各タスクの平成12年度の成果概要

12. タスク12 革新的・先導的技術に関する調査・研究


12.1  研究開発目標

 WE−NETは長期的視野に立ったプロジェクトであり、これを推進していく上で、将来的には有望であるものの、当面の開発対象から外れている革新的・先導的技術が成熟してくることも大いに考えられる。また、在来型技術についても、その技術改良等の動向によっては、WE−NETプロジェクトの構成技術の一つとして取り込みが必要となってくる。このような革新的・先導的技術、在来型技術についての調査・検討・評価を行い、必要に応じて更に研究することにより、WE−NETプロジェクトの方向性に有益な示唆・提案を行い、研究開発に資することを目的とする。


12.2  平成12年度の研究開発成果

12.2.1  革新的・先導的技術の調査・評価

 平成12年度は5件の新技術提案を収集した。5件の新技術提案について、概念検討を行うためワーキンググループ(以下「WG」と言う。)による評価を行い、委員会にて本年度の概念検討件名を選定した。新提案技術とその評価結果を表12.2.1-1に示す。

12.2.2 革新的・先導的技術の研究

(1) 平成12年度概念検討結果の評価
 平成12年度に実施した4件の概念検討結果の評価を実施した。
表12.2.1-1の新技術提案の評価結果をもとに、平成12年度の概念検討項目を選定し、4件の概念検討を実施した。概念検討結果の評価は以下の通り。

<1>天然ガスを原料とした二酸化炭素を発生させない水素製造法の調査と副産物の評価
天然ガスを利用した水素製造技術は、大規模および分散利用可能な技術であるが、二酸化炭素を排出するプロセスであるため、二酸化炭素を排出させず、水素を製造できる技術の可能性について検討した。対象としては、プラズマと触媒を用いる方法について、技術的調査を行い、副産物としての炭素の付加価値性について検討した。その結果、プラズマを用いた方法は、水素転換率も90%以上と高く、例えば、付加価値性のある生成物質としてカーボンブラックなどが得られるなど貴重な情報を得ることができた。触媒法については、付加価値性の高い生成物が得られる可能性を残しているものの、触媒が失活するなどの課題についてさらに検討が必要である。
次のステップでは、プラズマを用いた方法については、エネルギー効率、水素コスト評価および生成物の経済性評価などの検討を行うことやその他の技術の可能性も含めて、天然ガス分散化利用の観点から、二酸化炭素の低減に寄与する水素製造方法の調査検討が必要である。

<2>水素選択性ヒドロゲナーゼセンサーの技術的可能性調査研究
現状水素に対して、100%の選択性で感応する水素センサーがないため、水素化・脱水素化の触媒作用を有するたんぱく質酵素であるヒドロゲナーゼを水素センサーに応用した場合の技術的可能性について検討した。その結果、センサーとしての各特性について、例えば、水素への感応性、応答速度、一酸化炭素に対する触媒回復作用特性などを確認することができた。今後ヒドロゲナーゼの水素センサーへの適用については、感応出力の増大と応答速度の改善が必要であり、そのためには、ヒドロゲナーゼと電子授受を行う媒体との効率的な電子授受配置方法と電極上への固定化技術の確立および耐久性の確認が必要である。しかし、現状ヒドロゲナーゼは入手、精製に時間を要する酵素であり、サンプルを必要数準備し検証する耐久性等の確認には支障が生じる。そこで、今後ヒドロゲナーゼが比較的安く、容易に入手できる時期がきたら再開することを考慮して本年度一旦本検討を中断する。

<3>ナフテン系水素貯蔵輸送媒体の新規脱水素反応の調査
水素貯蔵・輸送媒体として、水素化・脱水素化が容易である炭化水素化物のうち、水素含有量が比較的多いシクロヘキサンとデカリンのナフテン系水素貯蔵媒体について、脱水素化反応へ適用した場合の反応促進効果の確認と反応器に適用した場合の技術的可能性を2方式について検討した。その結果、過熱液膜方式およびメンブレンリアクター方式ともに反応促進効果が確認され、反応器に適用した場合、200〜300℃程度の温度域でコンパクトにできる可能性があることがわかった。過熱液膜方式について、次のステップでは、水素、ナフテン系媒体および未反応媒体との分離技術の確立および反応・分離データの蓄積、解析によりさらなる定量的分析を行うとともに水素スタンドなどを対象としたシステムエンジニアリングの観点からシステム概念設計の実施と技術的可能性について検討を行う。メンブレンリアクター方式については、タスク11水素分散輸送・貯蔵用水素吸蔵合金(水素貯蔵材料)の開発に研究の引き継ぎを行う。

<4>非平衡メタン改質型ガスタービンシステムの調査研究
数MW規模のガスタービン排熱を利用したメタン改質と改質ガスから水素分離を行う技術の可能性、および500℃程度の排熱温度域で高改質率を達成できる改質器をガスタービンに組み込んだ場合要求される改質器の条件とシステムメリットについて検討を行った。その結果、ガスタービン排熱を回収し、天然ガスを水素リッチなガスに改質することにより、出力、効率向上が見込まれることが検討された。今後の課題としては、対象分離膜のガスタービンへの適用可能性などがあげられ、次のステップとして、ガスタービンシステム側と水素分離膜を含めた改質器側のおのおのの課題を検討し、システムの実現可能性の検討が必要である。

<5>天然水素からの重水素回収プロセス付加による水素エネルギーシステム経済性向上の調査
検討内容としては、経済性評価に留まるテーマである。重水素分離・濃縮過程で消費されるエネルギーにより、システム効率が低下することが考えられる。また、重水素の需要がまだ少ない中で重水素分離技術を水素供給ステーションに応用しても経済性メリットは期待できない。 

(2) 平成12年度基礎研究結果の評価

<基礎研究課題>  磁気冷凍法による水素液化技術の基礎研究
昨年度は、本研究課題の選定を行い、本年度より基礎研究に着手した。図12.2.2-1に従来のガス圧縮式冷凍法と磁気冷凍法の類似性を示す。
本年度は、磁気冷凍水素液化システムの基本設計と最適磁性材料の研究を行った。その結果、水素液化量10kg/日、システム効率50%、ベルトチェーン方式の水素液化機の基本設計を行い、磁性材料についても、70〜150Kの温度領域で磁性材料の調合を行い、十数種類の適正磁性材料を選定したことで、本年度の研究目標は達成された。図12.2.2-2に選定材料の磁気熱量効果を図12.2.2-3にベルト型リジェネレータの概略図を示す。
次のステップでは、要素技術研究として最適蓄冷器の選定および蓄冷器と流体システムの組合せ試験等を行う。

12.2.3  新規開発分野・項目の検討

 これまでの調査・研究により得られた新技術の動向を踏まえて、WE−NETプロジェクトに反映すべき有望技術を発掘するため、開発分野と技術的課題について検討を行った。


12.3  今後の進め方および課題

 関連技術の動向を常に注視し、その中からWE−NETプロジェクトが開発するものとして必要となる可能性のある新技術を抽出、検討、評価することにより、例えば、水素貯蔵技術については、平成11年度に「炭素系材料」、平成12年度には「ナフテン系水素貯蔵媒体」の調査を行い、有望なシーズを発掘し、一部、タスク11水素分散輸送・貯蔵用水素吸蔵合金(水素貯蔵材料)へ調査研究の引継ぎを行うなど、水素の将来見通しを立てる上で有益な情報をプロジェクト内に提供することができた。

 今後ともWE−NETプロジェクトの有効性を保つためには、引き続き関連技術の動向を常に監視していく必要がある。



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