各タスクの平成12年度の成果概要

9.3 水素液化設備の概念設計


9.3.1  研究開発目標

 本年度は自動車用水素ステーションの少容量液化機の予備検討として、液化コスト低減に重要な水素圧縮機の仕様検討を行う。第T期の大型液化設備と同様に水素圧縮機の高効率化を狙い、遠心ターボ型を適用した場合の仕様を検討し、従来の少容量液化機に使用される容積型圧縮機と性能、寸法、コストの比較を行う。また、遠心ターボ型圧縮機と容積型圧縮機を組み合わせたハイブリッド型圧縮機の検討を行い、その可能性を調査する。

9.3.2  平成12年度の研究開発成果

9.3.2.1 小容量水素液化機の仕様検討

 水素自動車用ステーションとして想定される少容量水素液化機の製造能力を選定した。第I期のサブタスク7の検討結果では、ステーションでの充填量はバス1台で500Nm3、自家用車1台で50Nm3程度であり、液化容量は300Nm3/h(0.65t/d)が必要となる。そこで、昨年度は水素ステーション15〜45ヶ所程度に相当する10t/d、30t/dとして、容積型圧縮機を用いた液化機の検討を行った。

 本年度は昨年度と同様に10t/d、30t/dの液化機と、更に少容量である水素ステーション1基相当の1t/dの液化機に関し、水素圧縮機の検討を行うこととした。水素液化プロセスは図9.3.2-1に示すように、第T期の300t/d大型水素液化設備にも選定した水素クロードサイクルとし、流量を水素液化量の比率で減らし、圧力、温度条件は同じと仮定した。

9.3.2.2  水素圧縮機の仕様検討

(1) 遠心ターボ型圧縮機の適用検討
 遠心ターボ型圧縮機の仕様検討に当たっては、平成10年度に実施したモデル試験機の空気性能試験結果を用いて、平成11年度に検討した寸法効果を考慮し、各段の効率を推定し、所要動力を算出した。30t/d 、10t/d、1t/d液化機のそれぞれについて、原料圧縮機、低圧リサイクル圧縮機、高圧リサイクル圧縮機の段数、寸法、所要動力を算出した結果を表9.3.2-1に示す。

 これより、30t/d水素液化機の原料水素圧縮機は段数が35段、羽根車径が317mm〜70mm、低圧リサイクル圧縮機は段数が15段、羽根車径は158mm〜72mm、高圧リサイクル圧縮機は段数が25段、羽根車径は320mm〜123mmとなる。

 所要動力は原料水素圧縮機が2,056kW、低圧リサイクル圧縮機が274kW、高圧リサイクル圧縮機が5,343kWと推定される。10t/d水素液化機では原料水素圧縮機の段数が35段、羽根車径が183〜41mm、低圧リサイクル圧縮機は段数が15段、羽根車径は91mm〜42mm、高圧リサイクル圧縮機は段数が25段、羽根車径は185mm〜71mm となる。所要動力は原料圧縮機が696kW、低圧リサイクル圧縮機が92kW、高圧リサイクル圧縮機が1,817kW と推定される。また、1 t/d水素液化機では最終段が20mm以下と小さくなり、後述するターボ・スクリューハイブリッド型かスクリュー型が現実的と思われる。

(2) 容積型圧縮機の仕様検討
 表9.3.2-2に10t/d及び1t/d液化設備用スクリュー型圧縮機の仕様を示す。これらはメーカの標準品の実績を超える容量となり、原料水素圧縮機、高圧、低圧リサイクル圧縮機ともに対応可能との回答を得たメーカーは1社(A社)のみであった。但し、表9.3.2-2には10t/d液化機の原料水素圧縮機、低圧リサイクル圧縮機のみに対応可能と回答のあったメーカ(B社)についても併せて記載した。これより、スクリュー型圧縮機のメーカ2社の提示した動力を比較しても、メーカ間での差が大きいことが判る。これは実績を超える容量となるため、所要動力の推定精度や裕度にメーカ間の差異があるためと考えられる。

(3) 遠心ターボ型圧縮機と容積型圧縮機の比較
 図9.3.2-2に10t/d水素液化機の水素圧縮機について、遠心ターボ型とスクリュー型圧縮機の動力比較を示す。遠心ターボ型圧縮機はスクリュー型圧縮機と比較して、原料水素圧縮機で約25〜53%、低圧リサイクル圧縮機で約16〜56%、高圧リサイクル圧縮機で約60%の所要動力を低減できる。また、設置面積を図9.3.2-4に比較する。遠心ターボ型圧縮機はスクリュー型圧縮機の設置面積に対し、原料水素圧縮機で約13%、リサイクル圧縮機で約10%に止まり、非常に小形となることが判った。

 スクリュー型圧縮機は油分離システム等の付帯設備が多く、設置面積が大きいと思われる。遠心ターボ型圧縮機のコストはスクリュー型水素圧縮機に対し、原料水素圧縮機で約3.3倍、リサイクル圧縮機で約1.8倍高くなる。遠心ターボ型圧縮機とスクリュー型圧縮機の初期投資の差額は854百万円となる。但し、遠心ターボ型圧縮機では圧縮機動力を約59%、3,678kW低減できるため、年間稼働時間を2000時間とし、電気代を20円/kWhと仮定すると、約6年で初期投資を回収できる。

9.3.2.3 ハイブリッド型圧縮機の検討

(1) 仕様検討
 効率に優れる遠心ターボ型と段数が少ないスクリュー型を組み合わせたハイブリッド型圧縮機の検討を行った。この狙いは吸い込み体積流量の大きな前方段には性能の優位な遠心ターボ型を適用し、体積流量が小さいため遠心ターボ型では非常に小形になる後方段には段数の少ないスクリュー型を適用することで、従来の容積型よりも高効率で、比較的低コストでコンパクトな圧縮機を構成することにある。

 表9.3.2-3に10t/d液化機用のターボ・スクリューハイブリッド形圧縮機の仕様を示す。原料水素圧縮機に関しては、遠心ターボ型の場合35段、スクリュー型では2段必要であるが、ハイブリッド型では遠心ターボ型12段とスクリュー型1段とした。全体の圧力比27.3を、遠心ターボ型で3.47、スクリュー型で7.79と配分した。これより、遠心ターボ型に比べ、大幅に段数を低減でき、羽根車径は10t/d液化機で183mm〜108mmとなり、実現可能な大きさとなる。また、スクリュー型も2段を1段に低減できるため小型化が可能になる。低圧リサイクル圧縮機では遠心ターボ部分を6段、高圧リサイクル圧縮機では12段とし、それぞれ1段のスクリュー型圧縮機と組み合わせた。

(2) 性能・寸法・コスト比較
 図9.3.2-3に10t/d液化機用ターボスクリューハイブリッド型圧縮機の動力を遠心ターボ型、スクリュー型と比較した。ハイブリッド形はスクリュー形と比較して、原料水素圧縮機で約13%、低圧リサイクル圧縮機で約31%、高圧リサイクル圧縮機で約37%の所要動力を低減できる。また、図9.3.2-4に10t/d液化機用ターボ・スクリューハイブリッド型圧縮機の設置面積を、遠心ターボ型圧縮機、スクリュー型圧縮機と比較して示す。これより、ターボ・スクリューハイブリッド型圧縮機はスクリュー型圧縮機に対し、原料水素圧縮機で約40%、リサイクル圧縮機で約13%設置面積を低減できる。原料水素圧縮機で大幅に設置面積を低減できるのは、ハイブリッド型にすることにより、スクリュー型圧縮機が2段から1段に低減できるためである。図9.3.2-5に遠心ターボ型水素圧縮機及びスクリュー型水素圧縮機とのコスト比較を示す。これよりターボ・スクリューハイブリッド型圧縮機はスクリュー型水素圧縮機に対し、原料水素圧縮機、リサイクル圧縮機とも約1.7倍コストが高くなる。しかしながら、遠心ターボ型圧縮機に比べると、原料水素圧縮機は約半分であり、リサイクル圧縮機はほぼ同等のコストになる。スクリュー型圧縮機とターボ・スクリューハイブリッド型圧縮機の初期投資の差額は386百万円となるが、ハイブリッド型にすることで、スクリュー型圧縮機に対し、圧縮機動力を約31%、1,967kW低減できるため、年間の稼働時間を2000時間とし、電気代を20円/kWhと仮定すると、約5年で初期投資を回収できることとなる。

9.3.3 今後の進め方および課題 

 今後は少容量液化機の実現に向けて、高効率液化設備を設計するためのデータ整備を進める必要がある。具体的には、来年度から水素膨張タービンの設計技術の整備に着手し、さらには高性能水素圧縮機を実現する上で必要な要素技術である、シールや軸受の性能、耐久性などの設計データの取得を図るよう計画する。
また、少容量液化設備の実用化には、液化コストの低減が大きな課題であるため、LNG等の補助寒冷を利用した液化動力の低減等、短期的な実用化が期待できるLNG寒冷等を利用した液化動力低減量の定量評価を実施したい。 




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