WE-NET

<第II期研究開発の概要>


 我が国は化石燃料の枯渇と地球環境に対する不安から、ここ20年間程の間に新エネルギーの開発を精力的に進めてきた。
 その中で通商産業省工業技術院(当時、現在は経済産業省)は、平成4年にニューサンシャイン計画の一環として水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE−NET)計画を提案した。
 本プロジェクトは世界的に遍在する再生可能エネルギーを利用して水から水素を製造し、これを輸送可能な媒体に変換して輸送し、エネルギー多消費地域に供給することにより、世界的な規模でエネルギーの有効利用を図ろうとするものである。
 WE−NET計画が実現し、世界的に普及されれば世界の炭酸ガスの発生量が低減されると共に、国際的なエネルギー需給が緩和され、さらに再生可能エネルギー保有国に新たなエネルギー生産、輸出産業の育成を促すことにもなる。
第U期の研究開発は、平成11年度から開始され、前述の大規模な水素利用を念頭に置いた研究開発から、小規模分散型の利用技術開発に重点を置くことになった。さらにその後の燃料電池技術の急速な進展から平成13年度より「固体高分子形燃料電池/水素利用プログラム」の1つのプロジェクトとして進めていくことになった。

1. 研究開発の目的、期間
 水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE−NET)は、地球上に豊富に存在する水力、太陽光、風力等のクリーンな再生可能エネルギーの大規模・有効な利用により、地球環境問題の解決に寄与するとともに、エネルギー需給を緩和するために、これらエネルギーから水素を製造し、必要に応じ転換し、輸送・貯蔵し、発電、輸送用燃料、都市ガス等の広範な分野で利用する国際エネルギーネットワークの導入を可能とする技術の確立を目指し、水素エネルギーシステムの全体概念設計及び中核的要素技術の開発を実施することを目的としている。
 平成5年度から6年間の第T期計画においては、調査研究、基礎研究及び要素技術研究を行うことにより、実用化に長期を要す大規模な水素製造技術、水素輸送・貯蔵時術、水素利用技術に関する基礎的技術の確立を図り、実証試験のために必要な基盤を充実させた。
 平成11年度から5年間の予定で開始された第U期計画においては、当初計画を堅持しつつ、水素エネルギーの段階的導入を図るため、短期・中期で実用化を目指す水素自動車システム、水素供給ステーション、自動車用水素貯蔵材料、純水素供給固体高分子型燃料電池及び水素ディーゼルエンジンの開発を盛り込み研究を推進してきた。なお、第U期研究開発は平成15年度までの予定であったが、1年前倒しで平成14年度に終了し、新たなプロジェクトである「水素安全利用等基盤技術開発」にとってかわることになった。WE−NETの10年間にわたる成果は、この新しいプロジェクトに反映されることになる。

2. 開発目標
 第II期における研究開発は以下の12のタスクに分けて実施している。なお、( )内は、水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE−NET)第U期研究開発基本計画に記述された研究開発項目の名称である。

2.1 タスク1 システム評価に関する調査・開発 (システム研究)
 WE−NET研究計画を合理的に効率良く、しかも体系的に推進する上で、再生可能エネルギーとともに、化石燃料等から製造される水素も前提とした種々の水素利用システムのエネルギー効率、環境性及び経済性を評価し、水素導入のための戦略を検討する。更に、12タスクの各研究開発項目間の調整等を行い、研究開発の統一的推進を図る。

2.2 タスク2 安全対策に関する調査・研究 (システム研究)
水素の拡散及び爆燃等の実験による検証を基に、安全評価手法を確立する。また、予備的な安全評価を実施し、結果に基づき、安全設計指針の検討を行う。

2.3 タスク3 国際協力に関する調査・研究 (システム研究)
 WE−NETと深く関連した水素エネルギー技術の標準化研究等に係る国際的な研究協力及び当該研究計画を効率良く行うため、国際的な情報交流を推進する。

2.4 タスク4 動力発生技術の開発 (水素利用技術)
 環境影響物質無排出、送電端効率40%程度(高位発熱量基準)及び総合効率85%以上(高位発熱量基準)を達成しうるコージェネレーション用の、単筒機で100kW級水素ディーゼルエンジンを開発する。また、100kW級ディーゼル単筒機の開発・連続運転試験を実施し、実用化のための研究開発課題を抽出する。

2.5 タスク5 水素燃料タンクシステムの開発 (水素利用技術)
 水素供給ステーションからの供給を考慮した水素燃料電池自動車の燃料系システムの要素技術開発を行う。また、水素供給ステーションと組み合わせた水素自動車走行システムの技術検証が平成13年度後半に行えるよう計画を実施する。

2.6 タスク6 純水素供給固体高分子型燃料電池の開発 (水素利用技術)
 送電端効率45%程度(高位発熱量基準、低位発熱量基準で50%程度)を達成しうる純水素燃料に適合した燃料電池発電システムの要素技術を確立し、定置用30〜50kW級発電システムの実証を行う。

2.7 タスク7 水素供給ステーションの開発 (水素利用技術)
 水素燃料電池自動車への燃料供給を目的としたスタンドアローンタイプの水素供給ステーションの要素技術及びシステム化技術を確立するため、実用規模の水素供給能力の10分の1程度に相当する30Nm3/時の小規模試験システムの開発、実証を行う。

2.7AB タスク7AB 水素供給ステーションの開発 (水素利用技術)
 水素供給ステーションの外部から水素を運び入れ、これを水素供給ステーションに貯蔵し、水素燃料電池自動車へ供給するシステム(オフサイト方式)の開発、実証を行う。

2.8 タスク8 水素製造技術の開発 (水素製造技術)
 固体高分子電解質水電解法に関する技術開発を行い、電流密度1A/cm2以上、エネルギー変換効率90%以上の性能を有する電極面積2500cm2の積層化電解槽を実現する。また、既存材料と同等以上の性能を有する耐高温固体高分子電解質膜を開発する。ここで、水素供給ステーションの研究開発と連携して、小規模水素製造システム(電極面積1000cm2、積層型)の開発を行う。

2.9 タスク9 水素輸送・貯蔵技術の開発 (水素輸送・貯蔵技術)
液体水素の輸送及び貯蔵に共通する断熱構造の開発を行うとともに、液体水素ポンプの要素技術開発、液化用水素圧縮機等の概念設計を実施する。

2.10 タスク10 低温材料の開発 (水素輸送・貯蔵技術)
液体水素雰囲気下での材料特性試験を行うとともに、最適溶接材料及び最適溶接法に係る要素技術開発を実施する。また、材料特性データベースの拡充を図る。

2.11 タスク11 水素貯蔵材料の開発  (水素輸送・貯蔵技術)
・移動体及び定置式設備への適用を目的として、有効水素吸蔵量3mass%以上、放出温度100℃以下、5000サイクル時の吸蔵能力が初期の90%以上である水素吸蔵合金の開発を行う。
・カーボン系などの水素貯蔵材料の探索を実施する。

2.12 タスク12 革新的・先導的技術に関する調査・研究 (革新的・先導的技術)
 水素利用、水素製造、水素輸送・貯蔵に係る技術のうち、上記タスク1〜11以外の革新的・先導的技術について並行的に調査及び基礎研究を行う。


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