各サブタスクの平成10年度の成果概要


8.サブタスク8 水素燃焼タービンの開発

8.2 燃焼制御技術の開発

8.2.1 研究開発目標

8.2.1.1 背景

 水素燃焼タービンによる発電システムは、画期的な高効率化が可能な水素利用技術として期待されており、その開発においては水素燃焼タービンが最も重要な開発要素となる。
 特に水素・酸素燃焼器の開発では、水蒸気を用いた水素・酸素燃焼における燃焼制御技術が重要であり、プロジェクトの第 I 期では、第 II 期以降の要素開発に必要な基礎・基盤技術を確立しておく必要がある。
 このため、平成5年度より水素・酸素燃焼器の燃焼技術に関する調査を開始し、平成6年度までに小型バーナによる燃焼実験、燃焼器壁面冷却および希釈構造等に関する調査・検討を行った。平成7年度からはモデル燃焼器の燃焼試験による燃焼方式・基本構造についての具体的な検討を進め、水素・酸素燃焼器として3種類の燃焼方式・基本構造を提案するとともに、燃焼器の試験・評価に必要な各種計測手法について検討した。また、各方式の燃焼器を評価するため、平成9年度までに評価試験に供試する燃焼器、評価試験用高圧燃焼試験設備(燃焼器評価試験設備)、計測装置を設計・製作した。

8.2.1.2 目的

 燃焼器評価試験設備および計測装置を用い、設計・製作した3方式の燃焼器について高圧燃焼試験(燃焼器評価試験)を実施し、燃焼器の基本性能を把握するとともに、計測装置の適用可能性と課題を検討する。また、燃焼器評価試験結果などを基に各方式の燃焼器について評価し、水素燃焼タービン用燃焼器として最適な燃焼器を選定する。

8.2.2 平成10年度の研究開発成果

8.2.2.1 燃焼器評価試験

 燃焼器評価試験設備において3方式の燃焼器を高圧燃焼試験(定格相当条件1700℃、2.5MPa、水蒸気入口温度 350℃)に供試し、以下の結果を得た。(図8-2-1図8-2-2)。

(1)酸素希釈燃焼方式〔 I 〕(アニュラー型燃焼器)
(燃焼方式:バーナ部で酸素を水蒸気と混合した後、水素と燃焼させる)

  1. スムーズな着火が可能である。

  2. 定格相当条件における圧力損失率は約1.2%であるが、水素・酸素ノズル部の圧損はそれぞれ約0.8MPa、約1.2MPaである。

  3. 失火、異常燃焼は見られず、燃焼器内圧力変動幅は最大10kPaである。

  4. 量論比近傍での残存水素・酸素濃度は0.5〜1%程度であり、温度および圧力の影響はあまり見られない(図8-2-3)。

  5. 定格相当条件における出口ガス温度分布のパターンファクターは約10%である(図8-2-4)。

  6. 定格相当条件でのライナ内壁最高温度は約550℃である(図8-2-5)。

(2)水素・酸素直接燃焼方式(マルチ・キャン型燃焼器)
(燃焼方式:バーナ近傍で水素と酸素を燃焼した後、水蒸気で希釈する)
 1500℃条件において酸素ノズルが接合部より脱落し、定格相当条件でのデータを取得できなかったため、1500℃までの高圧試験結果および大気圧試験結果より次のように推定された。

  1. スムーズな着火が可能である(図8-2-6)。

  2. 定格相当条件における圧力損失率は約1.7%、水素・酸素ノズル部の圧損は約0.2MPaと推定される(図8-2-7)。

  3. 1500℃までの試験条件まで失火、異常燃焼は見られず、燃焼器内圧力変動幅は最大6kPaであり、定格相当条件においてもほぼ同様と推定される。

  4. 高圧条件における量論比近傍での残存水素・酸素濃度は大気圧試験結果とほぼ一致しており、定格相当条件においても0.5〜1%程度と推定される。

  5. 定格相当条件における出口ガス温度分布のパターンファクターは15%程度と推定される。

  6. 定格相当条件でのライナ壁温度は500〜600℃、尾筒壁温度は600〜700℃と推定される。

(3)酸素希釈燃焼方式〔 II 〕(マルチ・キャン型燃焼器) (燃焼方式:酸素を水蒸気と混合してスクープより供給し、酸素と燃焼させる)

  1. スムーズな着火が可能である。

  2. 定格相当条件における圧力損失率は約1.5%、水素・酸素ノズル部の圧損はそれぞれ約0.2MPa、約0.1MPaである。

  3. 失火、異常燃焼は見られず、燃焼器内圧力変動幅は最大0.1kPaである。

  4. 測定装置調整不良のため残存水素濃度が高く測定されたが、温度および圧力の影響はあまり見られず、量論比近傍での残存水素・酸素濃度は0.5〜1%程度と推定される。

  5. 定格相当条件では熱電対断線により出口ガスの最高温度が計測できなかったが、出口ガス温度分布のパターンファクターは19%程度と推定される(図8-2-8)。

  6. 定格相当条件でのライナ壁および尾筒壁の最高温度はそれぞれ約620℃、約840℃である(図8-2-9)。

8.2.2.2 計測手法の検討

 設計・製作した残存ガス濃度連続測定装置とガス温度プローブを燃焼器評価試験に供試し、次の結果を得た。

  1. 残存ガス濃度連続測定装置 燃焼器の開発試験への適用は可能であるが、測定値の信頼性および残存ガス濃度分布が測定値に及ぼす影響ついて今後とも検討が必要である。また、プラントにおける燃焼の当量比制御への適用には応答速度の向上が必要である。

  2. ガス温度プローブ 最高温度(測定値)が約1800℃までの開発試験に適用可能であり、今後は測定誤差の低減、耐久性の向上等の改善が必要である。

8.2.2.3 燃焼器の評価

 燃焼制御技術開発部会において、各燃焼方式・基本構造の安全性、制御性、保守性、発展性ならびに燃焼性能として着火特性、圧力損失、燃焼安定性、残存水素・酸素濃度、出口ガス温度分布、壁面温度分布の各評価項目について評価した結果、水素燃焼タービンに最適な燃焼器として、酸素希釈燃焼方式によるアニュラー型燃焼器が選定された(表8-2-1)。

8.2.3 今後の課題

 システム設計、タービン翼開発との連携をとりつつ、システムに適した機器仕様の明確化とそれに向けた燃焼器性能の向上、実機相当条件下での性能評価、燃焼器制御・監視技術の開発等を行う必要がある。



Copyright(C) 1998-2003 New Energy and Industrial Technology Development Organization