各サブタスクの平成10年度の成果概要


3.4 都市規模での予測評価

3.4.1 研究開発目標

 本報告書は、平成9年度までの検討に引き続き、比較的少量の水素を都市の燃料経済に導入する最善の方法を確認することを目的としたものである。
 本年度の調査研究では、これまでに実施した分析を完了するとともに、ロンドン及び東京の水素導入に関する最終比較を実施した。また、分析結果をもとに、水素を東京にエネルギーとして導入するための移行シナリオを提案した。なお、移行シナリオ自体は他国の水素エネルギーに関する開発状況や東京の低公害車導入計画等の影響を受けることに留意する必要がある。

3.4.2 平成10年度の研究開発成果

 燃料電池に代表される関連技術の開発が本研究調査の開始時点(平成6年度)と比較してかなり加速されており、また、商業化の取り組みも進んでいる。このため、調査研究で使用する技術情報をタイムリーに更新するのが困難であり、検討に使用するデータの絶対値を不確実なものとしている。しかしながら、これらの状況は、既存のエネルギーや、輸送機関の燃料市場を水素導入の方向へ進めるものである。
 また、それは短期の移行シナリオにおいて意味のあるタイムフレームを短縮することにもなる。これらを考慮して以下の結論を得た。

3.4.2.1 水素導入に関する分析

(1) 東京とロンドンをモデル化して検討した結果、二つの都市とも同じような結論となった。これは、過去の分析と異なるものである。しかし、燃料電池開発の急速な進展、とりわけコストの低下が以前の分析では考えられなかった結論を導き出すに至った。すなわち、ロンドン、東京ともに、純粋な水素の導入は、短期的には輸送機関の分野で、最も費用効果があると考えられる。また、水素を既存のパイプラインの天然ガスに混合してハイタンを作り、地域的に大気汚染物質や二酸化炭素排出を減少させるという場合もメリットがある。改定したデータでは、東京における天然ガスの調達状況(インフラ状況)は、ロンドンとほとんど一緒であるが、供給可能なガスの容量はかなり小さいことを示している。

(2) 輸送機関の分野では、フリート車両(業務用車両)、とりわけバスが純粋な水素の導入に最適である。投資コストは高いが、それだけ個人用車両と比べて、追加コストにそれほど敏感ではなく、長期間の連続運転も可能である。これは個人用車両の場合と比較して、公的車両のほうが、使用コストやメンテナンスコスト低減が重要なことを意味する。さらに、この分野では排出ガス規制がより厳しくなり、厳重にモニタリングされる傾向にある。このため、CNG(圧縮天然ガス)のような代替燃料の検討プログラムが既に存在している。

(3) 世界的な傾向として、最初の燃料電池自動車の量産は、平成16年(2004年)ごろか、WE-NETプロジェクトの第II期研究開発中にも行われうるといわれている。また、バス等のフリート車両が多くの試験に供されつつある。従って、本調査研究においても、この急速な変化に対応し、移行シナリオにこれらの自動車の使用を含めることが必要である。なお、バスについては水素が燃料として利用されそうであるが、他の燃料電池自動車に対しては、いまのところ燃料の選択(メタノール又は水素)は行われていないようであり、規制や標準化の動向がどちらが選択されるかの鍵となると考えられる。

(4) 日本政府はWE-NETを積極的に推進しているが、水素に関する国内規制の存在の点で問題がある。明白な例としては、現在日本の公道で水素を燃料とする自動車を許可なく運転することは違法であり、水素自動車の試験は、政府の許可がなければ、私道でしか行えないことになっている。水素自動車の導入を行う場合には、国内規制の改正が必要である。また、日本の他の代替自動車プログラムや組織は、燃料電池や水素自動車にそれほど熱心でなく、CNGやLPGに力を入れていると考えられる。これは、低公害車プログラムを利用してWE-NETプログラムの力を高めるという観点から留意しておくべき事項である。

(5) 東京には、すでに代替燃料自動車の設備が多く存在しており、バスの基地や大規模のLPG(液化石油ガス)充填用タクシー基地がある。特に後者は現在供給過剰であり、新しい技術に投資しにくい状況である。移行シナリオ作成の観点から考えると、短期的に最も有利なのは、既存の代替エネルギー充填所を、水素供給のために転用することだと考えられる。これらの充填所は、バスと結びついて水素自動車の過渡的市場及び将来の市場になると考えられる。

(6) 長期的には、日本であれ、他の国であれ、水素製造には、様々な原料が利用されるはずである。短期的には、これらの供給原料が、コスト、効率、排出ガス、その他の特徴等についてどう違うか理解することが重要である。これらのモデル化には不確定さが伴うので、モデル化は容易ではない。このため、移行期の水素調達として、水素タンカーによる輸入、オンサイドでの天然ガス又はメタノール改質を提案し、検討した。

3.4.2 移行シナリオ

 いくつかの移行シナリオを、2025年までのタイムフレームで検証した。その各々は様々な種類の水素源を調達することを狙いとしている。最初の問題としては、水素を輸入するか、又は日本国内の限定された資源から製造するかがある。次に運輸部門が、最初に狙うべき市場と考えられる。なぜなら、輸送機関は伝統的に、定置式の発電部門よりも高コストのエネルギー源を使っており、たとえ国内で燃料電池発電システムが急速に展開されたとしても、輸送機関のほうが将来的に、重要な構成要素になると思われる。なお、日本のエネルギー市場の規制緩和も考慮する必要があると考えられる。現在入手できる情報に基づいた移行シナリオの概要は以下の通りである。

(1) 東京の既存のCNGバスステーションに小規模な水蒸気改質装置を設置する。例えば、これはONSI PC25燃料プロセッサーを想定したものであり、既存の装置よりも潜在的にコストが安くなる。天然ガスをオンサイトで改質することにより、水素を製造し、これを圧縮して、小集団のバスの燃料として利用する。これらのバスは、短期的には、燃料電池より低コストな内燃エンジン式のものが用いられる。しかしながら、燃料電池は試験の最初の段階で急速にコストが下がると考えられるので、この方式は次善の方法と考えられる。実際、燃料電池バスは、既に試験走行が行われている。

(2) 同時に、バスステーションの幾つかに、メタノールタンク(ステーションの一部には既に設置されている)やメタノール改質装置を設置する。メタノールは、1.と同様に、圧縮水素を供給するために改質され、同じように利用される。

(3) 同時に行なう第3の方法として、液体水素の海外からの輸入がある。しかしながら、これは、例えば、カナダから安い液体水素が輸入できるという最近入手した情報が事実である場合にのみ現実性があることである。この水素はバスの燃料として利用でき、ステーションでは液体水素として直接貯蔵する。

(4) 試験が進むにつれて、各々の代替燃料の経済性が明らかになってくるはずである。それにより、必要に応じて合理的判断を下すことが可能となる。おそらく、長期的に再生可能エネルギーによる水素源(究極の目標)が確立されるまでは、様々な一次原料からの水素を利用し続けることになると考えられる。これらの時間軸にそった戦略は、水素の自動車用燃料としての使用の認可に関する法的規制の急速な変化にも大きく依存することになる。

(5) 水素供給ステーションの数が増えれば、個人用車両の燃料供給に水素供給ステーションが開放されることになると考えられる。そうすると、リソースの利用がより効率的になり、インフラストラクチャーが不十分なことを理由に、個人用車両のユーザーが水素自動車を買い控えることがなくなる。同時に水素供給ステーションの一部を水素ガスのパイプラインと接続することも可能となる。これにより、水素製造設備の運用が効率化され、最初の水素供給ネットワークの形成も可能になる。

(6) 移行シナリオの最初の5〜10年間は、小規模の燃料電池発電システムが商業生産に移行することになり、幅広く利用されていく可能性がある。これは、最初は天然ガスで運転されるが、水素供給設備が付近にあれば、その設備から供給される水素が利用される可能性が高い。その方が、燃料電池発電システムの効率を高めることができ、システムの使用に伴い発生する環境影響物質の排出も抑制できる。真に統合化された設計をするなら、例えば、電力需要が少ない時には、水素を圧縮するために燃料電池からの電気を利用できる。これは電力市場の規制緩和とも関係する。

(7) 日本には限られた資源しかないが、水素導入に対する戦略の展開は、輸入水素や水素製造に供される一次燃料にのみ依存しているわけでないということは重要である。東京は再生可能エネルギーから水素を製造するのに理想的な場所とはいえないが、日本の中には風力エネルギー、地熱エネルギー、太陽エネルギーが利用可能な地域がある。これらの長所を更に検討する必要がある。

(8) デポ(バス用水素供給ステーション)は、徐々に水素パイプラインと結合されていくので、デポにおける改質設備の必要性は減少してくる。また、多数の小規模な改質設備を導入することは魅力的ではあるが、大規模な改質装置を利用する方がより経済的であることも多い。LNGやメタノールの集積所は、大規模な改質装置を配置するのに理想的な場所である。日本の石油精製所の一部、例えば横浜などは、このような水素の製造が可能である。そうして、デポと結合しているパイプラインが、徐々に拡大する。純粋な水素を都市郊外に輸送しながら、小規模な改質装置を徐々にフェーズアウトさせていく。このように、需要を満たすためにインフラストラクチャーを拡大していくことは、10年から20年の間は責任もって実施していかなければならないプロセスである。大規模な水素製造設備は、二酸化炭素をプラントから除去することもでき、温室効果ガス排出を減少させるという点でも評価される。

(9) 同時に、デポはパイプラインで結ばれるようになり、小型乗用車用の水素供給ステーションも水素ネットワークで結ぶことが出来るようになってくる。これにより水素を小型乗用車用のステーションで顧客に提供できるようになり、それまでのようにわざわざデポを探す必要はなくなってくる。

(10) このプロジェクトの最初の初期段階で、郊外の地域で同じような展開が起きることは重要である。顧客がこれらの水素供給サイトに出かけることができ、既存の燃料よりも手には入りにくいが、とにかく水素燃料で運行できる車を買える状況になるわけである。

(11) 輸送機関が水素を都市に導入する鍵になるが、水素供給を電力供給の開発と結びつけることも重要である。家庭用の燃料電池(2〜7kW)から大型のコジェネレーション装置(2〜10MW)まで、燃料供給が必要である。天然ガスが直ちに利用可能であるが、最適な性能はあくまでも水素を利用することによってもたらされる。このため、パイプラインと繋がった供給ステーションが建設されるにつれて、定置式設備の燃料需要を満たすように設計すべきである。既存のパイプラインで天然ガスに水素を混ぜることは、短期的には、高効率をもたらし、環境影響物質の排出を減らすので、当然実施すべきである。しかしながら、純粋な水素を燃料として使用する場合は装置を改造する必要がある。二次的な燃料供給ネットワークの構築は、新しい機器を必要に応じて接合できるので、既存の供給システムを純粋な水素を運ぶように転換するより効率がよいと考えられる。もちろん、必要なスペースは限られており、コストは高くつく。この問題については、東京の状況が急速に変化しており、コストは地理的状況に大きく依存するので、詳細な検討は行なっていない。

(12) 時間の経過により、移行シナリオも修正が必要になると考えられる。しかしながら、これまでの検討結果は、燃料電池自動車が、短期的に純粋な水素を燃料ミックスに導入する最も可能の高い方法であることを示している。ほとんどすべてのエネルギーを輸入に依存しているという日本の特異な立場は、水素製造のための様々な一次供給源を比較でき、かつ、将来、輸入した水素とあわせて、これらを利用することを可能にする。今後ともしばらくの間は、様々な供給源が水素の調達に利用されると考えられる。



Copyright(C) 1998-2003 New Energy and Industrial Technology Development Organization