各サブタスクの平成8年度の成果概要


7.サブタスク7 水素利用技術に関する調査・検討

7.1 研究開発目標

 研究開発目標は以下の通りである。

(1) 将来における水素エネルギーの利用技術および需要量について、水素ガス、液体水素等の利用形態別に調査・検討を行い、利用技術の提案を実施し、各技術の得失を明確にするとともに開発課題を抽出する。

(2) 液体水素の冷熱利用技術に関する調査を行い、冷熱利用技術に関する評価を行う。

 平成8年度は、これらの目標を達成するため、動力発生、輸送機関、酸水素利用燃料電池、冷熱利用の各利用技術分野毎に将来有望となる技術の調査・検討を継続したほか、利用技術が導入される際に生じる課題を明らかにするため、水素供給システムについても検討を実施した。

7.2 平成8年度の研究開発成果

7.2.1 動力発生に関する調査・検討

 単原子作動ガス(アルゴンガス)循環型および水蒸気循環型水素燃焼ディーゼルエンジンコージェネレーションシステムに使用する2種類の供試用エンジンの最適運転条件を求め、それらの性能を再評価するとともに計算方法の確認を行った。また、平成9年度より開始する水素燃焼ディーゼルエンジンコージェネレーションシステムの成立可能性を確認するための試験の準備として、試験装置および構成機器の基本仕様をまとめた(表7ー1)。

(1) 水素燃焼ディーゼルエンジンコージェネレーションシステムの最適化検討
 昨年度までのシステム性能計算の条件を変え、最適条件における性能を求めた(表7ー2)。

(2) 主要要素機器についての検討
 試験装置の要素部分(水素噴射装置、水素着火装置)の仕様について検討を行った。

  1. 水素噴射装置
    水素は、軽量、大容積、漏洩しやすい等の特徴を有するため、水素に対応できる噴射弁について調査・検討を行い、必要条件を選定した。 また、噴射圧力を20MPaとし、電磁弁を採用することとしたほか、試験装置への取り付け法の概略を決定した。
  2. 水素着火装置
    点火エネルギーを最大 50mJ の可変とし、試験装置への取り付け法の概略を決定した。また、当面は点火プラグ方式とし、水蒸気の絶縁破壊はセラミックス溶射又はヒーターで防止することとした。
(3) 試験方法の検討
 試験装置は、平成9年度に共同研究を行う工業技術院機械技術研究所に設置することとした。また、試験装置は電子制御・油圧駆動方式とし、各種仕様をまとめた。仕様は、以下の通りである。
燃焼室シリンダー径φ100[mm]
最長ストローク120[mm]
燃焼室許容圧力15[MPa]
燃焼室加熱温度473[K]
相 当 回 転 数1,200[rpm]
ピストン駆動力150[kN]
7.2.2 輸送機関に関する調査・検討

 燃料電池(FC) は重量,体積が大きく、水素エンジンは燃費が低いという昨年度の検討結果をもとに、FC−バッテリー、および水素エンジン−バッテリーのハイブリッドシステムの調査・検討を行った。また燃料の貯蔵形態についても、対象自動車の大きさ等を考慮して液体水素と水素吸蔵合金の場合について検討した。

(1) 車種等の選定
 平成7年度に検討した水素エンジン自動車と燃料電池自動車の欠点を補うべく、バッテリーとのハイブリッド方式を検討した。また燃料の貯蔵形態は液体水素の場合と水素吸蔵合金について検討した。これらをまとめて対象車種について検討を行い、次に示す組合せとした。

  • 事業用車両(業務用小型バス (26人乗り)):燃料電池−バッテリーハイブリッド方式液体水素燃料
  • 自家用車両(ファミリーカー(6人乗り)):水素エンジン−バッテリーハイブリッド方式水素吸蔵合金
(2) 選定車種の分析
 輸送機関の検討では、従来目標走行距離を600kmとしていたが300kmでも十分使用に耐えるとの判断から、平成7年度の分析条件を変更し、分析を行った(表7ー3)。

表7−3 選定車種の分析条件

(3) 将来の水素輸送機関についてのイメージ作成
 具体的な水素自動車の開発を提言するため、都市構造や人、物輸送体系との関連も含めた水素輸送機関のイメージ図を作成した。作成した水素輸送機関のイメージを図7−1に示す。

7.2.3 酸水素利用燃料電池に関する調査・検討

 燃料電池については、昨年度検討結果を踏まえ、システム全般にわたり再検討を行った。定置用の200kWと5,000kW燃料電池システムでは、効率と全体寸法および補機類の再検討を、また、自動車用燃料電池システムでは電池特性の見直し及びハイブリッド化による影響を検討した。

(1) 200kW固体高分子型燃料電池システム
 本システムは、集合住宅等のオンサイト用を目的とし、酸化剤としては、空気を想定している。
 仕様について加湿の水蒸気供給方法を電気ヒータ式から内湿式又は直接内部加湿式に、運動圧力を2ataから常圧に、電池作動温度を353Kから363Kに変更した結果、送電端発電効率は、HHV基準で43.9%となった。

(2) 5,000kW固体高分子型燃料電池システム
 本システムは、分散発電用を目的とし、酸化剤としては、液体水素の冷熱を利用することにより製造した純酸素を想定している。
 仕様について、電極面積を5,000cm2から8,000cm2にし、また、補機動力の見直しを行った結果、送電端発電効率はHHV基準で56.4%、システムの大きさは、18m×17m×12Hmとなった。

(3) 自動車用固体高分子型燃料電池システム
 本システムは、小型バス用を目的とし、燃料電池出力20kwの場合を想定している。 燃料電池電流密度0.4、0.8、1.1A/cm2の条件では、発電効率は、いずれも30%(LHV)以上となった。
 また、システムのハイブリット化については、バッテリーの他、フライホイールの場合についても検討を行った。
 この結果、フライホイールは、機械的なエネルギー蓄積によるものであるため、バッテリーに比べ短時間の急激な負荷変動に適するが、長時間貯蔵には不適であるとの結論を得た。

7.2.4 冷熱利用に関する調査・検討

 平成7年度までに実施した液体水素の冷熱を利用した酸素製造について再検討を行ったほか、73K以下の冷熱利用のため、極低温ブレイトンサイクル冷熱発電についても検討した。

(1) 酸素製造
 酸素製造法として、以下の3つの方法を検討した。

  1. 深冷分離法
    深冷分離法に係る動力原単位のシミュレーション計算を完了した。製造した酸素の供給に関しては、次の3つのケースを想定した(表7ー4)。

    想定ケースについての計算結果を以下に示す。

    計算結果:ケース1の場合、冷熱利用の無い時の原単位0.42kW/Nm3と比較し、0.1kW/Nm3程度の低減ができ、効果が大きい。ケース1,2,3の比較では、必要圧縮動力を無視すれば、原単位は低下する。必要圧縮動力を考慮するとケース3 が最も原単位は高くなるが、冷熱利用することにより低減する。

  2. PSA併用一段凝縮法
     スラッシュアルゴンを積極的に使用し、空気の固化を回避するPSA併用一般凝縮法について検討した。
     PSAなどの吸着式ガス精製器で90%程度まで酸素濃度を高め、これを液体水素の冷熱を利用したスラッシュアルゴン(三重点 83.6K) により濃度95%の酸素を生産する。本方式は、空気と液体水素が直接熱交換しないため安全かつ温度が安定するが、酸素純度確保のため、前段にPSA が入りシステムが複雑になることがわかった。

  3. 寒冷を利用した低温VSA法
     吸着剤2種について、温度273Kから200Kの範囲で酸素、窒素、アルゴンの吸着実験を終了し、Langmuir定数を求めた。またプロセスシミュレーションを完了した。
(2) 極低温ブレイトンサイクル冷熱発電
 深冷分離法による酸素製造では、空気の凝固点が高いため、73K以下の冷熱の有効な利用が難しい。そこで73K以下の冷熱利用を目的としてヘリウム(He)を媒体としたブレイトンサイクル発電について検討した。この発電機の採用により70Kまでの回収, 高温側200Kで61kWの発電が可能で、10%の動力回収が期待できる。また、高温側を300Kとした場合は 100kWとなった。課題としては、タービン回転数が10万rpm と高いため、現状の技術では困難な点があることがわかった。

(3) ドイツの実用的水素利用プロジェクトであるミュンヘン空港の水素プロジェクトと、Bad Bruckenauプロジェクトについて、ダイムラーベンツ社に外注し、実施状況の調査を行った。

7.2.5 水素供給システムに関する調査・検討

 人口30万人のモデル都市へのエネルギー供給を、最大限まで水素エネルギーへ転換した場合の水素供給方法を検討し、多数の分散的需要へ水素を供給する場合の問題点および技術的課題を検討した。

(1) モデル都市での水素エネルギーへの転換の可能性
 一般熱需要・都市ガスへの利用、利用技術別の数値見直し等を行い、全エネルギー需要の80%を水素で供給すると、水素燃料発電により、エネルギー必要量が11.3%減少し、都市全体の二酸化炭素排出量が80%削減できることがわかった。

(2) 水素受入基地
 専用船からのフラッシュガス発生に着目し、受入方法の利害得失を比較した。
 検討では、フラッシュガス及び出荷時発生のボイルオフガスを利用するために、水素燃焼タービン発電を隣接立地した場合を想定し、必要設備、所内動力、設置スペースを明らかにした。

(3) 需要先への水素供給方法
 利用技術別に水素供給方法を検討し、各消費サイトの水素消費量、消費圧力を基に適した供給手段、供給頻度、消費先供給設備の構成・必要動力を明らかにした。

(4) 水素エネルギー利用全般に関する問題点の提起
 供給システムの検討結果から以下のことが明らかになった。

  • 水素供給過程で発生するボイルオフガスの量、処理方法がエネルギー利用効率に大きな影響を及ぼすため、水素供給方法を含めた水素利用システムの検討が必要である。
  • 水素エネルギーシステムの評価方法の研究
     水素の運搬、利用を含めたトータルシステムとしてライフサイクルアセスメント(LCA)手法を含め評価する必要がある。
(5) 供給技術改善のための最新技術
 供給技術改善のための最新技術として、以下のものがあげられた。
  • 新しい液体水素自動車の充填システム SWB(Solar-Wesserstoff-Bayern Gmbh:独)は、液体水素充填のためのカップリングシステムを開発している。このシステムは、完全に外部へ水素を放出することのないもので、充填時間も短縮し、液化エネルギーロスも減らしている。また、自動車燃料タンクの侵入熱を20%減らしたとされている。
  • 新しいタイプのISO40′低温容器コンテナの開発
  • また、貯槽よりコンテナへの移充填時のフラッシュガス発生量の推定を行った結果、フラッシュガスの発生を少なくさせることができる移充填法の検討も重要であることがわかった。
7.3 今後の進め方および課題

 (1) 動力発生については、水素燃焼ディーゼルエンジンコージェネレーションシステムの成立可能性を明らかにするため、急速圧縮膨張試験装置の製作、要素部分についての試験および最適運転条件の検討を行う。

 (2) 輸送機関については、水素自動車の1. ハイブリッド比率の最適化、2. 構成要素の具体的な展開、車両の基本設計により、詳細な性能解析、評価を行う。

 (3) 酸水素燃料電池については、詳細設計を進め、性能や経済性を検討し、酸水素利用燃料電池の可能性を追求する。

 (4) 冷熱利用については、1. 153Kから293Kまでの低エクセルギーの利用、2. 極低温熱交換器の空気固化対策、3. 水素利用トータルシステムとしての需要に対応した冷熱利用の検討を行う。

 (5) 供給システムについては、モデル都市における水素供給システムの検討、技術課題の抽出、対策の検討、最適システムの概念をまとめる。



Copyright(C) 1998-2003 New Energy and Industrial Technology Development Organization