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製造産業局長 年頭所感を掲載しました
カテゴリー:協会からのお知らせ 更新日:2025.01.09
令和7年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。
いま、世界は大きな転換期を迎えています。保護主義の台頭やウクライナ侵攻の長期化等による地政学リスクの高まりや、AI等の技術革新の加速化、気候変動をはじめとした地球規模課題に対する各国政府の関与の強まりなど、様々な構造的変化が生まれています。
こうした中、日本経済も、これまでのコストカット型のデフレ経済から、持続的な賃上げや活発な投資でけん引する成長型経済への転換局面を迎えています。この成長型経済への転換を確実なものとするため、「GX(グリーントランスフォーメーション)」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「経済安全保障」の3軸に基づく取組が重要であり、経済産業省製造産業局は、エンジニアリング産業の皆様のこれらの取組を支援して参ります。
GXの分野では、脱炭素社会への移行は「待ったなし」の状況であり、産業界にも変革が求められています。昨年末に案が示されたGX2040ビジョンでは、「GX産業構造」、「GX産業立地」、「GX加速に向けたエネルギー分野」などの取組を総合的に検討し、事業環境の変化が激しい中でも企業の予見可能性を高めてGX投資につなげるべく、より長期的視点に立ち、GX実現に向けた見通しを示しました。
日本全体のCO2排出量の20%以上を占める鉄鋼・化学・紙パルプ・セメントといった産業部門は、“Hard-to-abate”、すなわち排出削減が困難なセクターと言われているように、GXの実現は容易ではありません。そこで、令和2年度補正予算にて造成した「グリーンイノベーション(GI)基金」では、水素還元製鉄技術や、CO2を用いたプラスチック、コンクリートの製造技術等を開発するプロジェクトを進めています。
また、昨年に開催された第2回AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)首脳会合では、日本のリーダーシップのもとで、脱炭素化、経済成長、エネルギー安全保障の同時達成や、多様な道筋によるネット・ゼロの実現というAZEC原則が合意されたところです。
エンジニアリング産業においても、水素関連技術や脱炭素化を目指した技術開発などに精力的に取り組んでおられると承知しております。今後も、昨年末に素案が提示されたエネルギー基本計画や地球温暖化対策計画に基づき、必要な政策措置を講じつつ、脱炭素社会実装の担い手であるエンジニアリング産業の皆様の取組を後押しして参ります。
また、DXの分野では、近年の生成AIの技術革新と社会受容の加速、そして半導体の高性能化による産業界への影響はより一層大きなものとなり、企業経営や産業構造までもが変化する可能性が開かれています。
政府全体としては、世界市場の大きな成長が見込まれるAI・半導体分野について、今後2030年度までに10兆円以上の公的支援を行うこととしています。今後、ターゲット材やPFA樹脂等、半導体を形づくる部素材の製造基盤強化支援をさらに進めてまいります。
GXやDXに不可欠な蓄電池やAI、半導体、ロボット及びこれらの製造に使われる部素材や装置は、世界的に覇権争いが激化しており、経済安全保障の観点からも重視されています。
我が国が技術的優位性を持つ領域、すなわち製造装置や部素材等に対しては、包括的な技術流出対策を講じる必要があります。経済産業省では、安全保障の観点から管理を強化すべき重要技術の移転に際して、事前報告を義務づける制度を構築することにより、官民の対話の機会を確保し、国益を損なう技術流出やそれによる予期せぬ軍事転用の防止を図っています。制度を施行した昨年末時点で、他国の関心や我が国の優位性を踏まえながら10の技術を告示しました。今後、事前報告を義務づける対象技術を適時追加していく方針です。
こうした取組を円滑に進めるために、同志国との連携による国際経済秩序の維持にも取り組んでまいります。あり得る経済的威圧に対する備えとして、G7各国をはじめとする同志国と個別プロジェクトを進めるとともに、実際に威圧を受けた場合は、その影響を緩和するための措置や国際ルールに沿った対応を進めてまいります。
産業界が今直面する課題は、官も民も一歩前に出て取り組まないと解決できないため、国内外で活躍されているエンジニアリング産業の皆様との日々の対話を通じ、将来につながる日本の経済基盤をともに形作っていきたいと考えております。
最後に、エンジニアリング産業の皆様の益々の御発展と、本年が素晴らしい年となることを祈念して、年頭の御挨拶とさせていただきます。
2025年1月
経済産業省 製造産業局長 伊吹英明