各サブタスクの平成10年度の成果概要


9.サブタスク9 革新的・先導的技術に関する調査・研究

9.1 研究開発目標

9.1.1 目的

 WE-NETは長期プロジェクトであり、これを推進していく上で、将来的には有望であるものの当面の開発対象から外れている革新的・先導的技術が成熟してくることも大いに考えられる。また、在来型技術についても、その技術改良等の動向によっては、WE-NET構成技術の一つとして取り込みが必要となってくる。このような革新的・先導的技術、在来型技術についての調査・検討・評価を行い、必要に応じて更に研究することにより、WE-NETプロジェクトの方向性に有益な示唆・提案を行い、研究開発に資することを目的とする。

9.2 平成10年度の研究開発成果

9.2.1 革新的・先導的技術の調査・評価

 平成10年度は6件の新技術提案を収集した。さらに、平成9年度下期の1件を併せ合計で7件の新技術提案について、概念検討を行う優先度付けのための採点評価を行った。これらを表9-2-1に示す。

9.2.2 革新的・先導的技術の研究

(1)平成9年度概念検討結果の評価
 平成9年度に実施した3件の概念検討結果の評価を実施した。評価結果は以下の通り。

  1. 波長帯域別に太陽エネルギーを有効利用する水素製造
     選択透過反射膜を利用して、太陽電池で使う波長は透過させて電力にし、太陽電池で使われない波長は反射させて集熱し、高温水蒸気電解で水素製造するシステムを検討した。今回検討したシステムでは熱を使い切れずに捨てている結果になったが、熱利用分を増大させる要素技術を取り入れれば、さらに効率が向上する。また、選択透過反射膜を利用したシステムがどの程度良いかどうかを判断するためには、他の種々の太陽エネルギー利用水素製造システムと比較し、評価する必要がある。したがって、平成10年度に概念検討「太陽エネルギーを有効利用する水素製造の検討」を実施する。

  2. 磁気冷凍技術による大規模な水素液化の経済性評価
     300ton/day規模の磁気冷凍水素液化装置が、効率60%、設備費1億ドルと試算された。磁気冷凍は、水素液化装置として効率の面でも設備費の面でもガス冷凍を大きく凌ぐ可能性を秘めた興味ある技術であり、300Kから20Kまで磁気冷凍だけで冷却するアイデアも革新的である。ただし、大量のヘリウムと高速回転する磁性材料デバイス間の高速熱交換の工業的可能性等に不明な点があり、今後の検討課題である。

  3. バイオマス水素の可能性検討
     包括的にバイオマスの資源および技術の現状を調査し、貴重な情報が得られた。当面、コスト的には、水素への変換よりも燃料油など相対的に有利な変換方法が示唆されているが、水素への変換もエネルギー回収期間は十分短く、エネルギー的には十分成立する。得られた情報は、WE-NETの水素導入戦略・シナリオ検討などに活用したい。

(2)平成10年度の概念検討
 前項の平成9年度概念検討結果評価から派生した追加検討項目および表2.1-1の新技術提案の採点評価結果をもとに、平成10年度の概念検討項目を選定し、5件の概念検討を実施した。概念検討結果の評価は以下の通り。

  1. 太陽エネルギーを有効利用する水素製造の検討
     当初期待した太陽光を選択透過反射膜で太陽電池用と熱利用用とに波長帯域別に分離して利用するシステムよりも、選択透過反射膜は使わず、反射鏡で集熱してスターリングエンジンで発電するシステムの方が、効率の面からもエネルギー回収期間の面からも優れているという結果になった。スターリングエンジンの効率が48%と太陽電池より高効率であることから、極めて常識的なことを追認したことになったが、太陽エネルギーを有効利用する水素製造とはどのようなシステムになるかを明らかにできた。WE-NETでの選択透過反射膜利用水素製造システムの研究はこれで終了とし、基礎研究段階への移行は行わないものとする。

  2. メタノール発電システムに関する調査
     既存のLNG火力発電をやや上回る効率を持った、メタノールを燃料とした二酸化炭素回収型発電システムを構築できることが分かった。また、メタノール発電サイクルは、経済性の面において天然ガスとほぼ同等であることが分かった。この技術はWE-NETに至る中間段階の発電技術として検討に値すると思われる。今後、別プロジェクトとして計画中の「二酸化炭素回収対応クローズド型高効率ガスタービン」プロジェクトに検討を委ね、その状況を見守ることとする。

  3. 10GW/y規模の生産プロセスによる、高変換効率太陽電池の高効率生産システムの概念設計
     薄膜結晶Si太陽電池の製造方法として、原料ガスと基板のリサイクルを考慮した気相成長法による大規模製造プロセスが提案され、太陽電池モジュールに占めるSiウエハコストを大幅に低減できることが明らかになった。太陽光発電システムとしての経済性向上のためには、ウエハ製造工程だけでなく、モジュール組立工程、架台等のコスト低減を図る必要があるが、Siウエハコスト低減はそのためのインセンティブになる。太陽電池−水電解による水素製造の経済的実現可能性を高める技術であり、得られた情報は、WE-NETの水素導入戦略・シナリオ検討などに活用したい。

  4. 水素燃焼用触媒材料の調査と触媒燃焼システムの検討
     水素の触媒燃焼では、触媒材料と反応条件の最適化により室温から1000℃までの幅広い温度において燃焼速度を制御できる可能性があることが示された。また、その特長を生かした有力な利用法の一つとして、等温膨張燃焼を行うことで比較的低い燃焼温度でも高効率が得られるガスタービンのアイデアが示された。この等温膨張燃焼ガスタービンは、水素利用技術として大きな可能性を秘めており、今後、ガスタービンの具体的なシステムイメージを明確にするとともに、等温膨張燃焼の実現可能性など、さらに検討する必要がある。

  5. 水溶液合成法による高温水蒸気電解/固体酸化物型燃料電池セル作製の技術的・経済的評価
     可能性を秘めた技術ではあるが、水溶液中から電解質材料や電極材料が合成できたとはいうものの、現状では粒子が析出し薄膜ができかけた段階である。さらに、常温の水溶液中でできた膜を実際に高温で使用するためには、収縮・変形・亀裂等の解決すべき課題も考えられる。当面はWE-NETプロジェクトでは取り上げず、研究開発動向の情報収集にとどめる。

9.2.3 新規開発分野・項目の検討

 これまでの調査・研究により得られた新技術の動向を踏まえて、WE-NETプロジェクトに反映すべき有望技術を検討し、第U期に基礎研究に着手すべき課題の候補として以下の二つを選定した(課題の最終決定は第U期初年度に実施予定)。

  1. 磁気冷凍による水素液化
  2. 触媒燃焼ガスタービン
9.3 今後の研究開発課題

 関連技術の動向を常に監視し、その中からWE-NETプロジェクトを有益に開発するものとして取り込みが必要になる可能性のある新技術を抽出、検討、評価することにより、磁気冷凍による水素液化などの有望なシーズを発掘するとともに、水素の将来見通しを立てる上で有益な情報をプロジェクトへ提供することができ、第 I 期における本研究の目標はほぼ達成できた。
 今後ともWE-NETプロジェクトの有効性を保つためには、引き続き関連技術の動向を常に監視していく必要がある。



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