平成20年度エンジニアリング産業の実態と動向調査(要旨)

<概況>
   平成19年度のエンジニアリング産業をとりまく経済動向はそれまでの世界同時好況の様相から資源問題を中心に大きく変化した。中国、インド、ロシアなどの大国の経済成長が確実に進捗し続けた結果、原油を始めとする天然資源への需要がかつてなく高まり、資源価格の上昇を招いた。これにより中東の石油・ガス資源国を中心に資金の集中が生じ、巨額のオイルマネーは資源国の産業発展に直接寄与するに留まらず世界中に投資先を求める投機マネーを形成した。一方先進国においては米国のサブプライムローン問題による金融危機を沈静化するために金融緩和政策が採られ、低金利施策による資金流動性確保が進められた。これにより有効な投資先を失ったマネーは魅力的な投資先を求めて世界を駆け巡ることとなり、株式や各種ファンドはむろんのこと、原油、鉱石、レアメタルなど価格上昇を続ける天然資源にも流入した。この結果、実体経済と離れた価格暴騰を引き起こし、原油価格についてはWTI指標にて100ドルを突破して高騰という歴史的な記録を残し、石油は金融商品としての性格を強めることとなった。プラントビジネスにおいてはこれを受けて資機材やリソースの高騰が続き、海外では顧客に設備拡充の意欲はあるが価格面でプロジェクト着手を見送らざるを得ないケースも見られるようになった。
  受注環境としては以上のような厳しい状況が展開されたが基本的な設備投資需要は強いものがあり、国内外受注高の合計は12兆3330億円(前年同一企業比101.8%)と3年連続して12兆円台の高水準を維持した。

<受注概要>
プラント市場における設備需要は強いものがありプラントコスト上昇により受注環境としては必ずしも順風ではなかったが、国内外受注高の合計は12兆3330億円(前年同一企業比101.8%)と3年連続して12兆円台の高水準を維持した。海外比率は28.1%であった。

<プラント・施設別受注動向>
プラント施設別の受注では二つの施設分野で大幅な上昇が見られた。ひとつは昨年に引き続き電力プラント・システムであり2兆6381億円と伸張し、構成比では最大の21.4%、前年度比で14.0%増加と躍進した。次に肩を並べたのが都市・地域開発システムで、2兆4989億円、構成比では20.3%、前年度比19.5%と増加した。両方とも海外受注が大きく伸びているのも特徴である。化学プラントについては前回調査では前年比で3割ほど下げたが今回は94.6%と戻してきており、1兆6761億円の受注となった。

<業種別受注動向>
業種別の受注動向では増加組と減少組が見られた。増加したのは総合建設と重電であり、総合建設は前回に引き続き上昇し11.3%増の4兆0631億円、重電も13.4%増の1兆6004億円となった。一方、減少したのは造船重機の5.7%減の2兆2204億円、および専業大手の27.8%減で7666億円であった。

<海外地域別受注動向>
地域別では、2年前に6割を占めていた中近東が25.1%と四分の一まで減少し、次いで東南アジアが23.5%まで増加した。東アジア11.4%と併せるとアジア圏で35%ものシェアとなっている。この他、アフリカが大きく伸びて17.5%を占めるに至り、北米や中南米も前回より増加した。

<売上高 受注残高実績>
売上高については国内8兆3366億円で前年度比3.1%減となり、海外は3兆2423億円で同2.5%増加となった。この結果、合計額11兆5790億円(1.6%減)とほぼ前年度並となった。
受注残は、国内が9.8%増の4兆2594億円、海外は18.0%減の2兆4261億円、全体では前年度比2.3%減の6兆6856億円と減少している。

<プラント施設別の短期(平成20年度)および中期(平成21~23年度)の受注見通し>
国内の平成20年度見通しは全体で2.8%の微増、中期の見通しでは全体で2.0%の微増と落ち着いたものとなっている。しかし海外についてみると、平成20年度は全体で11.0%の増加、その後3年間ではさらに増加し全体で21.2%増と大幅な上昇を見通している。

<特別テーマ エンジニアリング産業における雇用のグローバル化>
「グローバル人材マネジメント研究会」(経済産業省)によれば、少子高齢化、途上国の市場化、グローバル企業との競争というビジネス環境が人材マネジメントのグローバル化を進展させるといわれている。しかし目下のところグローバル人材を一番必要とする機会が大きいと思われる専業大手エンジニアリング各社について見ると、高齢化は確かに進みつつあるが、経験豊かな団塊の世代についてその退職時期を事実上伸長することによりこれをしのぎ、資源高と共にやって来たプラント需要に真っ向から取り組んでいるところである。また途上国の市場化によるグローバル人材の必要性については個別受注型の請負業として、海外進出メーカー型の企業に比べ、現地化の点で、やや取り組みが遅れているものの、受注に関しては、海外におけるグローバルな競争のなかで、海外拠点との連携やプロジェクトベースでの外国人雇用などの経験を蓄積してきている。それでは今後のグローバル展開には問題ないのであろうか。

 今回のアンケートからは、専業大手をはじめ各業種において、「国内」の外国人の雇用については組織として今ひとつ踏みきれていない様子が見られる。 面倒な課題や問題が存在し、コストもかかることから、やむをえず必要なスキルに限定しての外国人雇用が多くなっているようである。一方「海外」の外国人雇用についても拠点の陣容は企業により様々であるが、独立した拠点として市場に適応しつつ健全に発展しているというよりは、コストセンターとしての役割がまだ大きいようである。そこでは雇用される人材に魅力的な昇進やマネジメントへの参画機会を与えられる機会は少なく、処遇の調整に頼って定着率を維持するという対症療法が見られ、現地マネジメントは基本的に難しい運営を余儀なくされている。

因みに海外企業に関しては、Engineering News-Record誌恒例の国外売上高ランキング(The Top 225 International Contractors 2008)によれば、Industrial/Petroleum市場における上位には欧米勢が占めており、1位はSAIPEM、2位はTECHNIPがあがっている。例えば、TECHNIPはヨーロッパの企業らしく母国フランスはじめ欧州各国に拠点があるに留まらず、南北アメリカ、アジア大洋州、中東などでも雇用が展開されている。人材開発に多くの資源をかけており、異文化の交流による強い企業文化を目指し内なるグローバル化対応を図っていることが著されている。また地域に密着しつつもグローバルな組織としていかに機動力を高めるかに注力しており、海外拠点やその雇用をコストセンターとしてとらえる発想とは異なっている。女性の就業率も2割以上となっており、グローバル雇用についてかなり先んじていることが窺える。

 日本のエンジニアリング企業は日本を拠点として日本人同士のメンタリティにより運営されてきたといえる。しかしこれからのグローバル化対応としては国内拠点、海外拠点を問わずマネジメントクラスも含めた昇進機会均等を前提とした開かれた企業を目指さねばならないのではなかろうか。少なくとも欧米においてグローバル展開しているエンジニアリング企業には上記のようなモデルも存在しており、日本型のエンジニアリング企業が今後も競争してゆくには、日本の置かれた現状を見据え、より積極的に「人材のグローバル化」を検討し、推し進める必要があるように思われる。

日本のGDPは低迷を続けているが、少子化などの環境因子を考えると日本経済は規模縮小に向いて動きつつある。エンジ企業がグローバルなプラントビジネスを中長期にわたって安定的に継続できるかどうかは市場や経済情勢など外的要因もさることながら、内なる組織的な対応が出来るかどうか経営としての戦略性にかかっているように見える。自己変革が出来た企業のみがまた次に到来しようとするビジネスチャンスの大波に乗れるのではなかろうか。

PAGETOP