各タスクの平成12年度の成果概要

4. タスク4 動力発生技術の開発


4.1 研究開発目標

4.1.1 WE-NET第II期(H11〜15年度)動力発生技術の開発目標

(1) 第II期以降において、環境影響物質ほば無排出、送電端効率45%程度および総合効率85%以上のコージェネレーション用水素デイーゼルエンジン(600kW級システム)を開発することを念頭において、単筒機で100kW級水素デイーゼルエンジンを開発する。

(2) 100kW級水素デイーゼル単筒機の性能評価試験を実施し、実用化のための研究開発課題を抽出する。

4.1.2 平成12年度目標

(1) 要素技術開発として、システム実現に必要な構成要素(水素噴射装置、排ガス凝縮器・気液分離装置、単筒実験機および試験設備)の設計並びに水素噴射弁試作を行う。また600kW級システム用の過給機・膨張タービンの調査・検討を行う。

(2) 基礎試験として、燃焼の要素技術について、急速圧縮・膨張装置により単筒実験機システムを構築するための基礎データを取得する。また、ピストンリング、シリンダライナ潤滑に関する基礎データを取得する。さらに、水素噴流、筒内ガス流動の数値解析及び数値解析結果を検証するため、急速・圧縮膨張装置による可視化データを取得する。

(3) 単筒実験機システムの開発として、単筒実験機燃焼室の設計を行う。また、クローズドサイクルシステム検討として、全体システム運転制御法の検討・設計を行う。


4.2 平成12年度の研究開発成果

4.2.1 要素技術開発

4.2.1.1 水素噴射装置の開発

 100kW級アルゴン循環型水素ディーゼル単筒実験機用の水素噴射装置の主要部である電子制御油圧駆動方式の水素噴射弁を設計・試作をおこなった。水素圧力は、筒内最高圧14MPaを臨界以下として筒内ガス圧が燃料のメータリング特性に影響を与えないようにするため30MPaとした。水素噴射弁の作動は、作動ピストンの上面に作動油圧を常時付加しておき、噴射時に電磁弁により油圧を開放して燃料水素により針弁を持ち上げる方式とした。この作動方式のシミュレーション計算を実施して詳細仕様を決定し試作を完了した。

4.2.1.2 排ガス凝縮器・気液分離装置の開発

(1) 排ガス凝縮器形式の選定
 100kW級アルゴン循環型水素ディーゼル単筒実験機システムに供するため、平成11年度に基本設計を行ったプレート式、渦巻き板式、多管円筒式の排ガス凝縮器についてコストを含めた評価を実施した。プレート式は伝熱面積から見ると低コストとなるものの、ガス温度が高いため通常使用するパッキン材ではガス漏洩防止が困難であることがわかった。また、コスト面から渦巻き板式と多管円筒式を比較した結果、最適な排ガス凝縮器形式は多管円筒式であることがわかった。

(2) 単体性能試験計画
 排ガス凝縮器の凝縮能力と気液分離装置の分離性能を単体で評価するための試験装置および試験方法の検討を行った。その結果、排ガス凝縮器性能試験には実機同様アルゴンおよび酸素を不凝縮ガスとして用いるのがベストであるが、試験装置コストの面から空気を不凝縮ガスとして用いる必要があることがわかった。さらに、試験装置の蒸気・空気・冷却水の各系統の構成と排ガス凝縮器および気液分離装置の性能評価方法を明らかにした。

4.2.1.3 過給機・膨張タービンの開発

(1) 600kW実機システム過給機の応力検討
 600kW級アルゴン循環型水素ディーゼルの過給機について、平成10年度の検討で従来ディーゼル用より翼高さの高い大容量型のタービン動翼、コンプレッサ羽根車が必要であることがわかった。翼高さが高い場合、翼自身やボス部に生じる応力が比較的高くなるため、翼の共振時の振動応力や翼およびボス部に生じる遠心応力の検討が必要である。そこで今年度は、平成11年度にプロトタイプ翼形状を計画して流動解析を実施したタービン動翼、コンプレッサの仕様が強度上成立するかどうかを明らかにするため、翼の振動応力の検討と翼とボス部の遠心応力の検討を実施した。その結果、タービン、コンプレッサともに従来並の翼厚と材質で、翼のハーモニック共振と、翼およびボス部に生じる遠心応力による低サイクル疲労に関して強度的に成立することが確認された。

(2) 600kW実機システム膨張タービンの調査
 平成11年度の検討で計画した膨張タービンの回転数、発電端出力条件にて使用可能な発電機、減速機の既製品仕様を調査した。この結果、減速比5分の1の減速機を用いることで回転数を1,800rpmまで落とし、回転数30Hzの発電機を使用することで周波数60Hzの電力を得ることが可能である。発電機は既製品にて対応可能、減速機はメーカ特注品(技術的問題は無し)により構成可能との目処を得た。

4.2.2 基礎試験

4.2.2.1 水素燃焼試験

(1) 低酸素過剰率燃焼改善試験
 平成11年度は作動ガスアルゴン・酸素濃度を変化させた試験を行い、酸素過剰率の低いアルゴン濃度79%以上で図示熱効率の低下が見られた。そこで今年度は、低酸素過剰率での燃焼改善を狙って水素噴射圧力を上げて試験を行った。また、噴孔径を変化させて燃焼状態の評価を行った。この結果、燃料噴射圧力を20MPaから25MPaに上げたことによって積算受熱量が約13%改善された。燃料噴射圧力増加によって燃料と周囲ガスとの混合が促進され燃焼が改善されたことによると考えられる。作動ガスの噴孔径変化試験では、同一噴射圧力において積算燃焼量を最大とする最適な噴孔径があることがわかった。

(2) 燃焼室熱伝達評価試験
 平成11年度に性能計算に基づいて燃焼室温度を推定した結果、アルゴン循環型水素ディーゼルは従来ディーゼルよりも燃焼室温度が高くなるとの結果が得られ、熱負荷が課題の一つであることがわかった。そこで今年度は、燃焼室設計のための基礎データ取得を目的としてアルゴン・酸素濃度変化時の燃焼室熱流束計測を行い、熱負荷への影響を評価した。

 図4.2.2-1に燃焼時と非燃焼時の1サイクルの平均熱流束を示す。非燃焼時にはアルゴン濃度が高いほど平均熱流束がわずかに高くなっている。これは、作動ガスの比熱比が高く圧縮温度が高くなることによると考えられる。一方、燃焼時には酸素濃度が大きい方が高熱流束になっている。アルゴン濃度が高い方が燃焼時も筒内ガス温度が高くなるため熱流束が大きくなると予測されたが、アルゴン濃度増加による比熱比増大よりも、酸素濃度増加による燃焼の活性化の方が熱負荷への影響が大きいことが分かった。

(3) 着火試験
 アルゴン循環型水素ディーゼルにおいて、アルゴンを作動ガスとした場合の水素の着火性はこれまでの試験で確認されているものの、始動時を想定した作動ガスが空気の場合は比熱比が低いため圧縮温度が低く、現状のシステムでは自己着火が困難である。そこで、空気を作動ガスとしてスパークプラグを用いた着火試験を行い、空気過剰率が燃焼限界範囲内となる位置において水素噴流半径近傍にスパーク中心を置くことにより、始動時にも水素噴流に安定して着火可能であることが確認できた。

(4) 水蒸気影響評価試験
 実機においては給気に飽和水蒸気成分が含まれる。このため、作動ガスに水蒸気を加えて性能への影響を評価した。水蒸気を混合した場合と混合しなかった場合とで筒内圧力、受熱率、積算受熱量に変化がみられなかったことから、水蒸気成分3%程度であれば性能には問題ないことがわかった。

4.2.2.2 ピストンリング・シリンダライナ潤滑試験

 水素ディーゼル機関用潤滑油を試作し性状分析を行った結果、既存の4サイクル舶用ディーゼル機関用潤滑油に比べ高温潤滑性に優れていることが分かった。さらに、高温条件下における試作油の耐焼き付性について評価するため、各種リング・ライナ材テストピースによる往復動摺動試験を行った。試験の結果、既存油ではライナ材の表面温度が250℃を超えると油が蒸発し、焼き付きに至ることが分かった。一方、試作油では表面温度が250℃を超えても油の蒸発は少なく、代わりに粘度が低下することにより摺動面から流れ去ったため焼き付きに至ったが、油が存在すれば焼き付きに至らなかったと推察される。

4.2.2.3 数値解析の実施

 急速圧縮膨張装置の燃焼室をモデルに、噴流観察型及びフラット型ピストンのメッシュを作成し、水素ガス噴流、スワールを伴う筒内ガス流動、予混合及び筒内直接噴射による圧縮着火燃焼解析を行い、実験結果との検証を行った。

 噴流解析の結果、噴流の到達距離・形状は実験結果とほぼ一致し、概ねシミュレートできることが分かった。またスワールを伴う解析結果から噴流出口付近はほとんどスワールの影響を受けないが、少し進むとその影響を受け、水素ガスが拡散することが分かった。
燃焼解析は予混合及び筒内直接噴射について実施したが、いずれの場合も噴射量、シリンダ内最高圧力については実験結果とほぼ一致することを確認した。

4.2.2.4 解析結果の検証

 上記の数値解析結果を検証するため、急速圧縮膨張装置による水素噴射試験、予混合及び筒内直接噴射による燃焼試験を行い、水素ガス噴流画像、OHラジカルの自発光画像及び圧力計測等のデータを得た。これらの実験結果を数値解析の入力条件として使用すると共に、解析結果と比較検証することにより、ガス噴流解析モデル及び燃焼解析モデルの妥当性について検討を行った。

4.2.3 単筒実験機システム開発

4.2.3.1 試験設備の詳細計画

(1) 実験室建家の詳細計画
 試験設備が高圧ガス取締法の適用を受けるため、主要な系統を高圧ガス製造装置部分と消費設備および補機・運転設備に分離して配置する観点から水素実験室の配置を検討した。単筒実験機を含む試験ライン概要を図4.2.3-1に示す。

 実験室建家は高圧ガス製造装置を設置するため、まわりの危険物取扱所から必要な保安距離を満足する場所を選定し計画した。構造は鉄骨構造平屋建・発泡コンクリート外壁・カラー鉄板屋根で屋内面積138m2とした。また、実験室は運転制御室、単筒実験機室、排ガス循環・凝縮室、水素圧縮機室、補機室および屋外設備(酸素製造装置や水素カードル設置)から構成される。

(2) 水素供給系統の詳細計画
 水素貯蔵能力としては定格で1日4時間連続運転した場合の水素消費量の2日分を貯蔵するカードルを2セット常置することとした。
主な水素供給系統設備はカードル、水素圧縮機および配管からなる。カードルから水素圧縮機までの水素の代表条件は圧力4MPa、温度300Kで、管径は10mmを選定し管内流速を7m/sとした。

(3) 作動ガス循環ラインの詳細計画
 作動ガス循環ラインは全体の管路抵抗として0.012MPa以下となるように流速が15m/s程度となる管径を選定した。

4.2.3.2 単筒実験機燃焼室の設計

(1) シリンダヘッドの設計
 アルゴン循環型水素ディーゼルの燃焼ガス側熱伝達境界条件として、ガス温度を従来ディーゼルより97°高い957℃、熱伝達率を従来ディーゼルの1.3倍として単筒実験機のシリンダヘッドの温度および応力のFEM解析を実施した。現状シリンダヘッドでは最高温度が437℃になり鋳鉄材料の使用限界温度の約400℃をこえるが、触火面にジルコニアの溶射を施すことにより使用限界温度以内にできることがわかった。

(2) ピストンの設計
 アルゴン循環型水素ディーゼルの燃焼ガス側熱伝達境界条件で単筒実験機のピストンの温度および応力のFEM解析を実施した。現状のアルミ合金ピストンでは最高温度が425℃となり使用限界温度をこえることがわかった。材質を球状黒鉛鋳鉄に変更し肉厚を薄くすることによりアルゴン循環型水素ディーゼルのピストンが成立する可能性があることが分かった。

(3) リング・ライナの検討
 アルゴン循環型水素ディーゼルの燃焼ガス側熱伝達境界条件で単筒実験機のシリンダライナ温度を推定した。ピストンのトップリング上死点位置で従来ディーゼルより28℃上昇し177℃となった。

4.2.3.3 クローズドサイクルシステム検討

 単筒実験機試験システムの運転では、水素投入量に見合う酸素投入量の設定方法、過給機と補助ブロワの制御関係および余剰ガス排出弁作動前後の制御をどのようにするかが全体運転の制御性を決定する。そこで、起動から負荷運転及び停止に至る一連の運転・制御法について検討した。この結果、システム運転を以下の通り実施の予定である。

(1) システム全体の運転制御はマニュアル制御と自動制御の組み合わせで行う。
(2) 自動制御する部分は起動部分、CO2濃度増加に伴う余剰ガス排出部分、給気圧力設定による補助ブロワ運転、エンジン停止および機器の状態監視に限定する。
(3) マニュアル部分はシステム運転準備、運転負荷の設定、運転条件の設定、負荷変化開始の指示などオペレータの判断が必要なものの大半をマニュアル作動とする。
(4) 余剰ガス排出弁を常時開弁方式とするかあるいはセンシングによりその都度開弁するかは、今後検討し決定する。


4.3 今後の進め方および課題

4.3.1 要素技術開発

4.3.1.1 水素噴射装置の開発

 100kW級アルゴン循環型水素ディーゼル単筒実験機での、安定したメータリング特性の確認が課題である。

4.3.1.2排ガス凝縮器・気液分離装置の開発

 排ガス凝縮器の凝縮能力と気液分離装置の分離性能が設計値通りであることの確認が課題である。

4.3.2 基礎試験

4.3.2.1 水素燃焼試験

(1) 低酸素過剰率燃焼改善試験
 単筒実験機システム試験では燃料噴射圧力30MPaの高圧噴射を行い、混合促進により低酸素過剰率条件での燃焼を改善することが課題である。また、筒内ガスにスワールを与えることによる混合促進・燃焼改善もねらい、低酸素・高アルゴン濃度によるサイクル効率向上を目指す。

(2)燃焼室熱伝達評価試験
 単筒実験機で燃焼室温度計測を行い、作動ガスのアルゴン・酸素濃度の熱負荷への影響評価、および従来ディーゼルとの熱負荷の比較評価が課題である。

(3) 着火試験
 単筒実験機でのスパークプラグによる始動時の安定着火性の確認が課題である。

(4) リング・ライナ潤滑
 ライナ温度上昇時の潤滑性能確保と潤滑油消費量増加防止が課題である。

(5) 水素ディーゼル機関における筒内現象の解析
 放熱過程、水素と酸素の混合・燃焼過程等を正確に評価できるようプログラムを改良し、解析精度を向上させる必要がある。

4.3.3 単筒実験機システム開発

 クローズドサイクルシステム検討として、水素投入量に見合う酸素投入量の設定、過給機と補助ブロワの制御、および余剰ガス排出弁作動前後の制御を含めた、全体システムの運転制御が課題である。



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