各サブタスクの平成6年度の成果概要


7.サブタスク7 水素利用技術に関する調査・検討

 平成5年度に検討した水素の利用体系をもとに今年度は水素利用技術としてつぎの4利用技術を取り上げ調査検討を行った。

 (1) 冷熱発電
 (2) 動力発生
 (3) 自動車
 (4) 酸水素利用燃料電池

 冷熱発電はLNG冷熱発電をべースに液体水素利用の発電サイクルを中心に検討し、動力発生は水素を燃料とした新システムの提案と技術課題の抽出を行った。自動車は将来の自動車を取り巻く状況を検討し、その結果を踏まえて水素自動車開発の基本的な方向性や位置付けを分析した。燃料電池は5タイプの燃料電池を取り上げ水素−酸素の利用の場合の技術面、用途面からの検討を行った。
 各利用技術の調査検討内容は次の通りである。

7.1 冷熱発電に関する調査検討

 冷熱発電は液体水素冷熱の有効な利用方法の一つであり、ここでは液体水素冷熱発電に適した発電サイクルに関し、実績のあるLNG冷熱発電サイクルをべースに検討した。
 LNG冷熱発電サイクルは大別して、ランキンサイクルとブレイトンサイクルに分けられ、このうち、実際に実用、実証プラントとして稼働しているものはランキンサイクルのみである。ブレイトンサイクルは、LNGの燃焼ガスによるガスタービンサイクルの圧縮機入口温度をLNG冷熱により低下させ、圧縮機動力を低減させるものであり、技術的な問題点や建設コストの高さなどからいまだ研究段階にある。
 ランキンサイクルはLNGの直接膨張方式と二次媒体方式、およびこの組合せ方式に分けられる。このうち液体水素冷熱発電サイクルとしては、冷熱エクセルギの有効利用およびプラント実現性の高さから水素直接膨張サイクルと二次媒体のランキンサイクルの組合せ方式が適当である。また、液体水素の沸点(20.28K)がLNGに比べて非常に低く、常温まで温度範囲が広いことから、冷熱を有効利用するためには二次媒体ランキンサイクルは複数設置する必要があり、さらに作動ガス(二次媒体)についても温度レベルに適したものを選定する必要がある。
 一例として、水素を5.17MPa(51atm)まで加圧し、再熱式2段タービンにて0.963MPa (9.5atm)まで膨張させて輸送する場合(水素直接膨張サイクル)、冷熱エクセルギ利用効率は13.9%であるのに対して、これに二次媒体としてアルゴンとプロパンのランキンサイクル(2系統)を設置すると冷熱エクセルギ利用効率は24.4%まで向上する。
 現状、水素の利用形態によって決まる水素送出条件が明確になっていないことから、サイクル作動条件、作動ガス種等の最適化は今回の検討では実施していないが、これらについては水素利用形態が明確になった時点で検討する必要がある。
 また、今回はサイクルの検討を中心に実施したが、本サイクルを実現するために必要な液体水素ポンプ、タービン、熱交換器等、極低温に対応した機器の開発が必要になる。これらは基本的にLNG冷熱発電にて使用されている機器をべースに開発可能と判断されるが、液体水素がLNGに比べて、非常に低温であること、また密度が小さいなど物性がかなり異なることを考慮する必要がある。
 さらに、負荷変動に対する冷熱発電システムの安定性および経済性などを考慮したシステムの全体設計がなされなければならない。また、冷熱発電システムが何らかの原因により停止した場合にも水素需要側へ所要の圧力、温度および流量の水素ガスを供給できるようなサブシステムの設置も必要である。

7.2 動力発生に関する調査検討

 現在、定置式の動力発生システムとしては一般的な発電用の大規模システムと、比較的小規模ないわゆる電気・熱コジェネレーションシステムがある。ここでは水素コジェネレーションシステムについて調査検討した。
 コジェネレーション用ディーゼルエンジンでは燃料として軽油又は灯油を用いており、これを水素で代替する場合、大気汚染物質の低排出化と高効率化がポイントとなる。水素を燃料とした場合、微粒子すなわち黒煙と炭化水素の排出は皆無となるので大気汚染物質としてはNOxのみを考えればよい。最も単純な解決策は空気を酸化剤として使用せず、動作気体としてアルゴンやヘリウムといった不活性なガスや水蒸気を用いることである。前者は単原子分子であるため比熱比が空気に比較して大きく、それだけ熱力学的に熱効率の向上が期待できる。一方、水蒸気にはこの様な効果は期待できないが、ボトミングサイクルとしてランキンサイクルを付与することで排熱エネルギー回収による熱効率向上の可能性が見込める。
 本調査研究では水素を燃料とした、6種類のエンジンシステムを提案した。
 ゼロNOxエミッションと高効率だけでなく黒煙フリーであるので黒煙排出濃度による出力の制限がなく、高出力化の可能性も大きく、本調査研究で提案するこのようなシステムは「Zero Emission Cryo-Diesel」と名付けられる。
 提案したシステムは、大きく三つの分類に分けることができる。

  1. クローズド循環型H2/O2燃焼ディーゼル
     ディーゼル燃焼による高効率化と、水素・酸素燃焼によるNOxフリー化を狙いとし、単原子ガスあるいは水蒸気を作動ガスとしたクローズド循環型とすることにより、単原子ガスではディーゼルサイクルの高効率化、水蒸気作動ガスでは復水タービンによる高効率化、またはコジェネシステムとしての高効率化を狙いとしている。

  2. オープンサイクル空気燃焼エンジン
     大気空気を吸入して水素燃焼サイクルを行わせる従来型エンジンと同様の基本形態であるが、希薄燃焼を行わせることにより、排出NOxの低減と高効率化を得ることを狙いとする。予混合燃焼方式によるノッキング問題を回避するために、ロータリエンジンを適用したものおよび副室噴射方式としたものを提案した。いずれも従来技術の向上により短期的に実現の可能性が高い。

  3. 新方式スターリングエンジン
     水素・酸素の触媒燃焼を用いた新方式の内燃式スターリングエンジンで、NOxフリーでかつ高効率の可能性を有する。
     これら各種方式の水素燃焼動力発生装置の実用化を目指す上での技術課題を共通化して抽出した。
 まず1.のクローズドディーゼル方式が開発すべき課題が最も多く、特に水素の噴射、拡散燃焼技術はこれまでいくつか試みられて来ているがまだ実用レベルにはない。また、単原子ガスおよび水蒸気中での燃焼技術も技術的に未確立の領域であると言える。水素の高圧噴射技術、拡散混合促進技術、着火技術等燃焼技術に多くの開発課題を有する。
 2.のオープン空気燃焼方式は、基本的にはこれまでに取り組まれてきている各種水素エンジン開発の知見が数多く適用できる方式であり、短期的な開発により実用化の可能性は極めて高いものと評価できる。
 3.の触媒燃焼技術そのものはほぼ確立されたものであるが、内燃式スターリングエンジンの可能性や高効率の見通し、資質など引続き調査検討の必要があるものと考えられる。
 以上の水素利用動力発生システムの開発提案は何れも水素利用の次世代コンセプトに適合するものであると考えられ、引続き調査の実施が望まれる。

7.3 自動車に関する調査検討

 水素自動車の位置づけや用途等を含めて開発目標をより具体的に設定していくために、今日の自動車の役割、自動車を取り巻く様々な社会的要請とそれらに対応した技術開発、さらには今後の技術開発の方向性を調査した。これと並行して水素自動車の技術開発の現状レベルや将来の位置づけを分析するとともに、今後の開発内容を整理した。
 今回の調査結果は以下の通りである。

  1. わが国の自動車輸送は、今日、物流輸送の大半を占め、また、通勤、レジャー、買い物等の人・物の移動および輸送手段として我々の社会生活の利便性に深く寄与してきている。反面、この利便性追求がもたらした自動車の膨大な普及は地域及び地球環境問題やエネルギー問題の少なからぬ要因となっているほか、自動車道整備の遅れに伴う交通渋滞によって輸送効率の低下などを招いている。これらの対策として既存燃料自動車は規制値達成のための排気浄化と燃費向上の技術開発が進められ、メタノール、天然ガス等の代替燃料車や電気自動車の実用化開発が進められている。

  2. これらの自動車全般の動向の中で、現段階の水素自動車は燃料転換の自動車技術開発の流れでは低公害、省エネルギー、代替エネルギー自動車として2010年以降に位置づけされており、一方電気自動車の技術開発の流れでは走行距離改善のための水素電池、将来的には燃料電池自動車の開発として位置づけされている。その利用範囲は乗用車やバス等の用途をカバーする予測がなされている。

  3. これらの位置づけや予測がなされる要因には、既存ガソリン・軽油燃料に比べて、他の代替自動車にも共通する技術課題として、自動車用燃料としてのエネルギー貯蔵密度が悪いことが挙げられ、自動車用燃料タンク開発が水素自動車実用化のキーポイントとなっている。

  4. しかし、エネルギー事憎、環境保全、さらには社会生活の向上や利便性の追求など様々な自動車への要請から水素自動車の開発要請は今後強まることが予測され、そのための基盤的な技術開発として、交通機関用水素自動車や自動車用燃料電池の開発、さらには水素供給スタンド等のインフラ設備構築のための技術開発を提案した。
 今後、2000年以降の水素自動車の技術開発を提案していくためには、燃料タンクの開発の単なる要素技術の開発に留まらず、革新的な水素自動車開発の取り組みとともに、自動車輸送の抱える交通形態をも含めたビジョン等の作成が今後必要となる。

7.4 酸水素利用燃料電池に関する調査検討

 燃料電池の燃料として水素が利用できれば、現状の天然ガス(メタン)等の化石燃料から水素を製造する改質装置が不要となり、その分設備コストの低減、効率の向上、操作性の向上、および設備面積の低減が図れることから、燃料電池は将来の水素エネルギー時代の有力な水素利用技術になることが世界的にも期待されている。また、海上輸送されてくる液体水素の冷熱を利用して酸素が容易に製造できれば、この酸素を燃料電池の酸化剤として利用することにより、さらに発電効率の向上を図ることも可能となる。
 よって、ここでは、水素−酸素(空気)を利用する燃料電池を主要な水素利用技術と位置付け、技術面、および用途面から、以下の検討を行った。

  1. 各種燃料電池技術の現状調査を手初めに、水素−酸素(空気)利用による各種燃料電池の損失を明らかにし、その際の開発課題を検討する。

  2. 水素−酸素(空気)利用燃料電池の利用分野を予測して、どのような燃料電池の用途があるかを検討し、合わせてその利用分野での導入普及課題を検討する。

  3. 各利用分野での市場規模/水素需要量を予測する。

  4. 最終的に(1)〜(3)を基に、酸水素利用燃料電池の将来性を検討する。
 検討結果は、つぎのものである。
 各種燃料電池技術の現状においては、リン酸型の開発が最も進んでいるが、酸水素利用燃料電池においては、低温作動型の燃料電池、特に固体高分子型が水素利用のメリットを享受し、酸化剤として酸素を使用すれば、固体高分子型で発電効率が60%以上、リン酸型、アルカリ型で50%程度が期待できることが明らかになった。しかし、高温作動型の溶融炭酸塩型、固体電解質型はもともとCOの制限もなく、化石燃料の電池内部改質も可能等の理由により、水素利用のメリットはあまり期待できないとの結論になった。
 このことから、酸水素利用燃料電池の利用分野において、低温作動型燃料電池が、電力事業用の電力調整電源、コジェネ用の家庭(戸建て、集合住宅)向け、およびその他として排気ガス、騒音/振動、低効率、連続運転時間等が問題となる輸送分野、移動電源分野の多くの用途において適用できる可能性が高いと予測された。
 また、各種燃料電池の技術開発課題として、アルカリ型は水素−空気運転時の寿命の向上、高電流密度化、空気中のC02対策、固体高分子型は電極の撥水性維持、溶融炭酸塩型はC02リサイクルに伴うシステムの最適化、固体電解質型は運転許容温度範囲の広い電池材料開発が課題となり、共通課題として、電池冷却/熱回収システムの確立・最適化運転制御法の確立/運転信頼性・安全性の確保(以上高温作動型ほど重要)、および水素リサイクル/生成水除去システムの確立が課題となる。
 さらに、利用分野における導入普及課題として、水素供給システムの確立・最適化、電池本体のコンパクト化、システム全体としての安全対策、導入期における政策的支援が共通課題としてあり、コジェネ用では個々の需要家の熱電需要形態に併せた最適システムを安価に提供すること、その他の輸送分や、移動電源分野では水素貯蔵容器を含めたシステムの軽量化および屋外使用対策が重要である。



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