各サブタスクの平成7年度の成果概要


3.5 安全対策・評価技術

3.5.1 研究開発目標

 平成5年度に発足したニューサンシャイン計画の中の「水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(略称:WE-NET)」は、再生可能エネルギーを水素に転換し、世界の需要地に輸送し利用することによって、地球環境問題とエネルギー問題を同時に克服しうる国際的かつクリーンなエネルギー・ネットワークの構築を目指している。
 このWE-NET全体システムに対し、設計思想統一、最適化の観点から安全計画の構想を設定する必要がある。また、この安全目標を達成するための各システム毎の安全特性、安全機能を明らかにすることが必要である。
 更に、各システムの事故・安全解析のための条件・データを収集・整備し、かつ、特定の事故解析コードの整備・改良を行うとともに、各システムに対し、予備的な安全解析を実施し、安全確保のための基本構想を明らかにすることが必要である。
 このため、第I期においては、以下に示す研究項目・内容を実施する計画である。

(1) システム安全設計明確化
 国内外のシステムにおける安全思想、安全目標、安全設計指針、事故例、水素エネルギーシステム関連に適用されている法令、規格、基準類の調査を実施する。
WE-NETにおける各システム毎の異常・事故事象の抽出、その影響推定とともに、具備すべき安全機能を明確化させる。

(2) 各種事故・安全解析の整備
 WE-NETの各システムに関する各種事故・安全解析に用いるデータ収集、シミュレーションプログラムの事例調査、シミュレーションモデルの開発を実施する。WE-NETの各システムに関する安全解析方針の策定と検討を実施し、安全確保のための基本構想を明らかにする。

 前記の第T期全体計画と平成6年度までの調査研究結果を念頭に置いて、平成7年度は以下に示す研究項目・内容を実施することとした。

(I) 安全設計のための安全機能の検討
 現状法規格等からの安全上の要求事項、及び水素を取扱う上での留意事項を整理する。
 異常・事故事象を調査しつつ、化学プラント等の安全設計手法(安全思想、設計指針)も参考にして、WE-NETシステム毎の安全機能について検討を開始する。

(II) 安全解析のためのモデル検討・評価
 安全解析に有用な情報を収集しつつ、安全評価技術として有望な水素挙動評価用モデル、爆発、或いは火災シミュレーションモデルの開発を継続する。

3.5.2 平成7年度の研究開発成果

 第I期の3年目にあたる平成7年度においては、昨年度の調査検討を引き継ぎ水素関連事故事例の追加調査を実施するとともに、国内外で液体水素取扱い実績のある研究開発機関(NASDA:宇宙開発事業団、EQHHPP:ユーロケベックプロジェクトのドイツ側の参加機関、等)を訪問し、保安情報、トラブル時の対応方法、安全思想に関する情報を収集した。
 国内での水素関連の事故やトラブル事例を追加調査したほか、ヒンデンブルグ号(飛行船),チャレンジャー号(スペースシャトル)等、幾つかの海外での事故調査報告書等をレビューし、一部詳細な分析を実施した。また、法令・規格・基準類の調査として、高圧ガス取締法の改訂への動き、及び本年度に改正施行された電気事業法を取り上げた。さらに、WE-NETシステム毎の異常・事故事象の抽出のために、関連サブタスクの成果報告書のレビューを行ったほか、特に水素貯蔵設備(液水タンク)に関してはワーキンググループ或いは部会レベルでの情報交換を通じて液体水素貯蔵設備の概念設計状況を調査し、これらを異常・事故事象の抽出や安全評価に先立つ情報として整理した。
 一方、各種事故・安全解析検討、評価としては昨年度に引き続きシミュレーションモデルの開発に取り組んだ。液体水素漏洩時の拡散シミュレーションについては、液体水素の蒸発量を定量的に評価するモデルを作成し、大規模液体水素漏洩試験を対象に解析を実施した。現時点では、試験を再現するための実験データが限られており、評価ツールの精度向上のためには、大気中での水素漏洩試験が必要であることが明らかとなった。
 圧縮水素ガスタンクの爆発・火災シミュレーションについては、タンク爆風圧による周辺の構造物破損の可能性、人間への影響(鼓膜・肺の損傷、或いは生存の確率)をある程度予期できるようなプログラムに拡張できた。さらに、爆発或いは火災により周辺の構造物(木材)への着火や周辺の人間の火傷の可能性といった熱輻射による影響も評価できるようモデルの拡張を行った。

3.5.3 今後の進め方及び課題

 WE-NETシステム全体から見た安全対策・安全評価技術の開発を行うため、次年度である平成8年度は以下の項目、内容を課題として考えている。

(1) システム安全設計のための安全機能の検討
 WE-NETの各システム毎の設計情報を考慮した上で、想定される異常・事故事象の検討と、安全機能について検討を継続する。具体的には、

  • 安全上の取扱いが類似していると考えられるLNG施設を調査し、安全思想、目標、設計指針といった安全関連情報の収集と整理とを行う。
  • さらに、国内の航空宇宙分野を中心に上記と同様な安全関連の情報収集を引き続き行う。
  • 安全設計検討・評価に関する文献調査を引き続き行い、かつデータ収集・整理を行う。特に本年度は、水素と他の可燃性ガス(例:天然ガス)との危険性の比較を実施する。
  • これまでの調査を踏まえて、WE-NETシステム毎の異常・事故事象の抽出及び安全機能の明確化を行う。
(2) 安全解析のためのモデル検討・評価
 安全評価に必要な情報収集及び水素の拡散、爆発あるいは火災のシミュレーションモデルの開発を継続する。具体的には、
  • 液体水素拡散モデルに関して、昨年度までの成果を踏まえて、液体水素蒸発率に関する実験データ、特に、実際の漏洩パターンを模擬した試験データの収集、蒸発モデルの改良、水素蒸気の大気中での拡散・流動モデル、特に乱流混合の効果の検討を実施し、改良モデルの評価を行い、課題を整理する。
  • 圧縮水素タンク爆発・火災モデルに関して、熱放射の影響を考慮した火災事故の安全評価が可能となるように、事故分析コンピュータアルゴリズム(AACA)の機能の拡張を開始する。AACAにエコノミックモジュールを付加することにより、災害を最小限に抑えることが可能な幾つかの手法のコスト比較ができるようになる。8年度は、このモジュールの開発を開始する。
  • 上記した2つのシミュレーションプログラムの統合化の検討を開始する。
 液体水素事故(漏洩〜爆発)等のシミュレーションを精度よく行う、すなわち安全評価技術を確立することは、WE-NETシステムの実用化の過程において重要な要素であることは疑う余地もない。問題はモデルを検証する実験データが極めて少ないことである。来年度はモデル検証のために必要な実験内容の検討に入りたい。2つのシミュレーションプログラムの統合化については、上記の理由もあり精度の問題は残るが、平成10年度にプレリミナリーバージョンとでも言うべきものを造り上げることを目標としたい。
 一方、WE-NETシステム全体からみた安全対策・安全評価技術の必要性に加えて、関連サブタスクにて行われる要素試験段階からの安全関連情報の交換も必要であるとの指摘がなされている。来年度は、先行して収集した情報を整理し関連サブタスクへ提供する等、試験段階での安全対策等にも貢献しながら、第T期以降の段階における安全上の課題等を抽出してゆきたい。



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