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事業報告メタンハイドレート開発時の環境影響評価手法最適化に関する一部委託業務 戻る

I.メタンハイドレート開発促進事業の概要

 メタンハイドレート開発促進事業の目的は、我が国周辺海域に大量に存在すると期待されているメタンハイドレートについて、将来のエネルギー資源として、開発利用するために、経済的に掘削・生産回収する技術開発を行い、エネルギーの長期安定供給確保に寄与することです。
  この研究開発は、平成13年7月、経済産業省に設置された「メタンハイドレート開発検討委員会」でとりまとめられた「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」に基づいて進められており、この計画を実現するために、官民学共同の「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム」(通称:MH21)が組織されました。本研究開発の目標は、日本周辺海域におけるメタンハイドレート(以下、MHと記載)の商業的産出の技術を整備することで、以下の通りとなっています。

1) 日本周辺海域におけるMHの賦存状況と特性の明確化
2) 有望MH賦存海域のメタンガス賦存量の推定
3) 有望賦存海域からのMH資源フィールドの選択、並びにその経済性の検討
4) 選択されたMH資源フィールドでの産出試験の実施
5) 商業的産出のための技術の整備
6) 環境保全に配慮した開発システムの確立

 これらの研究開発は、段階的に進めることとなっており、以下の通り、フェーズ1~3までに分かれています。

[フェーズ1](平成13年度~平成20年度)
● 基礎研究(調査技術、分解生成技術、生産技術、環境影響評価)

[フェーズ2](平成21年度~平成27年度 )
● 海洋産出試験を通じての技術課題の抽出
● 経済的な生産手法の提示
● 我が国周辺海域のMH賦存状況の把握
● 海洋産出試験を通じての環境影響評価手法の提示

[フェーズ3](平成28年度~平成30年度 )
● 商業的産出準備
● 総合評価(経済性、環境影響等)

 フェーズ1では上記(1)~(2)の目標が達成され、平成21年度からフェーズ2が開始されました。フェーズ2の最大のイベントは我が国周辺海域で実施される2回の海洋産出試験です。フェーズ1の成果、フェーズ2の計画の詳細はMH21のホームページを参考にして下さい。(http://www.mh21japan.gr.jp/)
 フェーズ2からはMH21の実施体制を改め、プロジェクトリーダー増田昌敬・東京大学准教授のもと、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構、(独)産業技術総合研究所が主体となり研究を進めています(図1)。

フェーズ2の体制
図1.フェーズ2の体制
JOGMEC:(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構、産総研:(独)産業技術総合研究所
(メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムのホームページより抜粋)

II.環境影響評価に関する研究開発

 環境影響評価に関する研究開発は推進グループで統括されており、この分野のフェーズ2の研究課題は以下のようになっています。

・環境リスクの分析と対策の検討
・環境計測技術の開発
・海洋産出試験における環境影響評価
・MH層開発における環境の総合評価と最適化

 平成21年度、当センターは(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構より、この分野の一部の研究を「メタンハイドレート開発時の環境影響評価手法最適化に関する一部委託業務」として受注致しました。平成21年度、当センターが担当した業務内容は以下のようになります。

1. MH開発時の海洋生態系への影響に関する基礎研究
2. 環境モニタリングシステムの実現可能性および最適化検討
3. 生態系リスク評価データベースシステムの概念設計
4. MHの自然発生的環境リスクに関する文献調査と整理
5. 環境有識者会議の運営管理

平成21年度受託業務の全体イメージ
図2.平成21年度受託業務の全体イメージ

III.各研究開発項目の概要

1. MH開発時の海洋生態系への影響に関する基礎研究

(1) 文献調査を中心としたメタンが海洋生態系へ与える影響の情報収集およびメタン等が海洋生物に与える影響を評価するための室内暴露試験の実施
 MH層は海底面から浅い層に存在するため、MH開発に特有のリスク要因として、海底面からメタンが漏洩し、海洋生態系に影響を与える可能性が考えられています。しかし、メタンが生物に及ぼす影響に関して情報収集した結果、海域に生息する生物群に関してはほとんど知見がありませんでした。よって、開発計画のモデル海域である東部南海トラフ海域に生息する生物群を対象とした、実験データに基づく毒性値の検討が必要になると考えられました。
 そこで平成21年度は東部南海トラフ海域の主要な浮遊生物(カイアシ類と微細藻類)と底生生物(線虫類)を選定し、予備試験として沿岸域から採取した同じ種類を用いた飼育試験および室内暴露試験を実施しました。その結果、浮遊生物についてはメタン・水温・塩分の影響濃度(EC50やLC50など*)算出に必要な試験条件とおおよその影響濃度の幅が把握することができました。また、底生生物についても線虫類のみを選別でき、暴露試験に必要な期間(1週間程度)飼育できる可能性があることを明らかにしました。

*EC50:環境中の生物を用いた有害性試験で、1群の実験生物の50%に影響を与えるとされる濃度。影響指標として成長、遊泳、繁殖、行動、症状などがあげられます。
*LC50:環境中の生物を用いた有害性試験で、1群の実験動物の50%を死亡させる濃度。

試験生物の選定 暴露試験の様子
図3.試験生物の選定 図4.暴露試験の様子
試験生物の例
図5.試験生物の例

(2) メタンが海底面付近に生息する微生物に与える影響に関する基礎研究
 底泥微生物は従属栄養型と独立栄養型に分けられ、従属栄養型の微生物は堆積物中の有機物の分解と栄養塩の供給に重要な役割を果たしています。一方、化学エネルギーを利用する独立型微生物は、メタン生成菌やメタン酸化細菌のように海水中へのメタン供給に重要な役割を果たし、これらの微生物の消長は海底生態系の物質収支に大きく影響します。MH開発に伴う海底生態系への影響を予測・評価するためには、このようなメタン生成と分解の物質収支過程を組み込んだ海底生態系モデルを構築する必要があります。このモデルを構築するためには、当該海域に生息する各微生物に特異的なマーカー遺伝子を利用した各微生物の分布状況および物質収支状態の把握が必須となります。
  平成21年度はこれら微生物パラメータの取得と、それらの精度向上を検討して東部南海トラフ海域に即した各微生物の分布状況および物質収支状況を生態系モデルへ提供することを主たる目的としました。
  なお、本研究課題は東京大学生産技術研究所および産業技術総合研究所との共同研究として実施しています。

メタン酸化細菌のマーカー遺伝子
図6.メタン酸化細菌のマーカー遺伝子(メタンモノオキシゲナーゼ:pmo)の
標的位置を改良した 場合のPCR反応結果(右が改良条件)

(3) 海底面および生産システムからメタンが漏洩した場合のメタン拡散予測モデル構築と感度分 析を目的としたシミュレーションの実施
 フェーズ1で構築した漏洩メタンの海水中での拡散予測モデルは、ガス態とハイドレート態の挙動と拡散範囲を詳細に再現しました。平成21年度からはメタンの影響範囲を検討する目的で、本モデルに海水中に溶解したメタンの拡散過程を計算できる機能を組み込み、溶存態、ガス態、ハイドレート態の拡散範囲が計算できるようにモデルを高度化し、シミュレーションを実施しました(図7)。
  また、フェーズ1で東部南海トラフにおける表層堆積物間隙水中の、溶存メタンや硫酸イオンなどの物質収支を予測できる基本モデルも開発しました。平成21年度は、フェーズ1の海域環境調査により得られたメタン酸化速度などを利用した解析を実施しました。
  なお、本研究課題は東海大学との共同研究として実施しています。

メタン漏洩初期段階における溶存態、ガス態、ハイドレート態の比率の解析例
図7.メタン漏洩初期段階における溶存態、ガス態、ハイドレート態の比率の解析例

(4) 生産システムから生産処理水が放出される場合の流体拡散予測モデル構築と感度分析を目的とした拡散シミュレーションの実施
 MH生産時にはMHの分解に伴う水の生産が想定されています。生産水の処理方法としては、(1)地層圧入、(2)海洋放出、(3)陸上輸送などがあり、通常の海洋石油・天然ガス開発では地層圧入が多くなってきています。しかし、MH生産水が油分や重金属を含まないことに加え、開発における経済性を考慮するとMH生産処理水を海洋放出するオプションが考えられます。しかし、MH生産水は低温、低塩分、メタン飽和(貧酸素)、濁りなどの特性を持つことが考えられ、未処理のまま海洋放出すると海域環境に影響を与える可能性があるため、適切な処理を施したMH生産処理水として放出をする必要があるかもしれません。フェーズ1ではこのMH生産処理水の影響範囲を検討するために、低温および低塩分の特性を持ったMH生産処理水の拡散予測モデルを構築しました。平成21年度は本モデルに溶存したメタンと濁りの拡散予測機能を組み込み、拡散シミュレーションを実施しました。
  これらの結果は、生産水の処理方法に関するエンジニアリング研究に反映される予定です。

MH生産処理水を海面に放出する場合、X時間後の溶存メタン拡散の解析例
図8. MH生産処理水を海面に放出する場合、X時間後の溶存メタン拡散の解析例

(5) 東部南海トラフ海域の深海生態系モデルの概念設計
  MH開発に伴う海域環境へのリスク要因として、MH生産処理水の海洋放出および海底面からのメタンガスの漏洩が考えられ、その海域の生態系への影響が懸念されています。
  生態系への影響を予測するための手段として、数値モデルの活用が検討されています。通常、数値モデルを生態系への影響予測に適用するためには、以下の手順によって進められます。

1) 海域の流動場を再現するモデルを構築する(物理モデル)。
2) 物理モデルに、環境因子(メタン、低温水、濁り等)の動きを再現できるようなパラメータを導入し、各因子が時間的にどの程度の変質を起こしながら移動・拡散するかを再現できるように改良する(化学モデル)。
3) 次に、各環境因子によって暴露される周辺に生息する生物群等の量と、各環境変化に対する生物の応答特性(死滅速度や毒性値等)をモデルに組み込み、予測される環境因子の広がりと生物への影響範囲を予測する(生物影響モデル)。
4) 最終的には、各環境因子によって暴露される範囲に生息する生物群の量や、環境変動に対する応答速度(増殖速度・代謝速度・死滅速度 等)を、既存資料や実測値を通じて 取得し、物質循環モデルに組み込むことで、生態系全体の物質収支が解析できるモデルを構築する(生態系モデル)。

 1)~3)に関するモデル開発は、すでにフェーズ1から開始されており、モデル開発に必要となる関連情報も同時に取得されています。平成21年度からは、これらの数値モデルを活用し、東部南海トラフ海域の深海生態系モデルの開発に際して必要となるモデルの概念を設計することを目的としました。
 なお、本研究課題は東海大学との共同研究として実施しています。

東部南海トラフ海域の海洋生態系の概念図
図9. 東部南海トラフ海域の海洋生態系の概念図

2. 環境モニタリングシステムの実現可能性および最適化検討
 
MH開発に伴う環境影響評価を適切に実施するために、環境に影響を与えうる因子の変化を連続的に観測、検知するモニタリングシステムを開発する必要があります。このため、フェーズ1においては、メタン漏洩検知技術や地層変形検知技術等の計測要素技術について研究開発を実施してきました。フェーズ2においては、海洋産出試験における環境モニタリングを実施するとともに、将来の商業生産時を見据えたシステム設計を検討する必要があります。

(1) メタン漏洩検知センサー
  平成21年度は、フェーズ1で開発してきた溶存メタンセンサー(改良型METSセンサー)を実際に使用する場合を想定して、半導体検出器のチューニングや較正レンジの適正化を図り、室内性能検証試験等によってその効果を確認しました。また、改良型METSセンサーを海底に単体で設置して使用するオフラインシステムを検討するとともに、改良型METSセンサーの長期運用性を検証するための実海域試験計画を立案しました(図10)。
  なお、本研究課題は東京大学大気海洋研究所との共同研究として実施しています。

実海域試験で用いる係留系 イメージ図
図10. 実海域試験で用いる係留系 イメージ図

(2) 地層変形検知センサー
  平成21年度は海洋産出試験時の地層変形モニタリング計画の最適化に資することを目的として、以下の事項について調査検討を行いました。まず、これまでに調査研究が行われてきた地盤沈下、海底地すべりに代表される、海底での地層変形および海底での環境モニタリング方法に関 する文献調査を行いました。また、フェーズ1で実施された海洋産出試験時に想定される地層変形に関する知見の概要を整理しました。次に、図11に示すような海洋産出試験時に想定される、地層変形のモニタリング項目と要求されるべき性能について整理し、これらの計測に必要な既存センサーについて、そのカタログ等から判断される性能ならびに適用方法(設置・回収等)を整理しました。また、フェーズ2で計画されている海洋産出試験時の最適な地層変形検知システムの概要についても検討しました。

海洋産出試験時に想定される地層変形の概念図
図11. 海洋産出試験時に想定される地層変形の概念図

3. 生態系リスク評価データベースシステムの概念設計
  平成21年度から、MH開発に伴う海洋生態系への影響を総合的に評価するため、生態系リスク評価(環境影響評価、生態リスク評価、社会的な影響評価)が可能なデータベースシステムの構築を目的とし、本業務を開始しました。平成21年度は、海洋産出試験時に想定される環境因子および想定される生態系への影響を整理し、生態系リスク評価の手順を検討するとともに、生産システムや処理方法の詳細な検討段階にある第1回海洋産出試験を対象としたデータベースシステムの概念設計を実施しました。

生態系リスク評価データベースシステムのアウトプットイメージ
図12. 生態系リスク評価データベースシステムのアウトプットイメージ

4. MHの自然発生的環境リスクに関する文献調査と整理
  現在MHから分解したメタンガスが地球環境に影響を与えるのではないかという意見が国内外で多く見受けられます。しかし、これらの意見は自然発生的に起こる現象に起因する影響と、開発によって引き起こされる人為起源の影響が混在しており、混乱や誤解が生じている場合が多いと考えられます。このような中でMH開発を進めるためには、自然発生的な地球環境に対する影響とMH開発による環境リスク要因を明確に分け、それらに対して充分に説明できることが必要になります。
  そこでフェーズ1からMHに関係する環境影響について、論文や学会発表の情報だけではなく、雑誌、新聞、インターネット上の講演会等の情報、テレビ番組等、一般の方々が容易に情報を得ることのできるメディア等から発信されている情報についても調査しています。平成21年度も引き続きこれらの情報を調査するとともに、収集した文献の整理なども行いました。

5. 環境有識者会議の運営管理
  MH資源開発研究コンソーシアムでは、平成21年度より、環境に関する知見を有する専門家により構成された環境有識者会議を設置し、MH開発が環境に与える影響について総合的かつ中立的な評価を行い、環境研究の方向性の検討に資することとしています。本業務では、この環境有識者会議の円滑な運営に際して必要となる、委員召集を含む委員会の運営管理、議事録作成等を実施しました。

平成21年度第1回環境有識者会議
図13. 平成21年度第1回環境有識者会議


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