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事業報告平成23年度 メタンハイドレート開発に係る海洋生態系への影響評価のための基礎研究

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1.はじめに

 日本周辺海域に賦存するメタンハイドレート(以下MH)は将来のエネルギー資源として注目されており、経済産業省主導のもと、メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21)が組織され、MHの資源化に向けた研究開発を推進しています。平成13年度から20年度まで実施されたフェーズ1おいて、環境分野に関してはMH開発時における環境影響評価手法確立のための基礎研究として、東部南海トラフにおける海域環境調査、種々の環境モニタリング手法の検討、環境影響因子の拡散挙動を予測するシミュレーションモデルの構築などを実施しました。平成21年度からはフェーズ2に移行し、平成24年度と平成26年度に予定されているMH海洋産出試験を通じた環境影響評価手法の提示を目標の1つに設定しています(図1)。

図1.我が国におけるメタンハイドレート開発計画
(メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムのホームページ(http://www.mh21japan.gr.jp/)より抜粋)

 平成23年度、当センターは(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構より、環境分野の一部の研究を「メタンハイドレート開発に係る海洋生態系への影響評価のための基礎研究」として受注致しました。平成23年度は海底面からのメタン漏洩、MH生産水およびカッティングスの排出による海洋生態系への影響予測・評価などに係る基礎研究を実施しました。

2.MH開発で考慮すべき環境影響要因

 平成23年度の業務範囲内で対象となるMH開発で考慮すべき環境影響要因を以下に挙げます。

2.1 メタン漏洩

 海域に存在するMHは一般的な石油・天然ガスが存在する地層(海底面下2,000~4,000m)よりも浅い地層に存在します。東部南海トラフに存在するMHは、主に海底面下500mまでの砂層の孔隙中に充填した状態で賦存しており、MH層上部の地盤が未固結の軟弱地盤であるため、セメンチング不良により生じる坑井周りの導通や、地層変形により生じた亀裂からメタンが漏洩する可能性があります。海水中まで到達したメタンは水柱や海底近傍に生息する生物に影響を与える可能性もあります。

2.2 MH生産水

 MH生産時にはMHの分解により生産水が生じることが見込まれ、MH生産水を海域に放出する生産方式を採用する場合には放出前に適切な処理を施す必要があります。未処理のMH生産水は低温、低塩分に加えメタンの飽和およびそれに伴う貧酸素などの特性を持つほか、微細堆積物粒子も混在することが想定されます。このため、周辺海域に水質の異なる水塊が形成され海洋生物に影響を与える可能性もあります。

2.3 カッティングス

 海洋産出試験の事前掘削はライザーレスで実施されるため、掘削時に発生するカッティングス(堀屑)は海底に堆積し、海底の状況を変化させる可能性が想定されます。よって、海底生態系に対する掘削泥水とカッティングスの潜在的な影響は主に濁度の増加とそれに伴う海洋生物への影響と底生生物の埋没による影響と考えられています。また、掘削泥水とカッティングスの堆積による海底堆積物の性状の一時的な変化も生じます。一部の深海底生生物群集は埋没に敏感で、回復には数年かかると考えられています。

3.実施内容および結果

 平成23年度業務は、上記の環境影響要因を考慮し、メタン等の海洋生物への影響に関する基礎研究、数値モデルによる海水中成分の拡散予測(漏洩メタンおよびMH生産処理水等)、海洋生態系への影響を予測するための生態系モデルの構築、環境データベースシステムの改良、MH開発と環境影響に係る情報収集、化学合成微生物の海底面下深度分布調査、環境有識者会議の運営管理を実施しました(図2)

図2.平成23年度における各研究開発の実施項目の概要

3.1 メタン等の海洋生物への影響に関する基礎研究

 本年度はメタン等の海洋生物への影響に関する基礎研究として、自然界でのメタンの挙動と生息生物との関係性、水生生物へのメタンの影響濃度に関する情報、溶存酸素および塩分の変化に伴う海洋生物への影響に関する情報を収集し、整理しました。また、メタンが海洋生物に与える影響を評価するための生態毒性試験に関しては、植物プランクトン2種、動物プランクトン4種、底生生物の線虫類に対して試験を行いました。その結果、これらの生物に関しては、溶存酸素濃度を生物の生残に影響のない濃度に維持し、1気圧で溶解できる最大の溶存メタン濃度(約17mg/L)を含む海水に暴露させても、溶存メタンに対する明確な影響は認められませんでした。

図3.試験生物の例(左:植物プランクトンの1種、右:動物プランクトンの1種)

3.2 海底面からの漏洩メタン拡散挙動についての予測計算

 本年度は別途実施されている海域環境調査で取得した流向・流速データを利用し、メタン漏洩量および放出メタンガス泡のサイズを変化させた予測計算を実施しました(図4)。また、メタンの溶解に伴う溶存酸素の減少について情報収集し、溶存メタンの酸化による酸素濃度減少を表現できるアルゴリズム開発も実施しました。

図4.第二渥美海丘における溶存態のメタンの拡散予測例

3.3 MH生産水等の流体の拡散挙動についての予測計算

 本年度は生産水中に含まれる懸濁粒子の拡散に伴う水色変化についての予測計算、MH生産水に含まれる可能性のあるアンモニアの拡散についての予測計算および掘削時のカッティングス等の巻上げ土砂による濁りの拡散および再堆積厚の予測計算(図5)を行いました。

図5.カッティングスの再堆積厚の分布予測例

3.4 MH開発対象海域を想定した生態系モデルの構築

 本年度の生態系モデルの構築における光合成生態系モデルの構築については、冬季の光合成生態系を構成する要素(プランクトン、栄養塩類、溶存酸素等)の再現計算(図6)、MH生産水の排出に伴う水温および溶存酸素の減少が光合成生態系に及ぼす影響を予測するための感度解析を実施しました。さらに、化学合成生態系モデルの構築のために必要な硫黄酸化細菌数、硫酸還元速度等を実測し、化学合成生態系の基礎生産者である硫黄酸化細菌のメタン湧出時の変動予測を実施しました(図7)。

図6.光合成生態系モデルによる植物プランクトン現存量の再現計算結果例

図7.化学合成生態系モデルによる硫黄酸化細菌数の変動予測例
(計算の各ケースは硫酸還元速度に関するパラメータを変化させたもの。
実測値は分析によって得られた硫黄酸化細菌数の変動幅)

3.5 環境データベースシステムの構築

 本年度は海域環境調査で得られたデータを数値データおよび可視化データとして収録し(図8)、関連文献などの文章データも追加更新しました。加えて、他機関で公表している当該海域のリアルタイム環境情報についても収集し、常時閲覧できるよう整備しました。さらに、ユーザーフレンドリーな情報提供を目指すため、本Webサイトのユーザーニーズを取りまとめ、Webサイトの詳細設計に向けた課題を整理しました。

図8.可視化データ例(調査地点の海底俯瞰図)

3.7 環境関連の情報収集

 本年度はMHと自然リスクの関係に関する文献を集めると共に、第7回ガスハイドレート国際会議(ICGH7:於エジンバラ)に出席し情報収集をしました。また、石油天然ガス開発に伴う環境影響について、フランス、ノルウェーおよびアメリカの石油開発関連会社に対し海洋における石油天然ガス開発に伴う環境影響評価方針・手法についての聞き取り調査を実施しました。

3.8 化学合成微生物の海底面下深度分布調査

 本調査では第二渥美海丘の嫌気性メタン酸化細菌、硫酸還元菌、硫黄酸化細菌および好気性メタン酸化細菌の深度分布を明らかにし、対象海域における化学合成微生物の海底面下の深度分布を明らかにしました。

3.9 環境有識者会議の運営管理

 MH21では、環境に関する知見を有する専門家により構成された環境有識者会議を設置し、MH開発が環境に与える影響について総合的かつ中立的な評価を行い、環境研究の方向性の検討に資することとしています。本業務ではこの環境有識者会議の円滑な運営管理を実施しました。


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