各タスクの平成12年度の成果概要

9.  タスク9  液体水素輸送・貯蔵技術の開発


9.1  液体水素輸送・貯蔵設備の開発

9.1.1  研究開発目標

 液体水素輸送タンカーと陸上液体水素タンクに共通する断熱構造の要素試験として、昨年度に引き続き、考えられる候補試験体の断熱性能試験と低温強度試験を実施し、断熱構造体のデータベース化を充実させる。今回初めて試験体の雰囲気圧力が真空から大気圧状態になる試験を実施し、基礎データを習得する。

 また、燃料電池自動車の開発が急速に進展しており、これに対応した燃料電池自動車用の水素供給インフラ構築に関して、研究開発の技術課題を検討する。

9.1.2  平成12年度の研究開発成果

9.1.2.1  断熱性能試験体の設計

 断熱性能試験の試験体として、真空パネル型断熱構造試験体、固体真空断熱構造試験体、及び粉末常圧断熱構造試験体を設計し、固体真空断熱構造試験体と粉末常圧断熱構造試験体を製作した。

(1) 真空パネル型断熱構造試験体
 ポリウレタンフォームをSUS薄板の外装材で覆い、内部を真空にした断熱構造体である。試験体と断熱性能試験装置の取り合いを考慮して、試験体は外径1,150mm、厚さ200mmで、外装材SUS薄板厚さは、試験体の高温、低温面が各0.5mm、側面が0.3mmとした。パネル内部の真空度を維持するため、ポリウレタンフォームを予備乾燥しガス吸着剤をパネル内部に充填した。断熱計測は従来の液体水素蒸発量測定と試験体底面に貼り付けた熱流束計の熱起電力測定の2通りの方法で実施する。

(2) 固体真断熱構造試験体
 ポリウレタンフォームと真空断熱(低温側と高温側が真空)との組み合わせで、低温側に支持部がついた構造体である。試験体は、外径1,200mm, 厚さ200mmで、真空層の空間は、低温側が5mm、高温側20mmである。試験体の熱変形により過大な反力が生じない構造になっている。

(3) 粉末常圧断熱構造試験体
 粉末(パーライト)断熱材の雰囲気が大気圧になる構造であるため、試験装置の真空層と試験体の大気層を分離する目的でSUSケースを設け、その中にパーライトを充填する。SUSケースの外径は低温側1,100mm,高温側1,150mm、厚さは200mm。試験期間、内圧を受けSUSケース上面板の変形を防止するため、FRPボルト等でSUSケースを補強した。

9.1.2.2  断熱性能試験結果

 前年度実施した固体真空断熱構造試験体(目地付ウレタンフォーム+低温側真空)、メンブレン積層真空断熱構造試験体、今年度実施した固体真空断熱構造試験体(低温側真空+ウレタンフォーム+高温側真空)、固体真空断熱構造試験体(接触タイプ、マイクロサーム)、及び粉末常圧断熱構造試験体の5体の試験体について、性能試験結果を検討した。

(1) 固体真空断熱構造試験体(目地付ウレタンフォーム+低温側真空)
 試験体低温面の温度分布による半径方向の熱流束を考慮して、昨年度測定した有効熱伝導率を補正した。液体水素測定容器と試験体低温面間の輻射伝熱解析モデルを作成し、測定温度分布と一定温度分布を比較検討した結果、液体水素測定容器への入熱は7.3%減少した。このことから補正有効熱伝導率は、昨年度算定の8.54 [mW/m-k]を補正した結果7.92[mW/m-k]となった。目地が断熱性能に及ぼす影響について、目地なしの測定容器入熱量は目地ありより17.8%減少する結果を得た。

(2) 固体真空断熱構造試験体(支持部付きウレタンフォーム+低温・高温側真空)
 試験体を液体水素測定容器底面に支持材を介して取り付けた状態で試験を実施した。支持部、側部からの熱侵入を含めた有効熱伝導率は、低温側温度28.5Kと高温側温度間で5.58[mW/m-k]であった。

(3) 固体真空断熱構造試験体(接触タイプ、マイクロサーム)
 シリカ系微細多孔構造体のマイクロサームについて試験を実施した。マイクロサームは、製作上の制約から、直径1,200mm、厚さ50mm の1ブロックを4段重ねし、1ブロックが4分割されている。 試験体の低温面と高温面が測定容器低面と高熱板に接触した条件で試験を実施した結果、試験体低温面温度35Kと高温面温度276K間の有効熱伝導率は4.5[mW/m-K]であった。継ぎ手の影響はほとんど無かった。

(4)メンブレン積層真空断熱構造試験体
 試験体は、積層真空断熱材とGFRPサポートから構成され、測定容器低温面温度20Kと高熱板温度280K間の有効熱伝導率は6.15[mW/m-K]であった。実機と試験装置の輻射伝熱境界条件を検討した結果、輻射伝熱量に関して実機では、測定データより約20%増加すると考えられる。

(5) 粉末常圧断熱構造試験体
 SUSケース内の圧力が1Pa(7.5 x 10-3Torr)の時、SUSケースを含んだ試験体の有効熱伝導率は、低温面温度35Kと高温面温度280K間で7.7[mW/(m-K)]であった。ケース内の圧力を大気圧状態(0.1MPa)にすると 100 NL/min(65W)以上になり測定不能の状態になった。常圧タイプの試験体については、見直し検討を要する。

9.1.2.3 断熱材の低温強度試験

 固体真空(常圧)断熱材の一つであるマイクロスフェアについて室温、液体窒素温度、及び液体水素温度雰囲気での圧縮試験を実施し低温圧縮特性を確認した。液体水素の圧縮強度は、常温強度は496Pa(1%耐力の平均値)に対して約2.1倍の1,044MPaであり、温度低下にほぼ比例して圧縮強度が上昇する。

9.1.2.4 小容量液体水素輸送貯蔵システム開発の課題抽出

 燃料電池自動車の開発が進み、燃料電池自動車に水素を供給すためのインフラ構築が重要な課題となっている。今後この小容量液体水素の輸送・貯蔵システム開発を進める上で、システムのエネルギーロスを最小にするため、液体水素の揺動を抑制した低コストの高性能液体水素輸送・貯蔵タンク、輸送・貯蔵中の液体水素蒸発の抑制方法、及び蒸発ガスの有効処理方法等の開発が要求される。本年度はH13年度以降の具体的な開発項目、ならびにその進め方について検討した。

9.1.3 今後の進め方および課題

 来年度も断熱構造試験体の要素試験として断熱性能試験と低温強度試験を実施し、データベース化を充実させる。来年度は断熱試験としてSUS製薄板パネルにポリウレタンフォームを封入した真空パネル型断熱構造試験体と粉末真空断熱構造体(マイクロスフェア)の2基の試験体を実施する。強度試験として軽骨コンクリートの試験を実施する。これと平行して燃料電池自動車への水素供給を目的とした小容量液体水素輸送・貯蔵システムを検討する。来年度は、小型液体水素輸送・貯蔵タンクの基本検討と、タンク内の液体水素揺動(スロッシング)等の予備解析を行う予定である。



Copyright(C) 1998-2003 New Energy and Industrial Technology Development Organization