各タスクの平成12年度の成果概要

9.2 共通機器類の開発


9.2.1 研究開発目標

 WE-NET液体水素輸送・貯蔵技術の開発では、液体水素を輸送移動させるための液体水素ポンプの開発が必要である。今までに、特に大型液体水素ポンプにおいて性能、操作性、安全性はもちろんのこと長時間安定して液体水素を供給できるポンプの実績が無い。また作動流体である液体水素は温度20K,密度71kg/m3の極低温流体で、且つ、粘性係数が1.3・10-5Pa・s以下の極低粘性流体でもあるため、軸受は厳しい潤滑環境にさらされる。このような条件でのポンプ開発として、軸受に磁気浮遊ベアリングを選定し開発を行う。

 H11年度までに、1/3サブスケールモデルを用いて、液体水素での回転試験を実施し、33,000rpmまでの回転を確認している。しかし、33,000rpm以上ではポンプ吸い込み不良が原因と思われる過度の軸振動が発生し、これ以上の回転数での性能確認が出来なかった。そのため、今年度は軸振動対策及び吸い込み不良改善を行い、定格36,000rpmを目標に回転試験を行う。

9.2.2 平成12年度の研究開発成果

9.2.2.1 液体水素ポンプ改修

(1)磁気軸受改修
 本年度は定格36,000rpm領域における軸振動の安定性を目的に磁気軸受部回転ロータ部の質量低減とスラストディスク断面形状見直しを実施した。供試体全体の断面形状を図9.2.2-1に示す。

(2)流体静圧軸受追加
 高速回転時の軸振動低減のため、本年度は磁気軸受の補助的役割として、ポンプ回転により吐出される液体水素を潤滑流体とする静圧軸受をポンプ支持部近傍に追加し、耐振動特性の向上をはかった。断面形状を図9.2.2-2に示す。

(3)インデューサ改修
 前年度までのインデューサに対して翼端部の形状変更および翼形状の変更 (図9.2.2-3)を行った。翼端部の形状変更により流体の翼に対する相対速度を遅くし、翼形状の変更により吸込性能の向上をはかった。

9.2.2.2 試験内容

 本年度の設計により改修された供試体と、昨年度製作済みのデジタル制御コントローラ及び絶縁型フィードスルーを用いて回転試験を実施した。

【常温無負荷回転試験】
 駆動タービンに窒素ガスを供給してポンプ作動流体のない状態での回転試験を行ない、磁気軸受の回転状態での特性データを取得する。

【液水負荷回転試験】
 駆動タービンに水素ガスを供給しポンプ作動流体に液体水素を用い、定格回転数36,000rpmでの磁気軸受特性及びポンプ特性データを取得する。

9.2.2.3  試験結果

 常温及び液体水素環境下で磁気軸受とデジタル制御コントローラを組合せ、浮上状態にて外乱信号を入れて周波数特性を確認した結果、900Hz(54,000rpm)迄の位相補償特性が得られ600Hz(定格36,000rpm)に対して十分な性能であることが確認できた。
常温無負荷回転試験では、最大20,000rpm迄回転させ、7,000rpm付近に剛体1次危険速度、11,400rpm付近に2次危険速度と思われる軸振動の増加が認められたが、最大軸振動振幅40μmp-p 以内に制御できることを確認した。

 続いて液水回転試験に移行して第1回目の液水回転試験を実施したが、約17,000rpmにてポンプ回転軸が急停止となった。ポンプを分解点検したところ、静圧軸受部に接触痕が認められ軸振動過大により、静圧軸受部がロータ軸と接触したことが原因と判断した。不具合の対策として静圧軸受部のクリアランスが充分大きなダミーを取りつけ、靜圧軸受部が作用しない状況で第2回目の液水回転試験を実施した。その時のポンプ側軸振動と回転数を図9.2.2-4に示す。目標回転数の36,000rpm迄、最大軸振動振幅は40μmp-p 以内に制御されている。また、ポンプ吐出圧は回転数に比例して増大し、急峻な変化は認められなかった。(図9.2.2-5

9.2.2.4  まとめ

 平成12年度は、平成11年度に製作した液体水素ポンプを改修して液水温度環境下での回転試験を実施した。その結果、以下の成果が得られた。
(1)ロータ軸の中空化により回転部固有振動数を向上させ曲げモードによる軸振動不安定領域を遠ざけることにより軸振動の安定化が図られた。
(2)静圧軸受による軸振動の安定化に関しては、ポンプ回転数が17,000rpmで急停止したために、静圧軸受供給圧力が低く基本性能を確認するまでに至らなかった。
(3)インデューサの形状変更によりポンプ吸い込み性能が向上し、昨年度発生したポンプ吸い込み不良と思われる急激な軸振動増大は発生しなかった。
(4)H9年度に製作を開始した磁気軸受供試体及びコントローラに改良を加え、漸く目標回転数36,000rpm迄の回転性能を確認することが出来た。
(5)ポンプ性能に関しては軸シール部等に最適なクリアランス設計が行われず、吐出口以外への漏れが多く設計仕様の吐出圧力は得られなかったが、定格回転数まで安定動作することを確認した。

9.2.2.5  高圧小流量ポンプの基本設計

 今まで進めてきた上述のテストは高圧小流量の液体水素ポンプを想定した軸受テストが主目的であったが、より具体的なポンプの可能性を追求するため、回転数:36,000 rpm、流体温度:20 K、吸込:0.2 MPa、吐出圧力:60.0 MPa、流量:90 m3/hの設計仕様での設計検討を行った。

(1)タービン部
 タービン入口圧力、タービン段数をパラメータとしてタービン型式、水素ガス抽気量についてタービン効率を0.8、周速を500m/sと仮定して検討を行った。その結果コスト、大きさ等を考慮すると軸流2段、入口圧0.49MPaが適当であった。ただし、CFDの結果等を利用して翼形状の変更をしていく必要がある。

(2)主ポンプ部
 遠心式ポンプの段数(1段または2段)をパラメータとして検討を行った。この時の比速度が1段なら50程度、2段なら80程度となり、1段の場合は製作上問題となりそうな値となった。2段では軸振動等の問題を起こす可能性が高い。このため最近の技術動向を考慮して液体水素粘性効果、セミオープン羽根車、中間翼、層硫化、水素気化といった面に関しても検討を行っていく必要がある。

(3)インデューサ部
 主ポンプの要求から揚程140m以上、内径34mmを満たす基本検討をおこなった。文献や昨年度までのデータを利用して流量係数や流体角度をパラメータとし、できるだけ昨年度までの実績と相似であることを考慮した。その結果、流量係数0.086、外径72mm、軸長25mm程度が適当であることが分かった。

9.2.3  今後の進め方および課題

(1)磁気軸受の補助軸受として流体靜圧軸受の基本性能取得のため、基礎試験を実施。
(2)水素ステーション用小型液体水素供給ポンプ及び誘導モータの設計検討
(3)水素ステーション貯蔵タンクからのボイルオフガス回収/利用技術検討



Copyright(C) 1998-2003 New Energy and Industrial Technology Development Organization