有率 3.6%、価格千円/kg)した2020年の太陽水素のCIF価格は、概念設計での水力水素の液体輸送の場合の2.5倍程度とかなり割高となる。このため、太陽水素は、技術革新による価格低下と相まって、水力水素の供給量が資源面で限界となる頃より導入が進んでいくと考えれらる。

(3) 解析結果
 改造GREENモデルによる水素導入解析としては、現在の技術開発の重点である水力水素に焦点を当てた解析(水力水素導入解析)と太陽水素を含めた解析(長期シナリオ解析)をおこなった。
 水力水素導入解析では、水力水素がWE−NET実用化初期の需要を賄うことと資源量に限界があることから、2050年までをターゲットにして、価格低下率をパラメーターにして、「二酸化炭素排出抑制に係わる追加コスト(以下、追加コストと言う。)」の導入の有無をも考慮しつつ、解析したものである。
 長期シナリオ解析は、石油、天然ガスの資源枯渇や二酸化炭素の排出による地球温暖化などの問題がより顕在化してくる長期間を対象とし、2100年までの水素エネルギーの導入傾向を解析したものである。

  1. 水力水素導入解析結果
     水力水素の導入が進んでいくためには、水素価格低下が不可欠であることが判明した。
     技術革新による水力水素の価格低下が進むなら、2050年で世界の総エネルギー供給の数%程度の水素エネルギーが導入される。この場合、まず、日本、米国、ECなどのエネルギー価格の高い地域で水素エネルギーの導入が進んでいく。
     図3−2−2〜5に、水力水素の液体水素輸送について、価格低下率(%/年)をパラメーターに、追加コストの導入がない場合とある場合の世界における水素導入量および総エネルギー供給に占める導入水素の割合を示す。

  2. 長期シナリオ解析結果
     二酸化炭素の排出規制の強化と太陽水素の大幅な技術革新が長期的に進むなら、2100年に総エネルギー供給の1割程度の水素エネルギーが導入される可能性がある。この場合、導入水素が化石エネルギーに代替したと想定すると、世界の二酸化炭素の総排出量削減にかなり寄与するとの結果となった。このことから、長期的には、水素エネルギーは世界の二酸化炭素の排出量削減に大きなポテンシャルを有していることがわかった。
     長期シナリオ解析の解析条件は、水素価格が2020年から、水力水素は2050年まで、太陽水素は2075年まで毎年2%低下するとし、200ドル/t-Cの追加コストがあると想定している。
     図3−2−6〜7に、世界における長期的な水素導入量と総エネルギー供給に占める割合を示す。これらの図から、2100年の世界の水素導入量は約62EJで、世界の総エネルギー供給の約1割を占めている。この割合は、IPCCの第2次評価報告書の低CO2排出エネルギー供給システム(LESS)における世界での水素導入量とほぼ一致した結果となった。
     図3−2−8に地域別の水素導入量を示す。図3−2−9は、導入水素中の水力水素と太陽水素の区分を示しており、太陽水素は2050年頃から導入が進み、2100年では水力水素の3倍以上となっている。図3−2−10は、導入水素が化石エネルギーに代替したと想定した場合の、世界の二酸化炭素削減割合を示したもので、2100年での削減割合は4分の1程度という結果となった。



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