各タスクの平成11年度の成果概要


9.2 共通機器類の開発

9.2.1 研究開発目標
 大型液体水素ポンプには性能、操作性、安全性はもちろんのこと長時間安定して液体水素を供給できることが要求される。一方、作動流体である液体水素は温度20K,密度71kg/m3の極低温流体で、且つ、粘性係数が1.3e-5Pa・s以下の極低粘性流体でもあるため、軸受けは厳しい潤滑環境にさらされる。この軸受けとして磁気浮遊ベアリングを選定し開発を進めてきた。

 平成10年度までに、LH2での回転試験を実施し、26,000rpmまでの回転を確認している。しかし、電磁石のヒステリシスの影響で軸制御が不安定となった為、平成11年度は磁石を改良し、定格36,000rpmを目標に回転試験を実施する。またセンサーケーブル用のフィードスルーを設計製作し、LH2での回転試験に供して実用に耐えうることを確認する。

9.2.2 平成11年度の研究開発成果

9.2.2.1 設計変更内容

(1) 磁気軸受け(供試体)の改修

 平成10年度のLH2環境下での回転試験で発生した26,000rpm以上での軸振動過大となる問題解決のために磁気軸受け磁石の材質及び板圧を変更した。変更箇所を図9.2.2-1に示す。また昨年度製作のセンサグランドが非絶縁型で計測上支障があるフィードスルーは、各センサ信号のグランドを絶縁し新規に製作した。断面形状を図9.2.2-2に示す。

(2) 専用コントローラの改修

 平成10年度まで磁気軸受け制御方式として、アナログPID制御方式を採用していたが、制御定数の変更の容易さ及び将来性からデジタル制御方式のコントローラを設計製作した。

9.2.2.2 試験内容

 本年度改修した供試体と、新規製作のデジタル制御コントローラと絶縁型フィードスルーを用いてLH2試験を実施した。試験装置を図9.2.2-3に示す。

(1)常温試験

 常温での磁気軸受けの特性データを取得後、無負荷回転試験を実施する。

(2)LH2試験

 LH2温度で変位センサ及び電磁石の特性データを取得後、回転試験を実施する。

9.2.2.3 試験結果
 常温及びLH2温度で磁気軸受けとコントローラを組合せ、ロータ軸を中心位置に浮上させた状態で入力信号に外乱を入れて周波数特性を確認した結果、昨年度の供試体で見られたヒステリシス損失による劣化がないことを確認した。

 常温無負荷試験では、アナログ制御コントローラにて最大30,000rpmまで回転させた。7,000rpm付近に1次危険速度及び12,000rpm付近に2次危険速度が計算で求められているが、振幅は危険速度通過時でもいずれも20μmp-p以下に抑えることが出来ており良好な制御特性が得られていることが確認できた。図9.2.2-4に軸変位と回転数の関係を示す。

 しかし、約30,000rpm付近で軸振動が急激に増大し制御不能となり急停止となった。軸振動増大までの制御特性は非常に良好であり約30,000rpm以上にアナログ制御では制御しきれない外乱要因が存在している。

 続いて、デジタル制御コントローラにてLH2試験を実施した。制御振幅は、常温回転試験時と同様に20μmp-p以下に抑えられており、極低温環境による制御特性の変化は認められなかった。

 図9.2.2-5にポンプ吐出圧と回転数の様子を示す。33,000rpmに到達した時点でポンプ吐出圧が急激に低下すると同時に回転数が急激に上昇している。この現象からポンプの吸い込み不良が発生し、過大な流体外力が回転軸に作用した可能性がある。

9.2.2.4 まとめ
 
平成11年度は、平成10年度に製作した液体水素ポンプを改修してLH2温度環境下での回転試験を実施した。その結果、以下の成果が得られた。

(1)電磁石の磁性材料の変更及びロータヨーク材板圧薄肉化によりヒステリシス損の低下、渦電流 損失を抑えることにより、電磁石の周波数特性の劣化がないことが確認できた。

(2)コントローラをアナログ制御からDSPを用いたデジタル制御方式に変更し供試体との組合せ 試験を実施し、デジタル制御方式の有効性を確認できた。

(3)軸危険速度に於いても軸振動レベルを20μmp-p以下に抑えることが出来た。

(4) 目標回転数36,000rpmに対して、33,000rpm回転までの回転試験を行い必要なデータを取得することが出来た。33,000rpm以上では、軸振動レベルが急激に増大しており、ポンプ吸い込み不良と思われる過大な流体外力が回転軸に作用した可能性がある。

(5) 絶縁型フィードスルーを新規に製作し、LH2環境下での組合せ試験を実施し、良好な制御性能が得られることを確認した。

(6) ポンプ性能を確認するために、LH2試験の後に真空容器に水を充填した状態でGN2 により10,000rpmまでの回転試験を実施した結果、LH2試験と同様に設計目標のポンプ揚程が得られていないことが判明した。来年度以降に改良を検討中である。

9.2.3 今後の進め方および課題

(1) 現在の磁気軸受を改修し(磁気+流体)軸受として耐荷重能力を向上させ、外乱制御性能を改 善し、目標回転数36,000rpmでのポンプ特性を取得する。

 高圧小容量ポンプの開発に着手し、小規模分散システムへの適用を検討する。

 



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