各タスクの平成11年度の成果概要


9.3 水素液化設備の概念設計

9.3.1 研究開発目標
 
本年度から始まるWE-NET第U期では、長期的開発研究に位置づけられた大型水素液化設備に関し、高性能水素圧縮機の開発に必要な空力設計及びシール設計の基礎データの取得を最終目標とし、空力設計技術とシール技術の課題調査と開発計画の策定を行った。

 水素圧縮機の空力設計技術に関しては第T期の成果に基づき、流動解析を用いた羽根車とディフューザの空力性能調査と寸法効果の定量的検討を行った。また、水素ガス漏洩防止のためのシール技術に関し、シール形式の調査及び選定を行い、リーク量を概算した。

 更に、水素利用技術の短期の開発項目として、水素自動車システムおよび水素供給ステーションが選定されたことを踏まえ、少容量水素液化機の予備的検討を行った。

9.3.2  平成11年度の研究開発成果

9.3.2.1  水素圧縮機の空力性能調査

(1) 羽根車の空力性能

 第T期では水素液化原単位に重要な水素圧縮機の予備検討として、小バックワード羽根車の試作試験とレーザ流速計(LDV)による内部流動計測を実施し、25°バックワード羽根車では約88〜90%の高効率が得られ、流動解析結果は計測結果と定性的に一致することを確認した。そこで、第T期の成果を基に流動解析により、水素圧縮機に適したバックワード角を調査した。新たに20°と15°の2種類の羽根車形状を計画し、3次元粘性流動解析を行い、第T期で性能試験を実施した25°〜5°バックワード羽根車と併せて流動状況の比較を行った。

図9.3.2-1 羽根車子午面形状

 流動解析の計算条件は第T期で実施した空気試験条件(回転数7800rpm,1.45m3/s)で行った。図9.3.2-2に出口近傍(表示断面)の相対流速分布分布を示す。これより負圧面シュラウド側に低流速域が発達しており、20°、15°バックワード羽根車は25°バックワードと比べるとやや低流速域が大きくなっているが、5°バックワード羽根車に比べて小さいことが分かる。バックワード角の減少に伴い、流速歪みが大きくなる傾向にあるが、バックワード角20°と25°でその差は小さく、25°で高効率が得られたことを考えると、バックワード角20°は25°と同等の効率で、高圧力比化できる可能性がある。

 また、図9.3.2-3に流動解析で得られた羽根車の仕事係数を示す。25°バックワード羽根車に対し、20°、15°、5°がそれぞれ、3.4%、7.1%、16.5%大きくなる。前述のように20°バックワード羽根車で25°と同じ効率が得られれば、仕事係数の上昇で圧力比が 約0.5%上昇し、段数を約3%削減でき、単段の圧力比を同一にすると、羽根車径を約2%低減できる。

(2) ディフューザの空力性能

 水素圧縮機に適したディフューザについて2次元粘性流動解析を用いて性能調査を実施した。第T期に性能試験を実施した二重円弧翼ディフューザとNACA65系翼型ディフューザの流動解析による内部流動の把握を試みた。図9.3.2-4に第T期の空気試験結果の最高効率点近傍の流速分布を示す。二重円弧翼ディフューザは、負圧面の流れ方向2/3から低速域が発達し、このため、幾何学的な流路幅より実際の流路幅が小さくなり、流路後半で流れが十分減速されない。一方、NACA65系翼型ディフューザは圧力面出口側に流速の遅い領域が見られるが、翼出口まで減速される。また、流動を改善するため、低流量側での流動が良好であった翼型ディフューザの翼入口角を大きくした場合、圧力面での低流速域が小さくなり、流れが一様化して効率向上の可能性があることが判明した。

(3) 寸法効果

 水素圧縮機は原料圧縮機、リサイクル圧縮機ともに高圧多段であり、初段から最終段で羽根車径が約1000mm〜300mmに変化するため、性能の寸法効果について調査した。

 寸法効果に関してはレイノルズ数の影響として、数々の報告があるが、ここではCasy1)により提案された評価式を用いて効率差を計算した。本手法は羽根車と等価な管内乱流流れを定義し、その摩擦係数を算出してレイノルズ数の影響を考慮するものである。この結果、図9.3.2-5に示すように、出口幅比b2/D2=0.08(b2:羽根車出口幅、D2:羽根車径)とすると羽根車径1000mmと300mmで、約2.6%の効率差が生じることが分かった。

9.3.2.2 水素ガスシールの調査

(1) シール形式及びシール方法の調査

 水素は分子量が小さな漏洩しやすい可燃性ガスであるため、安全性と水素液化原単位向上の面でシール技術が重要となる。そこで、水素圧縮機に最適なシール形式の調査と選定を行った。

 スパイラルグルーブシール、磁性流体シール、湿式シールの代表的な3形式を調査し、図9.3.2-6に示すスパイラルグルーブシールを最終的に選定した。初段羽根車径が大きく、最終段の圧縮機内外差圧が最大となる高圧リサイクル圧縮機を想定して、適合性を調査した結果、磁性流体シールは許容差圧、周速を、湿式シール許容周速を満足しない。

 一方、スパイラルグルーブシールは許容差圧、周速の両方を満足した。スパイラルグルーブシールは非接触シールの一種であり、螺旋状の溝を有し軸に固定され回転リングと、ケーシングに固定された固定リングとの間に回転で生じる動圧により、数ミクロンの隙間を形成するもので、リークガスはバッファガスを供給し、バッファガスとともに回収する。

(2) 水素ガスリーク量の検討

 選定したスパイラルグルーブシールの水素リーク量を概算した。高圧リサイクル圧縮機最終段(機内外差圧約40MPa)を想定した場合の計算結果を図9.3.2-7に示す。シール隙間をシール部の接触等が無い実用的な隙間4μmとすると、リーク量は82.5 Nl/minとなる。また、同様な計算から初段のリーク量は3.7 Nl/minとなり、最終段と初段の平均値から全段(25段)のリーク量を概算すると、高圧リサイクルコンプレッサの全流量の約0.009%となる。これより、リーク量は全流量に対して十分小さく、スパイラルグルーブシールが有効であると判断できる。

9.3.2.3 少容量水素液化設備の検討

(1) 水素液化サイクル

 水素自動車用ステーションへ液体水素を供給するための水素液化機の規模を(10〜30)t/dと想定し、現状、製造実績のある11t/d水素液化機と同様のプロセスサイクルとして検討を行った。図9.3.2-8にそのプロセスフローシートを示す。液化プロセスに使用する膨張タービンについては30t/dの場合、現状既存品の最大クラスを使用して対応可能である。本検討では既存の膨張タービンが動力回収方式でないため、動力回収は行っていない。

(2) 水素圧縮機

 水素液化機に使用する水素圧縮機として、往復動式圧縮機および油冷却式スクリュー圧縮機にて30t/dでの検討を行った。

 往復動圧縮機は30t/dの場合、容量的に製作可能であるが、大容量になるとサイズが大きくなり、イニシャルコストが高くなる。一方、油冷却式スクリュー圧縮機についても、容量30t/dの場合、製作可能であるが、油も同時に圧縮するため動力が大きくなる結果が得られた。

(3) 窒素再液化装置

 窒素再液化装置については、30t/dの場合、図9.3.2-9に示すように300t/d水素液化機で検討したプロセスと同じプロセスを採用した。10t/dの場合は膨張タービンを1台使用するプロセスを採用して所要動力等の検討を行った。

(4) 所要動力と動力原単位

 液化容量10t/dと30t/dの場合の所要動力、力原単位等の概算結果を表9.3.2-1に示す。

 30t/dの場合、合計動力、プロセス効率、動力原単位は13.28MW、37.3%、0.955kW/Nm3となった。因に、300t/dの第T期の検討結果は108.5MW、45.6%、0.779 kW/Nm3である。(10〜30)t/dの動力原単位を更に低減するためには、圧縮機の動力低減、膨張タービンの動力回収等が望まれる。

9.3.3 今後の進め方および課題
 大型水素液化設備の開発は長期的研究として、引き続き実施する必要があるが、今後は大容量水素圧縮機設計のための空力性能、シール性能に関する設計基礎データの取得を行う段階に移行することが必要と考えられる。

 空力性能に関しては、最適な羽根車形状の確認試験、更に寸法効果を検証するために直径の異なる羽根車の試作試験等を行う必要がある。また、シールに関しては、実際に水素ガスを用いた基礎試験により、選定されたスパイラルグルーブシールの性能、耐久性等を確認する必要がある。

 また、短期的研究として、本年度検討した小容量水素液化設備は、水素自動車等からのニーズが強く、重点的に取り組む必要がある。来年度はこのような状況をふまえ、自動車用水素ステーションを対象とした比較的小型の水素液化システムにおけるのコスト試算、小型のターボ式水素圧縮機と容積式水素圧縮機の適正等の比較調査を行い、小容量水素液化設備における技術課題と開発目標の策定を行いたい。

 



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