各サブタスクの平成7年度の成果概要


9.サブタスク9 革新的・先導的技術に関する調査・研究

9.1 研究開発目標

9.1.1 目的

 WE-NETプロジェクトは、西暦2020年までに、水素を2次エネルギーとして使用する再生可能エネルギーの国際的なネットワークを実現可能にすることを目的にした長期間のプロジェクトである。従ってプロジェクトの有効性を保つためには、将来の技術動向の予測を行い、全体システムの構成技術を常に最適化していく必要がある。
 具体的には、各サブタスクにおける当面の開発対象ではない新技術について調査・研究を進め、その技術の重要性・成熟度を評価し、更に必要があれば実現可能性を研究して、調査対象技術が新たな技術開発分野・項目としてWE-NETプロジェクトに必要かどうかを判断することが必要である。
 調査対象は革新的・先導的な技術はもちろん、既存の技術であっても改良したり組み合わせたりしたシステムに新規性を見いだせるものも含まれる。
 サブタスク9では以上のような観点から新技術を調査、収集、評価し、そして必要ならば更に研究をすることにより、WE-NETプロジェクトの方向性に有益な示唆・提案を行い、研究開発に資することを目的とする。

9.1.2 第I期の目標

 第I期においては前項の目的を達成するため、以下の項目について調査・研究を行う。

(1) 革新的・先導的技術の調査・評価

 WE-NETを構成する技術は再生可能一次エネルギー、水素の製造、輸送・貯蔵、利用等多岐にわたる。西暦2020年までには、これらの技術に現状ではWE-NETの開発対象から外れている革新的・先導的技術が登場してくる可能性が大いにある。
 サブタスク9ではこれらの新技術の動向について調査する。また、収集した新技術について、有用性・成熟度等を総合的に検討・評価することによりWE-NETの方向性に示唆・提案を行う。

(2) 革新的・先導的技術の研究

 本研究において調査・評価された新技術のうち、実現可能性を研究する必要があると判断されたものについて、必要最小限の基礎的研究を行う。

(3) 在来型技術の調査・評価

 在来型技術においても、改良やその組み合わせのシステムに新規性があり有用であるものは調査・評価の対象とし、有用性・成熟度等を総合的に検討・評価することによりWE-NETの方向性に示唆・提案を行う。

(4) 新規開発分野・項目の検討

 本研究はWE-NETプロジェクトの将来の技術開発分野の最適化を図ることを目的としている。そこで前項までの調査・研究により得られた有望な新規技術の動向をもとにして、将来の新規開発分野・項目の必要性の有無を検討する。

9.2 平成7年度の研究開発成果

(1) 革新的・先導的技術の収集

 平成6年度に引き続き、革新的・先導的技術の収集を行った。しかしながら本年度は評価基準の策定中であったので大規模な公募は行わず提案の受付のみとした。
 その結果、本年度の新規応募技術は3件あり、平成5年度よりの3年間の累積応募件数は23件となった。

    <新規提案技術>
  • 独立分散型水素エネルギーシステム      (大阪工業技術研究所)
  • Hydrogen Production by Solid Oxide Electrolysis (Westinghouse Electric Corporation)
  • Development of Magnetic Refrigeration Technology for Liquefaction of Hydrogen (Universite du Quebec a Trois-Rivieres)
          表9−1−1

(2) 革新的・先導的技術の評価基準の策定および評価
 平成7年度は以下の項目について検討を行い、次年度以降概念検討を行う準備を行った。

(I) 新規技術の調査手法の確立(提案技術の処理フロー作成)
 提案技術を評価するには「階層化意志決定法(AHP)」を使った採点評価と委員会における調整評価の2段階の手順を経て評価を確定する手段をとる。

          図9−1−1 検討手順

(II) 評価項目の再検討(独立性のチェック、階層構造)
 階層化意志決定法で使用する評価項目の選定については昨年度の研究において選定を行い検証をした。今年度はその評価項目を具体的に使用するための検討を行ったがその過程において評価項目間の独立性や構成に不備が見つかったため、評価項目の再検討を行った。新評価項目は表9−1−2評価項目の再検討結果を参照。

(III) 提案技術の分類方法の検討
 本研究に寄せられている様々な提案技術を評価する際には、その多様性が大きな障害となる。階層化意志決定法(AHP)を適用するにあたり評価方法を分類する「状況設定」が必要になるので検討を行った。
 具体的にいうと評価対象技術をいくつかのグループに分け違った重み付けをすることである。これにより目的の異なった提案を公平に評価することができる。また、グループ別に重みを作ることはプロジェクトの施策者の価値観を評価に反映するために役立つ。
分類については表9−1−3を参照

(IV) 重みの作成方法の検討
 前述のように本研究では評価対象となる技術を4つの型に分類することとなった。現状の検討では技術の分類ごとに重みを用意するのが適当と考えられ、重みも4種類用意することになった。また逆に重みを決定する際に4つの分類を利用することにより重みの意志決定が容易になり、論理的整合がとりやすいという効果が期待できる。
 階層化意志決定法(AHP)の重みは評価項目間の相対評価により得られるため行列形態になる。意志決定者がこの行列を作成する際には比較対象をはっきりさせミスを少なくするために表ではなく質問形式の作成用紙を使用するとよい。今年度は作成用紙を用意した。

(V) 提案者自己申告項目の検討
 今年度の検討において、提案者の意図を知るために、さらに詳細な自己申告をしていただく必要性が指摘された。提案された技術は多種多様である上、同じアイディアでも研究開発の意図によっては全く違うものになる可能性を秘めている。従って提案者の意図を事務局側が正確に把握することは提案者の利益になると考える。また一方では、複雑な自己申告制度は提案の意欲を失わせる可能性も否定できない。
 本研究では評価項目に準じた自己申告制度を検討し、意欲のある提案者の意図をくみ取ると同時に自己申告のない提案にも対応する制度をとることとする。
 また自己申告においては可能な限り数値を提出していただき定量的な技術動向の把握ができるようにすることを考える。

(VI) 評価基準の決定(定性的評価)
 一般に、ある技術体系が決まっていて、ある程度技術項目が見えている場合には共通の土俵があるため、絶対的なスケールによる評価を行うことができる。しかしながら、本研究で調査する対象技術に対して絶対的スケールを設けて評価するのは困難である。なぜならば提案技術の分野が多岐にわたるため、全く違う目的の技術を比較しなければならないからであり、また革新的・先導的技術は新規性や創造性が高いため現状で示すことのできる数値に限界があるためである。従って本研究では採点を相対評価で定性的に行うことを検討した。
 具体的には下記の評価軸において既存技術を「中」とし、それと比較して提案技術の評価を行う。相対評価を行うことにより、多様な提案に対応できる評価基準となった。

          図9−1−2

(3) 予備調査
 本年度は次の2つのテーマについて調査を実施した。

(I) 太陽熱利用による水素製造の可能性
(II) 夜間電力利用による水素製造の合理性の調査

9.3 今後の進め方および課題

 今後は今年度の検討結果を使用して、実際の評価作業をスタートする。重みの作成、評価点の作成を経て階層化意志決定法を利用した採点を実施する。得られた結果をもとに委員会で検討を行い、累積している提案技術の評価を行う。
 さらに評価方法の正当性の評価および自己申告制度の整備、新規提案技術の募集方法などを検討する予定である。
 また、次年度からは評価結果をもとに概念検討の実施も予定され、得られた結果をもとにした新規開発分野・項目の検討、将来へ向けてどのような提言ができるかが課題となる。



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