事業報告Business Report

(委託元:経済産業省)

調査概要

1)保安対策の最新動向
2015年度に経済産業省より委託を受けて実施した大水深海底鉱山保安対策調査以降に追加・変更された米国及び英国の保安対策について、法令とガイドラインを中心とした調査を実施した。調査項目は、①坑井制御と坑井健全性に関する4項目(BOP,セメンチング,モニタリング等坑井健全性,ケーシングデザイン関連)、②機器、装置に関する6項目(キャッピングスタックシステム関連,ROV関連,ダイナミックポジショニング関連,海底面に設置する装置・設備関連,浮体式施設及び移動式施設関連,着定式施設及び固定式施設関連)、③作業に関する2項目(廃坑関連,緊急時計画関連)とした。

2)環境保全対策の最新動向
英国の環境影響評価書7事例、オーストラリアの環境影響評価書1事例について、現況調査内容,予測手法(評価根拠),環境影響評価の期間,ステークホルダーの選定・対応,事業終了後の取り扱いの5つの視点から分析した。また、英国の最新EIAガイドの内容を確認するとともに、オペレーター会社及び環境コンサルティング企業にヒアリング調査を実施した。

主な調査結果

1)保安対策の最新動向
①坑井制御と坑井健全性に関するもの(4項目)
・ BOPについては、API S53の2012年版から2016年版の改正のポイント、英国Oil&Gas UKガイドラインの内容調査とAPI S53との違いについてまとめた。
・ セメンチングについては、セメンチングに特化して作成されているガイドラインが限られていることが分かった。
・ モニタリング等坑井健全性については、坑井を適切に設計し管理することが健全性につながるという基本概念を確認したが、圧力モニタリング以外の部分については更なる調査が必要であることが分かった。
・ ケーシングデザインについては設計の基礎となる考え方、現在使われている設計方法等につき取りまとめた。

②機器、装置に関するもの(6項目)
・ キャッピングスタックシステム関連については、米国で規則改正よりSource Control and Containment Equipment(SCCE)として新たに定義され、規則に盛込まれた詳細な内容についてとりまとめた。
・ ROV関連については、米国で規則改正より従来よりもAPI規格RP17Hへの適合が求められていることがわかった。
・ ダイナミックポジショニング関連では、ダイナミックポジショニングMODUに対して求められる非常時に掘削地域から避難する非常時計画の記載内容がわかった。
・ 海底面に設置する装置・設備関連では、米国・英国ともに海底面に設置する装置・設備関連に特化した規制は見られないことがわかった。
・ 浮体式施設及び移動式施設関連では、米国で規則改正によりMODUに関して盛込まれた内容についてとりまとめた。
・ 着定式施設及び固定式施設関連では、米国のマコンド事故後の3回の規則改定では変更はみられないことがわかった。

③作業に関するもの(2項目)
・ 廃坑関連では、坑井の廃坑について米国APIが作成しているガイドラインの内容をとりまとめた。
・ 緊急時計画関連では、米国で規則改正により北極域に特化して詳細な規則が盛込まれたことが分かった。

④まとめ
・ オペレータであるTOTAL E&P UK Ltdや業界団体Oil & Gas UKへのヒアリングでは、保安規制の運用状況について一定の情報が得られた一方、規制やガイドライン運用の背景については、当事者である規制機関、英国であればHSE UK等から直接ヒアリングすることが必要であることがわかった。
・ 特に、北海や米国メキシコ湾において着々と進んでいる廃山・廃坑等についての事例を対象に、海洋掘採装置の撤去に関する最新技術や、海洋掘採装置以外の海底機器、パイプラインの撤去に関する最新動向調査を取り纏めることが重要である。

2)環境保全対策の最新動向
①現況調査
・ 環境の現況把握のために現地調査を実施した事例は3件であった。すべての事例で文献調査が行われていた。
・ 現地調査の要否及び実施内容については、プロジェクトごとに状況が異なるため、行政機関との協議が必要との情報が得られた。
・ 文献調査には、公的機関が発行・管理する充実した資料が多く使われていた。

②予測手法(評価根拠)
・ 予測については、大気やカッティングスなど拡散モデルにより計算を行う項目と、負荷量を把握する項目に整理することができた。なお、負荷量を把握した項目については、業界ベンチマーク等と比較することで評価が行われている。

③環境影響評価の期間
・ 環境影響評価の期間については、プロジェクトにより大きく異なるため、一般的な期間に関する情報は得られなかった。

④ステークホルダー
・ 分析したすべての環境影響評価書にステークホルダーに関する章があった。
・ 英国については、選定の考え方は環境影響評価書にも最新EIAガイドにも言及がなかったが、ヒアリング調査により、行政機関から助言を受けるとの情報が得られた。
・ オーストラリアは選定プロセスが環境影響評価書に記載されていたが、具体的な情報は得られなかった。

⑤事業終了後
・ 事業終了後については、英国の環境影響評価書からはほとんど情報を得られなかったが、廃止及びその後の取組に係る指針が記載されたガイダンスノートの存在が確認できた。
・ 英国ヒアリング調査により、廃止後のモニタリング期間及び頻度は、行政機関との協議により決められるとの情報が得られた。

⑥まとめ
・ 今年度の調査対象国(英国、オーストラリア)では法による環境影響評価が実施されており、英国には海洋石油・天然ガス関連事業に係る環境影響評価のガイドがあり、内容も充実していた。我が国では自主保安が基本であるが、開発先進国と同様に鉱害の防止及び海洋環境の保全等について、最低限の順守すべき水準が国によりガイダンス等で示されることが望ましい。ガイダンス等が整備されることにより、事業者にとっては指針となり、また規制側も指導の根拠として活用できることから、今後海洋石油・天然ガス開発事業を推進する上で有用と考えられる。さらに、我が国の海洋資源開発が海洋環境に配慮しつつ行われていることを、対外的に明確に説明しうる根拠にも位置付けられる。
・ 英国では公的機関のデータベースが充実しており、事業者も自身が取得したデータの提供を求められていることが明らかとなった。我が国にもいくつかデータベースはあるが(海洋台帳、脆弱沿岸海域図等)、いずれも沿岸の情報が中心であり、沖合の情報は沿岸と比べると乏しいのが現状である。沖合域も含めた海洋の環境情報データベースが整備されれば、国として沖合の環境を把握することができるとともに、事業者の現況把握の負担軽減にもなるものと考えられる。

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