各タスクの平成11年度の成果概要


6. タスク6 純水素供給固体高分子型燃料電池の開発

6.1 研究開発目標
 
送電端効率45%程度(高位発熱量基準)を達成しうる純水素燃料に適合した燃料電池発電システムの要素技術を確立し、定置用30kW級発電システムの実証を行う。上記の研究開発において次の目標を達成する。

(1)送電端効率は45%程度(高位発熱量基準、低位発熱量基準で50%程度)

(2)30kW級純水素供給固体高分子型燃料電池発電プラントのフィールド試験による性能および信頼性の検証

 平成6年度からの調査研究の成果を受けて、平成11年度からは、以上の目標を達成するための要素技術開発を開始した。平成11年度は純水素供給プラントでの水素高利用率領域におけるセル電圧特性に関する問題点の抽出と高利用率運転対策の検討を行った。

6.2 平成11年度の研究開発成果

6.2.1 水素高利用率領域におけるセル電圧特性の把握
 純水素供給固体高分子型燃料電池発電プラントでは、水素ガスの利用率は90%以上の高利用率となる。このため多数積層では、配流の不均一が生じるとその特定のセルで水素の供給不足による特性劣化が予想される。そこで、この水素不足による劣化現象の把握を行った。
 小型セルにより水素不足による転極およびこれに起因する腐食を把握する実験を行った。その結果、セル電圧が−0.3Vの転極ではその影響が小さかったが、−0.7Vの転極では短時間で腐食が発生し電池特性は低下した。転極したセルを分析したところ、膜と水素極との界面に剥離部分が観察された。
 30kW級プラントに使用する予定の実サイズのセルを使用して、水素高利用率運転を実施した。通常の固体高分子型燃料電池では膜の加湿をアノード側で行っているが、水素高利用率運転では空気側を加湿する方法が有効であることが判明した。

6.2.2 高利用率運転方法の開発
 
水素の高利用率運転に適する運転法として以下の方法を検討した。水素の利用率が100%近くでも可能なリサイクル方法として、排出水素をリサイクルするためのエネルギーロスが少ないこと、リサイクルするための機器がシンプルであること、などを考慮して以下の方法を検討した。

(1) 水素回収リサイクル運転、
(2) アノード出口封じ切り運転、
(3) アノードリサイクル運転

(1) 水素回収リサイクル運転

 図6.2.2-1にこのリサイクル方法の説明図および代表的なデーターを示す。この方法は排出された水素はタンク等に所定圧力になるまで水素を回収し、その後入口を閉鎖し、回収した水素はタンクの圧力により電池に送りこみ電池反応により消費させる。
 図6.2.2-1のデータは水素の利用率が100%におけるデータであるが、回収ガス圧力が低い時セル電圧は安定しないが、タンクの回収圧力が0.19MPaの圧力で安定して作動させることができた。

(2) アノード出口封じ切り運転

 図6.2.2-2にアノード出口封じ切り運転の説明図及び代表的なデータを示す。この方法は水素の排出口を封じ切り、電池内で消費される水素のみを供給する。この方法では、所定圧力に減圧された水素を電池へ供給するだけの制御機構で良く、シンプルな制御構成になっている。
 図6.2.2-2に示すように電池作動の初期では、不純物、特に水蒸気の蓄積により水素ガス濃度が若干低下するために、電圧が低下するがその後は安定して運転することができた。

(3) アノードリサイクル運転

 図6.2.2-3にアノードリサイクル運転の説明図を示す。アノード側で消費されずに排出された水素をコンプレッサやエジェクターなどの機器を用いて循環する。この方法は、純水素利用のリン酸型燃料電池や宇宙用の燃料電池で検討された実績がある。水素の循環量や循環駆動力の制御などが課題である。

 本年度に使用した単電池の水素循環量では、実施できないため来年度のショートスタック(100セル程度)で試験を行う予定である。

6.2.3 燃料電池周辺システムの調査・検討

(1) 周辺設備仕様の調査・検討

 水素や窒素、純水などの供給設備や受変電設備、防災設備など、燃料電池発電装置を運転するため現有の周辺設備の状況と、当該設備の運用中に発生したこれまでのトラブルなどを調査し、後年度に実施するフィールド試験に支障を来さないように設備改造点の摘出や効果的な改造方法を検討した。

 その結果、原燃料(副生水素)中のドレン対策が必要であることが明らかとなり、現有の原燃料配管系統の3カ所にドレントラップを追設することにした。

(2) 安全対策

現設備の設置に至るまでの経緯を踏まえ、現時点で対応可能な安全対策内容を検討し、フィールド試験を行う予定の工場に提示した。その結果、燃料電池発電装置パッケージ内の換気方法の検討、ならびにインバータ部〜プロセス・電池部間の密閉型隔壁の設置を条件として、当方からの提示内容が受け入れられた。

(3) 供給水素ガスの調湿対策

現有の原燃料配管系統には、水素の爆燃防止のために安全水封槽が設置されており、その水面から蒸発あるいはキャリオーバーした水蒸気を含んだウエットな水素が燃料電池発電装置に供給されることが、これまでの運用実績から明らかとなっている。特に、夏季には安全水封槽内は非常に高温多湿状態となり、燃料電池発電装置に供給される原燃料ガス中には、水分が過飽和状態で含まれている。

一方、固体高分子型燃料電池では、電池セルに供給するガス中の水分管理がその特性を律する重要なファクターであり、アノードガス(水素ガス)の加湿が電圧低下の要因となることも実験的に明らかとなっている。

このため、安全水封槽を出た原燃料ガスが燃料電池の特性に悪影響を与えないよう、原燃料ガスの除湿方法を検討中である。具体的な除湿程度は未だ決定していないが、冬季の外気温度を勘案して露点の5℃程度を想定すれば、約0℃の冷媒を製造するブラインチリングユニットを考えればよい。

6.3 今後の進め方および課題

(1) 純水素供給固体高分子型燃料電池の開発

平成11年度は、純水素供給固体高分子型燃料電池プラントの高効率化を目指して水素高利用率運転に関する基礎データの取得を行った。実プラントにおいては、セル電圧として0.75V、寿命4万時間が要求される。このため、平成12年度は平成11年度に取得したデータとアノードリサイクル運転技術を反映させて、100セルから構成されるショートスタックを製作し、セル電圧として0.75Vを確認すると共に、長期安定性を確認する。あわせて純水素供給30kW級システムの設計を開始する。

(2) 燃料電池周辺システムの調査・検討

水素の爆燃防止のために原燃料配管系統の途中に設置している安全水封槽から水蒸気が飛散し、燃料電池に供給するガス中に多量に混入することがこれまでの運用実績から明らかとなっている。一方、固体高分子型燃料電池の電池セルに供給するアノードガス(水素ガス)の加湿が電圧低下の要因となることが、実験的に明らかとなっている。

30kW級燃料電池の特性向上を目的として行う原燃料ガスの除湿のために、大きな電気エネルギーを消費することは高効率なシステム構築の観点から是非とも避けなければならない。このため、燃料電池の設計・製作者と連絡を密にし、燃料電池がその能力を100%発揮できるような原燃料ガス除湿システムを構築する予定である。

 



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