各サブタスクの平成7年度の成果概要


3.4 都市規模での予測評価

3.4.1 研究開発目標

 本研究は比較的少量の水素を都市の燃料経済に導入する最善の方法を確認することを目的としている。
 評価は、平成6年度に作成したガイドラインに沿って実施する。このガイドラインには、水素や関連技術に関する情報収集という全般的な側面と、水素導入の異なったシナリオを分析するという具体的な側面がある。
 具体的な目標は以下の通りである。

(1) 関連情報の整理
 EUの水素に関する情報整理、英国内の水素に関する情報整理、文献調査、データベースの更新

(2) プロジェクト情報の整理
 データ収集、環境外部コストの調査・選定

(3) 水素利用技術の評価
 水素利用技術選択の基準、水素利用技術の予備選考、欠損もしくは信頼性の薄いデータの把握、データの精度の向上

(4) 水素導入シナリオの設計
 10%の水素利用のシナリオ設計

(5) インフラ整備の評価
 ロンドンをモデルとする地域特性を考慮した概念設計、RESモデルへの適用

(6) 水素導入シナリオの評価
 シナリオの比較(外部コストを考慮または考慮しない場合のコスト比較)

3.4.2 平成7年度の研究開発成果

 目標ごとの研究開発成果は以下の通りである。

(1) 関連情報の整理
 水素に関するEU及び国内の文献を収集・整理し、それに伴いデータベースを随時更新した。

(2) プロジェクト情報の整理
 排気ガスや環境外部コストに関する多くのデータを収集し、現時点で最も信頼性の高いデータをシナリオ評価の際に用いた。今後も必要に応じてデータを更新する。

(3) 水素利用技術の評価
 後述する3つのシナリオで使用する水素利用技術を選択するために、まず将来の変化と技術選択に影響を与えると見られる要素を検討し、次にこれらの要素に基づいた技術候補を調べた。

(4) 水素導入シナリオの設計
 水素を導入する方法を検討するために、3つのシナリオを想定した。水素を使用しない場合のエネルギー供給方法を示す基準シナリオと、さらにこのシナリオの延長線上にある2つの水素導入シナリオである。水素導入シナリオの1つは、hythane(天然ガスに発熱量にして5%の水素を追加した混合物)として水素を既存の供給網に供給することにより導入時のインフラ費用を抑えることを狙いとしている。もう一つの水素導入シナリオ(「ニッチマーケット」シナリオ)の目的は、純粋な水素を最もコスト効率の優れた用途に振り向けることにある。
 基準シナリオは、エネルギー利用を決める活動水準、例えば、人、貨物の輸送量を示す人キロ、トンキロ、建物の床面積などが現在と同じ状況と仮定している。このような仮定は現実的ではないが、本研究の都市環境でのエネルギー利用構造を簡便に設定するという目的からは大した問題ではないと考えられる。
 hythaneシナリオの大きな魅力は、少量の水素を天然ガスに加えるだけで大気中へSO2、NOx等の汚染物質の排出量が大幅に削減されることにある。この効果は発熱量にして約5%の水素まで維持され、その後は再び汚染物質の排出量が増加し始める。
 基準シナリオでは、都市の中心部で燃料電池と小型ガスタービンを用いて多くのコージェネレーションを行うと想定している。都市の中心部が正味の電力送出源となる。ロンドン中心部の基準シナリオでは、エネルギーの全利用量は最終利用効率が改善されるため19%低下する反面、エネルギー供給量はコージェネレーションにエネルギーが必要であるため現在と較べて2%落ちるにすぎない。熱と電力を生み出すコージェネレーションでは、天然ガスが主な燃料として使われる。天然ガスは輸送市場に十分浸透していることも想定している。基準シナリオは明らかに議論の余地があるが、有効な比較を行う際に、hythaneシナリオとニッチマーケットシナリオを得るための共通のスタート地点を持つことが適切であり、必要と考えられる。
 なお、本研究では、シナリオを検討するに際しては、水素の導入について発熱量で10%の天然ガスを水素で代替した場合を想定している。

(5) インフラ整備の評価
 最新の情報に基づくインフラ整備についての評価はほとんど行っていない。推計は全て、現在のコストデータを使用して行っている。

(6) 水素導入シナリオの評価
 水素の経済面は次の4つの要素で左右される。他の代替される燃料の量、規定の熱負荷を満たすためにコージェネレーションで発生する電力量の変化、環境への影響の変化、新しいインフラ及び設備で発生する資本コストの変化である。
 将来に推定される燃料価格にはできるだけ依存せずに水素の価値を評価する1GJの水素が約1GJの天然ガスに置き代わることに注目して行うこととした。1GJの水素の価値は1GJの天然ガスに様々な“補正”を加えた値として表すことができる。“補正”を行うのは1GJの天然ガスをそのまま水素に代替できないためである。そこには他のエネルギーバランスの小さな変化に起因する“補正”、環境への影響や資本コストの変化に起因する“補正”などがある。1GJ当たりで行うこれらの“補正”を総合した値をその用途における水素の「プレミアム値」と定義する。
 プレミアムの構成はシナリオや用途に応じて異なっている。hythaneシナリオではインフラと設備の費用の点で基準シナリオの場合とそれほど差がなく、主なプレミアム要素は環境改善の効果とコージェネレーションから生じる余剰電力である。ニッチマーケットシナリオではこれらの要素の他に、インフラと設備コストで生じる“補正”、加えて1GJの天然ガスを正確に置き換えられないことによる“補正”がある。
 設備とインフラのコストについても、設備の寿命まで水素を用いることによる総利益と初期投資とのバランスをどう取るかという問題が発生する。このバランスを取るには、キャッシュフローの現在割引価値で水素の「レベライズド・プレミアム」を評価しなければならない。水素のレベライズド・プレミアムとは、環境コスト、エネルギーコスト、資本コストを考慮して、水素と天然ガス利用技術が同じ現在価値を持つようにするために、(天然ガスと比較して)水素に割り当てる必要がある付加価値のことである。
 プレミアムのこれらの要素を評価するには、燃料価格について試算が必要とされ、同時に環境の外部コストと資本コストについてのデータも要求される。このために、燃料価格の試算を実施した。燃料価格は比較的微少な“補正”の算出だけに使用され、従ってプレミアムの評価結果が大きく変わるようなことはない。
 また、環境に及ぼす影響の経済的費用について様々な試算を行った。検討の結果、推定値に大きな幅があることが明らかになった。ここでは、研究の目的に沿い高い推定値と低い推定値を選択している。
 hythaneシナリオにおける水素のプレミアム値を分析した結果、環境コストの節約が水素の経済的優位性の大きな根拠となっていることが分かった。

(7) 結論
 都市規模での予測評価については、さらに調査を進めて確認する必要があるが、これまで分析した限りでは以下の点を指摘できる。

  • 水素を利用すれば環境破壊は大幅に軽減することができ、燃料として使用する場合は大きなプレミアムを得られる。
  • プレミアムは都市中心部が最大であった。
  • 環境コストの推定値は結果に広範なばらつきがあり、これに伴い水素について算出したプレミアムも多様な値をとる。
  • 天然ガス中に低濃度の水素を混合(hythane)した場合、車両の排気ガスがかなり改善されることから、水素の初期の利用方法としては最もコスト効率の高い方法であることが推測される。
  • 水素濃度を5%とするhythaneを利用した場合の環境コストを最大に見積もると、都市中心部では天然ガスに対する水素のプレミアムは$48/GJと試算され、最低見積ではプレミアムは$7/GJに下がる。
  • hythane中の水素濃度が約5%以上になると、これに応じて利益が増加することはなく、従ってhythaneの水素濃度を増加するコスト効率は低い。
  • 水素を燃料として利用する場合の次善の方法とは、都市中心部で分散型発電のガスタービンに純粋水素として利用することである。このような利用では、プレミアムは$12/GJ(外部コストの最大見積時)から$2/GJ(最低見積時)となる。
  • 特定の用途に多くの水素を振り向けるよりもhythaneシナリオを都市の外側まで拡大 するほうが、水素のプレミアムは高く維持される。ロンドンの市外ではプレミアム は$36/GJ(高い外部コスト)と$4/GJ(低い外部コスト)となる。
  • 基準シナリオでは、ロンドン中心部での環境コストは現在の状況から44%低下する(排出費用を高く見積もった場合)と推定される。hythaneシナリオでは基準シナリ オからさらに17%減少し、10%の水素シナリオではhythaneシナリオからさらに3% 減少する。ロンドン市外では減少はそれぞれのシナリオで43%、13%、3%となる。
 これまでhythaneの利用による排出データに信頼できるものがなかったことが大きな問題であった。自動車に関してはこの研究段階が終了に近づくにつれてこのデータのギャップは埋められたが、自動車のような移動体ではなく、設置用途でのデータはまだない。

3.4.3 今後の進め方及び課題

 以下の基準に従って次段階での研究活動を展開することが望まれる。

  • 分析結果を総合し、研究する上で設定したいくつかの基本的な仮定の正当性を強化する。
  • 環境への影響のあいまいな範囲をできるだけ小さくする。
  • 他の排出抑制技術におけるコスト効果について調査する。
  • 分析の対象範囲を東京に拡大する。
  • 水素移行シナリオの検討を開始する。
〔参考:平成8年3月29日の為替レート=平均106.91円/$〕



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