各タスクの平成11年度の成果概要 |
1. タスク1 システム評価に関する調査・研究 1.1 研究開発目標 平成11年度の調査・研究計画のおもな項目は、@システム検討、具体的には候補システムのエネルギー消費と経済性に関する第一次評価、A候補システムの性能検討およびコスト評価のためのデータ収集・検討、B候補システムのLCA(ライフサイクルアセスメント)解析の計画策定、CWE-NETで対象とする水素エネルギーシステムに適する経済性評価手法の検討およびD水素導入戦略策定に資する欧州調査などである。 また、WE−NETプロジェクト全体の総合調整を行いかつタスク1の調査・研究に資するため研究調整会議を開催している。以下に、成果の概要を記す。 1.2 平成11年度の研究開発成果 (1)システム検討 <1>副生水素に関するシステム評価 経済性の評価では、ソーダ電解水素の場合、工場の近隣に配管で輸送し自動車の水素吸蔵合金タンクに充填するケースと水素を高圧容器(20 MPa)に圧縮充填しトレーラを用いて自動車向け水素供給ステーションに輸送し減圧弁を用いて自動車の水素吸蔵合金タンクに充填するケース(吸蔵合金への供給圧力は0.99MPa以下でよく、高圧容器の残留水素は5%程度となる)の2ケースを検討した。その結果、前者のケースで水素供給ステーションでのガス水素供給コストは約34円/Nm3-H2、後者のトレーラを用いるケースでは50kmの輸送を前提とした場合水素供給ステーションでの水素ガス供給コストは約45円/Nm3-H2という結果となった。 コークス炉副生水素の経済性評価でも、工場の近隣に高圧ガスとして配管で輸送するケースと四国で製造した水素を液体水素として東京まで輸送するケースの2ケースを想定し評価した。その結果、工場近隣へ高圧ガスで輸送をするケースで水素製造規模120ton/dayの場合、水素供給ステーションでのガス水素供給コストは40円/Nm3-H2、 1.2ton/dayの場合同58円/Nm3-H2となった 。液体水素を遠距離輸送するケースでは、液水製造規模120ton/dayとした場合、水素ステーションでの液体水素供給コストは55円/L(リットル)-LH2(ガス水素換算71円/Nm3-H2)となった。製造規模が1/10になると同供給コストは66円/ L-LH2という結果となった。今後、自動車用、大規模発電および分散型発電などの需要ごとに、水素供給方法として大規模装置で水素を製造し液体水素として輸送・供給する方法、同高圧ガスとして輸送し液体水素または高圧ガスとして供給する方法および天然ガス改質供給ステーションのように小規模分散型装置で水素を製造し液化あるいは圧縮するなどして供給する方法など輸送距離をパラーメタとして横並びに評価し、エネルギー消費、環境そしてコストにおけるそれぞれの供給方法の優位性を明らかにする予定である。 <2>離島における自立型風力発電−燃料電池コンバインドシステムのシステム評価 <3>木質系バイオマス利用可能性の調査 (2)データ収集・検討 水素の利用を進める上でキーテクノロージーの一つとなると考えられる燃料電池について、白金とフッ素の資源量制約に関する調査および固体高分子燃料電池スタックの製造コストに関する調査を行った。 白金の場合、埋蔵量(究極相当)は10万トンで現状の消費量で可採年数は約300年、確認ベースでも100年となることがわかった。自動車用燃料電池の白金使用量を自動車1台当り10gとし世界の自動車保有台数のうち1/3が燃料電池自動車になったと仮定すると白金使用量は埋蔵量の2.3%(究極ベース)となる。この量は現行自動車の排気触媒白金のようにリサイクルを行なえば実現可能な量であると考えられた。フッ素についても現状可採年数は約90年で資源に問題がないことが明らかになった。しかし白金は南アフリカ、フッ素は中国にその多くを依存しており両原料とも地域偏在性が高いことが明らかになった。 燃料電池スタックのコスト動向調査では、燃料電池メーカの分析結果として、現状コストは$6300/ kW、将来コストは同$200/ kWと予測されていることがわかった。一方、個々の構成要素ごとのコスト分析から、現在の燃料電池性能(触媒:発電密度1W/cm2、白金使用量0.4mg/cm2、膜:有効面積75%、発電密度0.5W/cm2を想定)では白金および膜の材料費だけで約$18/ kWとなることがわかった。現行エンジンのコストはkW当り数十ドルといわれているので、これらの調査から燃料電池の性能向上による一層のコスト低減が必要なことが明らかになった。今後の調査課題として、現行エンジン車との比較を通した燃料電池スタックの許容コストの検討を考えており次年度に実施する予定である。 (3)候補システムのLCA解析の計画策定 今後実施するLCA(ライフサイクルアセスメント)について、システム境界の範囲、アローケーションの取扱い方およびデータ特性の考え方などの検討・決定を行い、平成12年度以降の計画を策定した。平成12年度は水素導入シナリオ策定に資するために考えられる数多くの燃料サイクルを対象に燃料サイクル分析を行う計画とした。平成13年度はシステムの製造段階の評価を含むLCAを行なう計画である。 (4)経済性評価手法の検討 エネルギーシステムが市場へ導入される際の経済性を評価する手法を整理した結果、WE−NETが対象とする比較的長い期間稼動するシステムに対しては現在価値換算を行なうことが望ましく、利益がプラスであれば採択するという基準をもつ現在価値法を用いることにした。また、将来のコスト低下を予測する際は、量産効果はランニングカーブ(コストをC生産量をPとするときC=a・P-bで表される)を用いて計算し技術革新の効果はランニングカーブから下に移動するという考え方で見積もる手法を用いるとよいことがわかった。この方法によると各効果ごとに将来コストを見積もることが可能である。 (5)西欧先進工業国における水素導入シナリオの検討 ・西欧は、日本ほどではないが、石油、天然ガスを西欧域外からの輸入に依存している。特に石油は80%近くを輸入に依存している。2005年以降、北海油田の減産が見込まれており、石油価格の上昇が懸念され、これが代替エネルギー促進に働くと考えられている。例えば、ドイツでは産官でTES(Transportation Energy Strategy)プロジェクトを立ち上げ自動車用石油代替エネルギーの選定に着手している。 ・西欧諸国(EU15カ国)における再生可能エネルギー需要は、現状(1995年)、電力消費量では337TWh(電力の14%)熱消費量では38.7Mtoeであるが、2010年にはそれぞれ675 TWh、80 Mtoeに増加すると予測されている。伸びが大きいのは電力ではバイオマス(8倍)、熱ではバイオマス(2倍)と絶対量は少ないものの太陽熱(15倍)が想定されている。 ・西欧においても、風力エネルギー設備から得られた間欠的なエネルギーを変換して水素で貯蔵する方式は、燃料電池とタイアップしたシステムとして初期的な市場になる可能性があると考えられている。欧州委員会(European commission)の最近の発表においても、2010年までに、一次エネルギー利用に占める再生可能エネルギーのシェアーを12%にすることを目標としたことからみても、上記のシステムを含めその重要性を明らかにしている。 1.3 今後の進め方および課題 WE-NETが標榜する水素社会を構築するためには現在ある技術開発シナリオに加えて水素導入目標の計画とその水素導入目標を達成するために必要な技術開発、インフラストラクチュアそして法規制などに関する計画を含む水素導入シナリオが必要となる。WE-NET第II期研究開発を効率よく行い、第III期研究開発をスムーズに立ち上げるためにも早期の水素導入シナリオ作成が必要と考え、平成12年度は水素導入シナリオの作成を最優先課題として調査研究することにする。その後、作成した水素導入シナリオをもとに技術開発やインフラストラクチュアの整備に関する水素導入戦略を策定する予定である。なお、水素導入シナリオはLCA等の調査研究の進展を踏まえ毎年見直しをしていく予定である。 また、水素導入シナリオおよび水素導入戦略の策定を行うに当ってはライフサイクルでの水素システム技術の環境性能、エネルギー効率および経済性の評価が必要である。このためまず次年度に燃料サイクル分析を行い、再来年度以降LCAを実施する予定である。
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