各タスクの平成11年度の成果概要


5. タスク5 水素自動車システムの開発

5.1 研究開発目標
 第U期研究開発における水素自動車の研究開発目標は、「水素供給ステーションからの供給を考慮した水素燃料電池自動車の燃料系システムの要素技術開発を行う。水素供給ステーションと組み合わせた水素自動車走行システムの技術実証を行うとともに、エネルギー効率等について評価を行う」ことである。

 燃料電池自動車の開発が世界的に活発化しているが、燃料タンク(水素吸蔵合金タンク)の安全性評価は各社に共通した技術課題であり、将来的に車両認可のための技術基準の作成は必須と考えられる。本研究の目的は、この技術基準作成に活用できるような、水素吸蔵合金タンクの安全性評価方法の検討ならびに基礎データの蓄積を図ることである。また、燃料電池自動車のエネルギー効率に関しては、その計測方法に統一した基準が確立されていない。今後、燃料電池自動車の有益さを技術的根拠を伴って明らかにしていくためには、確実な試験方法に基づくエネルギー効率(水素燃料消費率)の計測手法を確立しておく必要がある。本研究では、水素燃料電池自動車の燃料消費率について現行ガソリン車、ディーゼル車に相当する簡便で高精度な計測方法について調査研究を行う。

 平成11年度は主に以下の研究を実施した。

5.2 平成11年度の研究開発成果

5.2.1 水素吸蔵合金の安全性評価
 水素吸蔵合金の安全性については、既存の消防法および国連勧告・試験マニュアル(以下国連法)に基づく危険物判定試験を用い、合金系、合金粒度、水素化率などを変えた種々の試料の評価を実施した。用いた合金系として、最も使用頻度の高い希土類系合金を中心に、さらにTi系ラーベス合金、BCC構造を持つ合金から各1種類ずつ選定した。その結果、危険物判定試験では、希土類系合金/BCC構造を持つ合金は粒度、水素化率に拘わらず危険物に該当しないことが判明した。一方、今回評価した合金のなかでTi系ラーベス合金1成分のみ、危険物第3類に該当した。危険物に該当しないものは、下記の5.2.2で実施したミニスケールタンクの破壊時においても発火することはなく、既存の消防法および国連勧告に基づく危険物判定試験結果との相関を確認することができた。

5.2.2 水素吸蔵合金タンク(ミニスケール)の衝撃破壊試験
 水素吸蔵合金タンクの安全性を議論する上で、自動車の衝突によるタンク破壊時の水素および合金の挙動を把握することは重要と考えられる。そこで、水素を充填した水素吸蔵合金タンクが衝突などにより破壊され、その結果、水素及び合金が大気中に放出された場合の挙動を評価するため、水素及び合金を充填したミニスケールのタンクを試作し、衝撃破壊試験を実施した。燃料タンクとしては、直径30mm、長さ300mm円筒の容器を用い、充填する合金として、水素吸蔵合金の安全性試験において危険物に該当しなかった組成1-2(Mm(Ce=0.5)Ni5)、および第1種自然発火性と判定された組成3-1(Ti0.7Zr0.3Mn0.8CrCu0.2)の2種類を選択した。また水素吸蔵合金の吸蔵量、タンクへの充填率、サイクル数(合金粒度)による挙動の違いも検討した。水素吸蔵合金タンクに衝撃力を加えて破壊する場合の形態として、軸圧潰、剪断、3点曲げ、片持ち梁による曲げなどが考えられるが、タンクの破壊状況の再現性や容易性等を考慮して、落錘式による衝撃3点曲げ試験を選定した。以上の条件下で衝撃破壊試験を行った結果、次のことが明らかになった。

(1)タンク破壊時に放出された水素への衝撃エネルギー、摩擦エネルギー等に起因する着火は見られない。

(2)サーモグラフの結果から、合金の種類によっては、破損から100ms程度遅れて着火する場合がある。これは、合金の自然発火が着火源となり、水素への着火が生じたものと考えられる。従って、衝突時の燃料漏れに関する技術基準を検討する場合、合金の自然発火性を考慮する必要があるものと考えられる。

(3)タンク破壊時の自然着火に関しては、消防法に基づく危険物判定試験と相関がある事がわかった。

5.2.3 水素吸蔵合金タンクの変形調査
 水素吸蔵合金は、水素吸蔵・放出に伴い結晶格子の膨張と収縮を起こし、これにより微粉化する。このような特性を示す水素吸蔵合金をタンクに貯蔵した場合、微粉化および水素吸蔵による体積膨張により、貯蔵用タンクは圧力を受け、タンクの変形、最悪の場合はタンク破壊を生じる可能性がある。

 これは、高圧タンクのように、単純に内圧が増加して変形する現象とは異なると推定される。従って、水素の吸蔵・放出の繰返しによるタンクの変形挙動などを把握することは技術基準の作成およびタンクを設計する上で重要である。

 そこで本年度は、耐圧3MPaのアルミニウム製タンクに水素吸蔵合金を充填し、大気圧から1MPaの圧力で水素吸蔵・放出を1000サイクル繰り返すことで、タンクの変形挙動ならびに破損の状況を調査した。その結果、タンクは初期のおおむね10サイクルまでに合金の微粉化に伴う、比較的大きな変形をおこすが、その後は変形が進行しないことが判明した。また1000サイクルの水素吸蔵・放出後においても、亀裂等は観察されなかった。

5.2.4 水素燃料電池自動車の燃料消費率の計測方法
 燃料消費率を計測するには、燃料供給側で水素流量を連続的に計測し、これを積算する方式が考えられるが、水素貯蔵システムと燃料電池システムの途中に水素流量計測システムを介在させる必要が生じ、車両システムの改造が必須となり、場合によってはこの改造によって正常な運転が妨げられる恐れも生じる。また、燃料電池自動車はバッテリーなどの別電源とのハイブリッド化によって運転される場合が考えられ、走行中のバッテリー等へのエネルギー収支を、燃料電池自動車の燃費計測にどのように反映させるかも課題となる。

 これらの状況を踏まえ、水素燃料電池自動車の特徴に合わせた簡便かつ高精度な燃料消費率の計測手法を調査検討した。燃料消費率計測方法の候補として、流量測定法、満タン法、電流法、水素バランス法、酸素バランス法について、それぞれの適用可能性と計測精度等について検討を行った。これらのうち、簡便で精度の高さが想定される方法として電流法による計測方法が最も実用性が高いことが導かれた。

5.3 今後の進め方および課題

(1) 車載水素吸蔵合金タンクへの水素の急速充填法の開発

 水素の急速充填技術を確立するため、水素吸蔵合金及び水素吸蔵合金タンクの熱交換性能の改善が最大の課題である。この熱交換性能を定量的に把握するため

<1>水素吸蔵合金の熱伝導率及び水素吸蔵合金粉体間の熱伝達係数の定量化
<2>水素吸蔵量及び水素充填時の圧力の相違によるタンク内温度分布への影響

等を調査する。

(2) 燃費計測方法の検討

 平成11年度に電流計法の実用性が高いとの提案を受けたので本方式の妥当性を固体高分子型燃料発電装置を用いて検証する。

(3) 水素吸蔵合金及び水素吸蔵合金タンクの安全性の評価

 水素吸蔵合金タンクを製作し、これを用いて衝突時を想定した衝撃試験、火中での耐火試験及び破壊試験により衝撃事故の際の安全性を確認する。

 



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