各サブタスクの平成8年度の成果概要


5.3 液体水素貯蔵設備の開発

5.3.1 研究開発目標

 大量の液体水素の貯蔵に適したタンクを建設するために必要な技術開発項目および開発目標を明確にすることを第T期の目的とした。
 本開発は、「貯蔵設備全体システム設計」と「貯蔵設備の研究」に大別して実施している。
 本年度の開発では「貯蔵設備全体システム設計」において、液化基地および発電基地における大量貯蔵システムのインターフェース条件の見直しを行うとともに、分散貯蔵システムにおいては規模を想定し、受入、払出時のガス化ロス率を評価した。
 「貯蔵設備の研究」においては、前年度に引き続き大容量液体水素貯槽構造および地下式貯槽躯体構造の概念設計を実施し課題の抽出を行うとともに、次年度に製作を予定している断熱性能試験装置の設計、およびサブタスク6の低温材料試験装置を用いた断熱構造強度試験方案の検討を行った。

5.3.2 平成8年度の研究開発成果

5.3.2.1 貯蔵設備全体システム設計

(1) 大量貯蔵システム
 前年度までに構築した液化基地および発電基地における液体水素の大量貯蔵システムにおいて、払出用液体水素ポンプの効率を70%と想定しポンプの設置条件を考慮したポンプ入熱によるガス化ロスを検討し、貯蔵システム内からのBOG(ボイルオフガス)量を算定しインターフェース条件を見直すとともに、基本システムフロー、熱・物質収支計算ならびに貯蔵基地構成設備の要目についての見直しを行った。
 見直し検討の結果、液体水素貯槽の基本容量については開発目標である50,000m3容量の変更は要しない結果を得たが、全体システムを構築するためには、荷役設備(ローディングアーム)や液体水素ポンプ等の構成機器類の性能が大きく影響するため、今後の各サブタスクにおける技術開発結果を反映していく必要がある。

(2) 分散貯蔵システム
 大量貯蔵基地に海外から輸送された液体水素は、サブタスク7で検討されているように燃料電池、ディーゼルエンジン、自動車をはじめとする輸送機関等の用途にも利用され、そのような用途に水素を供給するための液体水素の分散貯蔵基地が不可欠である。
 分散貯蔵基地は、立地が液体水素を内航タンカーで輸送できる湾岸部と液体水素コンテナ(もしくはローリー)に頼らざるをえない内陸部で大きく異なると想定されたので、それぞれについて分散貯蔵基地の規模、システムフロー、設備構成等を検討した。
 その結果、湾岸分散貯蔵基地は、液体水素貯蔵容量として5,000m3程度が適当と判断され、受入れは内航タンカー(2,000m3)で行い、出荷はパイプラインによる水素ガス(13t/day)と液体水素コンテナによる液体水素(13t/day)で行うようなシステムについて、適切な断熱構造設備、BOG回収設備、および設備配置を施すことにより、液体水素の受入、出荷に伴うロスは2.6%程度に抑えられる見通し得た。
 また、内陸分散貯蔵基地は、液体水素貯蔵量としては500m3程度が適当と判断され、受入れは液体水素コンテナ(41.6m3)で行い、出荷はパイプラインによる水素ガス(4t/day)で行うようなシステムについて、適切な断熱構造設備、BOG回収設備、および設備配置を施すことにより、液体水素の受入れに伴うロスは、1.2%程度に抑えられる見通しを得た。

5.3.2.2 貯蔵設備の研究

(1) 貯槽概念設計
 前年度に引き続き、50,000m3容量の液体水素貯槽の概念設計を行った。前年度までは、断熱構造ならびに内外槽等の主要構造物の強度等に関する基本的な設計検討を主に行い、大容量貯槽の実現の可能性を確認した。今年度は、前年度までの概念設計において抽出された課題のうち、内槽支持構造、リーク試験、真空排気ならびに断熱構造の見直し等についての概念設計を行った。
 概念設計を行った貯槽形式は、断熱方式と貯槽形式の組合せにて前年度と同様に以下の4タイプについて実施した。
・タイプ1:粉末真空断熱+ 平底円筒形及び球形貯槽
・タイプ2:真空で固体断熱材を使用した断熱+ 平底円筒形貯槽
・タイプ3:積層真空および粉末真空断熱+ メンブレン形式貯槽
・タイプ4:粉末断熱材を使用した常圧断熱+ 平底円筒形及び球形貯槽
 概念設計の通して、大容量の液体水素貯槽を実現するために解決すべき主要課題としては、断熱材ならびに断熱構造体の低温特性の確認、大型真空構造物のリーク検査技術の確立ならびに真空保持技術の開発等が抽出された。
 これらの課題の内、優先度の高い断熱構造の低温特性確認につては、次年度以降の継続課題として、要素モデルによる試験を実施していく予定である。

(2) 断熱構造の性能試験

  1. 断熱性能試験装置の設計
     各タイプの液体水素貯槽にて計画している各種断熱構造の断熱性能を確認するための試験装置の設計を行った。
     また、供試体端面からの入熱外乱による影響を把握するために、定常温度分布解析により供試体の端効果を検討し、供試体の熱伝導率と試体厚さの限界を評価した。

  2. 断熱構造強度試験
     各タイプの液体水素貯槽にて計画している各種断熱構造に対し、使用雰囲気温度における強度特性を把握することを目的に行う断熱構造強度確認試験について、供試体の種類、試験方法等に関して検討を行った。
    低温下での強度試験を行う断熱材の種類としては、1. マイクロスフェア、2. PUF(硬質ウレタンフォーム)、3. GFRP(グラスファイバー強化プラスチック)、4. 軽骨コンクリート、5. 泡ガラスを提案し、これらが使用される貯槽断熱構造条件に即した試験条件を設定した。
(3) 貯槽躯体及び周辺技術の研究
 液体水素貯蔵容量50,000m3の地下式貯槽について、前年度実施した基本設計条件の設定結果に基づき、概略設計を実施した。
 設計検討は、1. 具体的な設計条件の設定、2. 躯体及び周辺土を含む温度分布解析、3. 側壁と屋根の一体モデルによる構造解析について実施した。
 概略設計の結果、所定の断熱性能を有する断熱構造を介すれば、躯体自体は低温とはならず、LNG地下式貯槽に用いられる材料仕様で構造的に成立することが確認できた。しかしながら断熱性能が高いため、LNG地下式貯槽で採用されているような躯体内凍結による止水対応ができない結果となった。

5.3.3 今後の進め方及び課題

 平成9年度には断熱性能試験装置を設置し、その試運転を実施する。また平成10年度に予定している本試験に供する試験体の設計を行う。



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