各サブタスクの平成8年度の成果概要


5.4 各種共通機器類の開発

5.4.1 研究開発目標

 液体水素の大量輸送・貯蔵必要な各設備に共通する機器類に関して、技術開発項目および開発目標を明確にすることを第T期の目的とした。
 平成8年度のWE−NET研究に基づき、サブタスク5のテーマである水素輸送貯蔵技術の開発「各種共通機器の開発」の作業の中で、昨年度までの検討で特に重要で開発の必要のあるものとして選択された下記4つのテーマについて更に検討を行った。

  • 大型液体水素ポンプ
  • 大口径真空断熱配管
  • 液体水素弁
  • 計装設備
 その結果、この中でも特に開発が急がれるテーマとして「大型液体水素ポンプ」を取り上げて次年度以降開発していくことになった。
 そこで本年度は、上記4つのテーマについて本年度までの検討成果をまとめた上、この「大型液体水素ポンプ」については開発要素、評価試験について定量的な検討を行った。

5.4.2 平成8年度の研究開発成果

5.4.2.1 大型液体水素ポンプ

 WE−NET計画では、発電設備で液体水素を高圧で燃焼器に圧送したり、水素液化設備やタンカーなどの様々な箇所で大容量輸送するために大型液体水素ポンプが使用される。これらのポンプは、性能、操作・メインテナンス性、水素に対する耐久性・安全性を考えて、基本仕様や構造が決定される。昨年度までの検討の結果、大容量ポンプには軸流ポンプ・斜流ポンプ、高圧ポンプには遠心ポンプを適用し、それぞれのポンプに巻線型誘導モータを直結した縦軸ウェットモータポンプを基本ベースとすることで、性能、耐久性、安全性を持った簡潔な構造の液体水素ポンプを設計・製造し得ることが判った。
 本年度は、引き続き液体水素ポンプの基本要素として下記の項目について検討を行った。

  1. 材料
     液体水素は−253℃の極低温流体であるとともに、分子量の最も小さい物質である。このため、液体水素ポンプの構成部品の材質は低温脆性や水素脆性を起こさない材料から選定する必要がある。調査の結果、液体水素温度で使用する場合ならばTi基合金、Al基合金、Ni基合金、安定オーステナイトステンレス鋼が使用可能であることが判った。

  2. 翼形状
     本年度は、水素燃焼ガスタービン発電設備のパイロットプラントに使用が予定されるため、開発が特に急がれる高揚程ポンプの翼形状について定量的な検討を加え基本的な寸法を決めた。今後は3次元的な形状を決定してゆく必要がある。

  3. モータ
     昨年度までの検討を基にモータ形状の基本骨格を常温レベルでまとめた。極低温環境下におかれた場合、磁性体の種類によっては飽和磁束密度が数倍増加するため、同じモータでも大きな出力を出すことが可能になる。今後は使用する材料の温度特性などを取得して詳細設計してゆくものとする。

  4. 軸受
     液体水素ポンプの軸受は、その構造上、極低粘度、極低温の液体水素そのもので潤滑するという過酷な条件にさらされる。そこで磁気軸受で支持し、静圧軸受やスラストバランス機構を併用し、信頼性向上のため、保護軸受を備えたポンプを想定した。本年度はこれらの軸受について調査検討した。平成9年度からは要素試験として極低温軸受試験をおこなっていく。

  5. 要素技術
     昨年度までの検討で必要性が明らかになったスラストバランス機構と起動停止時の支持方法について具体的に検討した。

  6. フィールドスルー
     昨年度までの検討に基づき、フィールドスルー部材の水素漏れ特性、フィールドスルーとしての水素漏れ特性、高揚程ポンプを想定したフィールドスルー内の気密端子の検討を行った。

  7. 耐久性
     昨年度までに主要な部分(回転体部品、摺動部品、電気品類)の耐久性について検討したが、本年度は更にモータ固定子に関する詳細な検討を加えた。

  8. ポンプ全体形状
     昨年度までの検討で提示した概略構造をポンプ軸スラスト磁気軸受を設置したものに修正した。また磁気軸受系の異常時用としてタッチダウン玉軸受も設置する。

  9. 今後の開発計画と開発方針
     本年度は、昨年度の概念検討に引き続いて大型液体水素ポンプの成立性について多少定量的な検討を加えた上で評価を行った。
     この結果、高揚程ポンプについては多段遠心ポンプを使用し、これに高回転型の巻線型誘導モータを直結した縦型サブマージドモータポンプを基本構成とした。
     今後はポンプ基本仕様の確定、全体の機械的・電気的なダイナミクス、及び冷却・潤滑などの熱・流れ解析などの詳細設計を実施していく。
     また、それと同時に材料試験、要素試験(極低温軸受試験、フィールドスルーの液体水素充填時の電気特性、機械特性、結露、氷結試験、インデューサ吸い込み性能試験、及び極低温高速モータ特性試験)を早期に実施して液体水素ポンプ全体の設計に反映し、最終的に極低温ポンプ特性試験を実施するという段階踏む必要があるという結論になった。
5.4.2.2 大口径真空断熱配管

 大容量の極低温液体水素を安全かつ安定して長距離輸送する観点から、熱応力の緩和の方法を重点に調査を行ってきた。
 熱応力には、クールダウン等非定常時に発生する場合とクールダウン完了後の定常時に発生する場合があり、評価方法も異なる。熱応力の緩和・低減方法として自己可撓性を有する配管レイアウトや伸縮継手の採用は、耐震強度や断熱性の低下となるので、安全性、経済性も充分考慮した設計が必要となる。
 特に、最大となるであろうと予測されるクールダウン時の熱応力は、従来の熱応力緩和目的のクールダウン技術に断熱材の影響を付加し、熱応力や断熱性能を計算機シミュレーションを行って評価した。
 また大口径真空断熱配管については施工後の真空度の維持が問題となる。配管及び断熱材からの脱ガスにより真空度は目に見えて劣化し、断熱性能に大きな影響を及ぼす。そこで、真空の劣化度を想定し、その防止対策の検討を行った。
 継手構造については、本年度までの検討で輸送船から陸上設備へ液体水素を供給するにあたり、マリン・ローディング・アームの開発が必要不可欠であることを示してきた。
 取り扱う液体が水素であり、温度が極端に低く、また空気中に拡散し混合気を形成した時の着火エネルギーが非常に小さく、外部への漏洩防止には万全の対策を講ずる必要がある等、このマリン・ローディング・アームに要求される条件は現状のものに比べ更に厳しい。また、液体水素温度では空気中の成分は全て固化し、これが系内に取り込まれると弁等に付着して重大な事故の原因になりうるため、金属材料面から空気成分の取り込みの少ないものを提案した。

5.4.2.3 液体水素弁

 本年度までの検討の結果、現在想定されるシステムは大きく分けて二つの形式の遠隔操作弁が必要と考えられる。一つは空圧作動式の玉型弁、もう一つは空圧作動式の蝶型弁である。
 これらはいずれも既存の弁に比べかなり大型の弁となり、開発上は大型化に伴う事項(大型シールの開発、弁内部の温度不均一等)が技術課題となる。
 これらの技術を確立するために次のようなステップを踏んで開発を実施していくことが必要であるのでその開発計画の一例を提案した。

  1. 仕様の設定
  2. 予備設計
  3. 要素開発
  4. 大型弁の設計、試作
  5. 大型弁の試験
5.4.2.4 計装設備

 昨年度までの検討により特に重要であるとして選択された液位計、流量計、漏れ検出方法の3項目について引き続き検討した。

  1. 液位計
     大型液体水素貯槽に適用可能な液位計の候補として、既存技術及び特許の調査を行い3方式を抽出し、更に大型LNGタンクの規模、運転状況の調査結果に基づき想定した大型液体水素貯槽用液位計の要求仕様をもとに、開発要素の少ないパルス反射式、静電容量方式に絞り込んだ。
     これらの液位計の開発課題は現在技術の延長線上にあるが、いずれも大型液体水素貯槽での使用実績がない。このため実際に適用する際には貯槽の運転パターンを想定した開発試験によりその性能を事前に確認する必要がある。この考えに基づきこれらの液位計の実液による開発試験を計画立案した。

  2. 流量計
     昨年度までに検討した各種流量計の中で、質量流量計測型については魅力ある方式であるが液体水素での使用実績が少なく、当面は体積流量計測型、特にその中でも実績のあるタービン流量計を選定するのが現実的である。但し、質量流量計測型の中のコリオリ式質量流量計もバックアップ案として開発していくことが望ましい。
     タービン流量計そのものについては開発要素は殆どないが、実液校正方式・設備を開発し確立させていく必要がある。

  3. 漏れ検出方法
     昨年度までの検討結果によりポイントセンサ型とエリア検知型があることが判った。前者をプラント設備内で漏洩の可能性の高い場所に、空気や漏洩ガスの拡散や対流を考慮して配置し、後者を基本的には水素燃焼タービン等の燃焼部周辺や開放空間で作動するマリンローディングアーム周辺等の広範囲な領域を同時に検知するために使用することが適正である。
     ポイントセンサ型は使用実績も充分であり開発要素は余りないが、エリア検知型についてはコストダウンと使用実績を重ねることが課題と言える。
5.4.3 今後の進め方及び課題

 平成9年度より液体水素ポンプの要素開発を開始する。まず磁気軸受け部の開発を実施する予定である。



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