WE-NET

<第I期研究開発の概要>

 本プロジェクトは、通商産業省工業技術院のニューサンシャイン計画の一環である「水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET)」研究開発として、新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、当機構と略す。)が平成5年度より実施してきたものである。
 本研究開発の全体構想は、19932020年までの28年間をI〜III期に区分して研究開発を行うものであるが、第I期基本計画では、国際エネルギーネットワークの導入を可能とする技術の確立を目指して、トータルシステムの概念設計を行うとともに、中核的要素技術を開発することを目的としている。
 以下に第I期研究開発基本計画を掲げるとともに、具体的な研究開発体制及び実施方法を示す。なお、本プロジェクトの当初の基本計画は、平成5年に策定されたが、平成8年3月に、研究開発の進捗状況等を踏まえて、産業技術審議会エネルギー・環境技術部会での審議を経て基本計画の改訂が行われた。
 基本計画の主要な改訂点は、次のとおりである。

(1) 研究開発期間等の変更
 当初の基本計画では、基本構想の研究開発期間(第I〜第III期)を平成5年度から28年間、第I期研究開発期間を4年間としていたが、基本計画は第I期について定めることとし、第I期を6年間とした(第I期を2年間延長)。

(2) 研究開発目標の設定
 水素製造技術、発電用水素−酸素燃焼タービン、水素吸蔵合金について研究開発目標をより具体的に設定した。

(3) 利用技術の研究開発項目の見直し
 水素の大規模利用技術(発電用タービン)に加えて、その他の有望な利用技術についても要素技術開発等を行うこととした。


<研究開発基本計画>

水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE−NET)

第I期研究開発基本計画

平成5年3月22日策定
平成8年3月22日改訂
工業技術院

1.研究開発期間:平成5年度〜平成10年度(6年間)

2.研究開発費総額:約100億円

3.研究開発の目的

 地球上に豊富に存在する水力、太陽光、風力等のクリーンな再生可能エネルギーの大規模・有効な利用により、地球環境問題の解決に寄与するとともに、エネルギー需給を緩和するため、これらエネルギーから水素を製造し、必要に応じ転換し、輸送・貯蔵し、発電、輸送用燃料、都市ガス等の広範な分野で利用する国際エネルギーネットワークの導入を可能とする技術の確立を目指し、トータルシステムの概念設計を行うとともに、中核的要素技術を開発することを目的とする。

4.研究開発内容及び目標

 上記の目的を達成するため、以下の研究開発を行う。なお、定量的目標については、技術的観点を中心に設定しているが、経済的観点も含めた目標設定について、検討を進める。

1)全体システム

(a) 概念設計
・水素製造、水素輸送・貯蔵、水素利用にわたる全体システムの概念設計を、水素を含む各種輸送媒体について行う。また、これらを二酸化炭素排出削減等地球環境保全効果、エネルギー効率、経済性、技術的可能性、安全性等の観点から評価し、最適輸送媒体を選定する。
(2) 安全対策
・水素の安全性に関する調査研究を行い、安全確保のための技術開発課題を抽出する。

(c) その他
・本プロジェクトに関連する国際的情報交流を推進するとともに、国際協力に発展させていくための方策を検討する。
・水素エネルギーの社会への導入効果を推定する。
・後述(2)〜(4)の各研究開発項目との間の調整等を行うとともに、(2)〜(5) の成果を評価し、全体システムの最適化に資する。

(2)水素製造技術

・固体高分子電解質水電解法に関する技術開発を行い、電流密度1A/cm2以上、エネルギー効率90%程度を維持しつつ、電極面積2,500cm2のセルを実現する。 その際、電解質膜、給電体、触媒電極をはじめとする電解槽構成要素の材料、構造、製造方式等について最適化を図る。

(3)水素輸送・貯蔵技術

(a) 大量輸送・貯蔵技術

・水素液化システム及び液体水素輸送・貯蔵システムについて、概念設計及び要素研究を行う。
・低温材料について、候補材料の液体水素温度雰囲気下の特性試験を行い、データベースを作成するとともに、使用条件に応じた材料の適性を明らかにする。

(b) 分散貯蔵・輸送技術

・定置式設備及び移動体への適用を目的とし、有効水素吸蔵量3重量%以上、放出温度100℃以下、5,000サイクル時の吸蔵能力が初期の90%以上である水素吸蔵合金を探索する。

(4)水素利用技術

(a) 水素燃焼タービン
・発電用水素−酸素燃焼タービンに関する調査研究及び要素技術開発を行い、タービン入口温度1700℃の下で、発電端効率60%以上(高位発熱量基準)を達成し得る最適なサイクル、燃焼制御方式及びタービン翼冷却構造を決定する。
・補機類に関する調査及び概念設計を行う。
・タービン入口温度2000℃を目標に、超高温材料に関する基礎研究を行う。

(b) その他の利用技術
・上記 (a) 以外の水素利用技術に関する調査研究を行い、有望な利用技術については概念設計及び要素技術開発を行う。

(5)革新的・先導的技術
 水素製造、水素輸送・貯蔵及び水素利用に係る技術のうち、上記(2)〜(4)以外の革新的・先導的技術についても併行的に調査及び基礎研究を行い、有望な技術を抽出する。

5.研究開発の進め方

(1)国際協力の促進
 本研究開発は、水素エネルギーに関する広範な調査研究及び技術開発を含む総合的プロジェクトであり、また、本構想の実現には、世界的規模での取り組みが不可欠である。
 このため、本分野に関して高い研究開発能力を有する内外の機関を参集し、効率的な推進を図るとともに、成果の内外への公表、関連研究機関との交流を推進し、当該分野における中核的役割を担うことを目指す。
 また、国際機関、二国間等の国際的な場において、本プロジェクトへの参加及びその際の費用・役割分担、また同様の国際プロジェクト間の役割分担等の議論も含め、世界的規模の水素利用国際クリーンエネルギーネットワーク構築について積極的に提唱していく。

(2)国内における協力の促進
 国内にあっては、産学官の十分な連携を図り、大学及び国立試験研究機関の高度な研究能力を活用するとともに、産業界への技術移転を促進する。

(3)研究開発の方式
・中核的技術については、同一課題について複数の方式を同時並行して実施させることにより、研究開発を促進する。

(4)成果の評価
・得られた研究開発成果のうち、特に中核的技術については、国立研究機関の能力も活用しつつ厳正に評価し、優れた技術を選択する。
・平成10年度には、成果を総合的に評価し、その結果に基づいて次期計画について検討する。また、必要に応じ中間評価を行い、研究開発計画を見直す。


(参考)水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET)

<研究開発体制及び実施方法>

(1)研究開発体制

(I) 予算額の推移
 本プロジェクトは、平成5年度より、通商産業省からの補助金を受けて当機構が実施している。以下に平成5〜8年度の予算額の推移を示す。

WE−NET予算額の推移 (単位:百万円)

年度
予算額
256
862
1090
1565

(II) 委託研究開発

本プロジェクトの研究開発については、原則、研究項目毎に当機構から以下の機関に委託して実施している。現時点における研究開発体制を下に示す。研究項目は大きくの5つに分かれるが、実施に当たっては分野別に9つのサブタスクに分けて、各々学識経験者等から構成される委員会を設け、実際の研究開発内容の方向付けや成果の技術的な評価について審議・検討を行っている。

・サブタスク1−(財)エネルギー総合工学研究所
・サブタスク2−(財)エンジニアリング振興協会
・サブタスク3−電源開発(株)、(財)電力中央研究所、ロンドンリサーチ/インペリアルカレッジ、(財)エネルギー総合工学研究所
・サブタスク4−(財)エンジニアリング振興協会
・サブタスク5−(財)エンジニアリング振興協会
・サブタスク6−(財)金属系材料研究開発センター
・サブタスク7−(財)エンジニアリング振興協会
・サブタスク8−(財)電力中央研究所、(財)発電設備技術検査協会
・サブタスク9−(財)エネルギー総合工学研究所

(2)実施方法(各サブタスク概要)

 本プロジェクトの実施方法の特徴を列記すると以下の4点となる。

 第1は、本プロジェクトの内容がプロジェクトの性格上、多種・多様な技術から構成されており、プロジェクトフォーミングを行いながら進める必要があることからプロジェクト全体の調整・舵取りを行うための部門(サブタスク1)を設けていることである。第2は、WE−NETの全体構想において国際協力が不可欠とされることから、これを円滑に進めるための国際協力部門(サブタスク2)を設けている点である。第3は、現在開発対象としていない革新的・先導的技術であっても有望なものについては迅速に抽出できるような検討の場(サブタスク9)を設けていることである。第4は、国立研究所との協力体制であり、主要な分野については関連研究所と共同研究を行い、国立研究所の知見、能力をフルに活用しつつ進めている点である。 以下に各サブタスクの概要を記す。

1. サブタスク1−総合評価と開発計画のための調査・研究
 水素製造、水素輸送・貯蔵技術、水素燃焼タービンを含む水素利用等の各システムを構成する個別技術開発についてプロジェクト全体の恒常的な総合調整、開発成果の総合評価及び開発計画最適化のための検討を行う。合わせて内外の技術開発動向を調査し、今後のプロジェクトに反映させる。

2. サブタスク2−国際協力推進のための調査・検討
 世界的規模のシステムを目指して国際機関、関係各国との定期的情報交換等を行うとともに国際的共同研究として発展させていくための進め方・方策等の検討を行う。

3. サブタスク3−全体システム概念設計
 再生可能エネルギー利用発電設備、水素製造設備、輸送媒体製造設備、貯蔵設備、輸送設備、水素燃焼タービンから構成される全体システムの概念設計を行い、技術的・経済的評価を実施する。また、世界的規模、一国規模等での水素エネルギー導入効果を推定する。さらに全体システムから見た安全対策・安全評価技術開発を行う。

4. サブタスク4−水素製造技術の開発
 高効率化・高密度化が期待できる固体高分子電解質水電解法について、大規模化、長寿命化を達成させるために必要な調査を行い、固体高分子電解質膜(イオン交換膜)、陽・陰極触媒、電解槽部品の材質等の要素技術開発を行う。

5. サブタスク5−水素輸送・貯蔵技術の開発
 液体水素製造技術、輸送・貯蔵技術等に関する以下の項目について、必要な調査、基礎的研究及び要素技術開発等を行い、長距離海上輸送及び分散輸送・貯蔵のための最適システム決定に必要な知見を得る。
(a)大型水素液化設備の開発
(b)液体水素輸送タンカーの開発
(c)液体水素貯蔵設備の開発
(d)各種共通機器類の開発
(e)分散輸送・貯蔵用水素吸蔵合金の開発

6. サブタスク6−低温材料技術の開発
 現状において液体水素温度領域(20K)における構造材料の靱性、疲労及びセレーションに関するデータが殆どないため、各種既存材料を調査し有望な材料について基礎データの取得を行う。また、必要に応じ新規材料開発も行うこととし、液体水素条件で使用できる構造材料とその適正溶接法を検討し、併せて上記D水素輸送・貯蔵技術の開発に関する材料側からの要求条件を決定する。

7. サブタスク7−水素利用技術に関する調査・検討
 将来における水素エネルギーの利用技術及び需要量について、電力用、産業用、輸送用、民生用の分野毎に、水素ガス、液体水素、メタノール等の化学媒体等の各利用形態別に調査・検討、利用技術の提案を行い、各技術の得失を明確にするとともに、開発課題を抽出する。また、検討した各水素利用技術について、必要に応じ要素技術開発を行う。

8. サブタスク8−水素燃焼タービンの開発
 水素利用技術の一つとして、画期的高効率が期待できる水素燃焼タービンについて、以下の項目について必要な調査、要素技術開発等を行い、パイロットプラント開発のために必要な技術を確立する。

(a)水素燃焼タービン最適システムの評価
(b)燃焼制御技術開発
(c)タービン翼、ロータ等主要構成機器の開発
(d)主要補機類の開発
(e)超高温材料の開発

9. サブタスク9−革新的・先導的技術に関する調査・研究
 第I期の研究開発の対象外であるが、将来的には、新たな有望技術が構成技術として適用できる可能性がある。従って、有望と思われる革新的・先導的技術、在来型技術についても調査・検討・評価を行い、必要に応じて基礎研究を行うことにより、有望技術を本プロジェクトに反映させることとしている。



Copyright(C) 1998-2003 New Energy and Industrial Technology Development Organization