各サブタスクの平成10年度の成果概要


5.3 液体水素貯蔵設備の開発

5.3.1 研究開発目標

 大量の液体水素の貯蔵に適したタンカーを建設するために必要な技術開発項目を明確にすること第 I 期の研究開発目的とした。
 大容量液体水素貯蔵設備の開発において、各種貯槽形式と各種断熱構造の組合せによる貯槽構造の設計を行い、その実現性について検討評価を行ってきた。その結果、大容量貯槽に適用しうる断熱構造に関し、液体水素温度における基礎的な性能(断熱性能、低温強度)データが不足しているため、各種断熱構造の実温度下での性能を確認し、大容量貯槽構造に適した断熱構造を選定することになった。
 「断熱性能」については、平成9年度に製作した大型断熱性能試験装置の性能確認を実施した。
 また、「断熱構造強度」については、サブタスク-6で製作された低温強度試験装置を用いて、断熱材の低温強度試験を実施した。
 今年度実施内容の概要を、以下に要約する。

5.3.2 平成10年度の研究開発成果

5.3.2.1 断熱性能試験

(1)断熱性能試験装置の性能確認試験

 平成9年度に製作した断熱性能試験装置の性能確認を目的に、「ヒータ熱特性試験」と「性能確認用試験体による断熱性能試験」を実施した。
 確認試験実施結果に基づき試験装置の改善検討を行い、装置の一部を改造するとともに、今後の断熱試験で必要な試験体の熱的定常状態への到達時間を検討した。

  1. ヒータ熱特性試験

     断熱試験装置は保護平板カロリーメータ方式を採用しているため、試験体を介して測定容器底板を通過する一次元熱流束が、熱的平衡を保持しながら測定容器内液体水素を加熱し蒸発ガスに変換されることを確認する必要がある。
     試験体の検査面を通過する熱量と測定した蒸発ガスから換算される熱量を比較するため、試験体の代わりに測定容器底面(試験体取付け側)に貼りつけた電気ヒータで検査面を加熱し、測定容器の蒸発水素ガス量を測定した。
     試験結果からの換算熱量は、投入ヒータ加熱量(0〜50W)の90〜95%でほぼ一致しており、計測誤差要因と考えられる測定容器への外部入熱(検査面以外の外部入熱)、測定容器の蒸発ガスの凝縮等が小さいことが判った。
     特に外部入熱を遮断する保護容器の液体水素液位が低下した場合においても、測定容器の上部温度はほぼ20Kに保持されており、容器の温度勾配も小さく固体熱伝導による外部入熱は非常に小さい結果が得られた。
    本試験では、液体水素充填時の真空度、温度、圧力、液面を測定するとともに、試験体の荷重負荷と高温側の温度制御を行う高熱板以外の計測制御系、真空排気系等の構成機器の性能も確認した。

  2. 性能確認用試験体による試験結果

     測定・保護容器底板(20K温度面)と試験体低温面との間に空間を設ける試験体タイプの断熱試験においては、ヒータ熱特性試験により本試験装置が適用できることが確認されたが、測定・保護容器底面に試験体を熱接触させ試験体の低温側面を冷却するタイプについては、真空中でのこの界面の熱接触抵抗の低減が重要課題となる。
     そこで、試験体に荷重を負荷する高熱板の性能確認を兼ねて、多孔固体断熱材で性能確認試験用の試験体を製作し、熱接触抵抗を低減するために試験体接触面に真空グリースを塗布して断熱性能試験を行った。
     製作した試験体は直径1.2m×厚さ0.2m、重量80kgで従来高温断熱材として使用されるシリカ系微細多孔構造体であるが、赤外線の透過を防止するTiO2等の金属酸化物が添加されており、低温での熱輻射防止が期待できるものを使用した。
     試験体の真空特性は、試験体の前処置(乾燥処置)が不十分であったため試験体の含有水分が排気初期の真空特性は悪くしたが、水分が抜け冷却された後は放出ガスは少なく、真空度10-6Torrレベル(液体水素充填時)に保持できた。
     断熱特性は、測定・保護容器の底面(20K温度)との熱接触が不十分であったため、低温面の最低温度が70K程度で温度分布にバラツキも多く、試験体内部に室温領域が生じており、実験条件を満たさなかった。
     この原因としては試験体の平面度、試験体を液体水素容器底面に押しつける荷重負荷機構、液体水素容器底板の平面度、熱接触を低減する材料及び高熱板強度等が考えられ、それら検討を行い、荷重機構の改善と計測ブロックゲージによる液体水素容器底板の平面度調整を実施した。
     高熱板の温度制御は試験体の高温側温度250Kから高熱板ヒータ60Wの投入により高熱板全面(面積1.1m2)を290Kに制御できた。

  3. 試験体の定常到達時間の検討

     断熱性能試験では、試験体が熱的定常状態になり、測定容器の液体水素蒸発ガス量が一定となるまでの到達時間を推定しておくことは試験実施において重要な項目である。
     試験体内部の熱流れが固体熱伝導で支配されると見なし、熱拡散率〔=熱伝導率/(密度・比熱)〕が異なるシリカ系微細多孔構造体、硬質ウレタンフォーム等の非定常熱計算を行い到達時間の推定を行った。シリカ系微細多孔構造体では初期温度300Kから定常温度分布に達成する時間は約10日との予想結果を得た。

(2)断熱性能試験体の設計

 断熱性能試験で使用する試験体の一形式としてメンブレン形式貯槽用断熱構造試験体の検討を行った。メンブレン形式貯槽は積層真空断熱、粉末真空断熱の2形式について検討しているが、試験体としては積層真空断熱のみとした。
 メンブレン式貯槽は耐圧性の無いメンブレンを支持する必要があるため、断熱構造は全ての部位において断熱部と支持部を組み合わせたものとなる。前年度は断熱構造体としての性能を計測するため実機と同じ構造の試験体について検討したが、試験体の小型化を計るため、今年度は主要構造体であるFRP支柱単体の計測を目的とした試験体について、低温負荷時の熱応力、熱変形、試験装置への入熱量の検討・評価を行った。

5.3.2.2 断熱構造強度試験

 (1)断熱構造材圧縮強度試験

 各種タイプの大容量液体水素貯槽で計画している断熱構造について、強度特性を把握する目的で実施する圧縮強度試験において、今年度は検討されている断熱材の1つである硬質ウレタンフォーム材(PUF)の液体水素下における圧縮試験方法を検討し、試験を実施した。
 試験装置はサブタスク-6(低温材料の開発)にて製作された低温強度試験装置を用い、破壊した試験片破片の飛散防止(配管の目詰まり防止)、液体窒素注入中の試験片固定方法を考案し、試験にてその有効性を確認した。
 また、試験体の破壊形態は、載荷面での圧壊であることが確認された。

(2)固体断熱材の強度試験結果

 平底円筒形液体水素貯槽に使用を計画している固体断熱材の一種である硬質ポリウレタンフォーム材(PUF)について、液体水素温度における強度特性を把握する目的で圧縮強度試験を行った。
 今年度は、使用を計画している数種類の密度のうち、貯槽底部の一般部に用いる90kg/m3クラスのPUFについて試験を行った。なお、今回使用したPUFは、将来的に代替フロン発泡が生産中止になることから、炭酸ガス発泡により製作した。
 試験温度は、比較の為、常温、LN2温度及びLH2温度の3ケースで行い、圧縮強度を求めた。
 試験の結果、低温時の圧縮強度は、LN2温度下、LH2温度下で大きな差はみられなかった。
 また、低温圧縮強度は常温時と比べ、2倍程度の強度を有していることが分かった。
 このことより、PUFに関してはLNG貯槽と同様に常温圧縮強度に基づく設計を行っていれば、断熱材に対して十分安全側の設計が為されていることが分かった。

5.3.3 今後の進め方および課題

 本年度実施した断熱性能試験では試験体の熱変形により予定した温度での測定ができなかったので、来年度にはその対策を講じて、より正確な測定ができるように、装置の改造を行う。改造後の装置を用いて、本年度設計をした試験体の中から1体〜2体を作製して、断熱性能試験を実施する。



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