各サブタスクの平成10年度の成果概要


5. サブタスク5 水素輸送・貯蔵技術の開発

5.1 大型水素液化設備の開発

5.1.1 研究開発目標

 水素液化設備の大型化に必要な基礎技術の確立を図るための技術開発項目を明確にすることを第I期の目的とした。より具体的には第I期において最適な液化プロセスを決定し、その概念設計を実施する。

5.1.2 平成10年度の研究開発成果

 昨年度実施した最終トレードオフ評価に従って、液化プロセスとして水素クロードサイクルを選択した。要求されるプロセス効率を達成するためには、膨張タービンや水素圧縮機の断熱効率が重要であり、特に水素圧縮機は要求される効率が高いからというだけでなく、必要となる容量が既存の水素圧縮機よりはるかに大きいことより、主要な項目である。
 WE-NET第 I 期における大型水素液化プラントの検討の結論として、プラントの視覚的イメージを得られるよう、重要な補機設備を含むプラント全体の概念検討を実施した。また大型水素遠心圧縮機の予備的検討を開始した。

5.1.2.1 設備の概念検討

(1)水素液化機
 300t/日の液化プロセスは、窒素予冷とアンモニア冷凍を補助寒冷として使用したクロードサイクルに基づいている。圧力条件は、以前の検討と同じであり、原料水素は3 MPa(30 atm)、リサイクル水素は0.11 MPa(1.1 atm)から4 MPa(40 atm)である。水素膨張タービンと窒素再液化プロセスの検討を反映し、水素液化プロセスは以下のような変更を行った。

  1. 膨張タービンで発生した動力は、以前の検討では電気に変換されるとしていたが、今回の検討では発生動力は膨張タービンのブレーキ圧縮機に伝えられ、このブレーキ圧縮機はリサイクル水素の一部を昇圧する。
  2. 窒素プロセスの検討に基づき、窒素予冷は二つの圧力が相違する液体窒素により行われる。今までの検討では、低圧液体窒素のみを使用していた。 すべての熱交換器はアルミ合金製プレートフィ型であり、原料水素流路にはオルソ・パラ変換触媒が充填されている。
 改訂した系統図を図5-1-1に示す。

 常温からの入熱を遮断するためにプロセス の低温機器を設置するコールドボックスは、その温度領域に従って2つに分割した。80K以上の機器のコールドボックスは、深冷空気分離装置に採用されているパーライト断熱を、これより温度の低い機器についてはヘリウム液化機のように多層真空断熱を採用している。

(2)水素膨張タービン
 一台の膨張タービンは膨張比2.4で65Kに、もう一台の膨張タービンは膨張比2.8で42Kに設置されている。両膨張タービンも不純物の混入が無い動圧ガスベアリング を採用している。回転数はブレーキ圧縮機により制御される。5.1.2.1-(1)で述べたように、リサイクル水素の一部は、これらの圧縮機で昇圧される。

(3)水素圧縮機
 水素圧縮機は三つのグループがある。最初のグループは、大気圧下の原料水素を精製に適した圧力まで圧縮し、第二グループは精製された原料水素を液化プロセスの最終圧力まで圧縮し、第三グループは、リサイクル水素を0.11 MPa(1.1 atm)から4 MPa(40 atm)まで圧縮する。
 すべての圧縮機は遠心式を採用している。それぞれのグループで必要な圧縮段数、第一グループで28段、第二グループで8段、第3グループで40段となる。

(4)水素精製器
 原料水素は液化機により冷却され、液化されるため、原料水素が水蒸気、窒素、酸素のような気体不純物を含んでいると、これらの不純物はプロセス中で固化、蓄積され、その結果、熱交換器の性能を劣化したり、最悪の場合、流れを閉塞させてしまう。
したがって液化冷却の前にこれらの不純物は精製器により除去されなくてはならない。
 精製プロセスとして、今回、多くの水素液化プラントで使用されているPSA(Pressure Swing Adsorption)プロセスを選択した。
原料水素は水電解により製造されることを考慮し、不純物とその濃度を以下のように仮定した;

水蒸気 その温度において飽和
CO2    20 vpm
N2    400 vpm
O2    200 vpmm

 操作圧力は1.5 MPaを選択したが、1.5から2.0 MPaで回収率が最も高くできるからである。PSAユニットは、300 t/Dの液化率に相当する、139,600 Nm3/hという大流量を処理しなくてはならないため、まったく同サイズの2基のPSAユニットで賄うことにした。一つのPSAユニットは4基の吸着筒により構成され、各吸着筒は切替操作で吸着と再生を繰り返す。

(5)窒素再液化機
 本液化機は水素液化機で消費される液体窒素を回収し、再度液化するために設置される。再液化プロセスは、図5-1-2に示されるように、必要寒冷を2台の窒素膨張タービンで発生する窒素クロードサイクルに基づいている。それぞれのタービン回転数は、窒素の圧力をブーストアップする、タービン付属のブレーキ圧縮機により調整される。再液化機は 水素液化機で必要とする、約76,000 Nm3/hの過冷却液体窒素を製造する。

(6)プラント配置
 今までの節の検討に基づき、水素液化プラントの概念的配置図を作成するため、各機器の概略寸法を検討した。検討結果を図5-1-3に示す。本配置図に示していない水電解装置で製造される原料水素は、配置図の左側から供給されることを想定している。図に示されるように、窒素再液化機は水素設備と離されている。液体水素貯槽は、貯蔵・移送設備エリアに含まれるため、本配置図には含んでいない。

5.1.2.2 水素圧縮機の要素技術開発

 水素ガスは分子量が小さいため、水素ガスの圧力を遠心圧縮で昇圧するのは困難である。空気のような、より重い分子量のガスの遠心圧縮機インペラの設計技術は確立しているものの、水素圧縮機の設計に、この技術を適用すると、多くの圧縮段数を必要とする。大型水素液化プラントに合った圧縮機は、一段あたり大きな圧縮比と高い断熱効率を具備しなくてはならない。このような圧縮機を開発するためには、圧縮機内の流動状態を理解し、空力設計技術を開発する必要がある。大きな圧縮比を得るための手段の一つとして、小さなバックワード角を有するインペラを設計することが可能である。しかし、単に小バックワード角を持つようにインペラを設計しても、圧縮効率は低くなる傾向にある。したがって、インペラ形状の最適化とこの種のインペラの設計技術を確立する実験結果の蓄積が重要である。バックワード角25°で直径340mmのインペラを製作し、性能測定と内部の流れ状態を調べるために実験を実施した。実験は空気を使用したが、回転速度が水素のときと同じマッハ数となるよう調節すれば、水素のときと同様の結果を得ることが可能である。内部の流動状態はLDVにより観測した。  得られた結果を図5-1-4に示す。ここでは圧力比が流量の関数として表されている。計画した圧力比が確認されていることが分かる。図5-1-5は同じ実験で得られた効率を示している。示されているように、計画した高効率が実証されている。 これらの結果は水素圧縮機の開発用データベースとして有効となろう。

5.1.3 今後の進め方および課題

 水素精製器は仮定した条件で検討した。水素の回収率は約80%と高く設定しているが、大量のパージガスを処理する必要がある。精製システムは、不純物やその濃度、圧力などの原料水素の条件に依存するため、これらの条件が決定された後、更に検討が必要である。
 予備的な圧縮機の実験で良い結果が得られたが、実験結果の蓄積を必要とする。水素圧縮機では、まだ多くの圧縮段数を必要とすることを考慮すれば、プラント運転操作の見地から圧縮機の動的挙動を検討することが必要であろう。



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