各タスクの平成12年度の成果概要

5. タスク5 水素自動車システムの開発


5.1 研究開発目標

 WE-NET第II期研究開発タスク5「水素自動車システムの開発」における研究開発目標は、「水素供給ステーションからの供給を考慮した水素燃料電池自動車の燃料系システムの要素技術開発を行う。また、水素供給ステーションと組み合わせた水素自動車走行システムの技術検証が平成13年度後半に行えるよう前倒しで計画を実施する」ことである。

 平成12年度は、上記の目標を達成するため、急速充填法の開発、水素吸蔵合金タンクの安全性評価などを実施した。


5.2 平成12年度の研究開発成果

5.2.1 急速充填法の開発

(1) 水素吸蔵合金タンクの設計
 ミニサイズの水素吸蔵合金(MH)タンクを設計試作し、評価した。水素の放出条件として、MHタンクの放出温度を60℃とし、水素圧力の上限は満充填の平衡圧で1.1MPa(1.0MPaG)、下限は空状態の平衡圧が大気圧(0.1MPa)であることとした。この上限圧と下限圧の水素吸蔵量の差を有効吸蔵量と定義し、試作するMHタンクの有効吸蔵量を1.25Nm3とした。平成11年度の「WE-NETタスク7水素供給ステーションの開発」において水素ステーションの水素吸蔵合金式貯蔵設備用最適MHについて検討した結果を踏まえ、充填MHとしてAB2とAB5を選定し、さらに、データの少ないBCC系MHも評価対象とした。試作したMHタンクの構造は、優れた伝熱特性を有するプレートフィン方式と製作が容易で耐圧性に優れた分割方式とした。プレートフィン方式MHタンクの構造は、熱交換性能がほぼ等しいもの一種類を試作し、AB2、AB5、BCCの三種類のMHを充填したMHタンクをそれぞれ1個づつ試作した。分割方式では(4)項に記した水素吸蔵反応を考慮した熱伝導モデル計算により、基本モデル(Type A)についてシミュレーションを行い、その結果を基に伝熱特性を改善したType B(熱媒体通路から離れた各MH充填部のコーナー部に伝熱管を追加した構造)、Type C(各MH充填部の中心部に位置するフィルタを中心にして放射状にフィンを設けた構造)のMHタンクを試作した。

(2) 急速充填試験装置および試験方法
 水素供給部、冷媒・温水供給部、MHタンク、計測部から構成される急速充填試験装置を設計・製作した。水素ボンベからMHタンクへの水素流量をマスフローメーターにより測定し、積算により充填量を求めた。冷水槽、温水恒温槽にそれぞれ約2℃、65℃の水を蓄え、MHタンク入口温度が所定温度になるように冷水と温水の混合比を制御した。MH充填部には熱電対を挿入し、タンク内部温度を測定した。タンク内部温度が60℃になってから冷却水と水素を同時に供給開始し、供給水素流量が10L/min未満になった時点で水素の供給を停止した。水素充填終了後は、60℃の水を供給し、タンクから水素を放出させた。

(3) 試験結果と考察
<1>水素充填特性 
 分割方式MHタンク、プレートフィン方式のいずれの方式でも、水素は水素充填開始直後においては急激に流れるが、流量は急速に低下し、そして徐々に減少していくという傾向を示した。水素充填開始直後に示すピーク温度は、充填されているMHのPCT特性曲線と水素の供給圧力により説明することができた。

<2>MHの種類の影響  
 プレートフィン方式MHタンクの実験結果では、AB2とAB5では、80%充填時間が両者とも2.3分と等しく、MHの違いは充填時間には影響していないことが分かった。一方、BCC系MHの場合は、80%充填時間は5.1分で、AB2やAB5系MHよりも充填時間を要した。この原因として水素吸蔵放出の繰り返しによるBCC系MHの吸蔵量の減少が考えられる。

<3>MHタンク構造の影響
 MHタンクの伝熱面積(MHが容器と接触する面積と冷媒が容器と接触する面積との和)と80%充填時間の関係を調べると、伝熱面積が大きくなると、80%充填時間が短くなっている傾向が認められた。分割方式のType A、Type B、Type Cを比較すると80%充填時間に差が認められたが、Type BはMH充填部に伝熱管が追加挿入されているため、Type AとはMHとMH基準の伝熱面との平均距離が異ること、また、Type Cに設置したフィンは容器内壁には接触していないため、伝熱面積はType Aとほぼ等しいことなどから、様々な構造をしたMHタンクの熱交換性能を総合的に評価するには伝熱面積以外にも他のパラメータを検討する必要があると考えられる。

<4>平衡圧の影響
 分割方式Type Bにおいて、吸蔵プラトー圧の影響を調べた。冷媒流量5L/min、10L/minどちらの場合でも吸蔵プラトー圧が高くなるとともに、充填時間が長くなった。流量毎に80%充填時間を冷媒温度におけるプラトー圧に対して直線近似すれば、80%充填時間が10分以内となる最高のMHのプラトー圧を推定することができる。

<5>冷媒温度・流量の影響
 冷媒流量を5 L/minとし、冷媒温度を5℃、15℃、25℃と変えた時、いずれのタイプでも冷媒温度が低いほど80%充填時間が短くなった。冷媒温度を5℃とし、冷媒流量を5 L/min、10 L/minと変えた場合、Type AおよびType C では、冷媒温度を5℃としても、10分以内で80%充填を完了させるには10 L/min以上の流量を要した。しかし、BCCを充填したType Bで放出プラトー圧が高い場合、5 L/minにおいて10.4min要したが、流量を10 L/minとすることで、9.0minに短縮できた。

<6>冷媒層の圧力損失
 MHタンクの冷媒層の圧力損失は、分割方式よりプレートフィン方式の方が大きいが、測定の結果、両方式とも冷媒流量10L/minにおける圧力損失が、ステーション側の許容値の200kPaよりもはるかに小さい値であることがわかった。

(4) 水素吸蔵合金タンクの伝熱計算
 分割方式MHタンクの設計ツールとして、二次元熱伝導モデル計算によるシミュレーションを行った。シミュレーションと実験との比較を行い、タンク構造がMH層の温度分布に及ぼす影響を定性的に把握することができるようになった。シミュレーションの定量的な精度を向上させるには、熱媒体管内側の境界条件をシミュレーションに反映させること、正確なMHの物性値を得る必要があることなどがわかった。

5.2.2 水素吸蔵合金タンクの安全性評価

(1) 実体タンクの安全性評価

<1>水素吸蔵合金タンクの落下/落錘試験
 消防法に基づく自然発火性試験において自然発火しなかった合金(AB5系:Mm(Ce=0.5)Ni5)、および第1種自然発火性と判定された合金(AB2系:Ti0.7Zr0.3Mn0.8CrCu0.2)の2種類をそれぞれ充填した実体タンクを用い、落錘試験により亀裂を発生する程度のタンク破損を試みた。その結果、AB5系合金、AB2系合金のいずれの場合も、タンク外部に放出した合金粉が自然発火するようなことは無かった。AB2系合金の場合、平成11年度実施したスモールスケールタンクの落錘試験とは異なる結果となった。この差異を明らかにするためミニスケールタンクを用いた詳細な検討を行った結果、タンクが亀裂を発生する程度の破損形態の場合、放出合金の量が少なく、水素の噴出圧により、噴霧状態で外部に放出され、合金粉は自然発火しないことが観察された。この現象は、放出される合金粉が噴霧状態の場合、合金粉の水素放出による自己冷却のために発火温度まで達しないことによると推測される。

<2>水素吸蔵合金タンクの耐火試験
 メタノール火炎による水素吸蔵合金タンクの加熱試験を行った。水素吸蔵合金を用いた水素貯蔵の場合、火災等により容器が熱せられると急激に圧力が上昇する。その結果、比較的短時間に安全弁のリリーフ圧に達し、タンク外への水素の放出が始まる。水素がタンクから放出される間は、放出時の吸熱反応により水素吸蔵合金及びタンク容器の温度上昇は緩やかであるが、水素放出後は水素吸蔵合金及びタンク容器の温度は急速に上昇し、アルミニウムの強度も著しく低下する温度に達し、最悪の場合破損に到る。タンクの破損を防ぐ方法として、容器の材質の見直しや、破損の原因であるタンク内外圧力差を無くする可溶栓の設置が有効と考えられる。

<3>水素吸蔵合金タンク漏出水素の燃焼状況試験
 タンク内圧0.98MPaの水素吸蔵合金タンクから水素が噴出した場合の火炎の到達距離は最大でも1m強であり、しかも急速にその勢いは減少した。また、水素火炎は着火直後の数秒間確認できるが、すぐに可視不能となることが分かった。燃焼の継続性は、実験ではサーモグラフ、熱電対により確認できるのみであり実際の漏洩水素に着火した場合においては、ほとんどの場合火炎は見えないと考えられる。

(2) 水素吸蔵・放出によるタンクの変形調査
 平成11年度より継続して実体タンクの変形調査を行った。その結果、初期にはタンクに変形が生じるが、その後は5000サイクル経過しても変形は進行しないことが明らかになった。ミニスケールタンクを用いた予備的実験を行い、水素吸蔵合金タンクの設計上重要な、変形時に作用する応力、また、その発生応力に及ぼす合金種、タンク強度、充填率などの影響を調べた。吸放出のサイクル数の増加に伴い中央部及び底部のひずみ量が多くなること、これらの点では、最初の数サイクルの間は弾性変形内で膨張収縮を繰り返すが、その後塑性変形を生じること、また、充填量の増加がひずみに大きな影響を及ぼすことなどが分かった。


5.3 今後の進め方および課題

5.3.1 急速充填法の開発

 本年度に実施したミニサイズのMHタンクを用いた急速充填試験のデータを基にしてMHタンクを設計する。MHタンクの設計は基本的に小タンクを集合させて、極力スケールアップの要素が生じないようにする。
タスク7において大阪(大阪ガス兜~地内に設置)と高松(且l国総合研究所敷地内に設置)に建設される水素供給ステーションで新規設計したMHタンクを用いた実証試験を行い、25Nm3の水素を10分以内で充填するための水素流量、冷媒の温度および流量、MHタンクの圧力および温度などの条件を明らかにする。

5.3.2 水素吸蔵合金タンクの安全性評価

 本年度の結果に基づき、以下の評価を行う。

(1)水素吸蔵合金タンクの耐火試験
 安全策としての可溶栓の効果および、その種類、設置位置などの影響について評価を行う。さらに、タンク材質の違いによるタンク内部の上昇温度、圧力の差異、タンク破損の有無等の現象を把握して行く。

(2)水素吸蔵放出によるタンク変形評価
 水素吸蔵放出によるタンク変形に及ぼす影響因子、すなわち水素吸蔵合金の種類、充填量、タンク材質等の影響度合いを明確にして行く。また、水素吸蔵放出5000サイクル終了タンクの材料強度特性を評価し信頼性面におけるタンク設計の指針を得る。



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