各タスクの平成12年度の成果概要

1. タスク1 システム評価に関する調査・研究


1.1 研究開発目標

 タスク1 システム評価に関する調査・研究の第II期目標は、水素導入のための最適シナリオを検討し水素導入戦略を策定することにある。このため、短中期も視野に、再生可能エネルギーだけでなく化石エネルギーから造られる水素も含めた種々の水素利用システムについてエネルギー消費、環境影響および経済性を評価し、有望な技術を明らかにするとともに技術課題を明らかにする。

 平成12年度の調査・研究計画のおもな項目は、[1]候補システムのLCA解析、具体的には候補システム抽出のためのフューエルサイクル分析、[2]システム検討及びデータ収集、[3]水素導入戦略策定に資する欧州調査、[4]導入シナリオ及び導入戦略等の検討などである。
また、WE−NETプロジェクト研究開発の合理的推進に向け、各タスク間の調整を図るため全体の総合調整を行ない、かつ、タスク1の調査・研究に資するため研究調整会議を開催している。以下に、成果の概要を記す。


1.2 平成11年度の研究開発成果

1.2.1 候補システムのLCA解析

1.2.1.1 フューエルサイクル分析

 利用システムを効果的に導入し普及を促進するためには有効な候補システムを明確にする必要がある。LCA(コスト分析を含む)を行なうにあたり、事前に候補システムの対象を絞り込むため、フューエルサイクル分析を行なった。エネルギー採掘から利用までのフローの概要を図1.2.1-1に示す。

 分析の対象は、従来の自動車、産業および民生の電気、熱利用まで広げフローの組み合わせは約5000に達した。自動車の分析結果を図1.2.1-2に示す。ここで、将来ハイブリッド車、電気自動車および燃料電池車(FCV)は、重量増加の影響およびエネルギー回生を考慮して評価した。縦軸は現行ガソリン車の燃料消費量およびCO2排出量を1として正規化した値を示す。ガソリンの車上改質FCV、コークス炉副生水素FCV、再生可能エネルギー起源水素FCVは将来ハイブリッド車とほぼ同等の燃費性能を示している。コークス炉副生水素FCVはCO2排出が将来ハイブリッド車に対し多いものの、燃料多様化としての石炭有効利用として位置付けることができる。また、天然ガス起源のFCVは、LNG化、エネルギー転換(DME、メタノール、水素)などの改質工程が2、3段階必要となるため、燃費性能は将来ハイブリッド車に劣る傾向があるものの、CO2排出性能はほぼ同等である。

 大規模発電および分散電源の分析結果を図1.2.1-3に示す。図1.2.1-2と同様に縦軸は現行重油火力を1として正規化した値を示す。マイクロガスタービン(MGT)や燃料電池を用いた分散電源は、発電効率が50%越えている高効率LNGコンバインド発電に対し送電ロスがないとしてもMGT発電30%、燃料電池発電45%と発電効率が相対的に低いため発電のみでは効果は少ない。コジェネによる熱利用が必要である。本検討ではコジェネの効率を70%としており、今後、熱需要、発電量と熱需要の関係および設備規模など含め、効率の詳細な評価を行なう必要があると考えている。
フューエルサイクル分析の結果を参考にして、需要側技術としとは、ハイブリッド車、燃料電池自動車、電気自動車ならびに分散電源コジェネレーションについて、LCAを行なうこととした。

 これらのLCAのため、ハイブリッド自動車、電気自動車バッテリー、燃料電池、水素吸蔵合金、マイクロガスタービン、コジェネシステムに関するデータ調査、収集を実施中である。本調査で、データ収集が困難または不十分なものについては、データ収集法を検討するとともに、データの不確定性がLCA解析評価に及ぼす影響などについても検討していく計画である。

1.2.1.2 LCA解析に向けたデータ収集および検討

 フューエルサイクル分析により有望システムとして、自動車では[1]燃料電池車[2]ハイブリッド自動車[3]電気自動車、発電では[1]燃料電池コジェネ[2]マイクロガスタービンコジェネが抽出された。

 これらのLCAを実施するに当たり、[1]水素吸蔵合金[2]燃料電池(自動車用、定置用)[3]二次電池(ハイブリッド車、電気自動車用)[4]マイクロがスタービン[5]分散型コジェネシステムのデータ収集が必要である。本年度は水素吸蔵合金に関するデータを収集した。吸蔵量30Nm3の車載用吸蔵合金タンクシステムの重量は約650kg、吸蔵合金粉末製造投入エネルギーは約1400kWh、製造に伴うCO2排出量は150g-Cとのデータが得られた。また、データが得られない場合の代替案の検討、LCAを実施する上での手法等について検討するとともにLCAに関する文献調査を行った。

1.2.2 システム検討及びデータ収集

1.2.2.1 鉄鋼系副生水素の供給ポテンシャル及び貯蔵・輸送方法の検討

 より短中期の視点から、昨年度の評価結果をもとに、大都市を念頭に置き、鉄鋼系副生水素の水素製造地および供給量を調査し消費地を見極めた。その上で、水素製造規模や輸送距離について現実的な設定を行なうとともに、水素ステーションに必要な土地の広さなどの評価を加え、より現実味のある評価を行なった。

 COG副生水素は鉄鋼系水素の中でコスト的にはもっとも低価格(16〜21円/ Nm3)である。また、鉄鋼系以外の他の水素源と比較してもナフサ水蒸気改質水素(19円/ Nm3)と並んでもっとも安価な水素である。供給ポテンシャルは化学系の6億Nm3/年を含めると68億Nm3/年あり、これは乗用車で約900万台分の燃料に相当する。燃料電池実用化戦略研究会が想定した2020年の燃料電池自動車累積保有台数は500万台であるので、COG起源の水素の供給ポテンシャルが高いことが理解される。COG起源の水素の立地は、北は北海道から南は九州まであり、東北地方を除き、概ね日本の各大都市の比較的近くに水素源がある。COGガスを発生する事業所から各大都市までの距離は本検討で設定した水素輸送距離100km範囲でほぼカバーできると考えられる。

 図1.2.2-1に、液体水素と圧縮水素について実現性が高くかつ代表的なケースと考えられる水素製造量25t/日(この量は新日鐵の君津製鉄所における全COG発生量の約10%から回収可能な量に匹敵)、ステーション規模300Nm3/日について水素コストをまとめたものを示す。液体水素は貯蔵設備に比較的コストがかからないことからステーションコストが安価で、また輸送コストも安くトータルコストは圧縮水素より低価格であるという結果になった。図1.2.2-2に、¥/Nm3単位の水素コストに対するガソリン等価の水素コスト(ガソリン発熱量相当水素コスト)と現行のガソリン車との走行効率の相違(現行車に対して燃料電池自動車の走行効率を2倍〜3倍まで想定して計算)を勘案したときの水素コストを示す。仮に、水素コストが65円/Nm3〜70円/Nm3とすると燃料電池自動車のガソリン車に対する走行性能を2.5倍以上とすることができれば、現行のガソリンの市販価格が全国平均で100円強であることから利益もしくは税金として20円/Nm3〜30円/Nm3程度を考えることができるという結果になった。

 今回の検討は、ステーションで5日分の水素貯蔵を前提としており、短中期の自動車用水素の供給形態として、液体水素は圧縮水素と同等あるいはそれ以上のポテンシャルを有することがわかった。圧縮水素については70MPで車両に搭載することが検討され始めた。水素の輸送,貯蔵段階においても、70MPを前提に十分な耐久性と安全性が確保されることになれば圧縮水素のコストは低減する可能性がある。液体水素については、液体の状態で加圧後自動車の高圧タンクに充填するとエネルギー損失が少ないという指摘もあり、ステーションでの備蓄日数を含めさらに現実性を考慮して評価に精度を高め、短中期に予想される自動車への水素供給方法および水素ステーションの在り方を示したい。

1.2.2.2 ソーダ電解副生水素の供給ポテンシャルに関する調査

 平成11年度の「ソーダ電解副生水素ガスを利用した水素供給システム検討」では、水素の発生量を苛性ソーダ製造能力から理論値で苛性ソーダ1tonに対して水素270Nm3として計算した。このため、実際に水素がどれだけ供給され得るのかを調査し、また、水素の供給コストに大きく関係する
所用電力量を、苛性ソーダ1ton当たり2300kWh〜2500kWhとしていたが、この値が正しいのか否かを把握する必要があった。さらに、水素を外に販売供給する意思の有無、新しい水素を副生しない電解法に対する考え方を聞いて、将来的に水素が継続して供給されるか否かの判断も行う必要があった。

 これらを念頭に、現在塩電解を行っている28社38工場にアンケート調査を行い、副生水素ガスの利用可能性の実態調査を行った。14社18工場から回答が寄せられた結果、
[1]水素発生量は理論値とほぼ等しく、所用電力量も想定値とほぼ等しい。
[2]14社18工場での水素発生量は全体の約65%(全理論発生量13.6億Nm3/年に対し8.8億Nm3/年)の内、ボンベ、配管で送り出している量が全体の34%(3億Nm3/年)、燃料として利用しているのが64%(5.6億Nm3/年)、未利用が2%(0.18 Nm3/年)との結果が得られた。
[3]将来の水素利用の可能性については、「状況に応じて検討する」と回答されたものが半数の57%を占め、「量的に限りがあるが可能性あり」の7%を加えると全体の64%が利用の可能性を認めており、付加価値の高い水素利用の需要があれば利用の可能性があるとみることができる。

1.2.2.3 エネルギー自立型離島エネルギーシステムの検討

 再生可能エネルギーをもとに電力と燃料として水素を供給するエネルギ自立型離島エネルギーシステムの可能性を検討した。離島は南西諸島にあり世帯数250戸ほどを想定した。

(1) 風力発電のみのときの結果
 風力発電のみを前提にしたシステムではエネルギー需要と供給の不一致から水素貯蔵量が増大し、燃料用としては水素コストが高いという結果になった。想定した地域では太陽光は風力とは逆に夏、エネルギーが潤沢になる。そこで、この両者を組み合わせたエネルギー自立型エネルギーシステムを評価した。

(2) 風力発電と太陽光発電を組合せたシステムの検討
 検討の前提条件を
[1]エネルギー供給量は、電力需要182.5MWh、水素燃料需要は49,000Nm3とする。
[2]水素貯蔵に伴うエネルギー損失10%、太陽光発電システムの電力損失30%とする。
[3]風力発電コストを¥10.3/kWhとし、太陽光発電の発電コストを¥20/kWhとする。
 その結果,図1.2.2-3に示すようにエネルギーコストは太陽光発電と風力発電の組み合わせでほぼ5:1(3150kW:650kW)のときに極小となり燃料電池ありで¥37/kWhという結果になった。自動車用としては可能性があるが家庭用としては導入が困難と考えられる。

 そこで、電力コストと水素コストに差を設けた場合の燃料コストを検討した。図1.2.2-4に水素コストと燃料コストの関係を示す。水素コストを¥10/kWhとすると家庭用の燃料水素は約¥114/Nm3−天然ガス等価となる。歳入中立として水素コストを求めたところ、燃料電池ありのケースでは電力コストを約¥63/kWhとすれば水素コストを¥10/kWhとすることができることがわかった。自動車の方は、水素燃料電池車の走行効率が現行ガソリン車の3倍高いとすると、¥33/kWh/l−ガソリン性能換算となる。

 離島での燃料コストが全国平均より数十円高いことを考えると、太陽光発電と風力発電を組合せた再生可能エネルギーを一次エネルギーとし水素を二次エネルギーとするエネルギー自立型の離島エネルギーシステムは経済的に成立する可能性があるという結果になった。
 
1.2.2.4 欧州先進工業国における水素導入シナリオの検討

 日本における水素導入シナリオに資するため、欧州先進工業国における水素導入シナリオの検討を行った。検討対象とした9カ国(英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ノルウェー、スイス、ギリシャ、アイスランド)の政策分析を行い、輸送部門への水素の普及可能性を評価するためのシナリオ・モデルを作成し、選ばれた諸国と主な都市で潜在性分析を行った。さらに、定置用電力市場における潜在的な水素需要の分析を行い、同様にモデル化されたシナリオに基づく短期的および長期的な水素需要を提示するための再生可能エネルギーを起源とする水素の潜在性を検討した。政策分析の結果、
・燃料またはエネルギー・キャリアとしての水素の絶対的必要性が認められていないものの、市場機構により水素の採用が推進される。
・欧州においては、天然ガスは高温燃料電池システムで直接使用される見込みが大きいと予想され、発電用と熱供給用の在来型エネルギー源に代るものとして水素が採用される余地は限られている。
・欧州における水素利用の第一の部門は、ゼロ・エミッション車の推進要因が強力な輸送部門である。第二の部門は、間欠的な再生可能エネルギー発電を利用する上である程度の水素貯蔵が有利であると予想される再生可能エネルギー部門である。
選択した9カ国ではアイスランドを除いて、明確に定義された「水素エネルギー」政策を定めている国がないことは明らかで、近い将来そのような政策が定められる見込みはない。例外はドイツの輸送エネルギー戦略であり、近い将来ドイツにおいて水素輸送用燃料政策の策定を迫るものになる可能性がある。輸送部門への水素の普及可能性を評価するためのシナリオ・モデルによる潜在性分析の結果、
・最初の10年間の普及は非常にゆっくりしいる。これは、自動車ストックの買い替え、新しい製造工場の建設、消費者の信頼の高まり、水素インフラの整備が徐々にしか進まないからである。
・国による政策の差があっても、普及がが急速に拡大する時点については、国による差は限られると予想される。
・水素自動車の普及が急激に進むのは、水素自動車が消費者にとって在来型自動車より経済的に魅力的になる2013年前後である。ただし、水素が入手困難なときは、この限りではない。その他の制限的要素としては、自動車買い替え率がある。

 政策分析は、水素が2030年までの期間に欧州のエネルギー・システムに普及する見込みは多少あることを示唆している。特に、アイスランドの支援とドイツの支援可能性により、実現の可能性がある。しかし、他の欧州諸国とその水素利用可能性にはかなりの不確実性があり、水素が定置用電力部門で大量に利用される可能性は少ないものと考えられる。一方、水素は、輸送部門により多く普及すると考えられる。これは、輸送部門が、本来わずかな種類の燃料での車両走行を習慣としているためで、水素自動車が成功すれば、水素はこうした数少ない燃料の1つになる公算が高い。
2030年までの期間に、欧州で再生可能エネルギー源により供給される水素の需要は、強力な政策措置が講じられない限り高くはないと考えられる。その政策の一例は高率の炭素税であるが、欧州の2030年までの水素の半分以上は、エネルギー源として天然ガスを用いて供給されるものと予想される。

 日本の場合、ほとんどすべてのエネルギーがさまざまな形態で輸入されているため、水素供給機会がはるかに多様である。従って、再生可能エネルギーを起源とする水素を大量輸入し、それに伴う炭素排出量が極めて低く、国内で汚染物質が生成されないことが確実になるというのは、日本にとって有利であると考えられる。

1.2.3 導入シナリオおよび導入戦略の検討

 シナリオ作成に向けて、次の順序に従い検討を行った。

[1]水素導入の背景として、CO2排出削減(1990年比6%減)のためには、どれほどの非炭素系エネルギーの導入が必要か評価する。評価された非炭素系エネルギー必要量の全量を水素で導入するとした場合の量を「最大水素量」とする。実際には風力発電や太陽光発電などからの電力供給のように水素の形をとらないエネルギー経路もある。
[2]導入必要水素量に対して、これに見合う水素需要が予測されるかどうか検討する。
[3]予測される水素需要に見合う供給ポテンシャルはあるのかどうか検討する。
[4]環境負荷、エネルギー効率、経済性の観点からどのような水素供給ルートが望ましいか、また、あり得るかを検討する。

 この4段階の検討において定量的に整合した結果が得られるのが理想的であるが、平成12年度は、検討の中間段階であり必ずしも相互に整合はとれていない。

1.2.3.1 水素必要導入量の検討

CO2を1990年の2.87億t-Cに対して6%削減する前提で、風力、水力等の再生可能エネルギー起源の最大水素量(最大水素導入必要量)を試算した結果を図1.2.3-1に示す。ここで、GDP成長率は2%/年、エネルギーGDP弾性値は0.54と仮定した。その結果、総合エネルギー調査会需給部会中間報告(平成10年6月11日)によるCO2削減量の実績と見通し基準で、2010年の省エネ目標の6000万t-C削減が達成される場合は、2010年で350億Nm3/年、未達成の場合は1650億Nm3/年の水素導入が必要という結果を得た。

1.2.3.2 国内水素需要の検討

 燃料電池自動車、定置型燃料電池(業務用、民生用)、風力発電+燃料電池ハイブリッドおよび大規模水素燃焼タービン発電を対象に、各水素利用技術の導入に係わる前提を設け、それらに必要とされる水素需要量の検討を行なった。その検討結果を表1.2.3-1に示す。2020年の国内水素需要は140億Nm3/年相当と予想された。

 一方、「燃料電池実用化戦略研究会」において、燃料電池自動車および定置用燃料電池の導入目標として表1.2.3-2に示す値が示された。水素源を何にするかという燃料選択の問題は残るものの、燃料電池の燃料は最終的に水素の形態で使用されることから、水素量として試算した結果を表1.2.3-2に併せて示す。水素需要は2010年で73億Nm3/年、2020年で387億Nm3/年となる。本調査研究では「燃料電池実用化戦略研究会」(以下、戦略研究会と略す)の目標値が設定される前に表1.2.3-1の前提で検討を行っており、燃料電池自動車の導入の前提は概ね同等であった。定置用燃料電池の導入量については、2010年、2020年とも約3倍の導入条件で検討する必要がある。

 以上の結果は、我々独自の需要予測が、前項評価の2020年最大水素量(省エネ未達成ケース)の概ね1/10以下、一方、戦略研究会の目標値は概ね1/5となることを示している。

 戦略研究会の2020年目標値が2020年の最大導入必要量(省エネ達成ケースの600億Nm3/年)にほぼ近い値になっている。我々独自の需要予測は控え目過ぎ、戦略研究会の目標はより積極的であるものの、未だ導入必要量を満たすレベルに達していないことがわかる。燃料電池の新規市場開拓のほか、水素燃焼タービン市場の開拓など、将来の水素需要をより大幅に拡大できる応用分野の開発が今後重要となる。

1.2.3.3 水素供給ポテンシャルの調査

 水素供給源として期待される、副生水素(コークス炉ガス、塩電解水素)と石油業界水素および炭酸ガスが排出されない水素源として位置付けられる国内ならびに汎太平洋地域の再生可能エネルギーの水素供給ポテンシャルを試算した結果を表1.2.3-3および表表1.2.3-4に示す。戦略研究会から明確な目標が出されたことを受け、以下の検討では水素需要として表1.2.3-2の値を用いることとする。

[1]表1.2.3-3より副生水素の供給可能量は最大でも約93億Nm3/年であり、2010年の水素需要73億Nm3/年の一部が供給可能性と考えられる。しかし、2020年の約387億Nm3/年の需要は賄えない。
[2]表1.2.3-4より日本における再生可能エネルギーからの水素供給ポテンシャルは、最大で約2100億Nm3/年となる。国内の再生可能エネルギーはほとんどが電力として使用されるものと考えられる。このうち、地域的な小規模コミュニティーでの水素変換・貯蔵・利用として、有意な利用形態を今後検討していく必要がある。また、民生分野での生ゴミや農業廃棄物等のバイオマスについては今回の検討には入れていない。
[3]2010年〜2020年の水素需要は国内副生水素だけでは賄えない。これをどのように賄うかがシナリオ作成の本質的課題となる。一つの考え方は、水素供給においてはじめは例えば天然ガスなど化石燃料の改質水素で賄うとしても、時間とともに再生可能エネルギー起源の水素を増加していくというシナリオである。この場合には、再生可能エネルギーの賦存量と水素供給ポテンシャルの面から、汎太平洋地域からの水素導入が有力オプションになると考えられる。
[4]化石燃料ベースの水素供給が主要部分を占めるとしても、それには非常に多くの供給ルートがあり得る。どのルートが合理的かはLCAを基に判断する必要がある。

1.2.3.4 シナリオ作成に資するワークショップ

 シナリオ作成に資するため、化学、エネルギー技術、モデル分析、科学技術論そして経済学など各分野の学識者、エネルギー技術に係わる企業技術者およびWE−NETプロジェクト関係者約42名の参加のもと、KJ法によるワークショップを開催した。その結果、総数で約500に及ぶ水素エネルギー導入普及のための課題が集まった。これを整理した結果を図1.2.3-2に示す。また、おもな意見を以下に示す。

[1]水素の有用性はLCAを用いて明確に提示する必要がある。
[2]水素貯蔵技術が重要である。具体的には、低/無ボイルオフ液体水素タンク(システム、材料)、高性能金属/化学ハイドライド、カーボンナノチューブ等。
[3]啓蒙、認知向上のため、水素供給・利用システムのデモンストレーションが効果的である。


1.3 今後の進め方および課題

1.3.1 候補システムのライフサイクルアセスメント(LCA)

 平成12年度の検討を受け、例えば自動車であれば製品である自動車の製造段階の評価も行なうLCAを行なう。水素燃料電池自動車のLCAについては、同様の評価を行なっている機関からの期待もあり、高圧水素を搭載するもの、液体水素を搭載するものそして水素吸蔵合金を搭載するものなど現在考えられているすべての水素搭載方式の自動車を対象とする予定である。水電解装置など供給側技術については対象を効果的に選定してLCAを実施することにしたい。また、産業、民生用の水素機械についても影響の大きさから対象を絞ってLCAを実施することを考えている。いづれにしても今年度中に重要と思われる水素機械、システムのついてLCAを終了させる計画である。

1.3.2 システム検討

 水素燃料電池自動車の市場投入が早ければ2003年といわれている状況を鑑み自動車用オフサイト水素供給方法の検討(副生水素製造工場〜ステーション〜自動車)、自動車用オンサイト水素製造、充填方法の検討を行ない、2005年〜2015年頃までを見越した具体的かつ実現性が高い水素供給方法を提案する。特に今年は、70MPの自動車用高圧水素タンクが開発されようとしており、70MP供給可能な水素ステーションの評価も行なう。また、オンサイト水素供給システムとオフサイト水素供給システムの特質を明らかにした上で水素供給の在り方を比較する。一方、産業、民生用水素の輸送方法についても水素需要、輸送距離などを調査し、実現性、コスト面等から最適な水素輸送方法を検討し、日本での産業、民生向け水素の輸送、貯蔵に関する課題等を早めに抽出することにしたいと考えている。

1.3.3 水素導入シナリオの策定および戦略の策定

 水素燃料電池自動車が2003年に市場に投入される可能性があることなどから近い将来における燃料電池の実用化を見込み、短中期的な水素需要予測とこのための水素供給方法の検討を行ない、導入期に最適な車種と車種ごとの水素需要およびこれらの自動車向け水素ステーションの種類と設置場所など、実例を具現化する形でシナリオを描き提案することを優先する。この短中期シナリオは新たな知見や情報をもとに年度内にもブラッシュアップすることを考えている。これに加え、水素導入のグランドプランともいうべき2030年頃までを想定したシナリオについては、環境制約に加えエネルギー制約および他の燃料とのコスト競争力などを検討するとともに、水素技術および水素システムの技術の大きさ(CO2排出削減量または水素需要の大きさ)を評価し、水素需要量、環境改善効果などを検討した上で水素導入目標を設定することを考えている。



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