各タスクの平成12年度の成果概要

2. タスク2 安全対策に関する調査・研究


2.1 研究開発目標

 水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(略称WE-NET)プロジェクトは平成5年度から平成10年度にわたった第I期を終了し、平成11年度より5ヶ年計画である第II期を開始した。このプロジェクトの安全対策を担当する当タスク(タスク2安全対策に関する調査・研究)の目標は、第I期に引き続き、全体システムに対しては安全に関する考え方を統一することであり、個別のシステムに対しては、必要な安全評価を実施した上で、各システムが具備すべき安全機能を明確にすることである。さらに、水素供給ステーション等水素分散利用の開発進展に伴い、高圧水素を使用する際に必要な安全対策の確立も目標とした。第II期の検討内容は、第I期での検討をさらに発展させたものとし、以下の研究項目で研究を進めている。

(1) 安全設計基準構築のための検討
 第I期に作成した安全設計方針(施設の安全を確保するための基本的な考え方)に基づき、安全関連情報をさらに収集整理することにより安全設計基準(施設設計における具体的要求事項)の作成を検討する。具体的には、まず、設定した設備で発生の可能性がある異常・事故等の起因事象の抽出・整理を行う。次に、事象の進展過程を推定することにより、事故事象の代表シナリオを選定する。また、機器故障率等のデータを収集整理し、事故の発生頻度を推定する。さらに、選定した代表事象の解析条件を設定し、後述する検討によって確立する評価手法を使用して代表事象による影響を評価する。その評価結果を基に、事故の影響の緩和に有効な安全対策を検討する。このような一連の検討を通して、安全設計基準の構築をはかるための基本データを整備する。
 また、水素分散利用における安全確保のため、関連の情報を収集、整理、検討し必要な安全対策についてとりまとめる。

(2) 安全評価手法の確立
 第I期では事象をシミュレートするプログラムの開発改良を実施したが、第II期からは、試験を行い、試験結果による検証検討によりシミュレーションプログラムの改良をはかる。試験は、液体水素の流出、蒸発、拡散試験と、水素の爆発試験を実施し、それぞれに対応したシミュレーションプログラムの改良検討を実施する。これらの検討により、想定した事故の影響が精度良く推定できる安全評価手法を確立する。

 上記全体計画を考慮し、第II期の2年目にあたる平成12年度は、以下に示す研究項目を実施することとした。

(1) 安全設計基準構築のための検討
 WE-NETシステムにおいて、発生の可能性が考えられる異常・事故例を想定し、その起因事象を
考察する。また、事故発生頻度推定のため、機器の故障率等必要なデータを収集・整理する。さらに、起因事象の整理結果から、事故時の影響評価解析を行う代表事象を選定する。

水素供給ステーションおよび燃料電池車を中心とした分散利用における高圧水素取扱時の安全性確保について検討する。

(2) 安全評価手法確立のための検討
 液体水素が流出し、蒸発する状況についての小規模な試験を実施する。また、昨年度検討した計画に基づき、ダクトを利用した水素爆発実験および準開放空間での水素爆発実験を実施する。

 上記の液体水素流出、蒸発実験の結果で検証することにより、水素の漏えい・蒸発・拡散を模擬するシミュレーションモデルの改良を行い、水素の爆発実験結果から爆発シミュレーションモデルの改良検討を行う。


2.2 平成12年度の研究開発成果 

2.2.1 安全設計基準構築のための検討

 事故の要因分析のため、タスク7で検討されている水素供給ステーションの概念設計をベースに、潜在的な異常・事故等の起因事象と該当する安全対策の関連を整理し、安全設計上の考慮事項を検討した。また、定量的リスクアセスメントを実施する上で必要な、事故発生頻度を推定するための故障率等の情報を収集・整理した。つぎに、事象の進展過程を推定することにより、事故事象の代表シナリオを選定した。

2.2.2 安全性評価手法整備のための検討

2.2.2.1 試験によるデータの取得と評価

(1) 液体水素の流出、蒸発試験
 定常状態での知見を得るため、昨年度製作した液体水素の流出、蒸発に関する小規模試験装置を使用し、液体水素を連続して流出させる実験を実施した。その結果を評価することにより液体水素の流動特性や蒸発特性についての新たな知見を得た。図2.2.2-1はその様子を表したもので、水素が空気とともに数mの高さにまで分散した。

(2) 水素爆燃実験
  実験の目的は水素の爆発についての基礎的知見の獲得と、後述する水素の爆燃をシミュレートするプログラムの検証である。昨年度検討した実験基本計画に基づき実験を開始した。この基本計画は、ダクトを利用する実験、準開放空間実験、開放空間実験の3種の実験を実施することから成っていた。まず、実験を安全に精度良く実施するために実験遂行方法および圧力等特性値の測定方法について検討した。その結果、ダクト実験及び準開放空間実験について、安定した実験の遂行が可能となった。
本年度は5回のダクト実験と2回の準開放空間実験を実施し、興味ある知見が得られた。例として、図2.2.2-2に準開放空間の爆燃における圧力変動を示す。

2.2.2.2 シミュレーションモデルの開発、改良、検証

(1) 漏えい・蒸発計算モデルの改良検討
 液体水素の漏えい・蒸発をシミュレートするモデル(CHAMPAGNEコード)については、上記試験結果による検証解析を行い、蒸発モデルのパラメータの検討を実施した。

(2) 水素の着火・爆発に関する予測方法の検討
 実際の施設からの水素漏えいが着火に至った場合の影響についてはシミュレーションモデルによって推定する必要がある。上述した水素爆燃試験は、このシミュレーションモデルの検証用として意義を有する。本年度は昨年度導入した市販のシミュレーションモデルAutoReaGasを使用し、水素爆発実験を実施する前に発生圧力等の事前推定を実施した。また、実験結果による検証解析を進め、AutoReaGasコードの水素爆発解析の入力パラメータについて検討した。


2.3 今後の進め方および課題

 安全設計基準策定のため、引き続き安全関連情報の収集に注力する。また、安全性評価手法の確立のために本年度から開始した水素の爆燃実験については、水素の爆燃について新規な知見を得るため、次年度集中的に実施する。この実験結果をシミュレーションモデルの検証用として使用することにより、シミュレーションモデルの推定精度を向上させ、安全性評価手法の確立をはかる。
 また、水素分散利用における安全対策検討のため、小規模で高圧水素が漏洩した場合の漏洩形態と着火条件の関係を把握する実験を開始する。



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