事業報告Business Report

(委託元:経済産業省)

1.調査目的および概要

 日本国内での大水深海洋石油・可燃性天然ガス開発において、今後取り組むべき環境影響の評価および環境保全措置について検討することを目的として、大水深海底下の石油・可燃性天然ガス開発に係る環境影響の評価について、活発に進められている欧米諸国および新規開発国における環境影響評価に関する制度(法令等)を調べ、その中で、大水深海洋石油・可燃性天然ガス開発がどのように位置付けられ、環境影響評価が如何に行われているかについての調査を実施することとした。


2.調査内容

(1)調査対象国

 オーストラリア、インドネシア、マレーシア、アメリカ、ブラジル、英国(U.K.)、ノルウェー、南アフリカ、ガーナ、ナイジェリア(この内、ブラジル、ガーナ、ナイジェリア以外の国では、現地調査に赴きヒアリングを行った。)

世界の大水深石石油・可燃性天然ガスフィールド
(2)各国の環境影響評価について

 各国の一般的な環境影響評価の制度、大水深海底下の石油・可燃性天然ガス開発事業と環境影響評価の関連、環境影響評価の内容、社会合意等に関する制度、緊急時への対応、大水深海底下の石油・可燃性天然ガス開発に係る環境影響の評価に関する浅海域との相違について、文献、インターネットにおける各国政府のHP等を利用して情報を収集・整理した。合わせて、ヒアリング(現地調査)により情報を収集、補完した。

(3)環境影響評価の制度

 制度の調査結果のまとめにあたり、環境影響評価の手続きが事業のどの段階で行われているかについて調査してみると、今回調査を行った国では、大きく以下の4段階での手続きに整理することができた。

  • 探査:海面からの探査(Surface Seismic)で、主として地震探査を対象としている。
  • 掘削:試掘・探掘(Exploration drilling)で、生産施設等の設置が未定の段階で行われる掘削作業が対象となっている。
  • 開発・生産:生産施設の設置を含むすべての活動および生産活動が対象となる。
  • 廃止:すべての生産が終了した後の、施設の撤去工事等の段階を対象としている。

3.環境影響評価の内容

 環境影響評価は、持続可能な社会の実現のため、事業が環境や社会に与える負の影響をより少なくするための手法である。大水深海底下の石油・可燃性天然ガス開発事業において、諸外国で実施されている環境影響評価について、どのような内容が定められており、また、どのような項目を対象として実施しているかを調査することは非常に重要である。そのため、各国における制度等に定められている環境影響評価の内容を整理・比較した。

(1)制度等に定められている環境影響評価の内容

 調査は、海洋での石油・可燃性天然ガス事業に係る各国の環境影響評価の制度に定められている環境影響評価の手順、環境影響評価を実施する項目、予測・評価の手法等の内容について実施した。
その結果、各項目についてどのような内容が必要なのかについての記載はあるが、具体的な評価項目や、項目ごとの予測・評価の手法についての規定は確認できなかった。環境影響を評価する際に基本となる対象地域の把握すべき現況や評価項目は、事業内容や地域によって差があるため、法では規定されていないのではないかと考えられる。

(2)事例調査による環境影響評価の内容

 実際の環境影響評価書を対象として、環境影響評価の内容に関する調査を行った。
本調査で調査対象とした国のうち、英国(U.K.)、オーストラリア、ブラジルの事例について、実際の環境影響評価書の内容を確認できたことから、4事例について確認結果をとりまとめた。


4.考察

(1)環境影響の評価に係る制度に関する考察

 今回調査した国の海洋における石油・可燃性天然ガス事業に関しては、すべての国で法に基づく環境影響評価が求められている。今回の調査対象国の環境影響評価は、一般的な環境影響評価の法制度のもとで環境影響評価が実施される場合と石油・可燃性天然ガス開発の事業を対象とした制度により環境影響評価が実施される場合の2種類の実施制度に大別できる。また、海洋における石油・可燃性天然ガス事業に係る環境影響評価の審査に関しては、いわゆる環境省による審査と事業を所管する省庁による審査の2種類に分けられることが判った。
我が国周辺大水深海域で石油・可燃性天然ガスの賦存が確認され開発が検討された場合、我が国では、これまで大水深海域の開発実績がないことから、海洋における石油・可燃性天然ガス事業を合理的に進めるためには、開発に係る技術面のみならず環境面の対策についても十分な検討を行う必要があると考えられる。

(2)環境影響評価書についての考察

 3カ国4事例の環境影響評価書に基づき、環境影響評価項目、環境影響評価書に記載すべき事項等を調査した。大水深における海洋の石油・可燃性天然ガス事業に係る環境影響の評価を検討する際には、まずは環境面での特異性を明確化する上で、更に海洋石油・可燃性天然ガス開発先行国の環境影響評価の事例を追加調査し、何らかの傾向や方向性等があるのかどうかを調査検討する必要がある。
なお、海洋石油・可燃性天然ガス開発先行国の環境影響評価から導き出す環境影響項目に係る特徴や方向性等は、我が国において海洋石油・可燃性天然ガス開発を行う際、特有の自然・社会環境を踏まえて、事業段階毎で、海象・気象・海域などの条件を加味した環境対策を行うために有益な情報となると考えられる。
今回、3カ国4事例の中から、英国Bressay事業の環境影響評価書に示されている環境保全措置について調査したところ、海底のかく乱、海洋への排水、水中騒音、長期間の施設の存在、大気への排出、事故等による炭化水素の流出の6項目をあげることができた。今後更に地域性を加味した事例や適用技術と操業などの事例を増やしていくことによって、保全措置の傾向把握ができるのではないかと考える。
尚、油漏れなどの緊急時対応については、我が国環境影響評価制度では、事故等の影響は評価対象とはしていないが、今回の調査対象国では事故等の予期せぬ状況による油漏洩が含まれる場合があった。

(3)環境影響の評価に係る合意形成についての考察

 今回の調査対象国においては、すべての国で環境影響評価の実施が求められており、それらの国では、環境影響評価に関する説明会やパブリックコメント等何らかの情報公開が求められている。ただし、パブリックコメントの意見に対する対応については、必ずしも反映させなければならないとはされていない国が多数を占めていた。
我が国の海域において想定されるのは、海を生産活動の場としている漁業者であり、漁業者に対する合意形成に関する配慮が必要であると考えられる。

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