各サブタスクの平成6年度の成果概要


5.3 液体水素貯蔵設備の開発

 液体水素貯蔵設傭の開発は、貯蔵設備全体システム設計と貯蔵設備の研究に大別され、本年度(6年度)は、「貯蔵設備全体システム設計」では現状技術の調査として、(1)類似大型貯蔵システム、(2)既存液体水素貯蔵システム、(3)地下式貯蔵タンクの周辺技術、(4)岩盤貯蔵タンクを対象に調査を実施し、基本システムフローの検討として大量貯蔵システムを対象にシステムの初期検討を実施した。また、「貯蔵設備の研究」では断熱材・断熱構造の調査として、(1)類似大型低温貯槽、(2)既存液体水素貯槽、(3)関連文献等を対象に調査を、概念設計として断熱構造4タイプについて初期検討を実施した。
 これらの概要をそれぞれ下記に示す。

5.3.1 貯蔵設備全体システム設計

(1) 現状技術の検討

  1. 類似大型貯蔵システムの調査
     昨年度は国内のLNG受入れ基地を対象として貯蔵システムを調査した。今年度は海外のLNG受入れ基地を対象に、出荷設備、気化設備、BOG処理設備、BOG再液化設備、ガス返送設備、排出ガス処理設備、保安設備、不活性ガス製造設備の各項目について調査した。これに基づいて典型的な基地フローを作成し、また各基地の機器配置図を作成して液体水素貯蔵基地検討の参考とした。
     調査結果を日本国内の基地と比較するとBOG再液化設備を設置している基地が多いこと、タンカーからの液受入れに際して一部の基地では貯蔵タンクの圧力でガスをタンカーに返送していることが特徴的であり、その他の設備は国内と変わりないことが判った。
     さらに、液体水素貯蔵基地へ適用する場合の課題を抽出した。LNGに比べ低温であるために開発すべき機器(ローデングアーム、気化器、低温圧縮機、水素ポンプ等)が多い。

  2. 既存液体水素貯蔵システムの調査
     既設の液体水素貯蔵システムでは、貯槽からの液送出はガス押し出し方式が採用されている。したがって、貯槽設計圧力は5または7kgf/cm2のものが多い。この形式の貯槽を大型化すると、内外槽共に板厚が増加する。一方、板厚は素材・加工・溶接・現地X線検査を考慮すると、実用上50mmが最大である。したがって、内圧を5kgf/cm2とすると、最大容量は16,000m3になる。

  3. 地下式貯蔵タンクの周辺技術の調査
     地下式貯蔵は耐震性に優れた形式であり、かつ液の漏洩に対し安全なことから、液体水奉の大量貯蔵には、その超低温性と保安・安全性の確保から地下式貯蔵方式が有望である。平成5年度では、貯蔵構造構成部材であるコンクリート、鉄筋、鉄筋コンクリートの低温特性および凍結土制御、とくに地盤の熱特性、凍結土圧に関する文献調査を行った。平成6年度は、液体水素貯蔵への適応性の基礎資料とするために、LNG地下貯蔵設備の構造構成部材および貯槽周辺基盤の凍結土制御について、国内外での実績調査を行った。
     その結果、超低温用鉄筋コンクリート、PCコンクリートおよび構成部材としてのコンクリート、鉄筋、PC鋼材の低温特性は、LNGを対象として−160℃までの温度を想定しているのが現状である。地震などによる万一の漏液時における性能を確保するために、−250℃レベルでのコンクリート構成部材の超低温特性の確認が必要とされる。
     また、凍結土の持つ力学特性を利用した凍結工法は、かなりの地下工事で利用され、その有用性が証明されている。地下式貯蔵タンクに対しては、凍結制御管理が必要とされる。
     液体水素地下式貯蔵タンク開発に必要となる研究開発項目として、1)−250℃における実験装置、計測、実験手法の研究開発、2)コンクリート構造構成部材の改良および新規材料の開発、3)軟岩、硬岩に関する凍結性状の実験的研究、4)凍結土の利用範囲拡大の研究を挙げた。

  4. 岩盤貯蔵タンクの調査
     液体水素の岩盤貯蔵方式の概念設計に必要な知見を得ることを目的として、平成5年度に引き続き、低温液化ガス岩盤貯蔵および岩石の低温下での力学物性や熱物性の研究などに関して文献調査を行った。
     地下式の低温液化ガス貯蔵の現状としては、粘土層ではLNGの地下貯蔵試験が成功しており、岩盤ではLPGの貯蔵が実用化されているもののLNGでの成功事例はない。これは岩盤が冷却されると収縮し、岩盤中に亀裂が発生してLNGが流出するためボイルオフガスが大量に発生することによる。これを防止するため、スウェーデンなどでは断熱材やグラウトカーテンの研究が行われている。我国では、大規模な粘土層が広く賦存していないので、液体水素貯蔵タンクを建設する地山は、あくまでも岩盤を前提とすべきである。
     岩石の低温物性については、LNG岩盤貯蔵を当面の目標としているため−180℃までは研究されているが、それ以下の温度領域での研究は見られない。したがって、液体水素温度領域における岩石の低温物性の解明が重要な研究開発課題である。
(2) 大量貯蔵での基本システムフローの検討
 液体水素貯蔵設備のシステムフローを構築するため、貯蔵基地の規模想定と基本フローについて検討した。貯蔵基地としては、(1) 液化基地隣接の貯蔵基地、(2) 発電所隣接の貯蔵基地の2種類の基地を対象に以下の検討を実施した。
  • 液化基地、発電所、水素タンカーとのインターフェースを調査・整理し、貯蔵基地の規模と検討条件を設定した。
  • 基地の概略配置を想定した。
  • 設定条件下における基地全体の熱・物質収支表を作成した。
  • 貯蔵基地を構成する各ユニットの機能を定義した。
  • 熱・物質収支検討結果より、各ユニットの容量を想定した。
 次年度は、引き続いて他サブタスクの進捗に合わせてインターフェース条件をフォローするとともに、貯蔵基地基本フローを各ユニット毎のフローに展開し、個々のユニットの詳細仕様を検討する予定である。

5.3.2 貯蔵設備の研究

(1) 断熱材・断熱構造の調査

  1. 類似大型低温貯槽の形式および断熱構造の調査
     類似大型低温貯槽として、低温地上式平底円筒貯槽、低温地下式貯槽、および超電導エネルギー貯蔵の断熱構造をアンケート、文献により調査した。前年度の一般部の断熱構造の調査に引き続き今年度は低温地上式平底円筒貯槽、低温地下式貯槽の貫通部(ノズル)および内槽固定部(アンカ等)の断熱構造を調査した。
     LNG地上式貯槽のノズルは、強度的に内槽で支持され、外槽との接続部はベローズによりシール性を保つ構造である。断熱材はノズルの変形吸収のため、グラスウールを主材料としている。
     LNG地下式貯槽のノズルは、強度的に外槽屋根で支持されている。断熱材は硬質ウレタンフォームを使用している。
     LNG地下式貯槽コーナー部の保冷構造は、メンブレン構造と密接な関連があるため、メンブレン形式により分類される。
     LNG地下式貯槽ポンプバレル下部サポートには大きな力が作用するため、直接コンクリート躯体にアンカする構造が使用されている。
     本調査により類似大型低温貯槽の形式、断熱構造に対して一通りの知見を得ることができた。LNGを対象とした断熱構造をそのまま液体水素に対して適用することは困難であり、液体水素温度以下の流体を対象とした断熱構造の調査研究が必要である。

  2. 既存液体水素貯槽の実績調査
     前年度は比較的容量の大きな液体水素貯槽の実績概要および断熱構造について、アンケートおよび文献調査等を実施し、既設の液体水素貯槽の容量は国内では種子島宇宙センターの540m3、海外では米国のNASA.J.F.Kennedy S.C. の3,218m3が最大であり、その断熱構造は、パーライト真空断熱方式が採用されていることが判明した。
     本年度は、液体水素貯槽で採用されているパーライト真空断熱および積層真空断熱の断熱材および施工性について調査した。
     その結果、パーライト真空断熱式貯槽は敷地に自由度がある、断熱性能が比較的安定している、施工性に優れているなどの理由で大型貯槽に採用されており、積層真空断熱式貯槽は貯槽空間の有効利用が図れる。断熱材の重量が少なく熱容量を小さくできる等の理由で比較的小型の貯槽に採用されている。これらの施工に際しては高真空度を確保するため、断熱材の吸湿を防ぐ目的で断熱材(パーライト)の断熱層への直接充填方法や空調された部屋での断熱施工方法(積層断熱材の貯槽への取付け)などを取り入れ実施している。
     しかし、WE−NET計画で目指している大型液体水素貯槽では、これら断熱実績の他にも内槽部(貯液部)の断熱支持構造等の要素技術の開発が必要である。

  3. 断熱材・断熱構造に関する文献調査
     これまでに研究された断熱技術を整理し、大中規模液体水素貯槽の開発に処することを目的に、低温、極低温分野における断熱材・断熱構造に関する文献等調査をおこなった。
     平成5年度および6年度を通じて、非真空断熱/粉末真空断熱/積層真空断熱/その他の真空断熱および断熱支持部材の材料、構造に分類して本調査を行うとともに、平成6年度は本研究開発に供する断熱材・断熱構造性能試験装置についても調査した。
     その結果、各種断熱方法で適用される断熱材および支持材の熱伝導率、機械的強度等の温度20Kレベルにおける性能がほぼ把握できたと共に、各種断熱方法における断熱構造および支持構造について多くの知見が得られた。また、断熱材・断熱構造の性能試験装置として、主に熱伝導率などの熱的特性を求めるための各種試験装置について把握することができた。ただし、全体的に研究の対象が大型陸上貯槽に向けられたものではなく、その多くが液体水素ロケットなどの宇宙関連と超電導クライオスタット関連となっている。
     したがって、大中規模液体水素貯槽の開発のために調査した文献等を参考にするに際しては、その点を十分に配慮する必要がある。
     調査結果は、調査文献毎に要約書を作成し、平成5年度および6年度を通じて得られた知見を各分類毎に整理した。
(2) 概念設計
 インターフェース条件に基づき貯槽の内容積を50,000KL、圧力を0.2kgf/cm2Gとし断熱性能目標値をLNGと同程度の0.1%/日に設定した。断熱構造を主眼に貯槽形式を分類して概念設計を実施し、技術課題を抽出した。
  1. タイプ1
     粉末真空断熱を用いた平底円筒貯槽および球形貯槽の概念設計を実施した。平底円筒貯槽の底部断熱材は載荷力のあるマイクロスフエアとしたが、この材料は設計データが不足しているので、今後、実験での検証が必要である。

  2. タイプ2
     固体断熱材を使った真空断熱方式による平底円筒貯槽の概念設計を実施した。
     LNGに比べて一桁上の断熱性能が必要なことから現状の断熱材料の特性を調査し、この結果をもとに新しい断熱構造を考案して貯槽の断熱性能を求めた。
     まず、侵入熱を少なくする貯槽形状のパラメータスタデイを行い、最適な寸法を求めた。また真空貯槽の強度検討を行って構造的にも実現可能であるとの見通しを得た。
     最も重要な断熱構造については、当初の目標値0.1%/日を満たす方法として
    1. 固体断熱材(ウレタン等)+真空断熱
    2. ウレタンの表面に金属メンブレンを張る方法
    3. 真空パネルによる断熱
     について検討し、それぞれの方式の特徴、課題を抽出した。
     さらに断熱性能を向上させるため断熱シールドを使用する方法を考案し、熱解析を行って大幅な性能向上が可能なことを確認した。
     今後は、上記断熱方法を各方面から評価し、貯槽構造と合わせ最適な方法を求めることが課題である。

  3. タイプ3
     メンブレン形式の液体水素貯槽の概念設計を行った。断熱形式として真空断熱、常圧断熱の2形式を検討した。
     メンブレンは熱収縮を吸収しながら液密、気密性を保持するステンレス製薄膜であり、主にLNG地下式貯槽に採用されている。液体水素貯槽に適用した場合のメンブレンの設計条件および強度評価方法を明らかにした。
     真空断熱方式では、断熱方法として積層真空断熱を採用し、GFRP(glass fiberre inforced plastic、ガラス繊維強化プラスチック)製円筒支持柱を断熱支持材とした。積層材180層、断熱層の厚さ650mmで、BORは0.093%/日であった。
     常圧断熱方式では、常圧PUFを断熱材料および支持材として採用した。PUF (po1yurethane foam、硬質ウレタンフォーム)は常温側を窒素封入、低温側をヘリウム封入とした。また、2層間にメンブレンを設けてヘリウムガスの気密性を保持する構造とした。ヘリウム封入PUF厚さ2,500mm、窒素封入PUF厚さ3,900mmの場合、BORは0.099%/日であった。
     課題は、共通事項としてメンブレンのシール性、極低温における強度、真空断熱貯槽に対して積層材の断熱性能、施工性、真空立ち上げ方法、常圧断熱貯槽に対してヘリウム封入PUFの断熱性能、ヘリウムガスの置換法、PUFのクリープの影響が挙げられる。

  4. タイプ4
     粉体断熱材を用いた常圧断熱方式による平底円筒貯槽および球形貯槽の概念設計を実施した。なお、現実的な断熱層厚さにて所定の断熱性能を得るために、断熱空間にシールドを設けるものとし、密閉シールドタイプと開放シールドタイプについて検討した。
     各貯槽形式とシールドタイプにおいて保冷厚さのパラメータスタデイを行い最適な寸法を設定し、強度設計上も実現しうる寸法を得た。ただし、他の真空断熱方法に比べ断熱厚さはかなり大きいものとならざるを得なかった。
     常圧断熱のため、断熱空間に封入するガスは内槽に接する側は液体水素温度においても液化しないガスとするにはヘリウムガスしか使用できないが、密閉シールドタイプでは外側の断熱空間には窒素ガスが使用できる優位性があるなどの特徴と課題を抽出した。



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