概要


 水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE−NET)は、水力、太陽光地熱、風力等の再生可能エネルギーを利用して、水素を製造し、輸送に適した形に転換した後、輸送・貯蔵し、発電・輸送用燃料・都市ガス等の広範な分野で利用する水素利用国際クリーンエネルギーネットワークの世界的導入を可能とし得る技術の確立を最終目標とするものであり、2020年までの28年間を3期に区分して実施する。
 第I期においては、必要な調査研究、基礎的研究及び要素技術研究等を行うことにより、水素製造技術、水素輸送・貯蔵技術、水素利用技術に関する基礎的技術の確立を図り、全体システムの最適化設計に必要な情報を得るとともに、パイロットプラントの設計・製造に必要な技術を確立することとする。また、将来的に採用可能となる技術についての調査を併行して行うことにより、各研究開発項目に適宜反映させることとする。
 なお、第I期計画の実施期間中に生じた結果を十分に折り込みつつ、第U期の計画を具体化することとする。
 図−1にWE−NETの概念図を示す。


1. 開発目標
 第I期における研究開発は、以下の9つのサブタスクに分けて実施する。

1.1 サブタスク1 総合評価と開発計画のための調査・研究
 WE−NETの水素製造、水素輸送・貯蔵技術、水素燃焼タービンを含む水素利用技術等の各システムを構成する個別技術開発についてプロジェクト全体の恒常的な総合調整、開発成果の総合評価及び開発計画最適化のための検討を行う。合わせて内外の技術開発動向を調査し、今後のプロジェクトに反映させる。

1.2 サブタスク2 国際協力推進のための調査・検討
 世界的規模のシステムを目指して国際機関、関係各国との定期的情報交換等を行うと共に、国際的共同研究として発展させていくための進め方・方策等の検討を行う。

1.3 サブタスク3 全体システム概念設計
 再生可能エネルギー利用発電設備、水素製造設備、輸送媒体製設備、貯蔵設備、輸送設備、水素利用設備から構成される全体システムの概念設計を行い、技術的・経済的評価を実施する。また、世界的規模及び一国規模での水素エネルギー導入による効果を推定する。さらにWE−NETシステム全体からみた安全対策・安全評価技術の開発を行う。

1.4 サブタスク4 水素製造技術の開発
 高効率化・高電流密度化が期待できる固体高分子電解質水電解法について、大規模化、長寿命化を達成させるために必要な調査を行い、固体高分子電解質(イオン交換膜)、陽・陰極触媒、電解槽部品の材質等の要素技術開発並びにベンチスケールテストを行い、パイロットプラント開発のために必要な技術を確立する。

1.5 サブタスク5 水素輸送・貯蔵技術の開発
 水素輸送媒体として液体水素は、国内外において技術開発に着手されておらず、W−NETの柱となる主要技術開発項目であること、かつ大量に輸送できること、変換技術が単純なこと、消費地で利用する際に便利である等といった点が挙げられる。これらのことから第I期においては、近未来技術として液体水素を対象に研究開発を行うものとする。
 なお、研究開発・実用化の状況を勘案して他の水素輸送媒体については、全体システム概念設計(サブタスク3)で検討するものとする。
 このため、液体水素製造技術、輸送・貯蔵技術等に関する以下の項目について必要な調査、基礎的研究及び要素技術開発等を行い、長距離海上輸送及び分散貯蔵・輸送のための最適システム決定に必要な知見を得る。

 (1)大型水素液化設備の開発
 (2)液体水素輸送タンカーの開発
 (3)液体水素貯蔵設備の開発
 (4)各種共通機器類の開発
 (5)分散輸送・貯蔵用水素吸蔵合金の開発

1.6 サブタスク6 低温材料技術の開発
 既存材料について、液体水素温度領域での靱性、疲労及びセレーションに関する基礎データの取得を行うとともに、水素脆性に対する特性のよい材料の選定もしくは必要に応じ新規材料開発を行うことにより、液体水素条件で使用できる構造材料の開発及びその適正溶接法に関する開発の見通しを得る。また、上記の水素輸送・貯蔵技術の開発(サブタスク5)に関する材料側からの要求条件を決定する。

1.7 サブタスク7 水素利用技術に関する調査・検討
 将来における水素エネルギーの利用技術及び需要量について、電力用、産業用、輸送用、民生用の分野毎に、水素ガス、液体水素、メタノール等の化学媒体等の各利用形態別に調査・検討、利用技術の提案を行い、各技術の得失を明確にするとともに、水素利用技術の開発課題を抽出する。また、液体水素の冷熱利用技術に関する調査を行い、冷熱利用技術に関する評価を行う。

1.8 サブタスク8 水素燃焼タービンの開発
 水素利用技術のひとつとして、画期的高効率が期待できる水素燃焼タービンについて、以下の項目について必要な調査、要素技術開発等を行い、パイロットプラント開発のために必要な技術を確立する。

 (1)水素燃焼タービン最適システムの評価
 (2)燃焼制御技術開発
 (3)タービン翼、ロータ等主要構成機器の開発
 (4)主要補機類の開発
 (5)超高温材料の開発

1.9 サブタスク9 革新的・先導的技術に関する調査・研究
 WE−NETは2030年での本格実用化を目指した超長期プロジェクトであり、将来的には有望であるものの当面の開発対象技術から外れる革新的・先導的技術が成熟してくることも大いに考えられる。また、在来型技術についてもその技術改良等動向によっては、WE−NET構成技術のひとつとして取り込みが必要となってくる。このような革新的・先導的技術、在来型技術についての調査・検討・評価を行い、必要に応じて最小限度の要素研究をも行うことにより、有望技術をWE−NETプロジェクトに反映させる。

第I期における研究開発スケジュールを表−1に示す。


2. 6年度の成果概要
 平成6年度は各開発項目とも既存技術の調査を中心に活動を実施し、一部要素技術の検討に着手した。以下に主な成果概要を記す。

2.1 サブタスク1 総合評価と開発計画のための調査・研究
 第II期のパイロットプラントの検討に着手した。

2.2 サブタスク2 国際協力推進のための調査・検討
(1)国際シンポジウムを開催し、技術交流および情報交換を行った。
(2)国際的なネットワークの形成および長期ビジョンについて検討した。

2.3 サブタスク3 全体システム概念設計
(1)液体水素を対象に全体システム概念設計を行い、設備費および経済性の試算を行った。
(2)世界的規模、一国規模および都市規模での水素エネルギー導入による効果を評価するため、既存シュミレーションモデルの改造・整備に着手した。
(3)安全評価として、事故事象の選定と解析コードの検討に着手した。

2.4 サブタスク4 水素製造技術の開発
 化学メッキ法、ホットプレス法、多孔質触媒電極担持法という、電極接合方法が異なる3つの方法で50cm2の小型ラボセル評価設備を製作し、性能評価を行った。また、ゼロギャップ法による水素製造技術および、高温熱安定性固体高分子電解質膜の開発に着手した。

2.5 サブタスク5 水素輸送・貯蔵技術の開発
(1)大型水素液化設備の開発
 液化サイクルとしてヘリウムブレイトンサイクル、水素クロードサイクルについて比較するとともに、水素クロードサイクルに関し、いくつかの常温圧縮及び低温圧縮サイクルについて概略プロセス検討を実施した。
(2)液体水素輸送タンカーの開発
 基本仕様を決定するとともに、20万m3の球形タンクまたは角形タンクを搭載したものの概念設計を行った。その外観を図−2及び図−3に示す。
(3)液体水素貯蔵設備の開発
 現状技術の調査を行うとともに、基本システムフローを検討し、貯蔵基地の設備ユニットの概略仕様を決定した。
(4)液体共通機器類の開発
 大型液体水素ポンプ、断熱配管、液体水素弁、計装設備について調査を継続するとともに、技術課題を抽出した。
(5)分散輸送・貯蔵用水素吸蔵合金の開発
 マグネシウム合金及び、ナノクリスタリン化による特性改善効果について調査するとともに、いくつかの水素輸送貯蔵用途への水素吸蔵合金の適用性について調査・検討を行った。

2.5 サブタスク6 低温材料技術の開発
 代表的な既存の構造材料のうちステンレス鋼であるSUS304L,SUS316L及びアルミ合金であるA5083に関し、ヘリウム温度域での機械的性質ならびに水素脆化に関するデータ収集を行った。

2.7 サブタスク7 水素利用技術の研究
 各種水素利用技術の現状調査、技術課題について検討を行った。

2.8 サブタスク8 水素燃焼タービンの開発
(1)最適システムの評価
 水素燃焼タービンについて、数種類のシステムを検討し、発電効率60%の達成が可能であることを表−2のとおり確認した。
(2)燃焼制御技術の研究
 水素酸素燃焼器用バーナの基礎試験を実施するために小型バーナを製作し、火炎の安定性および燃焼性を評価した。
(3)タービン翼・ロータ等主要構成機器の開発
 計算による評価ではあるが、動翼・静翼に既存の金属材料を使用した場合でも、翼の冷却技術を高度化する事でタービン入口温度1,700℃に耐えることを確認した。
(4)主要補器類の開発
 高温熱交換器の伝熱促進技術、型式・構造、材料等の調査検討を行った。
 また、液体水素の冷熱を利用した酸素製造システムについて調査検討を行った。
(5)超高温材料の開発
 翼等の水素燃焼タービン用超高温部品の材料として有望視される耐熱合金、金属間化合物、セラミック系複合材料およびC/C複合材料を対象に、基本特性(物理特性・化学特性・力学特性)について試験・評価した。

2.9 サブタスク9 革新的・先導的技術に関する調査・研究
 革新的・先導的技術を発掘するための手法について調査・検討を行うとともに、技術の評価方法の検討を行った。


3. 今後の展開
 平成6年度に引続き調査研究、基礎的研究および要素技術研究等を行い、全体システムの最適設計に必要な情報を得るとともに、パイロットプラントの設計・製造に必要な技術の確立を図る。



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