各サブタスクの平成8年度の成果概要


5. サブタスク5 水素輸送・貯蔵技術の開発

5.1 大型水素液化装置の開発

5.1.1 研究開発目標

 水素液化設備の大型化に必要な基礎技術の確立を図るための技術開発項目および開発目標を明確にすることを第I期の目的とした。より具体的には第I期において最適な液化プロセスを決定し、その概念設計を実施する。
 平成6年度はリサイクル系に水素を用いる水素クロードサイクル、及びヘリウムを用いるヘリウムブレイトンサイクルの検討を行った。これらのガスは共に分子量が小さく圧縮するには不利であり、現在採用を予定している遠心式圧縮機では必要段数がかなり多くなる。この問題を解決することを目的に、リサイクル系に分子量の大きいガスを用いたプロセスの検討を平成7年度実施した。そのプロセスはネオンブレイトンサイクル、混合冷媒サイクル、及びネリウム(ネオンとヘリウムの混合ガス)ブレイトンサイクルである。いずれのプロセスも目標効率40%を満足することがわかっている。
 本年度は5つの候補液化プロセスから今後さらに詳細検討を実施すべきプロセス2つを選定した。

5.1.2 平成8年度の研究開発成果

これまでに検討したプロセスに対して、効率やコスト等の項目でトレードオフを実施した。検討項目を以下に示す。

【評価項目】

(1) プロセス効率
 目標プロセス効率40%に対してこれをどの程度上回るのか、またそのプロセスの特徴を考慮して評価を行う。

(2) プラントコスト
・設備費
  設備費を液化プロセスの複雑さで評価する。当然、プロセスが複雑なもの程製作コストは高くなる。各プロセスを相対的に比較して評価する。なお、膨張タービンおよび圧縮機は開発要素を含んだ重要な構成機器であるため別途評価項目を設ける。
・冷媒費
  現存する最大規模の液化設備の約10倍に相当する本設備においては、リサイクル系のガスの使用量は極めて多いためそのコストや入手性を評価する。使用するガスの種類により異なるので、現在のガスコストにより評価する。
・保守費
  本設備のリサイクル系はクローズドサイクルではあるものの、液化設備の開放点  検やガスの漏洩により補充が必要となる。冷媒費と同様にガスコストで評価する。

(3) 冷媒の運転管理
 使用する冷媒ガスによっては冷媒管理や漏洩対策が必要とされるのでこれを評価する。

(4) 圧縮機
 採用を予定している遠心式圧縮機では圧縮するガスの分子量が大きい程高圧縮比とすることが可能であり圧縮段数が少なくなる。よって、リサイクル系のガスの平均分子量の大小で評価する。

(5) 膨張タービン
 圧縮機程は分子量の大小による効率への影響は大きくないが、基本的には遠心式圧縮機と同じ傾向にある。よって、リサイクル系ガスの平均分子量の大小を評価する。

(6) 熱交換器
 熱交換器の設計・製作性を考慮した場合、熱交換器内部を流れる各流体の体積流量が近いことが望ましい。そこで、検討プロセスの各熱交換器における体積流量バランスを評価する。

(7) 安全性
 使用する冷媒ガスの種類が可燃性ガスであるか否かにより評価する。液化系は可燃性の水素であり、リサイクル系にも可燃性ガスを用いると危険度がより高くなるものと評価する。

 現時点では各プロセスを相対的に評価することになるので、上記の項目についてA・B・Cの三段階で評価を行う。その結果に対してAを10点、Bを6点、Cを2点とし、更に重要項目であるプロセス効率、プラントコストの中の設備費と冷媒費に対して評価を2倍(ウェイト2、その他はウェイト1)として掛け合わせることで点数化する。そして、点数の高いものを二つ選び出した。結果を表5−1−1に示す。

 表5−1−1より水素クロードサイクルとヘリウムブレイトンサイクルの二つを選定したが、これらについて今後更に詳細に検討を進めて各々最適なプロセスを構築し、最終的に採用するプロセスを決定する必要がある。選定された二つのプロセスのフローを図5−1−1と図5−1−2に示す。最終の選定の際にはプロセス効率が最も重要な項目となるが、現状ではプロセス検討条件の統一が充分でないため単純には比較出来ない。そこで、今後の検討を実施する前に条件の統一作業を実施した。その結果は次の通りである。

 【プロセス検討条件】
液化能力300t/日
原料水素圧力1.05atm(0.106MPa)、温度300K(精製は考慮せず)
液体水素貯槽貯液量50,000m3、液化機1基に対し貯槽1基設置
圧力1.05atm(0.106MPa)蒸発量41.1g/s(0.1%/日相当)
パラ水素濃度99.8%(20.4K平衡パラ水素濃度)
ボイルオフガス
(BOG)
冷熱回収を行う。
貯槽出口温度 20.4K(1.05atm飽和温度)
パラ水素濃度 貯槽と同じ
圧縮機吸入圧力1.0atm(0.1MPa)、圧縮機入口温度300K
液化系高圧圧力最高50atm(5.07MPa)
BOG用圧縮機設置
LN2入口圧力1.2atm(0.122MPa)、出口ガス圧力1.2atm(0.122MPa)
原単位0.5kWh/Nm3(1.44kW/g/s)
GN2入口温度78.9K(1.2atm飽和)、出口ガス温度300K
原単位0.14kWh/Nm3(0.394W/g/s)
圧縮機段熱効率85%(但し、漏れガス等は考慮しない。)
タービン断熱効率82%、但し超臨界膨張タービンは81%
動力回収効率90%
(但し、漏れガス、ベアリングガス等は考慮しない。)
O−P変換連続変換 (他の変換方式を併用することも可)
圧損損失
及び侵入熱
無視、但し、BOG系のラインのみ0.05atm(5.07kPa)とする。
熱交換器の
温度差
各温度レベルで最小値を次のように定義する。
300K付近10K、240K付近3K
80K付近 2K、50K付近1K
30K付近 1K、20K付近0.5K
5.1.3 今後の進め方及び課題

 来年度の前半に、これらの条件で各々のプロセスを詳細に検討し、最適のものを開発する。この2つに対して再度トレードオフを実施し最終的に採用するプロセスを決定する。これと並行して、今後の要素開発に向けて課題の抽出と研究計画の検討を行う。来年度の後半では、決定されたプロセスに対して設備の概略設計に着手し、機器仕様の検討やコスト試算を行う予定である。



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